ステークホルダー
ダイアログ
世界情勢の変化の中、
サステナブルな成長を実現する企業経営とは

富士通では、様々なステークホルダーからの意見を経営に活かすため、2010年から外部有識者の方々とのダイアログを実施しています。2025年2月に開催されたダイアログでは、2名の有識者と「世界情勢の変化の中、サステナブルな成長を実現する企業経営とは」をテーマに、意見を交わしました。
参加者

ダイキン工業株式会社
代表取締役社長兼COO
竹中 直文様
1986年4月入社、空調機の設計・開発に従事したのち、空調生産本部企画部長、空調営業本部事業戦略室長、同本部副本部長(事業戦略担当)を経て、2017年常務執行役員、2021年専務執行役員 人事・総務担当、2024年から代表取締役社長兼COO(現職)

明治大学
商学部 専任教授
三和 裕美子様
大阪市立大学大学院経営学研究科博士課程を経て、1996年より明治大学商学部および大学院にて「機関投資家論」を担当。1996年から1998年には米ミシガン大学にて客員研究員を務める。(以下すべて現任)明治大学商学部教授/エーザイ株式会社取締役/ピジョン株式会社社外取締役ほか
富士通

代表取締役社長 CEO
時田 隆仁

執行役員副社長COO、CRO
大西 俊介

執行役員EVPグローバルソリューション
大塚 尚子

執行役員EVP CSSO
山西 高志
*2024年度役職
ステークホルダーダイアログ2024にあたり
時田
社長就任時は、世の中がサステナビリティに大きく舵を切り始めた時期でした。コロナ禍への対応をはじめ、働き方や事業ポートフォリオの変革など大きなチャレンジを進めてきました。
2025年も世の中が大きく動き始めており、各企業がサステナビリティやDE&Iに対するメッセージを変え始めています。様々な背景がある中、ステークホルダーに十分な説明がなされているとは思えない方向転換も見られ、我々は自身の身の振り方も含めてステークホルダーに説明しなければならないと考えています。
今回のダイアログは、事業とサステナビリティの関係に加えて、国際情勢も念頭に置かねばならないと感じています。環境問題に事業として真正面から取り組んでいるダイキン工業の竹中様と、機関投資家というステークホルダーへの向き合い方をご専門にし、コーポレートガバナンスに対する広い知識をお持ちの三和先生にご参加いただき大変うれしく思います。
はじめに~自己紹介/事業・取り組みについて~
CSSO 山西(以下、山西)
購買本部グローバル調達統括部長、グローバルサプライチェーン本部長を経て、昨年よりサステナビリティにも深く関わる現職となりました。創立90周年となる今年は、マテリアリティを通じて「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニー」を目指す2030年ビジョンに取り組んでいます。
COO、CRO 大西(以下、大西)
フロント組織のガバナンス強化を図りながらグローバル横断でお客様とのビジネス拡大をリードしています。フロント組織には多くの営業がいて人間的な要素が重要視されてきましたが、ここにデータドリブン経営というインサイトを盛り込みながらデジタルの力でマネジメント変革し、営業自身のアカウンタビリティやリーダーシップなど人間力を高めることで行動を変え、それによりお客様への提供価値変革を最大化し、結果として当社にとっての収益を最大化する活動を進めております。
EVPグローバルソリューション 大塚(以下、大塚)
営業からキャリアをスタートさせ、2023年よりFujitsu Uvance事業に従事し、新規事業創出を担っています。Fujitsu Uvanceは、社会課題にクロスインダストリーでアプローチし、お客様の成長に貢献するデジタルサービスを提供する事業です。サステナブルな世界の実現を目指し、社会課題解決にフォーカスしたエコシステムの形成を推進しています。ESG Management PlatformやUvance Wayfindersをはじめとする富士通の実践知を積極的にお客様にご紹介しながら取り組みを進めています。
ダイキン 竹中様(以下、竹中)
創業100周年を迎えた当社の事業は現在、170か国以上に展開、10万人の社員のうち海外社員比率は8割を超え、海外売上高比率も85%になりました。市場最寄化生産(注釈:市場のニーズがある場所で生産する生産方式)をベースに生産拠点を展開しており、グローバルな視座でのダイバーシティが経営課題になっています。グループ経営理念では、今後のさらなる成長・発展を支える経営の基本的な考え方の一つとして、社会課題の解決に取り組み持続可能性にも貢献する姿勢を示しています。ここで重要なのがデジタル技術とデータを徹底活用し、環境・社会への貢献と顧客価値創出を加速するDXへの取り組みです。見えない空気を可視化して空気の価値を提供することと同時に、サステナビリティ対応の高度化が重要です。非財務情報をどう開示していくかだけでなく、ESG活動の企業競争力や社会への貢献度の可視化についても検討しています。経営改革のためにデータをどのように活用するか、経営管理のやり方や管理項目そのものを変える必要性も感じています。空調機、空調システムのリーディングカンパニーとして、ESG関連データの連携や共有の取り組みは、業界を超えて協調すべきだと考えています。
明治大学 三和様(以下、三和)
インパクト(企業も含む社会全体での価値創造)の枠組みの半分は、サステナブル経営といわれるもので、多くはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のリスクと機会に基づき開示されています。これは外部環境、地球環境や政治的な出来事が事業に及ぼすリスクと機会を開示するというシングルマテリアリティ領域の開示です。現在では、有価証券報告書においてその開示が義務付けられており、上場会社は開示に取り組んでいます。しかし、投資家は「サステナビリティに対する取り組みが自社の事業とどう関係するのか、どのように価値創造と結び付くのか」という点に関心を持っています。これから求められることは、事業によって社会や環境にもたらす、主にポジティブなインパクトを可視化していく取り組みです。
日本企業は、ESGやマテリアリティについて積極的に開示していますが、その戦略と進捗状況を適切な企業評価へ落とし込めるかが重要な課題です。企業がどれくらいのインパクトを創出する可能性があるのか、その過程で収益や企業価値をどのように高めるのか、そのためのキードライバーや具体的な施策は何か、実現可能性はどの程度かなどロジックモデルを使いながらインパクトを可視化していくと、より説得力が出ます。投資家は他社と比較して評価を行うため、非財務インパクトの評価には、有用性、厳密性、実現可能性などが重要なポイントとなります。
財務・非財務の因果関係をベースにした経営の実践
時田
当社では、パーパスドリブンとデータドリブンを必ず同時に語ることとしています。データドリブンについては、開示までには至っていませんが、あらゆるデータの因果関係について、数年にわたりトラックし分析しています。データ分析の有用性を社内でも伝えていますが、相関関係から因果関係までわかったとしても、事業に反映し落とし込めるかが最大の課題だと思っています。
山西
当社のソリューションである「ESG Management Platform」で社内の財務データと非財務データの相関を分析するダッシュボードを構築し、正や負の相関や相関の強弱を可視化しています。現時点では、パラメーターを上げれば営業収益の向上に結び付くかは断定できていません。2025年度は、組織ごとの特性を掴み、各組織が目標を設定する際に参考となるデータとして使い始めたいと考えています。
竹中
社会や顧客に対してのインパクトをどう表現するか、企業価値そのものをどう上げていくかを目的として我々も検討を開始しています。これまで当社では社員の成長の総和を企業の発展の根幹とし、社員一人ひとりに向き合って、活躍できる環境を提供し、グローバル展開を実行し続け好循環で成長してきました。しかし、最近投資家やステークホルダーから求められている人的資本政策や非財務情報と企業価値の相関を説明することは簡単ではありません。例えば、全世界10万人の人材データベースを整理し、社員一人ひとりの経歴や、実際の強みのようなものもデータで見える化すべく取り組みを進めています。
時田
ダッシュボードから導き出される答えがこれまで行ってきた変革の成果を表しているとはいえ、今後に対して示唆を与えるかはわからずにいます。各事業が持つ特性に応じてシナリオやストーリーを調整する必要が生じますし、社員がバックグラウンドを理解しなければ、従業員満足度さえ上げれば利益が上がるという誤解が生まれます。目標数値ベースの行動になるとイノベーションが起こらなくなるため、注意深く分析・活用していく必要があります。
竹中
昨年は創業100周年ということで、グローバルから幹部を集め、企業としてどう成長、発展していくか、企業として譲れない部分は何かという議論を社内でしました。こういった企業文化の浸透度を常に測り、把握できると良いと思います。企業文化の上に戦略があり、それにマッチした組織のあり方や、人材配置・育成が重要です。
多様な人材を活用して経営基盤を強化
竹中
当社には10万人の社員がいますが、単純に女性の従業員比率や幹部社員比率だけを見ると世間一般に比べると低いかもしれません。ただし数や比率だけを追うのではなく、当社の企業文化を理解したリーダー層をどう厚くしていくか、人材に対してどういう問題意識なり強みを持っているかを定量化し可視化していくことが重要だと考えています。
大塚
非財務指標だけを見ると、着眼点には「女性幹部比率」や「従業員定着率」等がありますが、本来は指標の前にコンテクストがあり、事業ごとのあるべき姿や事業戦略に対して人事戦略があるといったように、事業ごとに観点が異なります。ダッシュボードだけではそのコンテクストが表しきれないので、分析結果の読み取り方が難しい部分は課題だと思っています。
時田
現在の中期経営計画において、非財務の経営指標に定めた「女性幹部社員比率」は、社内の分析では財務指標とポジティブな相関が見られます。しかし、グローバルで事業を展開していく上では、性別だけでなく国籍や文化など様々な多様性が重要であり、あえて「女性」にフォーカスすることが合理的であったのか、判断が難しいと思っています。
三和
女性活躍については、日本は特殊だと思います。様々な要因に併せて、時と場合、国によって変化させていいと思います。日本では女性活躍が喫緊の課題になっているため対応しなければいけませんが、日本基準をグローバル基準にするというのは難しいです。ESGスコアを上げるためにグローバルで対応をするという企業もありますが、スコアを上げることが最終目的ではないと思います。自社の企業価値向上に本当に必要かという議論からスタートしてもらいたいと思います。社員が納得できる施策でないと、それこそ手段と目標が違ってくる恐れがあります。
時田
当社の経営は、これまでは各地域の独立性が強く、地域によって目標数値や経営層からのメッセージが異なってきました。しかし、グローバルで事業を展開している現在、言語の問題はあれ、ITに日本向け、アメリカ向けなどないと実感します。特に大塚の部門はマルチナショナルで数千人規模のチームをマネジメントすることにチャレンジをしています。地域特性に応じて目標を変えるべきではないと思っていますが、実態が追い付かないという現実があります。
三和
ITの発展により、本社でグローバルなデータを全て管理できるので、グリップをしっかり握っておきながら、地域特性の部分を残して経営していくというのが現実的だと思います。
時田
はい、これだけの大きな組織になると、一律に行なった方が簡単なので、最後、きめ細かく丁寧にというところが後回しになってしまいます。もしくは、ルール化して動かそうとする力が働くと、とにかく目標数値だけ守ればいい、言われたことだけやればいいという振る舞いが起こります。最終的にお客様に当社の価値を届けるためにはローカライズが必要なので、それを踏まえてどうマネジメントするかが最大のチャレンジです。
大西
ダイキンの市場最寄化生産というのは、例えばアメリカだったらアメリカでサプライチェーンを完結させるということだと思いますが、もともとこだわりがあったのですか。
竹中
空調ビジネスは、建築や地域文化との親和性が強いものです。例えば北米の空調機は日本型と全く違います。気候や文化にも関係するため現地で生産、販売をして地域に貢献することで拡大してきました。とはいえ2035年へ向け、アフリカなどグローバルサウスへの進出を考えたときには、一極で集中生産し展開していくというやり方も視野に入れなければと考えています。また、それぞれの地域に開発拠点はありますが、求心力としてのコントロールタワーがあるのは日本です。メーカーとして生産技術や技術開発という側面は譲れない部分としてしっかりとグリップしています。
時田
100年の歴史の中で、ダイキンとしてこうあるべきというものや企業文化がしっかりと浸透し、行き渡った上での地産地消だと感じました。地産地消モデルは理想とする姿ですが、当社はそれがうまくできていませんでした。企業理念はずっとありましたが、2020年にパーパスを定めたのは、富士通として社会にあるべき姿を行き渡らせるという意味もあります。国際情勢の変化が激しい中、富士通とはどういう存在なのか、自らの企業としてのありように言及する経営を行っていく必要があると感じています。
三和
「ESGは日本企業から発信してほしい、そういう時代だ」と国内外の投資家からの期待が高まっています。社会、環境のサステナビリティに加え、自社のサステナビリティがないとステークホルダーが幸せではなくなってしまいます。自社がどうあるべきか、どうありたいのかという軸をぶれずに経営を行ってほしいと思います。
デジタル化による生産性向上
時田
今まさに空前のAIブームで、テクノロジー企業である私たちが、お客様のAI活用を駆動する側に回らねばと考えています。しかし、AIの活用には大量の電力が必要ですが、お客様のサステナビリティやESGの取り組みを阻害することになってはいけません。この課題をイノベーティブに解決するために、当社では、計算能力が高く、かつ消費電力を格段に抑えるプロセッサーの開発を進めています。こうした取り組みをステークホルダーの皆さんに理解してもらうことが重要だと考えます。
竹中
我々からすると、DXやAI技術の進化は持続的な成長のためのイノベーションであり、事業構造改革そのものにどう寄与させるかが一番重要です。今、中国やアメリカでは、AIによってビルが自律的に省エネを行うような時代に変わってきています。従来であれば、空調機と併せてメーカーや専門家が運用保守を行う時代から、テクノロジーの進化によってユーザー自身ができるようになってきています。そうした時代において、我々が何を生業にしていくか。これはDX抜きでは考えられないです。1社でできることは限られているので、ぜひ富士通の力を貸してほしいです。
大西
当社の研究チームとも半年に1回ほど議論させていただいていますが、「空気の価値をビジネスに」という部分で連携できると考えています。量子コンピューティングなどの先端テクノロジーの価値を提供したいと思います。
竹中
今年に入って、世界情勢の変化やAIなどのデジタルテクノロジーの進展によって、あらゆるビジネスの領域やシーンにDXが不可欠になってきていると感じます。一方で、手段はどんどんシンプル化していくと思っています。DXによって、お客様と企業がいかにダイレクトにつながるか、価値やリターンをどう可視化するか。これまで複雑化してきたことを、いよいよデジタルテクノロジーを使ってシンプルにする時代が来ました。シンプルになるよう、経営として引っ張っていかければいけないと思っています。変化に対応するためのデジタルテクノロジーだと思います。
おわりに
竹中
富士通は最先端のテクノロジーを持っており、サステナビリティを経営戦略の中核に据えられています。経営はイノベーション、構造改革そのものなので、経営管理というものをどう高度化していくか、富士通の持つ経験や知見でサポートいただきたい。また、企業の枠を超えてサーキュラーエコノミーを実現しようとすると1社でできることは限られてしまうため、業界を束ねるようなプラットフォームの構築に、力を貸していただきたいと思います。我々は、事業を通じて、デジタルテクノロジーとリアルな世界と人とを共生させていく責任があると思っています。空調というビジネスを通じたパートナーシップを期待します。
三和
世界情勢が大きく変化し、将来の不確実性が高まっていますが、ダイキン様や富士通様には、DXを活用しながら、日本から調和を目指すサステナブルなビジネスを展開していただきたいと思います。富士通様には、お客様とのシェアードバリュー(共通の価値)を創造するサービス提供の一環として、オリジナルな非財務インパクトの可視化に取り組まれることを期待しております。
時田
先ほど少し触れましたが、スーパーコンピュータ「京」*の1時間に消費する電力量が12MWhでした。約10年経ち、現在の「富岳」*の消費電力量は30MWhになります。「京」から「富岳」になり、消費電力は2倍強となりましたが、性能は40~50倍と飛躍的に向上しました。
今後も私たちは、さらに消費電力を抑えるコンピューティングの開発に挑戦します。こうした取り組みや挑戦をステークホルダーの皆様に理解・評価いただき、その上でAIなど当社のテクノロジーを活用してもらうことでお客様の事業成長に貢献していきます。皆様との共通理解の場を積極的に作っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
竹中
名誉会長の井上が言っていたのですが、データの活用で重要なのは、データを活かして人の心に火を灯すリーダーになれるかどうかということです。個人のやる気を、先輩や上司がどれだけ高められるかが重要です。データを理解した上で人を動かすためにどう使うか、最後は人だと感じています。
時田
信頼が大切ですね。
- *スーパーコンピュータ「京」「富岳」:理化学研究所と富士通が共同開発。