パーパスの実現を支える知財戦略
方針(3つの視点による知財戦略)
富士通のパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にすることです。
富士通のパーパス実現に向けて「Fujitsu Uvance」では、7つのKey Focus Areasに注力して取り組んでいます。
知財部門では、このKey Focus Areasを支えるKey Technologiesに重点を置いた知財ポートフォリオの構築を行うとともに、3つの視点で知財活動に取り組んでいます。
- イノベーションの視点で、Key Focus Areasを支える知財戦略
5つのKey Technologiesに重点を置いた知財ポートフォリオを構築します。その上で、知財部門の持つ、イノベーションや研究開発の成果を権利化する専門性や、オープンソースソフトウェア(OSS)、知財教育等の現場への知財活動が浸透している強みを基に、イノベーションをもたらすためのIP分析を強化します。 - 社会に信頼をもたらす知財戦略
商標などのブランドを守るための活動や、技術を安心して社会に受け入れていただくといったスタンダード活動によるルール形成の強化に取り組みます。 - 持続可能な世界に向けた知財戦略(FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs)
SDGs達成に向けたWIPOGREENの活用や、COVID-19収束に向けた当社知財の開放、地方創生に向けた知財活用等、社会課題に向き合うような知財活用を行います。
富士通のパーパスの実現を支える知財戦略
知財部門の体制
知財部門は、現場部門の知財支援機能を担う「知財フロントサービス統括部」、富士通グループの知財戦略機能とポートフォリオ構築機能を担う「知財グローバルヘッドオフィス」からなります。
ビジネスプロデューサーやSEを対象に知財活動を推進する「知的財産イノベーションセンター」、ビジネス部門向け知財調査・分析および研究開発を行う研究所を支援する「知財インテリジェンスサービス室」、知財ポートフォリオ構築を実行する「知的財産センター」、そして経営層とのコミュニケーションを踏まえ全社の知財戦略を策定・推進する「知的財産戦略室」、さらに知財関連サービスを提供する「富士通テクノリサーチ(株)」が協働し、知財戦略を実行していきます。
また、富士通では、グループ全体の知財力を最大限に発揮できるような知財ガバナンスの体制を構築しています。
国内では、知財活動を行うグループ会社と一体となった活動を実施しています。一部例外として独立して知財活動を行う会社については、レポートラインを構築し、密に連携した活動を実施しています。
グローバルでは、欧州、中国、オーストラリア、米国の4拠点の知財責任者とレポートラインを構築し、さらに定期的な会合を実施してグローバルビジネスの実態に即した知財活動の実現に向けた活動を行っています。
取り組み
富士通では、Key Focus Areasを支えるKey Technologiesに重点を置いた知財ポートフォリオの構築、SDGs達成を目的とするFUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGsを通じたコラボレーションなどの共創に向けた知財活用の取り組みを行っています。また、OSSの活用や、信頼・安心して先進技術を人のため、世界のために活用できるような社会のルール形成に取り組む国際標準化・ルールメイキング、さらに重要な経営資源であるブランドとデザインに関するグローバルでの権利保護活動など、Key Focus Areasをブランド・デザインの観点から戦略的に支える取り組みを行っています。
特に知財ポートフォリオの構築において重点を置いているKey Technologiesに関するオープンイノベーションの事例、社会課題解決に向けた知財活動、共創に向けた知財活用に関するオープンイノベーションの事例をご紹介します。
オープンイノベーション事例
コンピューティング:デジタルアニーラ(メルコインベストメンツ(株)との共創)
株式ポートフォリオにおける最適化計算の実現
富士通は、組合せ最適化問題を高速に解く仕組みとして、量子現象に着想を得て「デジタルアニーラ」を開発し、そのコア技術を中心に数多くの特許出願を行っています。特許に裏付けられた差異化技術をもとに、お客様とのトライアル、共創を行っており、メルコインベストメンツ(株)が運用する株式投資の分野においては、「デジタルアニーラ」を活用することで、リスクの少ない株式ポートフォリオの生成に成功しました。これをもとに、メルコインベストメンツ(株)では、2022年1月より金融資産の実運用業務の一部で「デジタルアニーラ」の活用を開始しました。
数百の株式銘柄について、組合せ最適化計算で最適な株式ポートフォリオを求めるには、従来のコンピューティングでは膨大な計算量と時間がかかり事実上不可能であったところ、今回、富士通の「デジタルアニーラ」を活用することで、数百銘柄の組合せ最適化計算が10分程度でできるようになり、より精度の高い計算に基づいた分析結果を、実際の資産運用業務に活用することが可能になりました。
ネットワーク:IOWN(NTTとの戦略的業務提携)
次世代「6G」の実現に向けた共同研究開発の推進
NTT(日本電信電話(株))と富士通は、2021年4月「持続可能な未来型デジタル社会の実現」を目的とした戦略的業務提携に合意しました。この提携を通じて創出されるイノベーションにより、IOWN構想に賛同する幅広いパートナーとグローバルかつオープンに連携し、低エネルギーで高効率な新しいデジタル社会の実現を目的としています。
本業務提携では、両社が有する世界有数の特許数を誇る光技術をはじめとした通信技術や運用ノウハウと富士通が有する世界一のコンピューティング技術などを背景に、両社の強みが活かせる分野において共同研究を進め、その成果を活用したグローバルなオープンイノベーションを通じて、低エネルギーで高効率、かつ持続可能なデジタル社会を実現することで、両社で共有するビジョンの具現化を目指します。
AI:(株)SUBARUとの共同開発
AIモデルによる製造現場の品質保証の実現
(株)SUBARUと富士通は、高精度AIモデルでエンジン部品研削加工工程での品質保証を実現するため、2019年以降、実証実験、開発・実証を通じて共創を行ってきました。その中で、エンジン部品の品質検査自動化、予測を実現する業界初のAI関連発明を創作・実用化し、特許の共同出願を行っています。さらに、両社は量産運用を想定し、本AIモデルの管理支援を行う「FUJITSU Manufacturing Industry Solution COLMINA現場品質AI 運用管理パッケージ」の開発・実証を実施し、2022年2月に本格稼働に至りました。その結果、エンジン部品研削加工時の品質保証を高精度かつリアルタイムに実現したほか、効率的なAIモデルの運用や、AIモデルの品質を継続的に維持した運用を実現しました。併せて、大泉工場をはじめとしたSUBARUの群馬製作所全体でのリアルタイムデータを活用した品質保証レベル向上に向けたAI活用基盤を確立しました。
システムイメージ
社会課題解決:音をからだで感じるユーザインタフェースOntenna
Ontennaの装着イメージ
社会課題解決を支える知財ミックス戦略
Ontenna(オンテナ)は、髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに身に付け、振動と光によって音の特徴をからだで感じる全く新しいユーザインタフェースです。ろう者と健聴者が共に楽しむ未来を目指し、ろう者と協働で開発しました。
Ontennaは装着時の違和感をなくすため、丸みのある優しいフォルムでヘアピンように装着できる形状となっています。 本体部分、充電器、複数のOntennaを制御することができるコントローラの意匠出願および意匠登録を行い、さらに本体部分の形状は立体商標でも権利化を行っています。また、Ontennaの充電方法や通信システムは特許出願、特許登録も行っており、本体部分および周辺機器を知財ミックス戦略で保護しています。
また、Ontennaは令和4年度全国発明表彰恩賜発明賞を受賞しました。2019年度のGOOD DESIGN賞の金賞、IAUD国際デザイン賞大賞、地方発明表彰特許庁長官賞などを受賞し、社外からも高い評価を得ています。
共創:FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs(Haloworld様)
共創による3D Scanner「BeTHERE」の開発
富士通は、イノベーションにより持続可能な世界を実現するため、SDGs達成に貢献する特許やノウハウなどの知的財産を企業・学術機関に活用いただく取り組み「FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs」を推進しています。国や自治体、金融機関、大学における知的財産マッチング活動や、環境関連技術の技術移転の枠組み「WIPO GREEN」を通じたコラボレーションにより、富士通の技術を広く社会に普及させることで、COVID-19収束・環境保全・地方創生などに貢献していきます。
知的財産マッチングの事例としては、2019年に富士通からの特許技術の紹介とプロトタイプのデモをきっかけに、Haloworld様に特許のライセンスを行い、製品化が進められた、3D Scanner「BeTHERE」があります。
「BeTHERE」は、現場で周囲360度を撮影し、その場で撮影データを確認できる3Dスキャナで、距離のわかる3D点群データに撮影画像のテクスチャーマッピングを行えます。異なる場所で撮影した3D点群データの統合(位置合わせ)技術について富士通から実施許諾し、さらにユーザインタフェースの改善により操作性を向上したほか、防塵・防滴対応など量産化に向けた改善が行われました。また、対象物までの距離を測定するLiDAR(Light Detection and Ranging)センサも最新のものを適用し、測定精度を高められています。

WiFiによる遠隔操作
計測データ送信機能付き

複数データを簡単統合
ビジュアライズ3Dモデル化

測距半径max60m
最大277満点/計測
[3D Scanner 「BeTHERE」]