パーパスの実現を支える知財戦略

 

方針(知的財産マネジメントと企業価値)

「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」という富士通グループのパーパスの実現に向けた知的財産マネジメントの目的は、技術、ブランド、意匠を始めとする知的資本の戦略的な構築と活用を通じて、富士通グループのイノベーションと新たな価値創造に貢献することです。

知的財産マネジメントには、2つの側面があります。1つは、富士通グループが持つ知的資本の権利化を始めとする知的財産ポートフォリオの構築・活用を通じた価値創造への貢献です。もう1つが、自社および他者の権利の尊重や侵害への対策を始めとする、企業価値・社会価値の毀損につながるリスクの発現を低減するリスク管理の側面です。

【価値創造への貢献】

富士通グループが開発した技術の権利化、それらの技術の社会実装にあたって生み出される意匠やブランドの権利化を進め、適切に管理することで、ライセンス収入の機会を拡大するほか、他者が提供する技術・サービスとの差異化、富士通グループが持つ技術やサービスの競争優位性の維持・強化につなげています。

また、富士通グループにとって戦略的な重要性を持つ領域における特許出願の状況など、グローバルな技術動向を広く調査、分析、発信し、成長機会の探索を支えています。さらに、デジタルサービスにとって不可欠なオープンソースソフトウェア(OSS)コミュニティにも積極的に参加し、知的財産を活用するルールの整備を通じた価値共創のエコシステム形成や、イノベーションを促す環境づくりにも寄与しています。

【価値毀損リスクの低減】

知的財産権の保護は、企業価値を毀損するリスクを低減するための重要な取り組みの1つです。富士通グループが保有する権利に対する他者による侵害は、事業戦略の遂行を妨げるだけでなく、競争環境やお客様からの富士通ブランドに対する信頼にもマイナスの影響を及ぼす可能性があります。このため、権利への侵害がないかを常時監視し、権利侵害の可能性がある事案を発見した場合は迅速かつ適切な対策を実行しています。

また富士通グループは、「パーパス」「大切にする価値観」とともにFujitsu Wayを構成する「行動規範」において、「知的財産を守り尊重します」と明記し、自社の知的資本の権利化と同様に他者の知的財産権を尊重しています。この行動規範を具体的な行動に結びつけるべく、「知的財産権取扱規程」を制定し、富士通および知的財産活動を実施する国内グループ会社に適用しています。さらに、特許侵害回避調査とOSSライセンス管理の徹底、知的財産の契約条項に関する社内からの相談への対応などを通じ、他者が持つ権利侵害のリスク低減を図っています。

価値創造への貢献と価値棄損リスクの低減

知的財産部門(知財グローバルヘッドオフィス)の体制

知的財産部門(知財グローバルヘッドオフィス)は、ゼネラルカウンセル配下のビジネス法務・知財本部に所属しており、研究所を支援し、経営層、研究開発部門、事業部門、フロント部門に知財情報分析を提供する「知財インテリジェンスサービス室」、経営層とのコミュニケーションを踏まえ全社の知的財産戦略を策定・推進する「知的財産戦略室」、知的財産ポートフォリオ構築を実行する「知的財産センター」から構成されています。部門内で連携するほか、ビジネス法務部においても、ビジネスプロデューサーやSEを対象に知的財産活動を推進しているとともに、知的財産関連サービスを提供する「富士通テクノリサーチ(株)」とも協働し、知的財産マネジメントを遂行しています。

知的財産マネジメント戦略や知的財産部門の活動方針の策定にあたっては、部門内のみならず、CTO(Chief Technology Officer)兼CPO(Chief Portfolio Officer)が率いる技術部門、および事業部門内で選任された知財戦略責任者と連携し、経営戦略やテクノロジー戦略、事業ポートフォリオ戦略と整合させています。また、社外取締役・社外監査役の参加する独立役員会議などの会議体にて、ビジネス法務知財本部長が知的財産マネジメントの戦略や進捗を報告し、経営層と議論する場を設けています。

グループ・グローバル連携

富士通は、グループ全体の知的資本を最大限に発揮できるような知的財産ガバナンス体制を構築しています。国内では、知的財産活動を行うグループ会社と一体となった活動を実施しています。一部例外として独立して知的財産活動を行う会社については、レポートラインを構築し、密に連携した活動を実施しています。グローバルでは、レポートラインの活用も含め、欧州、インド、中国、オーストラリア、米国の5拠点の知的財産責任者と定期的な会合を実施するほか、世界8か国に設置した研究拠点への知的財産サポートを通じて、グローバルビジネスの実態に即した知的財産マネジメントを実行しています。

テクノロジー戦略・事業ポートフォリオ戦略との連携

知的財産部門は、重点戦略の1つであるテクノロジー戦略において、AIを核にコアテクノロジーを強化し、テクノロジー戦略・事業ポートフォリオ戦略と連携した知的財産活動を組織的に推進することで、富士通グループの競争優位性の維持・強化や新たな事業機会の獲得に貢献しています。知的財産活動にあたっては、競争優位性を獲得するため、知的財産部門と研究部門との連携を強化し、開発中の技術が市場において持つ強みを知財情報から分析し、結果を知財部門から研究部門にフィードバックする、あるいは国際標準化やオープンソースソフトウェア(OSS)を積極的に活用すべき領域を特定し、取り組みを推進しています。さらに、Fujitsu Uvanceのオファリングが持つ付加価値を高めるために、研究開発技術による当社オファリング強化を促進すべく知的財産部門と事業部門の連携も深めていきます。

知的財産部門の組織
グループ・グローバル連携

取り組み

富士通は、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを定め、2023年5月の中期経営計画で公表したとおりサステナビリティを起点とした重点戦略を実行しています。知的財産への投資についても、重点戦略の1つであるテクノロジー戦略において、AIを核にコアテクノロジーを強化し、サービスビジネスの付加価値として創出すべく知財ポートフォリオの構築、SDGs達成を目的とするFUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGsを通じたコラボレーションなどの共創に向けた知財活用の取り組みを行っています。

また、OSSの活用や、信頼・安心して先進技術を人のため、世界のために活用できるような社会のルール形成に取り組む国際標準化・ルールメイキング、さらに重要な経営資源であるブランドとデザインに関するグローバルでの権利保護活動など、Key Focus Areasをブランド・デザインの観点から戦略的に支える取り組みを行っています。

知的財産活動の事例として、テクノロジー戦略に基づいた特許ポートフォリオ構築、社会課題解決に向けた知的財産活用、国際標準化・ルールメイキングなどの事例を紹介します。

知的財産活動の事例

知的財産の創造

テクノロジー戦略に基づいた特許ポートフォリオ構築

富士通グループでは、Fujitsu Uvanceをはじめとするデジタルサービスに必須のAIを核とする5 Key Technologies(KT)に研究開発リソースを集中するテクノロジー戦略の下、当社の特許ポートフォリオに占める5つのKTの割合を拡大させています。中でも1980年代からの研究開発の蓄積がある人工知能(AI)関連技術については、2022年度に続き2023年度も日本国内で特許出願数が1位となりました。

従来強みとしてきたコア技術に加え、現在当社はAIの応用技術の権利化に注力しています。応用技術とは、コア技術を特定の業種や用途に関するナレッジと融合した、まさにFujitsu Uvanceのオファリングに実装されるような技術や、AIとその他4つの KTの融合技術を指します。応用技術の権利化は、AIを核とする5 Key TechnologiesのFujitsu Uvanceへの統合を加速する事業戦略と連動したものです。2024年3月に発表した、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」をFujitsu Uvanceに実装して提供する事業戦略に合わせ、応用技術の特許ポートフォリオ構築に努めています。

富士通における年間特許出願構成割合

AI関連発明の出願人別特許出願件数

社会課題解決に向けた知的財産の活用

当社技術を他社に供与することによる社会課題解決の推進

富士通では、自社技術を他社に供与することにより、社会課題を解決する技術の社会実装を促進しています。

富士通は、時系列データの異常検知を行うAIモデルを自動で作成する富士通独自のTopological Data Analysis(以下、TDA)技術を、米国で精神疾患の革新的ソリューションを提供するスタートアップ企業Delight Health Inc.(以下、Delight Health社)へライセンス供与し、Delight Health社の新株予約権を2023年11月に取得することで合意しました。本ライセンス供与によりDelight Health社は、現在開発中のせん妄の発症を正確に予測する高度な検出装置を富士通のTDA技術によって確立させ、2024年までに米国食品医薬品局(以下、FDA)の承認を取得することを目指し、特に高齢者に頻発する深刻な疾患であるせん妄に苦しむ患者の救済を目指します。

このようなライセンス供与の新たなスキームを提示することにより、さらなる社会課題解決を進めていきます。

標準化・ルールメイキング

世界初、サプライチェーン全体のCO2排出量可視化の成功

富士通は、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が主催する炭素の透明性のためのパートナーシップ(PACT)の社会実装プログラムにおいて、サプライチェーン全体のCO2排出量の可視化に世界で初めて成功しました(2023年9月)。

カーボンニュートラル実現に向けては、自社だけではなく、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減が世界共通の課題です。そのためには、自社製品の部材の調達先サプライヤーの協力を得て、部材ごとの製品カーボンフットプリント(PCF)を算出すること、企業間でデータ連携することが必要となります。富士通はPACTのメンバーとして、PCFの算出方法やデータ連携の技術仕様に関するルールメイキングに参画してきました。

今回の社会実装プログラムでは、長瀬産業株式会社、株式会社ゼロボード、および協力企業とともに、富士通のノートPC製造におけるサプライチェーンを例に、PACTに準拠したソリューション「Fujitsu Track and Trust」等を活用して各社間でのPCFデータを連携し、サプライチェーン全体のCO2排出量の算出を実現しました。 富士通は今後もWBCSDを含む業界団体や関連するステークホルダーと連携し、サプライチェーンにおける企業間データ連携や方法論の標準化に貢献していきます。また、これらのノウハウを「Fujitsu Uvance」のESG経営プラットフォームサービスやデジタルサプライチェーンサービスとして提供していきます。

当社の本実装プログラムのイメージ

音をからだで感じるユーザインタフェースOntenna

Ontennaの装着イメージ

社会課題解決を支える知財ミックス戦略

Ontenna(オンテナ)は、髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに身に付け、振動と光によって音の特徴をからだで感じる全く新しいユーザインタフェースです。ろう者と健聴者が共に楽しむ未来を目指し、ろう者と協働で開発しました。

Ontennaは装着時の違和感をなくすため、丸みのある優しいフォルムでヘアピンのように装着できる形状となっています。本体部分、充電器、複数のOntennaを制御することができるコントローラの意匠出願および意匠登録を行い、さらに本体部分の形状は立体商標でも権利化を行っています。また、Ontennaの充電方法や通信システムについては特許出願、特許登録も行うなど、本体部分および周辺機器を知財ミックス戦略で保護しています。

また、Ontennaは令和4年度全国発明表彰恩賜発明賞を受賞しました。このほか2019年度のGOOD DESIGN賞の金賞、IAUD国際デザイン賞大賞、地方発明表彰特許庁長官賞などを受賞し、社外からも高い評価を得ています。また、国内の8割以上のろう学校が導入し、音楽や体育の授業で使用するなど、新しい鑑賞体験をもたらすツールとして活用が広がってきています。

共創による社会課題解決

FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs

富士通グループは、イノベーションにより持続可能な世界を実現するため、SDGs達成に貢献する特許やノウハウなどの知的財産を企業・学術機関に活用いただく取り組み「FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs」を推進しています。

環境関連技術の技術移転の枠組み「WIPO GREEN」を通じたコラボレーションや、国や自治体、金融機関、大学における知的財産マッチング活動、教育機関と連携した知的財産創造教育の取り組み、インクルーシブな社会を目指すブランド・デザインの活用により、当社グループの技術が社会で活用される機会を広げるとともに、環境保全・ウェルビーイング・経済成長に貢献しています。こうした取り組みを継続することは、グローバル社会における当社グループへの評価や社員のイノベーションに対するインセンティブなど、様々な無形資産の形成にも寄与するものだと捉えています。

FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs

具体的には、自治体様や金融機関様主催の知財マッチング会などで当社特許技術を紹介することなどをきっかけとして、多くの企業や大学に当社技術をライセンスし、社会課題を解決する様々な新商品や新サービスを創出いただくほか、当社技術を題材とした学生向け知的財産ワークショップを企画するなど、未来のイノベーター育成に向けた活動も行っています。

埼玉県での知的財産ワークショップ
別府市での知的財産ワークショップ

他社への技術ライセンスの例としては次のようなものがあります。

デザインによる社会課題解決

安全安心な鉄道利用に向けた「エキマトペ」

「エキマトペ」は、2021年に当社が東日本旅客鉄道株式会社や大日本印刷株式会社(以下、DNP)とともに開催した、川崎市立聾学校との「未来の通学」をテーマとしたワークショップをきっかけに開発し、誰もが使いやすく、毎日の鉄道利用が楽しくなるような体験を目指して、実証実験を重ねている音の視覚化装置です。

マイクによって集音された駅ホーム内のアナウンスや電車の環境音をAIで分析、文字や手話にリアルタイムに変換して専用ディスプレイに表示します。環境音の文字化はアニメーションで表現したオノマトペ、手話はJR東日本の駅員による動画、DNPの「感情表現フォント」を活用。これらを駅ホーム内のそれぞれの音情報に合わせて表示します。また、AI開発には当社スーパーコンピューター“FX1000”を活用しています。

デザインのポイント:
自動販売機の上部空間に設置する、吹き出しをイメージした形状の表示モニターを有しています。この表示モニター内に、駅構内に設置された情報表示器周辺のアナウンスや音を文字として表示できます。モニター内に表示される文字には独自フォントを採用し、文字の動きや表現の仕方を工夫しています。

デザインの公開:
駅構内でのアナウンスや音を、ろう者の方などにもわかりやすく、モニター上に表示できます。また駅構内の緊急のアナウンスや電車の遅延情報を表示すること、駅構内の音を表示していないときは広告を表示することも可能です。

意匠権による保護:
創作者と本プロジェクトに参加したろう学校の生徒で考えたアイデアが他社からリプレースされることを防止するため、また、丸みのあるデザインに新規性があること、当該デザインを用いた富士通の技術力のアピールやメディアへの露出の機会が増える可能性があることから、意匠権による保護を図っています。

<意匠デザイン>意匠登録第1729569号

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