ステークホルダー
ダイアログ2022
パーパスドリブンな経営は新たな局面へ:
持続的成長と中長期的な企業価値向上に向けた戦略について

富士通グループでは、様々なステークホルダーからの意見を経営に活かすため、2010年から外部有識者の方々とのダイアログを実施しています。2022年8月に開催されたダイアログでは、2名の有識者と「パーパスドリブンな経営は新たな局面へ:持続的成長と中長期的な企業価値向上に向けた戦略について」をテーマに、意見を交わしました。
参加者

ヴェオリア・ジャパン株式会社
代表取締役会長
野田 由美子 様
日本長期信用銀行(本店、ニューヨーク支店、ロンドン支店)の後、PwCのパートナーとして、日本におけるPFI市場の創設をリードするとともに、内外の都市が抱える課題の解決に取り組む。横浜市副市長を経て、2017年にヴェオリア・ジャパン代表取締役社長に就任。2020年より現職。同社において、水・廃棄物・エネルギーを軸に、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に注力している。現在は経団連審議員会副議長・環境委員長、出光興産社外取締役、ベネッセホールディングス社外取締役等を務める。

インベスコ・アセット・マネジメント株式会社
日本株式運用部 ヘッド・オブ・ESG
古布 薫 様
JPモルガン証券会社、JP モルガン・アセット・マネジメント株式会社を経て、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社に入社。2014年より現職。日本株式運用部のリサーチ・アナリストとしてテクノロジーおよび金融業界を担当するとともに、ヘッド・オブ・ESGとして日本株式運用部における議決権行使方針策定、投資先企業とのエンゲージメント、情報開示を含むスチュワードシップ活動を統括し、グローバルとの連携を行う。
富士通

代表取締役社長 CEO, CDXO
時田 隆仁

執行役員 SEVP CTO
ヴィヴェック マハジャン

執行役員 SEVP グローバル
カスタマーサクセスビジネス
グループ長
大西 俊介

執行役員 EVP CSO
梶原 ゆみ子
はじめに ~自己紹介・課題認識~
社長 時田(以下、時田):
現在富士通グループでは、社会課題を解決するグローバルソリューションとしてFujitsu Uvanceを掲げています。Fujitsu Uvanceは社会課題を解決する4つの業界横断的な事業領域と、これらを支える3つのテクノロジー基盤の合計7分野から構成されています。これを世界中のお客様にお届けし、当社グループのパーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を実現していくために、全社一丸となって取り組んでいます。
CTO マハジャン(以下、マハジャン):
私は2021年にCTOとして入社しました。現在当社グループはFujitsu Uvanceの下、DXに必須である5つのテクノロジー分野に注力しています。5つの分野の取り組みにおいてはサステナビリティ観点や社会貢献を重要視しており、例えば次世代プロセッサーの研究開発においては、KPIとして「性能あたりの消費電力を従来の1/10にする」という目標を設定しています。これを実現するためには研究コストは増加しますが、一方で社会に大きな価値を生み出すことができ、長期的にもビジネスに良い結果をもたらすと確信しています。お客様に対しても、サステナビリティを重視しながら長期視点での提案を行い、社会課題解決を共に目指したいと考えています。
SEVP 大西(以下、大西):
私はグローバルカスタマーサクセスビジネスグループという、大規模かつグローバルに事業を展開する企業向けに、当社グループのソリューションをお届けする部門の責任者を務めています。先ほど時田から紹介があったFujitsu Uvanceにおいては、4つの業界横断的な事業領域のうち、Sustainable Manufacturingという、製造業の持続可能な成長を支える分野を担当しています。IT業界では、今まではお客様と「発注者と受注者」という関係を築いていることが多くありましたが、これからはパートナーとして共にエコシステムを構築しながら課題解決を進めていくことが必須だと感じています。これは一朝一夕には叶いませんが、実現のためにフロント部門でもイノベーションを起こし、ビジネスモデル自体も変えていく必要があると考えています。
CSO 梶原(以下、梶原):
私はCSO(Chief Sustainability Officer)として、サステナビリティ経営の実践を推進しています。サステナビリティは当社グループの事業にとって欠かせない要素であり、今ではビジネスの成長の源泉となりつつあります。そのような中で、事業の最前線に立つ部門とともに、お客様にどのような提案ができるのかを検討し、お客様へ一歩先を行く価値提供のためのバックアップを行っています。またお客様との対話を通じ、サステナビリティと事業の接点を強化することにも取り組んでいます。
ヴェオリア・ジャパン 野田様(以下、野田):
ヴェオリアは1853年にフランスで創業した会社を起源としています。公衆衛生と生活の質の向上に不可欠な飲用水の供給に始まり、現在では水、廃棄物、エネルギーを軸に事業を行っています。当グループでは2019年にパーパス「国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に全力で取り組み、より良くより持続可能な未来を実現して、人類の進歩に貢献する」を定義しました。このパーパスをすべての活動の中心に置き、当社が定める5つのステークホルダー「地球環境」「顧客」「株主」「従業員」「地域社会」からの期待に応え、価値を提供すべく、事業活動を行っています。
インベスコ・アセット・マネジメント 古布様(以下、古布):
私は2000年からバイサイド・アナリストとしてテクノロジー業界を担当しています。この20数年間、テクノロジー業界は激動の時代でした。現在の御社はテクノロジー業界を代表するサステナビリティの先進企業であるという認識を持っています。当社はアクティブ運用を行う長期投資家として、投資判断の意思決定の観点、またポートフォリオのリスク管理の観点からもESG情報は大変重要だと考えています。ここ数年、ESGへの注目とともに企業と投資家の対話が増加していると思いますが、建設的な対話とは企業と投資家が対立する場ではなく、中長期的に同じ方向性を共有するために必要なプロセスであると考えています。
“サステナビリティの見える化”の重要性
梶原:
昨今、企業が事業の中核としてサステナビリティに取り組むことが求められています。気候変動や格差など、世界の課題が拡大する中、リスクと機会を織り込みながら中長期的な視点での事業戦略を構築する重要性が増しています。このような状況下において、企業が取り組むべきことから議論を始めたいと思います。
時田:
富士通グループでは中長期的な視点で問題解決を図り、サステナブルな世界を目指すためFujitsu Uvanceを進めています。私たちが直面している社会課題を解決するためにテクノロジーを社会実装していきたいと考えています。ただ、テクノロジー・ツールは目に見えるものではありません。そこをいかにデータによって“見える化”していくのかが非常に重要だと考えています。
古布:
投資家の立場としても、「見えない価値の見える化」には大変注目しています。生命保険協会が毎年実施しているアンケート*1においても、投資家は中長期的な投資・財務戦略における項目として、IT投資、研究開発投資、人材投資といった無形資産への投資、つまり非財務価値の創出により注目しているという結果が出ています。日本企業の財務目標の未達によって財務目標そのものに対する信頼感が薄れてきた、という過去の経緯もあり、中長期の経営戦略に対する資本市場の確信度を高めるための存在として非財務情報に注目が集まっているといえます。ただ、非財務情報は開示を拡充することによって評価がばらつく可能性も研究*2において示唆されており、だからこそより非財務情報・サステナビリティに関しては一層丁寧な対話を行い、市場におけるビジビリティ(可視性)を高めることが大事だと考えます。
- *1生命保険会社の資産運用を通じた 「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組みについて ~コロナ禍の影響やカーボンニュートラルなどの企業・投資家の認識も確認~ | 2022 | ニュースリリース | 生命保険協会(seiho.or.jp)
- *2Why is Corporate Virtue in the Eye of the Beholder? The Case of ESG Ratings by Dane M. Christensen, George Serafeim, Anywhere (Siko) Sikochi :: SSRN
パートナーシップ形成に欠かせない要素としての“パーパス”
梶原:
サステナビリティ起点での事業を推進するうえで、パートナーシップの形成はますます重要性を増しています。例えば、カーボンニュートラルな社会を実現するためには、効率的かつスピーディにサプライチェーンを構築する「産業の垣根を越えた仲間づくり」が不可欠ですし、同業他社との協業や産学官連携といった、シナジーを発揮できるパートナーとの連携が欠かせません。
マハジャン:
IT企業において、単なるシステムの提供であれば1社でできます。しかし、社会課題の解決やグリーントランスフォーメーションを実現しようとするのであれば、業種・業界を越えたバリューチェーンに関わる多様な企業/団体がビジネスエコシステムを形成して取組むことで、初めて社会への価値を生み出すことができるのではないでしょうか。
野田:
脱炭素社会の実現には、サーキュラーエコノミーへの転換が不可欠です。サーキュラーエコノミーは、設計、製造、消費、廃棄、リサイクルまでのバリューチェーン全体をサーキュラー(循環型)にするものであり、革命といっていい程の大きな変化だと捉えています。その際に必要となるのは、循環の状況を「見える化する」、当事者同士を「つなぐ」、最適なオペレーションを「まわす」というデジタルです。デジタルなしにサーキュラーエコノミーは実現することができず、エネーブラーとしての御社の果たす役割は非常に大きいと考えています。製品を生み出す「動脈産業」と、廃棄物回収、再生・再利用などを行う「静脈産業」をつなげていくこと、また消費者および行政と企業をつなげていくことを大いに期待しています。
大西:
グローバルでのパートナーシップを考えるときに、価値観が自社と完全に一致するパートナーはまず存在しないですよね。その中で、一致の割合が6割程度でも、互いの強みを理解して関係性を作っていくことが大事だと思いますが、当社を含めた日本企業がまだ苦手な部分だと感じています。これを乗り越えることで、初めてパートナーシップの形成がうまくいくと考えています。
時田:
日本における従来のビジネスでは、パートナーとして百点満点の企業同士がしっかりと土台を固めてから動き出すため、欧州企業に比べてスピードで劣ってしまうことがありました。そこで、信頼をベースとし、まずは柔軟で、緩やかな関係から始めていくことが望ましいのではないでしょうか。
野田:
そのような柔軟性のあるパートナーシップを築く際に重要となるのが、パーパスではないでしょうか。パーパスは、グローバルに働く従業員をつなぐ存在であると同時に、異業種とのパートナーシップを形成する上でも大切です。お互いのパーパスに共感し合うことで、時に意見の違いを乗り越え、目指す目標に向けた解決策を見出すことができるようになります。富士通グループのパーパスは明瞭ですし、それを元に事業戦略を描かれていると感じます。今後、さらに一人ひとりの社員がパーパスを理解し、自分の言葉でお客様やビジネスパートナーに語れるようになると、より良いパートナーシップが築けるのではないでしょうか。
時田:
私も自社の説明をする際は、まず初めにパーパスについて説明します。そうすると特に欧州企業から「富士通と組める確信が持てる」というお言葉をいただけると実感しています。
古布:
投資家の立場から申し上げると、パーパス経営が全社、全部門に浸透し、経営戦略の方向性がしっかりと共有されることによって、持続的に企業価値を拡大できると期待しています。例えば技術部門におけるパーパスとは新製品開発や技術イノベーション、顧客部門においては顧客評価の向上、財務部門においては資本効率の向上等、各部門において異なるパーパスが設定されると思いますが、全社としてのパーパスは企業価値拡大を目指しているはずです。一方よく指摘される課題としては社員への浸透が進まないことや定着が難しいことだと思います。パーパスが単なるスローガンにとどまらず、各部門、従業員それぞれのインセンティブに合致するような仕組みを構築し、実際の行動に落としこまれることによって、企業価値拡大という成果につながるのではないでしょうか。
事業におけるマテリアリティ
梶原:
富士通グループは、現在改めてマテリアリティ(重要課題)の分析を進めています。当社グループにおけるマテリアリティについて、また中長期的な視点でマテリアリティをどのように経営や事業戦略に活かしていくべきでしょうか。
野田:
パーパスと経営・事業戦略をつなぐものがマテリアリティであり、パーパスとマテリアリティ、経営・事業戦略を統合的に考えることが重要だと思います。また、御社のマテリアリティを考える上では、地政学リスクが極めて重要ではないでしょうか。世界は、ロシアのウクライナ侵攻を経て大きな転換点を迎えています。ディグローバリゼーション(脱グローバル化)の動きが進み、社会は分散型に向かうといった指摘もあります。このような状況において、日本発のIT企業という立場で、「信頼されるパートナー」としての価値を提供してほしいと強く期待しています。
時田:
当社グループが地政学リスクも踏まえながら、いかに責任を果たすかは非常に重要なテーマであり、ガバナンスについても同じく実感しています。ビジネスを進めるうえで、判断に迷う際にパーパスに照らして正しいかどうか、自分の判断で動く、正しい判断をするという、自律ができるかは非常に重要だと感じています。
パーパス実現に向けた人材戦略・組織カルチャー変革
梶原:
人材戦略として、富士通グループはメンバーシップ型から、2022年4月にグローバル統一のジョブ型人材マネジメントへと移行しました。当社グループでは社員一人ひとりのパーパスを言語化する取り組みを行っており、自らのパーパスを明確にすることは、自分自身のキャリアを主体的に考えるきっかけにもなっています。合わせて、自分が目指すべきところを自分で選択できるポスティング制度もグローバルに展開しています。
古布:
野田さんも私も外資系企業において長らく「ジョブ型雇用」を経験してきました。ジョブ型雇用制度においては梶原さんご指摘の通り、キャリアを主体的に考える必要性があるということに同意いたします。ただ社員の方にとっては、常に自らのキャリアオーナーシップを発揮していくというプロセスはチャレンジングなことだと思います。ですが、富士通グループの人材マネジメントや組織改革に向けた施策状況を継続的に発信することで、社員の理解と行動様式の変革につながるのではないでしょうか。
大西:
多くの社員にとってはキャリアオーナーシップを持つという経験がなく戸惑いもあるかと思いますが、組織の変革を進める上で、これからも社員一人ひとりのキャリアオーナーシップをサポートしていきたいと考えています。
マハジャン:
私は2021年に入社以来、人材マネジメントも含めて、組織カルチャーの変革を実感しており、イノベーティブな企業として、良い変化が起こっていると感じています。その中でお伺いしたいのは、グローバルなテクノロジー企業として、お二人は富士通グループにどのような期待をお持ちでしょうか?
古布:
以前のIR面談の中で時田社長がおっしゃった「人材戦略というものは事業構造改革の一丁目一番地なので何としてもやり抜く」というメッセージがとても印象的です。御社においては事業戦略とサステナビリティ戦略がしっかりと統合されていると実感しています。今後より一層企業価値の拡大に対する資本市場の確信度を高めていくためにも、投資家を含むステークホルダーとの建設的な対話を継続していただくことを期待します。
野田:
人材戦略を進める際に、受け身で仕事をするのではなく、自ら課題とその解を見つけ、発信していく人材を育ててほしいと思います。とりわけ、世界のルールメーキングという土俵で発信・交渉できる人材が望まれます。欧州では、ルールメーキングの現場に多くの実務家が参加していますが、日本では学者や研究者が多く、企業人の関与が少ないと感じています。しかし、国際ルールは企業経営の未来を左右します。日本がリーダーシップを発揮していくためにも、グローバル企業として影響力のある御社が、世界の舞台で通用する人材の育成をして頂けることを期待しています。
ダイアログを終えて
時田:
本日は貴重なご意見をいただきありがとうございました。多くの気づきや学びを得る機会となりました。当社グループは2020年からパーパス経営をスタートしましたが、パーパス経営の本質は、社員一人ひとりのパーパスを達成するためにサポートすることではないかと考えています。お二人からいただいた多くのご示唆を今後の経営に活かしながら、ステークホルダーの期待に応えられるよう、日々挑戦を続けてまいります。