トークセッション

富士通の5 Key Technologiesの一つ、コンバージングテクノロジーのキーパーソンと知財テクノロジーマイスターが語る、社会をよりよくしていくためのコンバージングテクノロジーと知的財産活動

富士通のパーパスを起点とした、社会をよりよくしていくためのコンバージングテクノロジーの開発・知的財産活動の在り方について、富士通のコンバージングテクノロジーのキーパーソンと、コンバージングテクノロジーの知財担当者とで対談形式で語りました。

MEMBERS

  • 鈴木 源太

    富士通株式会社 研究本部
    コンバージングテクノロジー研究所 ヒューマンセンシングPJ
    プロジェクトマネージャ

    行動分析AI、画像認識技術の研究開発に従事。
  • 竹内 駿

    富士通株式会社 研究本部
    コンバージングテクノロジー研究所 ヒューマンセンシングPJ
    シニアリサーチャー

    行動分析AI、物理モデル融合の研究開発に従事。
  • 石田 諒

    富士通株式会社 研究本部
    コンバージングテクノロジー研究所 ヒューマンセンシングPJ

    画像認識AIの研究開発に従事。
  • 増原 宏樹

    富士通株式会社
    知的財産センター

    コンバージングテクノロジーの特許の権利化、知財戦略の策定・推進を担当。 知財テクノロジーマイスターとして活動中。

社会課題の解決に役立つコンバージングテクノロジー

増原

富士通は、サステナブルなモノづくりやデータ駆動型の経営、働き方改革など重点7領域を支える技術領域を設定しています。その技術領域の中で、コンバージングテクノロジーの注目が集まっていると思います。今回は、コンバージングテクノロジーを研究している研究者の視点からみた、コンバージングテクノロジーの価値と、その知財に焦点を充てて、富士通のコンバージングテクノロジーのキーパーソンである、鈴木さん、竹内さん、石田さんにお話をお伺いしていきたいと思います。
まず、コンバージングテクノロジーとはどのようなものか教えていただけますか。

竹内

コンバージングテクノロジーは、いわゆる異分野融合の技術です。富士通は社会課題に向き合い、世界を持続可能にしていくことを目指しています。一方でそれら課題には、人や社会を含め、様々な要因が複雑に関わっています。そのため単一の分野に閉じた研究開発では社会課題解決は困難です。こうして異分野融合の技術であり、特に、人文社会科学、つまり、人や社会にフォーカスした学問と融合した技術であるコンバージングテクノロジーが必要とされてきています。

ビジネスで活用されるActlyzer

増原

コンバージングテクノロジーの代表的な技術として当社のActlyzerが挙げられます。これはどのような技術でしょうか。

石田

見守り、介護など様々な課題が、重要な社会課題として認識されています。見守り、介護などの課題では、カメラの画像認識を用いて課題の解決を行いますが、一般的なカメラ画像の認識では、人がいることは認識しても、人がどういう状態なのかは認識しないため、こういった課題を解決するのに十分ではありません。そのような中で、Actlyzerでは、画像認識だけなく、ルールベースを組み合わせています。人間の設定したルールに基づいて状況を判断するように、チューニングを行った上で何が起こっているかを映像から分析して、人がわかる形で提示しています。これによって、見守り、介護などの課題を解決しています。
見守り、介護に限らず、Actlyzerの技術は、基本的には、ルールに基づいて、人が立っている、座っている、下を向いているなど見つけ、それらの行動がどのように遷移していったかを組み合わせて、人の行動、例えば、商品を取った、戻したなどの分析も行うことができるのです。さらに、店舗におけるお客様の行動を分析するため、画像認識とルールベースを組み合わせるだけでなく、消費者行動検知に詳しい教授にご協力いただくことで、広告が購買意欲に寄与しているか、消費者行動の分析、例えば、売り場にお客様がいる、いない、倒れている方がいる、いない、無人レジにおけるスキャンし忘れの検知など、社会で起こりうる課題を解決する技術を開発しており、製品化しています。

鈴木

Actlyzerは、分野横断的に使える共通技術と考えています。安心安全な店舗、工場内での従業員体験向上、公共の場での安全など様々なところで活用いただけています。

増原

様々なところで活用されているのですね。そのActlyzerの凄さは、どのようなところでしょうか。

鈴木

共通した思想としては、大量のデータを学習させる導入の大変さをなくそうというところが大きいところ。例えば、最短10分で新しい行動を認識できるようにした上で、認識の精度も良い。学会のコンペティションやベンチマークなどで世界トップクラスの精度を出せています。社会にある様々な行動もルールを組み合わせることにより認識できるようになります。

竹内

Actlyzerは、「Fujitsu Cognitive Service GREENAGE」の行動検知機能として商品化されています。GREENAGEは、カメラ映像から、プライバシーに配慮して、リアル空間の人物行動や属性情報、車両情報などをデジタルに把握したり、経験や勘のみに頼らない、定量的なデータに基づく施設や店舗施策の検討・実行が可能になるという製品です。

鈴木

他にも、マルチAIエンジンという、AI技術を用いて、動きのあるシーン、人物の不審行動や人物属性などを自動検出し、警備業務や防犯業務、管理業務を効率化するソリューションにもActlyzerが活用されています。

増原

コンバージングテクノロジーを代表するActlyzerは、多岐に渡る分野で利用されていることがよく分かりました。知財部門の担当として、日々、Actlyzerの研究開発過程をみてきました。Actlyzerの技術は日々進歩しており、本当に凄いと思います。

コンバージングテクノロジーにおける戦略的な知財活動

増原

知財の創出活動についてお話をお伺いします。これまで、知財部門と研究部門とは連携をして、戦略的に知財の創出活動を行ってきました。2021年は、2020年に比べて4倍の特許出願をしてきました。これは、他社の特許のポートフォリオを分析し、当社優位性を発揮するために、戦略的に出願をした成果です。この結果、骨格に着目した画像分析の特許のポートフォリオでは、世界1位(当社調べ)を獲得することができました。これは研究開発、ビジネスにどのように役立っているでしょうか。

竹内

知財によるサポートにより、特許のポートフォリオ世界1位という結果がでている、定量的な評価を得られることは重要だと考えています。我々も研究開発する上で、世界中の企業などのベンチマークを行い、他社の状況を考慮して取り組んでいきます。他社も同様ですし、お客様も見ているので、世界1位と出せることは他社に対する参入障壁、お客様へのアピールとして重要だと考えます。また一つ一つの特許を点として出願するのではなく、面で網を張るように戦略的に出願していくという取り組みが技術を強いものにしていく点で、特に意義があると考えています。

増原

まさに面に着目した出願・権利化活動を行っています。これまで構築をしてきたActlyzerの特許のポートフォリオでは、特許の数に加えて、特許の内容にもこだわりをもって活動をしています。ソフトウエアの発明は、色々な切り口で発明を捉えることができるため、どの粒度で発明を捉えるかが重要であると思っています。また、コンバージングテクノロジーは、ビジネス・社会に近い領域ですので、人目に触れやすい、といった特徴があると思います。そのため、技術的な特徴の観点だけでなく、美的外観の観点からの知財創出の検討ができればと考えています。

石田

そういう観点での知財活動にはとても助けられています。知財部門と連携して、ビジネスの川上から川下まで、知財創出の活動ができていると思います。おかげで、Actlyzerの中でも、重要なもの、コアとなるものをたくさん権利化できています。動作認識技術やリテール、製造などの様々な適用先に特化するなど戦略的に取り組めています。
事例としては、セルフレジが挙げられます。NRFという展示会で、お客様向けのデモ映像を作りました。ここでは、お客様に分かりやすく技術について紹介する必要があり、わかりやすくするからこそ、他の技術者から見れば、どのように動作しているかわかってしまう懸念もでてきます。しかし、こういうことも見越して事前に出願しているので、安心してお客様にアピールすることができています。

鈴木

Actlyzerでは、特許だけでなく、意匠、商標もミックスしたパッケージとして、知財活動を行っています。Actlyzerのテクノロジーブランドとしての商標出願、行動認識の部分や、例えば手洗い行動分析の画面の意匠出願なども行っています。このように、コンバージングテクノロジーでは、知財ミックスで活用できているところだと思います。

パートナーやお客様に向けた知財活用

増原

知財の活用についてお話を聞かせてください。特に、コンバージングテクノロジーでは、異分野との融合が重要であるという話がありました。その異分野融合の研究を促進するためには、仲間作りが重要であると考えています。知財の活用の観点からは、そのようなパートナーに当社のデジタルテクノロジーを安心して利用して頂けるように、知財を活用していきたいと考えております。

竹内

仲間づくりはとても重要です。実際に大学、企業からのActlyzerの問い合わせがあります。その理由として、特許を取得しているだけでなく、応用領域含め、面で広く取得していることが心を掴んでいるのかなと感じています。周辺の行動分析含めて、我々がサポートできるということが評価され、パートナーとして選んでいただけるポイントと感じています。

石田

競合製品もActlyzerと同様に、介護施設や小売店などのオープンな場所で利用されます。ここで重要になってくるのが、その製品が当社の知財を利用しているか否かが比較的容易に分かることです。侵害立証が行いやすい特許を取得しておくことで、類似のサービスに対して優位に動くことができます。それによって、サービスの実運用が守られることが、パートナーにとっても安心材料につながると思います。

増原

仲間づくりということ以外に、知財は当社の技術力・差異化要素を訴求することに繋がるとも考えています。当社知財の優位性は、お客様に対して、技術力・差異化要素を訴求することにも使って頂きたいと思っています。技術力・差異化要素をお客様に訴求するという観点で、知財は貢献できていますか。

鈴木

非常に貢献しています。お客様のビジネスを想定した、リテール・製造・防犯等の適用先を見据えた特許を出願していますし、お客様に対する、技術力・差異化要素を訴求することに繋がると思います。また、Actlyzerを利用するお客様においても、Actlyzerが当社の知財で守られていることは安心材料に繋がると思います。

竹内

産学連携、大学との連携の場においても、Actlyzerという名前を出してくれています。うれしいとともに、世に出せている一つの証拠ですね。自信をもってActlyzerという名前を使えています。

増原

Actlyzerがテクノロジーブランドとして認知されているのですね。テクノロジーブランドは、技術に名前をつけて商標をとれば良いというものではなく、パートナーやお客様をはじめとする様々なステークホルダーが、その技術の技術力・差異化要素を認知することによって確立していくものだと思います。テクノロジーブランドとして、技術をブランディングすることは、知財部門としても目指しているものなので嬉しいです。これからも、様々なステークホルダーに対して、知財のパッケージを通じて、技術力・差異化要素を訴求していければと思います。

最後に

鈴木

昨今、生成AIなどが普及し注目されていますが、人との関わりの部分の価値がより高くなってくると思います。ActlyzerはAI技術でありますが、人をセンシングして、さらにそこでの働きかけまで含めて、トータルで研究を進めようとしています。そういう部分の研究の価値が高まっていくと考えています。そういったところも含めた知財活動をやっていくことで、社会課題を解決して、社会貢献につなげていきたいと考えています。

増原

人との接点というところ、まさにコンバージングテクノロジーの部分ですね。社会課題の解決、ビジネスに役立つよう、知財部門も一緒に連携して実現していきたいと思います。本日はありがとうございました。

2023年3月24日実施
本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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