医療DXでクリニックはどう変わる?
~国策動向から導入効果まで徹底解説~

掲載日:2025年6月3日

1. 政府が進めていく医療DXの概要

1)医療DXとは

まず、DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える=Transformすることを指します。
つぎに、医療DXとは、医療分野においてそのデジタル技術を活用し、医療の質や効率性を向上させる取り組みのことを指します。具体的には、電子カルテの導入や遠隔医療、AIを用いた診断支援、ビッグデータ解析、オンライン予約システムの活用などが含まれます。
医療DXをすすめていくことにより、医療の質の向上、医療従事者の負担軽減、医療コストの削減や患者さんへのサービス向上などの効果が期待されています。

2)「医療DX令和ビジョン2030」がすすめていくこと

日本では、2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」が提言され、「医療の質の向上」「医療の効率化」「患者中心の医療提供」などを実現するために、デジタル技術の積極的な導入と普及を推進していくこととなりました。令和ビジョンには、以下のようなポイントが含まれています。

  1. 「全国医療情報プラットフォーム」の創設と「電子カルテ情報の標準化」
  2. 遠隔医療やオンライン診療の普及促進
  3. AIやビッグデータを活用した診断・治療の高度化
  4. 医療従事者と患者の双方にとって使いやすいシステムの構築
  5. 医療の地域格差解消と持続可能な医療体制の構築

次項より、1に記載の「全国医療情報プラットフォーム」の創設と、「電子カルテ情報の標準化」について、解説いたします。

3)「全国医療情報プラットフォーム」の創設により可能となること

なお、「全国医療情報プラットフォーム」とは、オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体の検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる「全国的なプラットフォーム」を指します。
では、「全国的なプラットフォーム」とは何かというと、全国規模で医療情報を連携・共有できる仕組みやシステムのことを指します。電子カルテや検査結果、画像データなどを全国的に共有できる仕組みが整備され、情報の一元管理が可能となれば、遠隔診療や地域医療連携を促進し、患者さんがどこにいても適切な医療を受けられるようになるでしょう。また、患者の健康に関する情報を複数の医療機関 で共有しながら治療を進めることが可能になります。治療内容や検査結果等の情報が共有できれば「地域医療連携パス」もより有効に活用できるようになるでしょう。

4)電子カルテ情報の標準化とは

医療機関やシステム間で電子カルテに記録される情報の形式や内容を一定のルールや基準に統一することを指します。そうすることで、異なる医療機関やシステム間で情報を円滑に共有・連携できるようになります。
診療内容や検査結果、薬剤情報などを共通のフォーマットやコード(例:ICDコード等)で記録していくことで、情報の解釈や検索が容易になります。また、必要な情報項目や記載方法を統一することで、記録漏れなどの間違い を防ぐことも可能になります。さらに、患者の基本情報や診療経過の記録方法についても標準化されたデータ形式を採用することで、電子カルテの情報を他のシステムに取り込むなど、簡単に共有が可能となります。

2. 医療DXが進むことによるクリニックへの影響

医療DXの推進により、クリニックの運営や医療提供体制に変化がもたらされていくのは確実です。当然、メリット的な面もあれば、デメリット(課題)的な面もありますので、確認して行きましょう。

1)メリット:医師及びスタッフの負担軽減

医療機関においては、医療法、療養担当規則、診療報酬などの様々な規則の下で医療サービスが提供されています。そのため、診療記録の記入、施設基準に必要なデータの作成、レセプト作成などが医療従事者の負担となっています。これらをデジタル技術で効率化・自動化することで、医療従事者の負担を大きく軽減することが可能です。具体的には、以下①~③のような内容があります。

①電子カルテによる診療記録作成の効率化

紙ベースの記録を電子化することで、各種計画書の複製機能、文書のコピーペースト機能、指導記録等のテンプレートの活用により診療記録作業の時間を短縮します。また、音声入力機能を設定することで、電子カルテ入力の手間を省くことも可能になります。
さらに、診断や治療計画の提案をAIがサポートするなど、診療支援として、診断や作業の負担を軽減します。

②予約管理システムの導入による効率化

予約を取り入れる ことで、患者さんごとの診療準備(検査や注射等の準備)や請求内容の仮設定や未収金等の確認を行うことで、看護や事務作業の効率化を図ることが可能になります。さらに予約管理システムを導入することで、診察が終了すると、次の待ち患者様のカルテが自動で表示され、次の診察にスムーズに移ることができます。また、診療予約アプリも導入すれば、予約の電話や受付対応が少なくなり事務員の負担も軽減されます 。

③自動チェック機能 で算定漏れを防止し請求業務の負担を軽減

会計業務では初診料、再診料をはじめ、様々な加算項目を自動算定します。また、会計ごとにレセプトチェックを行うので、入力ミス・入力漏れを防ぐことができる他、月末月初にまとめてチェックする必要がないため、事務スタッフの作業負荷を軽減します。残業時間・残業代の削減にもつながります。

2)メリット:「医療の質の向上」につながる

医療DXの導入により、次のような効果を見込むことができ、結果、医療の質(安全性や信頼性)が向上します。

①診断の精度向上

画像診断や検査データの解析にAIを導入し、見落としや誤診のリスクを低減します。これにより、より正確な診断が可能となります。

②医療安全性の確立

医療情報の連携により、他医療機関での治療内容や処方薬の確認が可能となり、適切な治療の選択及び薬の重複や禁忌を防ぐことができます。

③迅速な医療サービスの提供

患者の過去の診療履歴や検査結果の一元管理により、医師が迅速に過去のデータへのアクセスが可能になり、迅速な診断につながります。また、リアルタイムでのデータ共有や複数医師による遠隔医療を行なうことで、緊急時や複雑なケースでも迅速な対応が可能となります。

3)メリット:「患者満足度向上」につながる

2)による医療の質の向上自体が患者サービスの向上=満足度につながりますが、さらに次のような便利で安心できる仕組みを享受できれば、満足度の向上につながります。

待ち時間の短縮 オンライン予約に加え、アプリからの問診票の記入 ができることで、待ち時間や受診時の手続きの手間を減らします。
オンライン診療の導入 オンライン診療を行うことで、遠隔地や交通の便が悪い地域に住む患者さんや、忙しい患者さんが、受診可能になるため、新しい患者さんの獲得にもつながるでしょう。
マイナポータルアプリの活用 診療内容や検査結果がアプリから確認できるようになり、自身で健康管理を容易に行なうことが可能になります。将来的に、電子カルテ情報共有システムにより、生活習慣病の療養計画書もアプリから確認ができるようになります。

4)デメリット(課題):信頼できるシステム業者との協力体制が不可欠

医療DXは医療の質や効率性がアップする代わりに、様々な課題も発生することが予想されます。これらの課題への対応をしっかり説明し、協力していただけるシステム業者を選択し、リスクを最小限に抑えることが必要です。

導入コストが高い システムの設置やインフラの整備には大きなコストを要します。
但し、メーカーや内容によって費用は異なります。
セキュリティに関する問題 電子カルテや患者情報のデジタル化に伴い、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが高まります。
システム障害やトラブル発生 システムの故障や不具合により、診療や管理業務に支障をきたす可能性があります。
スタッフの教育 新しい技術やシステムに対して抵抗感を持つスタッフもおり、教育やサポートに時間と労力が必要となります。また、従来の業務フローと新システムの業務フローへの移行に時間がかかる場合があります。

3. 医療DXを集患につなげていく

1)選ばれる医療機関になるためのDX化

業務の効率化を図る目的としては、働き方改革を行い診療現場の負担を減らすことだけではありません。医療DXの活用により、患者の満足度を上げることで患者から選ばれる医療機関となれば、患者数の増加にもつながります。
患者満足度や選ばれる医療機関の要素として重要なのは、診察待ち時間や会計の待ち時間を減らすことです。その解決する方法として、DXは有効です。

2)予約システムの導入は患者数増の効果も見込める

患者側にとっては、予約制を設定することで、待ち時間が減少するだけではなく、予約アプリに問診機能が設定されていれば、受診時の手間の減少にもつながります。
クリニック側においても、「事前に患者数がわかるため業務を調整しやすい」、「事前にカルテ等の準備ができて受付に余裕ができる」、「検査予定を回しやすい(待ち時間に採血や画像診断)」、「空き時間に予約を入れていくことで患者数を平準化させることができる」という効率的な面もあります。また、「空き枠がわかることで健診の予約も組みやすくなる」、「予約をキャンセルした未受診の患者が分かる(再受診のアプローチが可能になる)」という経営的なメリットも生まれます。
さらに、予約システムには、後払い決済機能やオンライン診療の機能が搭載されているものもあり、クリニックでの患者向けシステムの導入は主流となってきています。

3)DXによる業務の効率化が患者満足度向上にもつながる

また、予定通りに診療をすすめていくには、診察時間が短くても患者の理解や納得感がある診察を行うことが重要となります。電子カルテを導入することで、今までの診療内容や検査結果を電子カルテの画面で説明することで、患者の理解度が向上します。
電子カルテを導入することで、受付業務においても、紙カルテを探したり、カルテを作成したりする時間や担当を減らし、会計業務に集中できるため、会計の待ち時間削減にもつながります。

4.まとめ

医療DXは、デジタル技術を活用することによって医療の質の向上や業務効率性を高めていくものであるため、国策として確実にすすめられていきます。クリニックにとっても、医療DXをすすめていくことが、診療記録の効率化による医師の負担軽減、予約管理システムによる受付・事務作業を省力化、自動チェック機能でレセプト作成ミスの防止などのメリットにつながります。また、患者にとってもオンライン予約や問診による待ち時間削減、オンライン診療による利便性向上などのメリットがあります。加えて、電子カルテ導入により、説明のわかりやすさや会計の迅速化が実現できれば、信頼性とサービス向上につながり、選ばれる医療機関として集患にもつながっていきます。
そのようなメリットが生じていくような電子カルテ等のDXをすすめていくためには、導入の目的を明確にして機器の選択を行なっていくことが重要です。

筆者プロフィール

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株式会社リンクアップラボ 代表取締役 酒井麻由美
急性期病院へ入職し、リハビリ部門、入院部門へ配属。
その後、医療・介護専門コンサルティング会社へ入社、副所長取締役に就任。
2018年、株式会社リンクアップラボを設立。
医業経営コンサルタントとして、年間100件以上の講演を開催。
主な執筆活動として、医学通信社「月刊保健診療」、医学書院「看護管理」、福祉医療機構「月刊WAM」、QOLサービス「デイの経営と運営」、医業経営コンサルタント協会「JAHMC」ほか多数。

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