介護医療院の運営効率化のポイント
掲載日:2025年3月3日
1. はじめに
日本は急速な超高齢化社会に突入しています。この人口構造の変化に伴い、高齢者が抱える健康課題や生活支援のニーズは、ますます多様化・複雑化しています。
このような状況下で、医療と介護の両方のサービスを一体的に提供する「介護医療院」の重要性が高まっています。介護医療院は、2018年の介護保険法改正により創設された施設であり、長期的な療養を必要とする高齢者や慢性疾患を持つ方に対して、包括的なケアを提供することを目的としています。
2. 介護医療院の概要と社会的役割
2-1. 介護医療院の概要
介護医療院は、「日常的な医学管理」や「看取りやターミナルケア」等の機能と、「生活施設」としての機能を兼ね備えた施設として制度設計され、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活を続けるための重要な役割を担っています。慢性疾患の継続的な管理や日常生活の支援、在宅医療のバックアップ機能を提供することで、高齢者のQOL向上に寄与します。
2-2. 市場の現状と動向
日本の高齢化は急速に進んでおり、高齢者人口は増加の一途をたどっています。2023年9月15日現在、65歳以上の高齢者人口は3,623万人で、総人口の29.1%を占めています。今後もこの傾向は続くと予測されており、2040年には65歳以上人口が総人口の34.8%に達し、2045年には36.3%に達すると見込まれています。
図1. 高齢者人口及び割合の推移(1950年~2045年)

介護医療院の施設数の推移
図1のとおり、医療と介護の両方のニーズを持つ高齢者が増加しています。それに伴い、社会的課題に応える施設として、介護療養病床(病院)、医療療養病床からの転換により(図2、3参照)、介護医療院の施設数は着実に増加しています。
- Ⅰ型介護医療院:2023年6月時点で529施設、2024年4月時点で600施設へ増加。
- Ⅱ型介護医療院:同期間に259施設から319施設へ増加。
図2. 介護医療院種別施設数推移

「令和6年10月29日 厚生労働省老健局老人保健課 介護医療院の開設状況について」を基に弊社作成
図3. 介護医療院の転換元施設数

今後の見通しと介護医療院の役割の重要性
厚生労働省は、「地域医療構想」の中で、医療療養病床の再編・転換を推進しています。これは、医療資源を効果的に活用し、高齢化社会に対応した持続可能な医療・介護体制を構築するための施策です。具体的に、医療療養病床の削減目標が設定され、高齢者のケアを継続的に提供する体制を整える施設として介護医療院への転換が促進されています。図1のとおり、医療と介護の両方のニーズを持つ高齢者人口が増加していることにより医療療養病床や在宅医療の推進が進んでおり、医療療養病床の必要性が再評価されています。実際に、医療療養病床から介護医療院への転換が増えていることから、今後も、医療療養病床からの転換がさらに進むと予測されており、介護医療院の役割は一層重要となるでしょう(図4参照)。
図4. 経済・財政新生計画における医療介護制度等の改革

3. 介護医療院の運営上の課題と対策
介護医療院は、医療と介護の両方のサービスを提供するため、多岐にわたる運営課題に直面しています。特に、適切な人材の確保と育成、経済的な持続可能性の確保、そして業務の効率化が重要な課題となっています。
3-1. 主要な運営課題
介護医療院が直面する運営課題は、大きく以下の3つに分類されます。
人材の確保と育成
医療と介護の専門性を持つ人材の不足:医療と介護の現場では、双方の専門知識とスキルが必要とされますが、これを兼ね備えた人材を確保することが難しい状況です。特に地方や過疎地域では、医療従事者や介護福祉士の数が限られており、人材不足が深刻です。質の高いケアを提供するためには、専門性の高い人材の確保と育成が急務です。
継続的な教育・研修の時間確保:忙しい業務の中で、スタッフの研修や勉強会の時間を確保するのは容易ではありません。教育・研修はスタッフのスキルアップやモチベーション維持に不可欠なため、業務が逼迫する中で計画的に実施することが求められます。
コストの増大
人件費の増加:優秀な人材を確保するためには、給与水準の見直しや福利厚生の充実が必要です。しかし、それに伴う人件費の増加は経営に大きな負担をかけます。適切な報酬体系の構築が求められます。
業務上の課題
情報共有の非効率性:病院と介護医療院で使用するシステムが異なるため、情報の共有がスムーズに行われないことがあります。これにより、利用者の情報が適切に引き継がれず、ケアの質に影響を及ぼすことがあります。また、紙ベースの記録や手作業での転記作業は、時間的ロスやヒューマンエラーを引き起こす原因となります。
業務の重複と非効率性:同じ情報を複数回入力する必要がある業務プロセスや、紙媒体での情報管理は、業務の非効率を招きます。特に検索や集計が困難であるため、必要な情報を迅速に得ることができません。
3-2. 課題に対する対策例
人材の確保と育成
働きやすい職場環境の整備:労働時間の見直しやシフトの柔軟化を図ることで、職員のワークライフバランスを改善します。例えば、フレックスタイム制度の導入や、パートタイム職員の活用を進めることで、職員が働きやすい環境を整えます。また、メンタルヘルスケアの充実やコミュニケーションの活性化により、職員の定着率を向上させることも重要です。
教育・研修体制の強化:eラーニングを活用し、職員が時間や場所を問わず学べる環境を提供します。また、研修プログラムを充実させることで、職員のスキルアップを図ります。例えば、定期的なオンラインセミナーやワークショップを開催し、最新の医療・介護技術を学ぶ機会を増やします。
コストの削減
業務効率化によるコスト削減:ICTを活用した業務効率化を進めることで、人件費や運営コストを削減します。例えば、電子カルテシステムの導入により、記録業務の効率化や情報共有の円滑化を図ります。また、ペーパーレス化を推進し、紙媒体の使用を減らすことで、印刷費用や保管スペースの削減を実現します。
運用上の改善策
情報共有システムの統一と標準化:電子カルテシステムの導入により、病院と介護医療院で共通のシステムを使用し、情報の一元管理を実現します。これにより、利用者の情報が適切に共有され、ケアの質が向上します。リアルタイムな情報共有を図るために、クラウドシステムやモバイル端末を活用し、スタッフ間の情報共有を円滑化します。
業務プロセスの見直し:記録業務の標準化を進めるために、テンプレートの活用や音声入力システムの導入が考えられます。これにより、記録時間を短縮し、スタッフの業務負担を軽減します。また、業務の自動化を進め、バイタルデータの自動取り込みやAIを活用したデータ分析を導入することで、業務効率を向上させます。
費用対効果とPX(患者経験価値)の向上:費用対効果の向上を図るために、記録業務の効率化によるコスト削減が期待されます。また、業務効率化の結果として、職員の余剰時間が増します。そこで、PX(患者経験価値)の向上を目指して、より直接業務への投下時間を増やしたり、迅速かつ的確な対応を行ったりすることで患者へのサービスの質が向上し、ケアの質の向上により患者・家族からの信頼性が高まります。
4. 今後考えるべきこと
機能的に運営している施設の共通項と政策的な動きを踏まえ、介護医療院が今後考えるべきことを以下にまとめます。
4-1. テクノロジーのさらなる活用
AIやIoTの導入
見守りシステムの高度化:センサー技術やIoTを活用し、転倒予防や誤嚥リスクの早期発見を実現します。これにより、入所者の安全性が大幅に向上し、介護スタッフの負担も軽減されます。
データ活用の深化
科学的介護の実現:データに基づいたケアプランの策定や効果測定を行い、サービス品質を向上させます。これにより、エビデンスに基づくケアの提供が可能となり、利用者満足度の向上にもつながります。
4-2. 地域連携の強化
地域包括ケアシステムへの積極的参加
他機関との連携強化:在宅医療・介護サービス、他の医療機関や福祉施設との協力体制を構築します。地域全体でのシームレスなケア提供を目指し、連携体制を整備します。
ICTを活用した連携推進
情報共有プラットフォームの活用:地域全体での患者情報の共有を推進し、シームレスなケアを提供します。これにより、複数の医療・介護機関が連携して一貫したケアを提供できます。
オンラインカンファレンスの定着:遠隔地の専門家や他施設との情報交換を容易にし、ケアの質を高めるためのオンラインカンファレンスを定着させます。これにより、地域全体での知識・技術の共有が促進されます。コロナ禍において、日本の医療機関でもオンラインカンファレンスを活用し、専門家の意見交換を円滑に行った事例があります。
4-3. 質の高いケアを提供するための人材育成
継続的な教育・研修の強化
研修プログラムの充実:最新の医療・介護技術や知識を学ぶ場を提供します。定期的な研修やワークショップを開催し、職員が常に最新の情報を取得できるようにします。
資格取得支援の拡充
キャリアパスの明確化:職員が将来の目標を持って働けるよう、昇進・昇格の基準を明確にします。これにより、職員のモチベーションを高め、キャリア形成を支援します。
5. おわりに
介護医療院は、高齢化社会において、医療と介護のニーズを持つ高齢者を包括的に支える重要な役割を担っています。運営効率化とサービスの質向上を図るためには、テクノロジーの活用、地域連携の強化、そして人材育成が不可欠です。これらの取り組みを通じて、利用者の生活の質(QOL)の向上だけでなく、施設の収益性向上やスタッフの働きやすい環境づくりにもつながります。ぜひ上記の例を踏まえて、次のアクションを考えていきましょう。
筆者プロフィール

株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部 課長代理 松永透
医療機関へのITシステムの導入や人事制度の構築支援、第三者機関認定資格取得支援等の業務に従事する。特に、組織人事のコンサルタントとして現場との対話を重視し、現場担当者へのヒアリングや現場ラウンド、ワークショップを通じた、実態に合わせたシステム導入の実現に注力している。また、ITシステムの導入と併せ、業務分析・改善業務の経験を有する。
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