あなたの医療機関に最適な電子カルテは標準型?メーカー製?
~その選択の基準を考える

掲載日:2024年6月28日

現在、電子カルテを選択する際に話題となっているのは、「標準型電子カルテ」を待つべきか、それとも「メーカー製電子カルテ」を早期に導入するべきかという問題です。本コラムでは、標準型電子カルテとメーカー製電子カルテの違いや、選択する際の比較基準、検討ポイントについて詳しく解説します。みなさまの診療所や病院に最適な電子カルテを見つけるための参考にしてください。

標準型電子型カルテはいつから使えるのか?

厚生労働省は、標準型電子カルテの医療機関への確実な導入を行うために、まずはα版として一部の医療機関を対象に導入し、試行する予定です。その試行結果を踏まえて、本格版の電子カルテを未導入の医療機関へ普及させることを目指しています。本格版電子カルテの導入は2026年以降になると予想されています(図1)。

図1. モデル事業のスケジュール

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出典:厚生労働省「第2回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料【資料1】」P22(2024/3/7)

標準型電子カルテシステム(α版)の基本的な機能

標準型電子カルテの導入対象は、電子カルテの普及が進んでいない200床未満の中小病院または診療所が想定されています。そのうち、α版の対象は未導入医療機関の施設数や開発期間を勘案し医科の無床診療所とされ、仕様は診療科によらない共通の診療行為に対応しています。
「標準型電子カルテシステム(α版)の業務フロー全体像」(図2)を確認すると、想定される業務フローは来院受付、診察・検体採取・検査・処置、計算・会計・調剤の流れとなっており、外来診療のみに対応したものになっています。
つまり、標準型電子カルテは外来の業務フローに合わせて開発され、必要最低限の機能のみを備えた電子カルテであることがわかります。

図2. 標準型電子カルテシステム(α版)の業務フロー全体像

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出典:厚生労働省「第2回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料【資料1】」P11(2024/3/7)

今後も求められる医療DXへの対応

2024年度の診療報酬改定では、医療DX推進体制整備加算をはじめとして、医療DXに関する点数が新設されました。また、今後は電子カルテ情報共有サービスなど、新しい医療情報のインフラ整備も進められることから、医療機関は医療DXへのさらなる対応が求められています。

1. 医療DXを推進する体制への評価

2024年度診療報酬改定では、「医療DX推進体制整備加算」「在宅医療DX情報活用加算」「訪問看護医療DX情報活用加算」が新設されました(図3)。これらは、オンライン資格確認により取得した診療情報・薬剤情報を実際に診療に活用可能な体制を整備するとともに、「電子処方箋管理サービス」や「電子カルテ情報共有サービス」を導入し、質の高い医療を提供するための体制を確保していることへの評価となります。なお、経過措置として、電子処方箋管理サービスの要件は2025年4月1日以降に、電子カルテ情報共有サービスの要件は、2025年10月1日以降にそれぞれ適用されます。

図3. 令和6年度診療報酬改定における医療DXに係る全体像

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出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】」P3(2024/3/5)

2. 電子カルテ情報共有サービスの活用

電子カルテ情報共有サービスに、医師がこれまで紙などで患者に共有していた治療上のアドバイスを共有できる仕組みとして、「患者サマリー」が導入されます。患者サマリーは、「外来の記録」と「6情報」を組み合わせて情報を整理し、マイナポータル上で患者にわかりやすく情報提供するものです。
生活習慣病管理料の算定に必要な療養計画書について、この患者サマリーに療養計画書の記載事項を入力した場合は、療養計画書の作成及び交付が不要となります。特に200床未満の医療機関において、外来業務の効率化が期待されています。

3. 救急時医療情報閲覧機能の導入

救急時医療情報閲覧機能の運用が、2024年10月に開始されます。これは、意識不明の救急患者の医療情報を病院でマイナ保険証等により閲覧可能となる機能です(図4)。2024年度診療報酬改定において、総合入院体制加算、急性期充実体制加算及び救命救急入院料の施設基準にこの機能を導入していることが要件化されました。なお、経過措置として、救急時医療情報閲覧機能の要件は2025年4月1日以降に適用されます。

図4. 救急時医療情報閲覧について

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出典:厚生労働省「救急時医療情報閲覧 概要案内【病院の方々へ】」P3(令和5年11月)

診療報酬改定からみた電子カルテのメリットは?

例えば、「重症度、医療・看護必要度」の評価項目などは、診療報酬改定の度に変更が加えられており、関係者の人数も多いため、新しい基準やルールに対応するために多くの労力が割かれます。また、改定直後にはミスが発生しやすく、算定漏れの原因にもなります。電子カルテであれば、ソフトウェアのアップデートにより院内で一括して診療報酬改定に対応できるため、正確に新しいルールに対応し、周知徹底や書類の作り直しにかかる手間を減らすことができます。

標準型電子カルテとメーカー製電子カルテの違い

以下に標準型電子カルテとメーカー製電子カルテの違いをまとめました。現状の診療内容とニーズを把握し、複数のベンダーの提案を比較し、他の医療機関の導入事例や評判を調査することで、自院に適した電子カルテを選定しましょう。

入院の有無

現段階では、標準型電子カルテは外来に特化し、経過記録表や帳票の作成など入院中に必要となる機能は搭載されないことが予想されます。そのため、入院機能を持つ医療機関では、標準型電子カルテではニーズに対応できないことも想定されます。

オンプレミス型かクラウド型か

標準型電子カルテはクラウド型、メーカー製電子カルテはオンプレミス型またはクラウド型になります。一般的に、医療機関内にサーバーの設置が必要となるオンプレミス型と比べて、クラウド型の導入・維持コストは安いとされています。いずれにしても、サイバー攻撃のリスクも考慮し、セキュリティやネットワーク面での注意が必要です。

他のシステムとの連携

標準型電子カルテは、API連携(注1)によって民間事業者が提供するレセコンや部門システムとの接続が容易にできる設計となっています。これはメーカー製クラウド型の電子カルテも同様だと考えられますが、リリース直後に全ての部門システムとすぐに接続できるかは確実ではありません。

(注1)API連携:API(Application Programming Interfaceの略)は、あるソフトウェアから別のソフトウェアを呼び出す仕組みです。API連携とは、このAPIを使用して異なるソフトウェアシステムやアプリケーション間でデータや機能を共有・交換するプロセスを指します。API連携により、異なるシステム間でのデータの手動入力が削減され、自動化が進みます。また、開発者はAPIを利用して新しい機能を迅速に追加したり、複数のシステムやサービスをシームレスに統合できるため、全体の運用がよりスムーズになります。

価格

標準型電子カルテはまだ開発段階にあり、その導入方法や価格は未定です。一方、メーカー製電子カルテの導入費用については、現時点で見積もりを依頼して予算組みをすることが可能です。レセコンとセットにするのか、一体型にするのかなどでもかかる費用は変わるため全体のコストを捉えて検討する必要があります。
また、全国医療情報プラットフォーム対応のための補助金(図5)も創設されており、病院を対象に最大545.7万円の補助金が申請できます(申請期間:2024年3月から2031年9月30日まで)。補助金を活用して標準化を進める場合には、メーカー製電子カルテのほうがより早期に申請ができるため余裕を持つことができるでしょう。

図5. 医療機関への補助(電子カルテ情報標準規格準拠対応事業)

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出典:厚生労働省「第22回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ【資料1 電子カルテ情報共有サービスの運用等にかかる課題について】」P7(2024/6/10)

電子カルテの導入では、IT導入補助金が使える場合もあります。これは、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。こちらも確認してみてください。

サポートや実績

電子カルテの導入は医療機関にとって大きな負担となるため、メーカーからのサポートが不可欠です。導入前の計画段階から実際の導入作業や職員への教育まで、メーカーの実績とサポート体制が求められます。標準型電子カルテでも一定のサポートが提供されるかもしれませんが、今のところは未知数です。障害発生時にはメーカーの専門的なサポート体制が必要であり、システムの更新やメンテナンスのサポートも重要です。特に複数の部門システムを抱える医療機関では、導入実績のある電子カルテを選ぶことが求められます。

口コミや操作性

電子カルテの選択において、口コミ情報やデモンストレーションによる操作性の確認は重要です。標準型電子カルテは2026年以降に本格リリースされる予定ですが、リリース直後は口コミ情報が少なく、デモンストレーションも限られるかもしれません。一方、メーカー製電子カルテは操作性を体験できる体験会や環境が整っているメーカーやイベントもあるため、情報を収集し、これらの機会を活かすことも大切です。

まとめ

昨今の医療DXの流れを踏まえると、電子カルテの導入や「HL7 FHIR」への対応は避けられません。メーカー製電子カルテも積極的に「HL7 FHIR」への対応を進めており、標準型電子カルテにできることは多くのメーカー製電子カルテでも可能です。少なくとも200床未満であっても、入院機能を持つ医療機関であれば、標準型電子カルテを待つ必要は全くありません。また、無床診療所などであっても、現時点では標準型とメーカー製との比較検討が難しいため、標準型電子カルテを積極的に選択に入れることは避けたほうがよいでしょう。
定期的な情報収集やイベントへの参加を通じて、今後の動向や新しい製品情報を常に確認し、最新の情報に基づいて最適な選択を行う準備をしていきましょう。

筆者プロフィール

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株式会社日本経営 厚生政策情報センター 主幹 森實雅司
臨床工学技士として高度急性期病院で計21年間臨床業務に従事。経営学修士(MBA)取得後、2023年4月に日本経営へ入社し、医療政策情報の発信を担当、病院経営に関する講演や企業研修、医療関連企業のマーケティング支援も行う。

免責事項

本資料の内容に関する一切の著作権及び利用権は日本経営に帰属するものです。また、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ無断での複製や転送を禁じます。使用するデータ及び表現等の欠落、誤謬につきましては、その責任を負いかねます。
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