コーポレートガバナンス

社外取締役座談会
ー 変化を見据え、変革を促すガバナンス

  • (左から1番目)
    株式会社産業創成アドバイザリー
    代表取締役/シニア・アドバイザー
    阿部 敦
  • (左から2番目)
    東京理科大学
    特任副学長
    向井 千秋
  • (左から3番目)
    青山学院大学 国際政治経済学部
    国際政治学科 教授
    古城 佳子
  • (左から4番目)
    いちごアセットマネジメント株式会社
    代表取締役社長
    スコット キャロン

COVID-19への対応、脱炭素社会の実現に向けた経済の転換、多様性と平等を求める市民の声のうねりなど、グローバル社会が大きな課題と変化に直面する中で、富士通は「For Growth」「For Stability」を通じた価値創造に取り組んでいます。
2021年6月28日に開催された株主総会の終了後、社外取締役として再任された皆さんに、社会の変化を富士通がどのように受け止め、富士通自身の変革とどのように結びつけているのか、お話を伺いました。

――キャロンさんは取締役に就任して1年が経過しました。
投資家として富士通を見ていた時には知らなかった発見やサプライズはありましたか。

キャロン 大きなサプライズはないですね。パーパスの制定を含めたFujitsu Wayの刷新に表れているように、社会に対して富士通ならではの価値を提供するという姿勢が明確なところを、私は投資家として高く評価してきました。ただ、投資家としての評価は、経営施策や業績という、表面から見える成果を基に判断せざるを得ません。取締役となって、成果だけでなく、独立役員がコーポレートガバナンスで果たしている役割や、経営戦略とその具体化策に関する議論など、成果に至るプロセスが確認できたことで、富士通が良い会社であるという評価により確信を持つようになりました。

阿部 スコットは、投資家としても企業経営者としても数多くの企業と接点を持っていて、非常に視野が広い。当社に対する資本市場や投資家の期待や懸念を議論する際にはもちろん、資本市場の一員であるスコットの意見にはとても説得力があり、執行陣も彼の意見に相当注意を払っています。2021年4月に発表したキャピタルアロケーションポリシーの状況が、2020年に発表したものよりも一歩踏み込んだ内容になったことにも、スコットの提言が活きています。

キャロン 日本の会社によく見られる現象ではありますが、自分たちは情報を開示しているつもりでも、社外にはきちんと伝わっていないことがあります。せっかく開示するならば、方針や目標をより明示的にしたほうがいい。そうした考えを時田社長やCFOの磯部専務に伝え、阿部さんも交えて議論してきました。

取締役となって、表面に見える成果だけでなくそこに至るプロセスが確認できたことで、富士通が良い会社であるという評価により確信を持つようになりました。

――気候変動問題をはじめとするサステナビリティへの取り組みに関しても、取締役会による監督を求める動きが強まっています。富士通の取締役会はそうした新しい要請にどのように応えていますか。

キャロン すべての事業活動を「パーパス」に結びつけていることにも明らかなように、当社グループはもともと社会に資する、すべてのステークホルダーに資する事業活動を行うという価値観が根付いている。日本ではもともと「三方良し」といった考え方がありますから、「ステークホルダーキャピタリズム」を改めて掲げるまでもないとも言えます。

向井 私の専門である医学、宇宙開発、教育の分野では、社会における自分たちの役割や意義を常に考えていますから、社会課題やそこで暮らす人びとの要請に応えるのは当然のことです。DXの核心が社会課題に対する解の提供にあるということを考えれば、当社グループもまったく同じだと思います。社会のサステナビリティに敏感にならなければ、当社グループ自身のサステナビリティはありません。

古城 国際社会においても、気候変動問題は貧困や感染症、生物多様性など多くの課題に影響しているという理解が共有されています。当社グループは、パーパスを柱としたFujitsu Wayの刷新にも表れている通り、執行陣の意識が高いので、気候変動問題への取り組みにも積極的ですし、非財務指標を設定して自らの取り組みを社外のステークホルダーに開示していこうとしています。

向井 サステナビリティと事業推進を統合するという面では、すでに、経営幹部のパフォーマンス評価に非財務指標の進捗が織り込まれているほか、執行取締役の報酬にも非財務指標の達成度を反映すべく、私と古城さんも委員を務める報酬委員会で検討を始めています。ただ、具体的な方法については今後もっと議論が必要です。例えば、サステナビリティの時間軸と事業の時間軸の違いをどう考慮するか、評価の客観性・公平性をどう担保するか、表面的ではない成果をどのように測るか、結論が出るまでには少し時間がかかるでしょう。

DXの核心が社会課題に対する解の提供にあることを考えれば、社会のサステナビリティに対する敏感さなしに、当社グループ自身のサステナビリティはありません。

――2020年の取締役会実効性評価を踏まえ、取締役会の運営方法を変えようとしているというお話を、1年前のこの場で伺いました。具体的に、どのような変更があったのでしょうか。

阿部 取締役会と執行陣のコミュニケーションをより密にしています。合理性のある結論を導くには、オープンなコミュニケーションが不可欠だからです。
以前から独立役員会議が情報共有や当社事業に関する理解を醸成する場として機能してきましたが、それに加え、2020年から「事業概況説明会」として個別事業の説明を執行陣から受ける勉強会を年間十数回設けていますし、「プライベートセッション」を開催して社外役員同士で関心事や意見を共有する機会も増やしました。また、社長と独立社外取締役の1on1セッションを設けるなど、直接コミュニケーションを取る機会も増やしています。本日の株主総会で佐々江賢一郎氏が社外取締役として選任されましたが、新任のメンバーだけでなく我々全員にとって、「分からない」ことを「分かる」ようにする仕組みが必要だと考えたからです。

向井 取締役会と執行陣のコミュニケーションが増えて、双方の関心事を共有できるようになったことは、執行陣とのコミュニケーションをつなぐ役割を果たしてくださっている取締役会議長の阿部さんの貢献が本当に大きい。

古城 私たちがどのような情報を必要としているかを執行陣に伝えたり、執行陣からのフィードバックを受けたりするコミュニケーションチャネルがとても良くなりました。これは、意見を言いっぱなしにしない、取締役会で議論を深めるという意味で、とても重要なことです。COVID-19をきっかけに過去1年間で取締役会の運営もどんどん変化しましたし、そのたびに機能が強化されていると実感しています。

阿部 COVID-19もそうでしたが、企業経営には想定を超えるような事態が起こります。そうした時に執行陣が機動的に手を打つために特に重要なのが、取締役会がどこまで意思決定に関与するのか、執行陣がどこまで取締役会を巻き込むのか、相互に共通理解があることです。そうした共通の理解の基盤となるのが、普段からのコミュニケーションだと私は思います。

執行陣が機動的に手を打つために重要なのは、取締役会がどこまで意思決定に関与するのか、執行陣側がどこまで取締役会を巻き込むのか、相互に共通理解があることです。
そうした共通の理解の基盤となるのが、普段からのコミュニケーションだと私は思います。

――より一層ガバナンスの実効性を高めるために、特に取締役会の多様性という観点で、今後何が求められるでしょうか。

キャロン 技術に関しても、ITサービス業界の競争環境についても、執行陣と対等に議論ができる社外取締役だと思います。私もキャリアをコンピュータ企業からスタートしてある程度の知識はありますし、向井さんは科学者、阿部さんもIT産業についてよくご存じです。しかし、ITサービス業界の変化は大きく、また、富士通の将来を見通すために把握すべき技術の範囲もとても幅広い。勉強しても深い議論ができるレベルにはなかなか至りません。

古城 先ほど話題にのぼった「事業概況説明会」や「プライベートセッション」でも学んで、私たち社外取締役の知識レベルは確実に深化しています。それでも、技術的な話になると1回説明を聞いたくらいではすぐには理解できない内容が多いことは確かです。しかも、約13万人のグループ社員がいることにも表れるように、当社グループの事業はとても幅広いですから。

向井 個人としての勉強に関しては、例えば、会社から私たち社外取締役に支給されているタブレットコンピュータから、経営会議の資料などにアクセスできます。かなりの量にのぼるその資料を読み込むのはもちろん、分からないところは、「独立役員会議支援室」のメンバーの若手社員に質問したり、自分でも調べてみたり。とは言え、1人の人間の知識がカバーできる範囲なんて大したことはないのです。だからこそ、多様な専門性と経験を持つメンバーが必要なんですよね。

キャロン 多様性がない取締役会というのは、全員がキーパーのチームでサッカーの試合に出るようなものです。取締役会としてモニタリング機能を果たすだけでなく、中長期的な戦略について議論するならば、いろいろな知識・スキルが確保されなければなりませんし、その中には業界知識や他社のベンチマークを踏まえた意見、アドバイスも含まれるべきでしょう。

阿部 では、コンピュータ科学やITサービスの専門知識があれば取締役会メンバーとして適格かと言えば、そう単純な話ではないところが難しい。取締役会が集団として大局観と専門性を兼ね備えることが重要なのであって、形式要件だけ充足しても意味がない。いわゆる「マネジメント型」取締役会としてビジネスの中身に踏み込んだ議論をするのか、あるいは「モニタリング型」取締役会として、経営方針を設定する以外は進捗の確認に焦点を置くのかという、取締役会の機能にも関わる課題です。

向井 多様性という観点では、直接的に取締役会に参加するかはともかく、若い世代の声を取り入れられると良いなと私は思っています。中長期よりももっと先の将来を見据えるということは、結局のところ、若者が社会をどう変えるのか、変えたいのかという問いに行きつきますから。

COVID-19だけでなく、今後も社会の持続性を脅かす危機がなくなることはないでしょう。
そうした中で、社会に対して当社グループがどのような価値を提供することができるのか、問いかけていきたいと思います。

――最後に、富士通の価値創造に向けた次のステップに関する意見や期待、ご自身の抱負についてお聞かせください。

古城 COVID-19の感染状況の先行きが見えない状況ですし、今後も社会の持続性を脅かす危機がなくなることはないでしょう。そうした中で、社会に対して当社グループがどのような価値を提供することができるのか、問いかけていきたいと思いますし、そのために自分のスキルも高めていきます。

向井 当社グループがDXに大きく舵を切ってから3年目になりますから、その目に見える成果をお客様をはじめとする外部のステークホルダーにお見せできるようにならなければなりません。個人的には、約13万人という社員を擁す当社グループの中にあるデータを活用したビジネスの拡大に期待していますし、その可能性を考えるために私自身ももっと勉強していかなければと思っています。

キャロン ハードウェア事業の比重が大きく恒常的に大型の設備投資が必要だった過去とは異なり、現在の当社は、大きなキャッシュフロー創出力をどのように活かすのか、かつてない意思決定を求められています。せっかく稼いだ貴重なキャッシュですから、資本投下の対象が、当社らしさが活かせる勝算が高い事業なのか、しっかり議論していきます。パーパスを軸に課題解決力を強化するという富士通の変革への野心、企業価値向上への社員の皆さんの挑戦を支えていきます。

阿部 社内変革については、時田社長の旗振りの下、富士通自身のDXを進める取り組みであるフジトラを通じて社内の意識が変わり、実態を伴った変化が起こっています。事業面でも新会社の設立をはじめ打つべき手が打たれました。ここからは課題解決力の強化を示す成果をモニタリングし、目標達成に向けて執行陣に言わば「発破をかけ」ながらサポートしていく考えです。
取締役会議長としては、引き続き一人ひとりの取締役の意見を引き出すとともに、執行陣ともコミュニケーションをとって、オープンな議論を通じて結論を導くことに注力します。我々が合理的な議論をしているか、第三者に監視されているかのような緊張感をもって、会議を進めます。

富士通グループ
統合レポート 2021

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