株主・投資家の皆様へ

パーパスの追求を通じて
既存の枠組みを超える
新たな挑戦を促し、
富士通にしかできない
価値創造を追求します。

代表取締役社長
CEO/CDXO
時田 隆仁

挑戦、信頼、共感が導く価値の提供

富士通グループは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを追求しています。その出発点は、社会が直面する課題を乗り越える手立てを、お客様をはじめとするステークホルダーと共に考えることにあります。ただし、課題解決に向けた挑戦を通じてステークホルダーとの信頼関係を築くには、課題とその解決を求める声への真の共感が伴わなければなりません。私は、こうした挑戦、信頼、共感のサイクルを重ねることが、新たな価値の提供と私たち自身の持続的な成長につながると考えています。

ワクチンの争奪戦により表面化した国と国との経済格差、世界各地で自然災害の甚大化を引き起こしている気候変動、米中の経済デカップリングを含めた地政学的リスクの顕在化とサプライチェーンの混乱など、グローバル社会には様々な課題が存在します。私が挑戦、信頼、共感のサイクルを重視する背景には、社会に存在する課題の解決やSDGsの達成に、事業を通じてどのような貢献ができるのか、社員一人ひとりが自問し、挑戦を志していかなければ、当社グループが将来にわたって価値を創造し続けることはできないのではないかという危機感があります。

この危機感は、図らずも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって現実味を帯びてきました。当社グループは、長年にわたって自治体やヘルスケア分野でサービスを提供してきましたが、病院・保健所・自治体が効率的かつタイムリーに情報共有する仕組みがないという課題がCOVID-19で顕在化するまで、その課題を深く認識し解決への手立てを広く提案してこなかったのは明らかです。私たちの共感が足りなかったのではないかと猛省しました。

富士通グループ独自の価値創造を追求

こうした反省と危機感を建設的なエネルギーに転換して、当社グループは「For Growth」「For Stability」という2つの事業領域における価値創出に注力しています。お客様の事業の変革と成長に貢献する事業領域である「For Growth」において、私たちはデータを活用した新たなビジネスを創出するためのDXや、従来型ITシステムをクラウドサービスに移行して更新するモダナイゼーションを推進しています。「For Stability」では、従来型ITシステムの保守や運用、プロダクトの提供を通じて、お客様のIT基盤の安定稼働への貢献に取り組んでいます。

「For Growth」「For Stability」における取り組みが2年目に入った2021年4月、私たちは「For Growth」を牽引する7つのKey Focus Areas(重点注力分野)を明らかにしました。7つの分野のうち、Horizontal Areasとして掲げたDigital Shifts、Business Applications、Hybrid ITの3分野は、お客様のDXを支えるために欠かせないデジタル技術とサービスの基盤です。この基盤の上で、私たちは、社会のあるべき姿、その実現のために解決すべき課題からクロスインダストリーで整備したSustainable Manufacturing、Consumer Experience、Healthy Living、Trusted Societyの4つのVertical Areasにおいて、高い付加価値を生むサービスを提供します。

2030年の世界を展望し、未来の社会とそこにおける企業や自治体の活動を描き出すところから、Key Focus Areas(重点注力分野)の検討はスタートしました。次いで注目したのが、2030年にかけて高い成長が見込まれる市場です。それらの分析をもとに、当社グループが持つ経営資源をどのように活かせるのか、市場の成長に合わせて今後強い競争優位性が獲得できるのかを、様々な角度から検証しました。

検証過程において、私たちは「富士通にしかできない価値創造とは何か」を徹底的に議論しました。当社グループは、日本市場において高いシェアを持つITサービス・ソフトウェア企業として、製造業、金融、流通、通信、ヘルスケアといったあらゆる産業と、中央官庁から地方自治体までの公共セクターのお客様に、サービスを提供してきました。そうしたサービスすべてが、今後も競争力を維持できるのか。限りある経営リソースを、より効果的かつ効率的に活用する道はないか。パーパスの実現に向けて優先すべき取り組みは何か。シビアな議論を経た結論が、この4つのVertical Areasなのです。

私が目指す『パーパスドリブンな組織』とは、パーパスに沿って、自らの仕事とその周辺、あるいは、自らの所属する事業部といった既存の枠組み=『サイロ』を超えた発想で、新たな価値創造に取り組む文化が浸透している組織です。

サイロを超えて構想する新たなサービス

Key Focus Areas(重点注力分野)の設定の背景には、新しい価値創造には新しい事業ビジョンが必要だという私の信念があります。例えば、実店舗やネット店舗など、購入箇所の選択肢を広げるだけでは、Consumer Experienceが目指すビジョンである「消費者の価値ある体験」を実現したとは言えません。単純な購買を超えた「価値」を生み、消費者をわくわくさせる新たな体験に仕立て上げるためには、調達から製造、物流にわたる製品を店舗に並べるまでのサプライチェーンマネジメント、キャッシュレス決済やポイント交換を含めたファイナンスなど、多様な産業を統合しなければなりません。その実現には、まず従来の業種の枠組みを取り払い、お客様にとって、ひいては社会にとっての価値を追求し、その価値を実現するサービスを構想することが求められるわけです。

私が目指す「パーパスドリブンな組織」とは、パーパスに沿って、自らの仕事とその周辺、あるいは、自らの所属する事業部といった既存の枠組み=「サイロ」を超えた発想で、新たな価値創造に取り組む文化が浸透している組織です。換言すれば、「サイロ」を徹底的に破壊することができたとき、「パーパスドリブンな組織」をつくり上げることができた、と言えるのかもしれません。

当社グループは、「現場力が強い」、つまり、業種別に分かれた事業部が、高い技術力を持つ社員を擁してビジネスを主導する、ボトムアップの傾向が強いことが、1つの特長とされてきました。しかし、あまりにもボトムアップの傾向が強いと、「サイロ」を超える発想が阻まれる状況も生まれます。ボトムアップの現場力と、パーパスドリブンな視点で抽出したKey Focus Areas(重点注力分野)を掛け合わせることで「化学反応」を引き起こし、新たな価値創造に挑戦します。

技術とサービスの統合による、競争力の発揮

英国に駐在していた数年前、とあるお客様から極めて率直な指摘を受けました。曰く、「富士通のテクノロジーはピース。ピースからは富士通に何ができるのかが見えない」。テクノロジーを言語に例えれば、このお客様は「富士通は言語には習熟しているかもしれないが、何を語りたいのかが分からない」と厳しい批評をしてくださったと捉えています。

「何を語るか」への答えを、ハードウェアを例に考えてみましょう。当社グループがテクノロジー企業としての成長を実現するうえで、ハードウェアビジネスは重要な資産です。ハードウェアの開発と製造を通じて培った技術力は、当社の競争優位性と競合他社との差異化の源泉だからです。ただし、従来のように、お客様から指示された仕様書通りの製品をつくるビジネスは「ピース」でしかありません。お客様に提供する価値、社会に提供する価値を構想し、サービスとして提供してこそ、ハードウェアビジネスと高い技術力は競争優位性となるのです。

今般、5Gビジネスに関して通信技術とサービスを垂直に統合するサービスを打ち出したのは、こうした考えを具現化したものです。お客様の仕様を満たす通信機器を「ピース」として納品するのではなく、まず世の中に必要とされるサービスを構想し、そこに必要なハードウェアを開発してソフトウェアやサービスと一体的に提供する。こうした社会課題を起点にした発想から生まれるビジネスを強化していきます。

世の中に必要とされるサービスを構想し、そこに必要なハードウェアを開発してソフトウェアやサービスと一体的に提供する。
こうした社会課題を起点にした発想から生まれるビジネスを強化していきます。

経営方針の進捗により国内事業の新体制が本格稼働

Key Focus Areas(重点注力分野)は今後の富士通グループのビジネスの方向性を定めたものですが、具体的な取り組みについてはまだ緒についたばかりです。「For Growth」「For Stability」における価値創造を目指し、すでに経営方針の下で進捗している取り組みについても、ここでご報告します。

グローバルビジネス戦略の再構築

日本以外の海外の各リージョンにおいて、ハードウェアの販売とその保守・運用を中心とするプロダクト中心のビジネス構造を整理する構造改革は概ね完了しました。しかし、サービスビジネスへのシフトによる成長軌道への転換については、売上収益ベースで海外リージョンの約7割を占める欧州において、COVID-19感染防止のために厳しい都市封鎖が行われた影響を受け、当初の計画に対して遅れが出ています。一方で、2022年3月期第1四半期は黒字でスタートと前進の手応えも得ており、CEEとNWEではサービスビジネスの商談が徐々に増加しています。ここには、サービスビジネスへのシフトの前提となるグローバル共通のポートフォリオ、アカウントプラン、オファリング、アライアンスという4つの施策の具体的な取り組みが、各リージョンで進行していることも寄与しています。

日本国内での課題解決力強化

2020年秋以降準備をしてきた国内ビジネスの強化に向けた体制が、2021年4月に本格始動しました。日本の抱える社会課題の解決に寄与するため、当社グループが持つ技術力やノウハウを結集して提案を行う新会社、富士通Japanです。

国内では、2021年9月にデジタル庁が発足し、地方自治体が基本的な事務を処理するための情報システムを標準化する計画が進んでいます。また、日本の多くの企業が、データを有効活用するための社内業務・プロセスの見直しや、基幹システムの老朽化に伴うリスクへの対応に迫られており、オンプレミスシステムのクラウド化をはじめとするDXが喫緊の課題となっています。富士通Japanは、情報システムの標準化に伴う自治体のニーズに応えるとともに、企業の経営課題に対するソリューションを提供し、日本国内におけるDXをリードする存在を目指します。

お客様事業の一層の安定化に貢献

お客様への提案を行う富士通Japanと対をなし、同じく2021年4月に本格稼働したのが、ソフトウェア開発やシステムの保守・運用など、提案の中身の「デリバリー」の役割を担うジャパン・グローバルゲートウェイです。お客様に提供するサービスの品質・スピードの向上と、当社グループの既存ITサービス事業の収益性向上、この2つを両立させる要となる組織です。

デリバリーの標準化と海外開発拠点への集約を当社グループが経営課題として掲げるようになってから、すでに数年が経過しています。ジャパン・グローバルゲートウェイの最大の使命は、これまで標準化と海外開発拠点への集約を阻んできた商習慣、文化といった壁の突破です。サービスデリバリーのモデルを確立するという決意をもって、突破力を持つリーダーをはじめ、スキルと経験を持ったシステムインエンジニア(SE)を集結しました。

富士通Japanとジャパン・グローバルゲートウェイの本格始動に合わせ、富士通本社の関係部門の富士通Japanへの移管と、SI系子会社の富士通本社および富士通Japanへの統合も実施しました。富士通グループ全体の経営リソースを、「For Growth」「For Stability」に向けて最適配置して、デリバリーの能力を強化しています。

IT基盤の安定稼働の大前提である、システム障害と不正アクセス防止、リスクマネジメントの強化にも注力しています。システム障害への真摯な反省を踏まえ、経年劣化を起こしている制度はないか、あるいは「制度化されていない」習慣はないか、私が直接指揮を執り、グループを挙げた徹底的な点検を実施しています。

お客様のDXベストパートナーへ

当社グループが実現を目指すDXとは、単体の技術、製品やサービスの提供ではなく、お客様の持つ経営課題を解決すること、あるいは、お客様と共にまったく新しい価値の創造を構想することを意味します。課題解決や価値の創造をリードする役割を担うのが、「ビジネスプロデューサー」です。富士通本体と富士通Japanにおける営業活動を抜本的に見直し、従来の営業職社員のリスキリングを通じて「ビジネスプロデューサー」としての活躍を促しています。

2020年4月に営業を開始した子会社Ridgelinezは、すでに約300社のお客様にDX実現に向けたコンサルティングサービスを提供しています。経営層とのディスカッションによって経営課題の抽出や分析を行うコンサルティングサービスにとって、COVID-19の感染拡大は非常に厳しい環境となりましたが、ウェビナーやオンラインフォーラムを活用しながら、顧客基盤を広げています。同社のサービス提供からつながって、当社との商談に至った案件も出てきており、中長期的なビジネス拡大に期待しています。

経営目標の達成に向けて

7つのKey Focus Areas(重点注力分野)に焦点を定めて成長投資をより一層加速し、2023年3月期にテクノロジーソリューションで売上収益3.5兆円、営業利益率10%という財務目標の達成に向けて全力を挙げます。特に営業利益率については、ジャパン・グローバルゲートウェイが立ち上げを経て巡航速度に入れば、収益性強化に寄与していくと想定しています。私たちはここまで、打つべき手を打ってきました。結果が出ないはずがないという自信を持っています。今後は、2023年3月期に向けていかにスピードを加速するかです。

非財務指標については、今般、従業員エンゲージメントとDX推進指標について、2023年3月期に向けた定量的な目標を設定しました。残る1つの指標である顧客ネット・プロモーター・スコア(NPS®*についても、グローバルな視点で納得感がある目標値を設定すべく、現在グループ内で議論を重ねています。

  • *
    ネット・プロモーター®、NPS®、NPS Prism®そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

変革に完成形なし

ビジネスの成長を実現するための突破口を開くためには、その実現を阻む様々な制約を1つひとつ解消せねばなりません。未来の社会を見据えて当社グループのあるべき姿を追求すれば、課題が次々に浮かんできます。One ERP+プロジェクトの進捗に合わせ、データドリブン経営の成果を明らかにしてお客様への提案のリファレンスとするとともに、財務指標と非財務指標の関係性も可視化したい。サステナビリティの重要課題グローバルレスポンシブルビジネス(GRB)に関しても、財務指標との関係性をより論理的に明らかにしたい。また、気候変動の分野においても、当社グループ自身のGHG排出量削減だけでなく、お客様の気候変動対応を支えるソリューションを含めた新たなサービス提供したい。さらに、社会をより持続可能にするというパーパスの実現を目指し、当社グループにはお客様・社会のサステナブルな変革の支援も求められます。変革には完成形がないことを痛感するとともに、こうした変革を実現して初めて、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)も可能なのだと、変革推進への意欲をますます高めています。

一方で、社員の挑戦と成長を促すために導入したジョブ型人事制度に、想定を超えたレベルの応募とそれ以上の関心が社員から寄せられていること、従業員エンゲージメントの数値が徐々に向上していることには、「富士通グループが変わる」「富士通グループを変える」期待と機運の高まりを反映しているという手応えを感じています。当社グループ自身の変革を推進する全社DXプロジェクト「Fujitsu Transformation=フジトラ」では、「Purpose Carving®」と称して社員が個人としてのパーパスを浮き彫りにして共有する試みも進むなど、「社会の課題に対する共感」を出発点に、パーパスの実現に向けた動きは、グループ内で着実に広がっています。

真に「パーパスドリブン」な経営と中長期的な成長の実現に向け、手を緩めることなく変革を推し進めていきます。
富士通グループの今後の変化に、ご期待ください。

代表取締役社長
時田 隆仁

富士通グループ
統合レポート 2021

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