価値創造に向けた人材・組織の変革

CHRO(Chief Human Resources Officer)
インタビュー

ジョブ型人事制度の導入は、
人的資本と組織設計に対する
戦略的アプローチへの転換を意味します。

執行役員常務
CHRO
平松 浩樹

人材戦略変革の背景にある狙いについて教えてください。

パーパスの実現に向け、富士通グループのビジネスの変革をリードするマインドや組織文化を醸成することが、大きな目的です。今後の当社グループの成長ドライバーは、DX、つまりお客様の事業の変革と成長への貢献にあります。そこで求められるのは、問題意識を持って主体的に考えて行動する人材です。そうした人材を生み出すことが、現在私たちが推進している人材戦略の狙いです。

従来の当社グループのビジネスモデルは、お客様から受託したITシステムを正確に構築することに立脚していました。そこで求められた、所与の仕様に合わせてサービスを提供するという役割は、安定的なシステムをつくるうえでは不可欠だった一方で、少し受身の姿勢をよしとすることにつながってしまったようにも思います。今後の当社グループのビジネスモデルに合わせ、人材戦略もまた変わらねばならないと、私たちは考えています。

「主体的に考えて行動する」ことを促すために、具体的にどのような施策を打ち出していますか。

2020年に、Work Life Shift(WLS)というコンセプトの下で、新しい働き方の実現と組織・人材マネジメントの変革を目指す一連の施策を打ち出しました。中でも社員に自ら学び挑戦することを促すという観点では、ポスティング制度の拡充と、その基盤であるジョブ型人事制度の導入が大きく寄与しています。

ジョブ型人事制度の導入は、従来のいわゆるメンバーシップ人事制度の下での「今いる人材で何ができるか」という資源の活用という発想から、事業戦略遂行のためにどんな人材が必要かという、人的資本と組織設計に対する戦略的アプローチへの転換を意味します。

ポスティング制度の拡充も、会社と社員の関係を大きく変えるものです。グループ内で公募されているポストを社員が自ら探して選択し、必要に応じて新たなスキルを身に着け、挑戦する機会を大幅に増やしました。会社が社員の育成や配置を一方的に決めるのではなく、社員が主体的に学びキャリアを構築することが可能になったのです。

人事制度が大きく変わったことに、社員はどのように反応していますか。

私たちが期待した以上にポジティブな反応を得ています。例えば2020年10月に一斉に募集した新任管理職へのポスティングには、グループ全体で1,350人以上の応募があり、約750人が幹部に登用されました。これ以外に随時ポスティングへの応募も2021年6月時点で2,900近くにのぼり、750人以上が採用されています。

合計1,500人以上という規模の異動が実現したことで、変革に対する会社の本気度が社員に伝わったという手応えがあります。まだ応募していない社員からも、今後挑戦したい、そのためにスキルを磨いて準備をしておきたいという声が届いていますし、海外のグループ社員からも、ポスティングに挑戦したいのでもっと情報が欲しいという要望を受けています。社員の声を集める仕組みであるVOICEを通じて、施策に対する社員の率直な評価をタイムリーに把握して、導入した仕組みの改善にも活かしています。

ポスティングは社員個人だけでなく、組織全体にも刺激を与えています。ポスティングで人材を集めるには、部門の魅力を高めないとなりません。当然すでにいる部門メンバーのエンゲージメントも問われることになります。

人材獲得に向けて、あるいは既存人材のリテンションのために、挑戦できる環境をつくりだすことが、管理者には求められます。そうした環境づくりを促すために、管理者と部下が1対1で語り合う「1on1ミーティング」を全社的に展開して、リモート環境においても質の高いコミュニケーションを図る仕組みもつくっています。

人材配置の仕組みに加え、評価制度も変えたとのことですが、どのように変わったのでしょうか。

重視したのは、パーパスと人事評価をつなげることです。パーパスドリブンな組織は、経営層がリーダーシップを執って会社の方向性を示すだけでは完成しません。グループの各部門・各会社において、管理者と部下の双方が共感できるビジョンを設定し、その実現に挑戦することも、パーパスドリブンな組織には必要だと、私たちは考えています。こうした考えから、ビジョンの実現に向けてどれだけインパクトを残せたかを評価する仕組みを導入しました。

具体的には、上級幹部についてはバランストスコアカード*を使ってパーパスへのインパクト、変革テーマへの挑戦、財務・非財務目標への貢献、GRBへの取り組み、業績指標などを評価するグローバル共通の制度としました。その下の管理職層については、目標を数値にブレイクダウンしたうえで、達成度ではなくインパクトを評価しています。

  • *
    戦略や業績の評価を行うための手法の1つで、ビジョンや戦略の実現にとって重要な管理指標をバランスよく組み合わせて活用するフレームワーク。

富士通グループはGRBという枠組みでD&Iやウェルビーイングに取り組んでいます。
WLSとGRBの間にはどのような相関性があるのでしょうか。

WLSの展開は、社員のウェルビーイングやグループ内のD&I推進に寄与しますので、当然GRBとWLSは連携して相乗効果を追求しています。GRBはグローバル企業としての富士通グループのコミットメントであり、経営の土台をなすものであるのに対し、WLSは、富士通グループ自らの変革を推進する取り組みの一環として、事業戦略と結びついているという位置付けの違いはありますが、パーパスの実現という目指す地点は1つです。

富士通グループ
統合レポート 2021

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