セミナーレポート

小中高Webセミナー 2023年8月28日開催

アナログとデジタルの
ハイブリッドな教育の在り方

~小規模校の特性を活かした教育実践~

GIGAスクール構想に基づいた「1人1台端末」と高速ネットワークの整備など、教育現場のICT化が進む中、アナログとデジタルを組み合わせた教育の実践が注目されています。2023年8月28日に開催されたWebセミナー「アナログとデジタルのハイブリッドな教育の在り方~小規模校の特性を活かした教育実践~」では、千葉県柏市立手賀東小学校の戸沢 日奈絵氏と谷口 直哉氏、姫路大学 教育学部こども未来学科講師の津下 哲也氏をお招きして、手賀東小学校の実践事例の紹介、対談、津下氏による講演が行われました。アナログ・デジタルの垣根を超えたこれからの教育の在り方について紹介します。

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柏市立手賀東小学校による実践報告

150周年記念式典に向けた取り組み

柏市立手賀東小学校は柏市内全域から約70名の子どもたちが通う小規模特認校です。セミナーでは、戸沢氏が同校の150周年記念式典に向けた取り組みとして、地域の歴史や文化などを良く知る「地域人材」や歴史的建造物など「地域資産」を活用した学習事例を紹介しました。

同校では、全校児童を学区域ごとのグループに分け、1年生から6年生までが1つのグループで学ぶ「縦割り」で、地域と密着した学びを実践しています。例えば、手賀地区のグループでは、地元農家の協力を得て1年生から6年生までが一緒にとうもろこしを育ててもぎとり体験をしたり、地域の歴史に詳しい人に旧手賀教会堂について話を聞いたりして内容をまとめ、150周年記念式典で発表しました。

こうした学習の過程で、児童は「実体験(体験による学び)」と「ICT活用による学び」を目的に応じて使い分けています。具体的には、以下のような取り組みです。

・情報収集:タブレット端末を活用して写真や動画で記録しながらインタビューを実施
・整理・分析:共同編集ツールを活用して収集した情報を整理
・表現・まとめ:調べてまとめた内容の発表資料の作成にプレゼンテーションソフトを活用
学習した内容をどう伝えるか児童が自分たちで意識して表現

実体験とICT活用をハイブリッドに組み合わせることで、戸沢氏は「150周年記念式典では市長や地域の方々、保護者に農業の面白さや課題、歴史の素晴らしさなどを児童が自分の言葉で伝えることができました」と成果を示し、事例報告を終えました。

  • 150周年記念式典では、自分たちが体験したり調べたりした内容を演劇や大型スクリーンを活用して発表
150周年記念式典本番

日常の学びにおけるICT活用

次に谷口氏が、同校での日常の学びにおけるICT活用について説明しました。同校では、学習の中で得た問題意識から児童が課題を発見・設定して、その解決策を実行するまでの過程でICTが活用されています。

例えば、国語の絵文字づくりの学習では、ALT(外国語指導助手)から「来日した頃に困ったことが沢山あった」という話を聞いたことで問題意識を持ち、ALTの協力を得てフォームツールを使ってアンケートを実施。その結果を分析して「靴を脱ぐ場所がわからなかった」という課題を設定し、それを解決する絵文字を作成しました。

  • ICTを活用して440人のALTから集めた情報を分析して絵文字に
実践事例(国語:絵文字づくり)

同校では授業以外でも日常的にICTを活用しています。例えば次のような取り組みです。
・クラスの係活動の紹介プリントをスライドで作成
・生活目標の振り返りに共同編集ツールを活用して意見を整理
・タブレット端末で写真を撮り、校内のフォトコンテストに参加・投票

谷口氏は「普段からICTを活用していることが、アナログとデジタルのハイブリッドな学びの実践に結び付いています」と語り、事例紹介を終えました。

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対談:アナログとデジタルのハイブリッドな教育の在り方

「本当に大切なこと」とは

手賀東小学校の講演の後には、富士通Japanの應田 博司をファシリテーターに手賀東小学校の戸沢氏と谷口氏、姫路大学の津下氏を交えて、「アナログとデジタルのハイブリッドな教育の在り方」をテーマに対談が実施されました。

應田:手賀東小学校の取り組みをお伺いして、改めて本当に大切なことは「児童が自ら問題点を見つける」こと、そこから課題を設定して「解決のための方法を考える」ことだと理解しました。これは社会でも必ず求められる力です。アナログ、デジタル、ハイブリッドというのは、あくまでもこうした学びを実践する手段といえますね。

戸沢氏:おっしゃる通りです。目指しているのは問題意識を持ち、課題を設定して解決策を検討し、実行する力を養うことです。児童が自ら疑問を持てるように、教員たちによる仕掛けや環境づくりが重要になると感じています。

應田:手賀東小学校の場合は、小規模校だけに教員たちが学年や学級の枠を超えて児童の実態把握のための情報共有がスムーズにできるといった特性があります。

戸沢氏:教員一人ひとりが全児童の顔も名前も覚えています。それが児童と教員との信頼関係につながり、児童が「何でも疑問に思ったこと、問題だと思ったことを話したり提案したりしてもいいんだ」と思ってくれることが大切だと思っています。全校児童の実態をすべての担任、教員で把握できているからこそ、児童に問題意識を持たせたり、課題の設定や解決策を考えたりするのに必要な支援ができていると感じています。

應田:手賀東小学校のように教員が情報共有しながら、組織として子どもたちに対応していくことが学校教育では今、求められています。その視点で、津下先生は手賀東小学校の取り組みをどうお感じになりましたか。

津下氏:ICTを活用することで、教員は自分のクラスの子ども以外の情報や学習成果を簡単に把握し、共有できるようになりました。ICTは教員がより深く児童を理解するのに役立ちます。一方で教員にとっても子どもたちにとっても「情報が増えすぎる」という問題も浮き彫りになってきています。教員も児童も、本当に必要な情報は何かを常に考えて、上手に取捨選択して整理していく力が求められると思います。

紙(アナログ)もデジタルも児童が自由に選べるように

應田:アナログとデジタルの使い分けについて、どのような状況か少し詳しくお聞かせください。

谷口氏:日常で活用する算数ドリルなどは紙(アナログ)とデジタルの両方を用意し、児童が自ら選択できるようにしています。

應田:手賀東小学校には富士通Japanの「デジタル教材提供サービス」を活用いただいています。紙の漢字ドリルや計算ドリルなどを発刊している図書教材会社とコラボレーションしたサービスで、その中から、児童に使わせたい教材を教員の方々に選んでいただき、紙の教材と同じように購入して使っていただいています。手書きで解答できるので、児童が無理なく学習に活用できると思います。

谷口氏:最初の頃はデジタル教材が珍しく、子どもたちの多くが使いたがりました。慣れてくると、自分で選ぶようになってきて、今ではデジタルのドリルを選ぶ子どもが3分の2、紙のドリルを選ぶ子どもが3分の1くらいです。デジタルドリルは自動採点で正解・不正解がすぐにわかり、「どこが間違ったのだろう」ともう一度考えて解答することができます。児童自ら繰り返し学習して、学習内容の定着化に繋がっていると思います。

  • 紙のドリルにはない自動採点機能で、子ども自身が何度でも納得できるまで繰り返し学習できる
基礎的な知識理解の定着に向けて

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講演:学習者の学びの促進に向けたこれからの教育支援の在り方について
姫路大学 教育学部こども未来学科講師 津下 哲也氏

セミナーの最後は、津下氏による「学習者の学びの促進に向けたこれからの教育支援の在り方について」と題した講演でした。津下氏は、まず「これからの教育支援の在り方を考える上で、社会がどう変わっていくかを大きな視点で捉える必要がある」と指摘。生成AIやシンギュラリティに触れながら、「分からないことがあればすぐにタブレット端末やスマートフォンなどで調べられる今、覚える必要のある『知識』とは何かを今一度、考える時代に来ている」と語りました。

次に社会の変化や発展にともない知識の伝達モデル、つまり「教え方」が変わってきたことを説明しました。津下氏によると、狩猟時代には獲物を捕る方法などの知識は「人から人」に伝承されていて、知識の伝達モデルはこの1対1から、次に1対多、そして一人の教員が数人の弟子(モニター:助教)に教えて、弟子がその他大勢に伝えるモニトリアルシステムが登場し、さらに同一学年といった集団や教室の概念が加わり近代の学校が誕生しました。

津下氏はテクノロジーの発展など社会の変化がより激しくなる中で、「新たな時代に対応できる知識とは何かを考え、それを伝えるための新たな教育システムへの転換が必要になってくる」と課題を示しました。その上で、これからは企画力や提案力、調整力、課題解決能力といった資質や能力が必要され、それらを子どもたちに学ばせるには「教員のICTを活用した指導力のさらなる向上が求められる」と説明。「ICTを活用した授業を構想する力」、「ICTを活用した授業を遂行する力」、「ICTに関する基礎的なリテラシー」の理解の3つが必要になることを強調しました。

  • ICT活用授業をするために必要な3つの力
ICT活用授業をするために必要な3つの力

「ICTをどう使ったら効果的かということは、普段から使っていないとわかりません。日常的に使うことで授業を構想する力が高まってきます。ぜひ、怖がらずに活用の幅を広げていっていただきたい」と語り、講演を締めくくりました。

Q&A

日常的にタブレット端末は活用されていますか?
はい。教科学習をはじめ特別活動、宿題などでも頻繁に子どもたちが活用しています。
タブレット活用を学校内で広げるために取り組まれたことはありますか?
1年目はとにかく使ってみるということをどのクラスも行っていました。休み時間も使用可能にしたり、4月から家庭に持ち帰ったりして、誰もがいつでも活用できるような空気づくりをしていきました。2年前の校長が中心となりこのような活動を進めていき、最初からではなく、徐々に活用できるようになってきました。
はじめてタブレット端末を利用する一年生は、どのような実践を行っていますか?
※アンケートでご質問をいただきましたので、セミナー後日先生にお伺いしました。
タブレットを配布するにあたっての約束を「あいうえお作文」で説明しました。
・タ:「た」いせつにこわさないように使います。
 水筒と一緒✕、画面に固いもの✕、充電切れ✕
・ブ:「ぶ」んぼうぐです。学習のために使います。
 学習に役立たないこと✕、写真→学年が上がるとき削除
・レ:「れ」んらくに使うこともあります。クラスルームへのらくがき、みんながこまること、悪口は絶対に書きません。
・ッ:い「つ」も学習のルールは守ります。話を聞くとき(手を止める)⇔そうさするとき
・ト:「と」もだちのタブレットを勝手に操作しない。教える時は言葉や指差しで教える。友だちの写真や動画、作品を勝手に撮影しない。

1年生はまず写真を撮る活動から始めました。最初は資料を個別に配布していましたが、慣れてきて約束を守れるようになってきたら共同編集を使って授業を行うなど、段階的に使い方を広げています。
学校で利用しているデジタルドリルは何を使っていますか?
富士通Japanのデジタル教材提供サービスを利用しています。
※無料体験サイトもご用意していますので、ぜひお試しください。
デジタルドリル無料体験サイト

登壇者Profile

津下 哲也 氏
姫路大学教育学部こども未来学科講師。2023年4月より現職。
専門は、情報教育、教育工学。教育とAIについて研究。
元岡山県小学校教諭。文部科学省学校DX戦略アドバイザー。
マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)。

津下 哲也 氏


柏市立手賀東小学校 ▶学校ホームページ
5年担任:戸沢 日奈絵 氏(上)
3年担任:谷口 直哉 氏(下)

昨年度に創立150周年を迎えた、豊かな自然と伝統がある学校です。
小規模特認校であり、柏市内全域から児童が通学しています。

「小さな学校 大きな学び」をキャッチフレーズに、ICTを活用した学習活動や、全校田植え、農作業体験などの地域での体験活動を行っています。

戸沢 日奈絵 氏谷口 直哉 氏


應田 博司 氏
富士通Japan株式会社 教育ソリューションビジネス部
元小学校教員・教育委員会指導主事。2019年4月富士通入社。
一般社団法人ICT CONNECT 21 GIGAスクール構想推進委員会
学校支援部会交流会サブ部会長。

應田 博司 氏

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