ネクストノーマル時代のハイブリッドな働き方で成功するために、私たちが準備すべきこととは?

グローバル調査から見えてきた、組織が強化すべき5つの要素

新型コロナウイルス感染症の引き起こしたパンデミックにより、組織はリモートワークへの切り替えを強いられる状況に置かれました。一方で、企業活動が強制的にデジタルに移行した結果、幸運にも生産性が向上し、従業員満足度が高まり、時にはビジネスモデルの変革につながったケースもありました。

しかし、この働き方の変革は、パンデミックという暫定的な状況下に限って実施されたものです。私たちは、今こそ、ネクストノーマルを見据えた変革を考える時です。オフィスとリモートワークを組み合わせたよりハイブリッドな環境で、企業が強化すべきことは何でしょうか?

この図はこの記事ページのイメージ写真です。

本稿では、富士通のマーティン・シュルツとユルゲン・ブロックが、パンデミック以前、そしてパンデミック下でのワークスタイルについて、富士通自身の取り組みとグローバルな調査をもとに考察します。パンデミック以前の日本とドイツにおける2つの大規模なデジタルワークスタイル調査の結果を分析し、富士通の 「ワークライフシフト」 と比較します。組織が現在の働き方をネクストノーマル向けにアップグレードする必要があるのかどうか、これらの結果から得られた非常に興味深い洞察をご覧ください。

パンデミックによるビジネスの環境変化に企業はうまく対応できたのか

パンデミックの期間中、私たちは組織がいかにデジタル化に取り組み、生き延び、さらには過酷な状況下でも成長できるのかを目の当たりにしました。富士通は、パンデミックへの対応として、「ワークライフシフト」を発表し、社員の働き方を変革することによって、より適応性が高く、変化に柔軟に対応する企業への変革に取り組んでいます。富士通は、社内実践で目覚ましい成果を挙げた後、ネクストノーマルに向けたデジタルワークスタイルの変革を先導しながら、お客様を支援しています。

富士通はデジタル企業ですが、他のビジネスリーダーは自身のパンデミック時の対応についてどのように評価しているのでしょうか?

withコロナの新しいデジタルワークスタイルの機会と課題を特定するために、私たちは、グローバルなデジタルトランスフォーメーション調査を実施しました。企業は、今回強いられたとは言え、自身が取り組んだ変革には概ね満足しており、一方で、ビジネスモデルや従業員満足度、顧客との関係などに直接貢献する成果が得られなかったと述べています。

富士通の「グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート2021」によると、 経営者の78%が、コロナによる事業環境の変化への対応に満足していると回答しました。*1

この調査では、オンラインで事業を行っている「デジタル」企業と、事業の大部分をリアルで実施している「伝統的なオフライン」企業に分けて調査しています。「デジタル」企業は79%がパンデミック期間中に売上が増加し、「伝統的なオフライン」企業の半数は売上が減少したと述べています。しかしながら、このような困難な中でも、伝統的な企業の82%は、デジタル変革を加速させ、顧客満足度、ビジネスの俊敏性、効率性、競争力が向上したと回答しました。

ネクストノーマルを考える上で特に注目すべき点として、顧客体験と生産性向上に比べて、デジタル化がビジネスモデルの変革や従業員満足度の向上に結び付かなかった点が挙げられます。変革がビジネスモデルに影響を与えていると回答した企業はわずか23%、従業員満足度の改善を実現した企業はわずか15%でした。

図1: デジタルトランスフォーメーションの成果

図1: デジタルトランスフォーメーションの成果

デジタルトランスフォーメーションを実践し成果を得た非ネット専業企業(n=191)

出典: 富士通 グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2021

更に、イギリスのビジネスリーダーを対象とした別の調査では、ワークスタイルの変革に関する長期的な課題について、懸念が示されています*2。ビジネスリーダーは、顧客の要求が急速に変化しており、それに対応することが大きな課題になっていると指摘しています。顧客体験(CX)における新しい需要にビジネスモデルを適合させることが、彼らにとって非常に難しいこととなっています。

さらに、現場の従業員の間に不満があることも明らかになりました。半数以上は、優れたサービスを提供することが難しくなったと感じており、60%は、オンラインで仕事をすることで新規顧客へのアプローチが難しくなったと感じています。パンデミックの間に彼らの労働環境は変化しましたが、彼らの働き方が変化に追いつかなかったといえます。そのため、役員の半数以上が、パンデミック後のネクストノーマルに備えて、さらなる変革が必要だと考えています。メンタルヘルスのサポート、ポジティブなフィードバックと必要な従業員のモニタリングとの適切なバランス、そして非常に高いレベルのセキュリティが、「ネクストノーマル」への移行に取り組む際の検討課題となっています。87%の人々が、パンデミック後には多様なハイブリッド型の働き方を望んでおり、変革に向けた課題はより複雑になる可能性があります。

ネクストノーマルに向けてデジタルなワークスタイルを実装することは、チャレンジングであり、組織文化の転換を必要とします。多くの場合、パンデミック後に変化から元に戻ろうとする力が復活したときには、強力なリーダーシップだけでは十分ではないかもしれません。

マッキンゼーによると、チェンジプログラムの70%は目標を達成できていないと報告されています。一方で、従業員が継続して変化に取り組んでいる場合は、変化が定着する傾向にあります*3。したがって、外的要因の引き起こした混乱、危機、緊急対応は、働き方、組織、ビジネスモデルに求められる変化を受け入れて定着させるための、重要なきっかけとなり得ます。

これが、私たちが現在のパンデミックが一つの機会であると感じている理由です。デジタル化や新しい働き方が広く受け入れられるような、更に大きな外的要因を想像するのは難しいでしょう。新しいデジタルワークスタイルを持続可能なベースで設定し、それらを活用して組織の中に定着させるには、継続的な準備が求められます。

富士通自身の働き方改革の成果と地域ごとの差

次に、新しいワークスタイルに向けた潜在的なチャンスと課題を探るため、富士通自身の新しい働き方改革「ワークライフシフト」の結果を調査しました。

富士通が1年以上前に独自の「ワークライフシフト」を発表して以来、様々なデータが集まっています。富士通のワークライフシフトは大きな成功を収めていますが、地域差や課題もいくつか見えています。これらの課題を改善し、国や文化を越えて確実に機能するデジタルワークトランスフォーメーションモデルを検討することが、調査の目的です。

日本のデジタルリーダーの一社である富士通は、パンデミック以前からデジタルワークスタイルの変革に取り組んでいました。また、デジタル化を成功させるために必要なツールやインフラもすべて備えていました。それにもかかわらず、この世界的なパンデミックは富士通にも大きな影響を与えました。この危機を最も建設的な方法で乗り越えるために、経営陣は、スマートな働き方のための更なるツールを提供し、オンラインとオフラインの垣根を排除して、可能な限りの価値提供と生産性向上に取り組みました。ネクストノーマルに向けて、アジャイルで柔軟な組織文化を作りつつ、従業員が新しい価値創造に集中できることが重要なのです。

富士通のワークライフシフトは、「Smart Working」、「Borderless Office」、「Culture Change」の3つのカテゴリーを連携させて実現しています。

パンデミックの環境に置かれたことや、IT企業として富士通が十分な準備をしていたこともあって、当初混乱が予想されていたこの移行は驚くほどスムーズに進みました。社内調査によると、従業員の27%が生産性向上をすぐに実感しました。しかし、多くの従業員は一時的な生産性の低下も経験しています。

生産性の向上に貢献したのは、通勤(65%)、勤務形態・制度(41%)、育児を含む家庭環境(20%)でした。具体的な生産性向上施策としては、職務内容の明確化(59%)、コミュニケーションの改善(54%)が最もプラスの影響を与えていました。また、責任範囲の増加(49%)や独立した働き方 (45%)にも従業員は満足しています。

しかし、これらの変化には地域差がありました。例えば、中欧地域(ドイツとその周辺)では、パンデミック期間中に生産性が向上したと回答した従業員はわずか19%で、生産性が低下したと回答した従業員も多くいました。このような地域間の相違を調査することは、非常に重要です。

パンデミック期間中の業務のデジタル化は驚くほどのスピードで進みました。しかし、パンデミックによって引き起こされたデジタル変革は、出発点にすぎません。特に、これまで伝統的な働き方でビジネスをしていた企業にとっては、デジタルなワークスタイルの浸透とさらなるカルチャー変革が必要になるでしょう。

ポストパンデミック後の新たな働き方とは

私たちは、従来型(パンデミック以前)およびパンデミック後にも通用する最適な働き方の解決策を見つけるために、次の3つのステップで取り組みました。

1つ目のステップでは、富士通の「ワークライフシフト」の経験をもとにした、「デジタルワーク変革モデル」を構築しました。このモデルは、パンデミック期間中にデジタルに移行し、そして成功した、新しいワークスタイルを表します。

2つ目のステップでは、パンデミック前に実施した日本とドイツの調査をベースに、このモデルを評価しました。ここでは、もし新しいモデルがパンデミック以前の働き方にもフィットするならば、このモデルは、企業が新しい日常を取り戻したネクストノーマル時代においてもうまく機能するだろう、と仮説設定しています。

3つ目のステップでは、日本とドイツの従来の働き方の検証から得られた付加的な要素を考慮に入れることで、モデルのブラッシュアップを実施しました。

今回の検証の中では、私たちがパンデミック以前に日本とドイツの伝統的な企業を対象に行った、2つの大規模な働き方調査の結果に立ち戻っています。これらの調査では、デジタルワーク変革に関する企業の働き方の実態について、大規模な(90以上の)質問をしました。(詳細は、下記の「調査概要と調査方法」を参照ください。)

これらの調査において、企業や国ごとの差は大きく現れました。日本と比較すると、ドイツは、デジタルな働き方に関してはるかに多くの指標で日本を上回っていました。

この結果は、ほとんどの国際的なデジタル化調査と一致しています。例えば、2021年のIMD世界デジタル競争力ランキングでは、ドイツが18位、日本が28位です*4。さらに、日本では「デジタルリーダー」と従来型の企業との格差が非常に大きく、これが国際調査での日本のランクの低さの要因となっています。

デジタルワーク変革モデル

今回の検証から導き出した「デジタルワーク変革モデル」を以下に示します。

図2: デジタルワーク変革モデル

図2: デジタルワーク変革モデル

このモデルは、富士通の「ワークライフシフト」に基づいています。私たちは、独自の調査から追加すべき要素を見つけ、「ICTシステム」、「HRMプラクティス」、そして中心となる「スキル開発」を追加しました。「ICTシステム」 では、定期的なシステム更新 (2年以内) や使いやすさが構成要素となっています。「HRMプラクティス」 には、デジタルかつインタラクティブな人事管理プラットフォームの提供、スキルやチームビルディングのサポートが含まれます。 「スキル開発」 には、スキルの共有、生涯学習、外部トレーニングの統合に対するサポートが含まれます。これら全てがワークライフシフトを支える要素であり、働き方変革の重要な役割を担う要素として考慮する必要があります。

このモデルは、密接に関連するいくつかの変数を組み合わせて構成されています。例えば、右下隅の要素「ボーダレス・オフィス」は、ワークプレイスのモビリティ、クラウドベースの運用、外部パートナーの協力といった項目が含まれています。重要な点は、このモデル内の矢印が異なる要素間の依存関係を示していることです。「スマート・ワーキング」と「ボーダレス・オフィス」は密接に関連し、依存関係があります。また、両者は「スキル開発」とも密接に関連しており、そのためには、効果的な「ICTシステム」と「HRMプラクティス」が必要となります。

「ワークライフカルチャー」については、モデリングの際に別の仮説検証をしなければなりませんでした。私たちの調査では「カルチャー」を適切にモデル化するための質問が十分ではなかったため、他のすべての要素を統合して「ワークライフカルチャー」を定義しました。私たちの見解では、これがモデルを検証する際の課題にはならないと考えます。それは、本モデルに含まれるシステム、スキル、ガバナンス、ワークスタイルといった項目は、ワークライフカルチャーの主要な要素といえるからです。

日本とドイツにおけるデジタルリーダー企業の組織力

私たちは、アップデートしたこのモデルが、調査対象となった両国の企業の違いをうまく説明していることに驚きました。企業と国のデジタル化の差はかなり大きいといえます。

図3は、デジタルワーク変革モデルの各要素について、各国の平均的な企業のスコアと、デジタルリーダー企業のスコアをプロットしたものです。

図3: デジタルワーク変革の構成要素(日本とドイツの比較)

図3: デジタルワーク変革の構成要素(日本とドイツの比較)

注: スコアは各要素に対する肯定的な回答の平均値

日本は、平均的な企業とデジタルリーダー企業の差がとても大きいといえます。また、日本のデジタルリーダー企業でさえ、ドイツの平均的な企業に及んでいません。一方、日本とドイツのデジタルリーダー企業間の差は、あまり大きくありません。

日本とドイツにおける働き方の文化は、伝統的な企業間でかなり違いがあると考えられますが、今回の調査から、デジタルリーダー企業間のデジタルワークスタイルは、パンデミック前でさえ驚くほど似ていることが分かりました。これは、デジタルワークスタイルの成功例から学び追いつきたいと考える日本の伝統的な企業にとっては朗報です。海外の成功例を探すのではなく、国内の先進的な企業から学ぶこともできます。

デジタルワーク変革モデルの進化

上述したように、私たちのプロジェクトの目標は、パンデミック以前の「これまでの」働き方に対して、パンデミック後の「新しい」デジタルワークモデルが適切かどうかをテストすることです。したがって、企業のより長期的な変革に必要な要素が見つかり、新しくモデルに追加されることになっても、これはそれほど驚くことではありません。

ワークライフシフトは、パンデミック期間中のデジタルイノベーションに焦点を当てていますが、パンデミック以前のデータを見たとき、働き改革には長期的な業務改革が求められるという点を考慮する必要があります。私たちの調査結果によると、スキルの共有、生涯学習、外部研修の統合といった「スキル開発」は、非常に重要な要素となります。適切なスキルがなければ、仕組みがうまく活用できず、スマート・ワーキングは不可能であり、ボーダレス・オフィスの活用も困難になります。スマート・ワーキングの基盤となる既存のICTシステムも同様です。

私たちはまた、効果的なHRMプラクティスの重要性にも驚きました。ネクストノーマル時代の長期的なデジタルワークスタイルを検討する際には、企業はHRMプラクティスの見直しも視野に入れる必要があります。

ネクストノーマルに向けて企業が強化すべき5つの重要な要素

モデルをテストした結果、「スマート・ワーキング」と「ボーダレス・オフィス」が、ワークライフカルチャー変革において重要な変動要素であることが分かりました。(図5の要素「R2」を参照) 一方で、これらの要素は、「スキル開発」 、 「ICTシステム」 、 「HRMプラクティス」 にも関連付けがあります。ネクストノーマル時代に多くの従来型企業がその潜在能力を十分に発揮するためには、働き方や業務の改善のための重要な機能として、これらの要素を強化する必要があります。

私たちは、これらの組織能力の強化が、ビジネスの成果、イノベーション、従業員のエンゲージメントにより良い影響を与えると仮定し、期待される成果に対して最終モデルをテストしました。

結果は、日本とドイツの企業にとって期待できるものでした。「ワークライフカルチャー」(モデルの全要素の合計)に対し、「ビジネスの変革」「イノベーション」「従業員の幸福」の3項目の相関関係を調べた結果、3項目全てにおいて「中位から高い」相関を得られました。最も強い相関があったのは、日本の「革新的なオペレーション」であり、これは多くの企業にとって朗報といえます。

図4: ワークライフカルチャーとビジネス変革の関係性

図4: ワークライフカルチャーとビジネス変革の関係性

ワークライフカルチャーとの相関
ビジネスの変革日本: 0.35 (中)ドイツ: 0.39 (中)
イノベーション日本: 0.55 (高)ドイツ: 0.47 (中~高)
従業員の幸福日本: 0.46 (中~高)ドイツ: 0.48 (中~高)

注: 本図の関係性について、詳細はこちらを参照ください。

各要素の重要なポイントと私たちの評価は以下の通りです。

  • ICTシステムは最も基本的な土台である
    ICTシステムは、効果的なワークライフシフトの土台となります。ICTシステムがワークライフカルチャーに与える影響は間接的ですが、従業員のスキル開発とスマート・ワーキングの実践に大きく関係します。多くのデジタルリーダー企業はICTシステムを活用できていますが、遅れている企業は活用できていません。日本においては、平均的な企業でさえも、大きく遅れています。
  • 効果的なHRMプラクティスが重要である
    効果的なHRMプラクティスは、ワークライフシフトを成功させるための重要な要素です。全社的なコミュニケーションプラットフォームとフィードバックを通じて、成果を得ることができます。スキル開発とチームビルディングをしっかりと結びつけることは非常に重要です。日本の大手企業でさえ、これまでのところ、SAP SuccessFactorsやOracle Taleoなどの統合HRM/スキル/コミュニケーションプラットフォームの利用は限定的です。
  • スキル開発が鍵となる
    スキル開発は、ワークライフシフトを成功させるための最も重要な要素です。ICTシステムの効果的な活用、スマート・ワーキングとボーダレス・オフィスの成功は、従業員のスキル開発にかかっています。日本ではeラーニングが重要な役割を果たしており、ドイツでは外部パートナーの活用が重要な役割を果たしています。
  • ボーダレス・オフィスがパートナー活用を推進する
    クラウドベースの運用は、ボーダレス・オフィスの基盤です。ボーダレス・オフィスは、従業員のスキル開発の上に成り立っています。また、外部パートナーとの協業は、ボーダレス・オフィスでのスマートな仕事において新しい価値創出につながります。日本のリーダー企業は比較的高水準なクラウドベースのオペレーションを構築することができます。
  • スマート・ワーキングが変革を成功に導く
    スマート・ワーキング、すなわち業務の効率的なデジタル化が、デジタルトランスフォーメーションを成功に導きます。効率的なデジタル化は、経営と製品・サービスの両方を改善します。企業は、より優れたイノベーション、効率性、柔軟性を得ることができます。一方でスマート・ワーキングは従業員のスキルに強く紐づくものです。ドイツの企業は高いレベルのスマート・ワーキングを達成していますが、日本の企業は遅れており、それが足かせとなっています。
  • デジタルワークライフカルチャーがポジティブな成果を生み出す
    ワークライフシフトの最終的な成果は、「イノベーション」、 「従業員の幸福」、「ビジネスの変革」であると考えられます。一方で、「ICTシステム」 のような個々のモデルの要素は、これらの重要な成果との直接的な相関がほとんど見られませんでした。ところが、ビジネスの成果はモデル全体に対して正の相関を示しました。ワークライフカルチャー変革が成功すれば、「イノベーション」、 「従業員の幸福」、「ビジネスの変革」の達成に近づくことができると推察します。

私たちの調査より、富士通のワークライフシフトの取り組み「スマート・ワーキング」 「ボーダレス・オフィス」の主な要因が、私たちのパンデミック以前の調査結果の様々な差異をうまく説明づけられることが分かりました。日本とドイツのデジタルリーダー企業は、パンデミック以前もスマートでボーダレスな働き方を実践してきました。一方で、より効率的なデジタルワーク変革に向けて、次の3つの要素を組織が強化することで、よりよい成果につながることも分かりました。「先進的なICTシステム」、「効果的なHRM」、「スキル開発」、これら3つの要素は全て新しい働き方を成功させる上で重要です。企業は、これらの要素を組み合わせて組織能力を強化していくことで、デジタルな組織カルチャーを生み出し、優れたイノベーション、よりよいビジネス変革、そして従業員の幸福を生み出すことが可能となります。

調査の概要と調査方法

本モデルの研究は、日本とドイツで同時に実施された2つの大規模な 「デジタルトランスフォーメーションと企業のデジタルスキル」 調査を使用しました。これらの調査は、富士通総研(FRI) が2017年と2018年に計画および推進しました。実際の聞き取り調査はマクロミル・ジャパンがオンラインで実施しました。

調査は、90以上の質問で構成されており、日本とドイツの中~大企業の従業員1,200名(従業員数500人以上、回答者の45%がリーダーシップの役割を果たしている)を対象に実施しました。

質問は日本語とドイツ語で行い、回答を4点のリッカート尺度に基づいて分析しました。質問の一例を示します。以下の各質問に対して、あなたの仕事/会社について最も当てはまるものを選択してください:「当社のITシステムは使いやすい」 「デジタル化は私の職場の柔軟性を向上させる」、等。

両国の文化的な違いに配慮するために、次のような修正を行っています。重要なポイントとしては、日本人は中立的な回答をしがちなので、これを避けるために「どちらでもない」という回答を選択肢から除外しました。また 「大いに賛成/大いに反対」と「賛成/反対」の回答を集約し、回答スタイルの傾向(ドイツ人の回答は、日本人の回答よりも「強く」に偏る点)に配慮しました。

デジタルワーク変革モデルは調査データの要因分析の一環として開発しました。共通的な要素と相関性は、部分的最小二乗回帰を用いて同定しました。日本とドイツのモデルは、それぞれ確認用サンプルを用いて別々に推定しました。

例として、下図のように、ドイツの係数を青色、日本の係数を赤色で示しています。矢印は相関関係の方向を示しています。矢印の強さは相関係数に比例します。「ビジネスの変革」、「イノベーション」、「デジタルリーダー」は外生的要因としてモデル化しています。

図5: デジタルワーク変革モデルの依存関係

図5: デジタルワーク変革モデルの依存関係

注: 部分的最小二乗回帰。括弧内の係数は、有意差がある場合に確認したサンプルの数字。適合度:0.57/0.61

図4は、ピアソン相関係数を示しています。私たちは、「ワークライフカルチャー」のモデルの結果と、外生的要因である「ビジネスの変革」「イノベーション」「従業員の幸福」の相関関係を推定するために、モデルの結果を1つの変数にまとめています。「ワークライフカルチャー」は、 「スマート・ワーキング」「ボーダレス・オフィス」「スキル開発」「ICTシステム」「HRMプラクティス」 の5つの要素の結果を加算して作成しました。


著者紹介

Dr.ユルゲン・ブロック

Dr.ユルゲン・ブロック

2021年からOC fulfillment GmbH, CEO
2011年~2021年 富士通株式会社 グローバルマーケティング本部 ジェネラルマネージャー

  1. パンデミックによるビジネスの環境変化に企業はうまく対応できたのか
  2. 富士通自身の働き方改革の成果と地域ごとの差
  3. ポストパンデミック後の新たな働き方とは
  4. ネクストノーマルに向けて企業が強化すべき5つの重要な要素
  5. 調査の概要と調査方法
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