未来ビジョンにもとづく経営

不確実な時代における、未来駆動型経営とは

コロナ禍がもたらしたニューノーマルの世界。これまでの成功の方程式が通用しない中で、どのように未来ビジョンを描き、経営を行っていけばよいのでしょうか。

この図はこの記事ページのイメージ写真です。

富士通 グローバルマーケティング本部 チーフストラテジストの高重吉邦です。2021年2月4日、私たちはFuture Today Instituteの CEOであるエイミー・ウェブ氏をお招きし、日本有数の企業・組織の経営層を対象とした「Fujitsu ActivateNow CxO Insights 未来ビジョン カンファレンス」を開催しました。2016年より経営者フォーラムを行ってきましたが、今回は名称も一新して初めてオンラインで開催しました。そのテーマは「不確実な時代における、未来ビジョンにもとづく経営」。世界的なベストセラー 『シグナル:未来学者が教える予測の技術』の著者であるエイミー・ウェブ氏は世界有数の未来学者です。見通しのつかない時代の経営のあり方について未来学者は何を語るのか?そして、デジタルテクノロジーはそこでどのような役割を果たすのか?以下は本カンファレンスのサマリーです。

ご挨拶

エイミー・ウェブ氏の講演に先立ち、富士通 代表取締役副社長の古田英範と執行役員常務の大西俊介がスピーチを行いました。

古田 英範 富士通株式会社 代表取締役副社長

ご挨拶1

古田 英範
富士通株式会社 代表取締役副社長

Fujitsu ActivateNow CxO Insightsへご参加いただき、ありがとうございます。このオンラインイベントは、昨年10月に開催した富士通のフラグシップイベント「Fujitsu ActivateNow」と、2016年より実施してきた経営者フォーラムを連動させ、企業や団体の意思決定を行う方々によりインタラクティブなかたちで時流の最新情報をお届けするという意図のもと開催しております。

いま日本の産業界はコロナ禍の影響を大きく受けておりますが、このような状況にあるからこそ企業が社会のなかで果たす役割が問われているのではないでしょうか。富士通も昨年自社のパーパス(企業の存在意義)を新たにし、すべての事業活動をその実現のための活動と位置付けております。
ICTビジネスを取り巻く環境もいま大きく様変わりし、おそらく皆様の業界におかれましてもこれまでにない変化を前にデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を痛感されているのではないでしょうか。

この潮流のなか富士通はICT企業からお客様のデジタルトランスフォーメーションを支えるDX企業への転換を強力に推し進めています。デジタル技術の活用を通じ、これからも皆様の事業そして日本の社会を後押ししていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。


大西 俊介 富士通株式会社 執行役員常務

ご挨拶2

大西 俊介
富士通株式会社 執行役員常務

本日はFujitsu ActivateNow CxO Insightsへのご参加ありがとうございます。わたしは、富士通で製造業、流通業、自動車産業、そしてグローバルサービスを担当しております大西です。

ちょうど昨年の旧正月あたりから、ビジネスはもちろん個人のワークスタイルやライフスタイルに至るまで、本当に大きな変化が世界に起こりました。

コロナ禍当初はお客様の間でもさまざまな混乱が見られましたが、その後大胆に事業を見直し、市場動向に対応した商品開発やビジネスプランの調整によって体制を立て直されたところが多かったように思います。もちろん、依然として苦しい環境に置かれているお客様もいらっしゃいます。

しかし、こうした変化は今回が初めてではありません。直近の例ではリーマンショックなどがあります。ビジネスには環境変化がつきもので、そこで大事なのはその予兆を読み取り、来るべきトレンドに乗って事業戦略をダイナミックに変革していくことです。

今日は私もそれをエイミーさんから直接お伺いしたいと思います。


次に、エイミー・ウェブ氏の講演をご紹介します。どのようにすれば未来を切り開く先駆的企業になれるのか、事例を交えながら分かりやすくお話いただきました。

不確実な時代におけるビジョン駆動型経営

こんにちは、エイミー・ウェブです。今日は不確実な時代におけるビジョン駆動型経営(vision-driven management)についてお話したいと思います。

未来学者の仕事とは、占い師のように未来を予言するわけではなく、データにもとづいて変化のシグナル(予兆)を捉え、未来のありうる姿を描くお手伝いをしています。世界中の様々な企業や組織とも仕事をしてきました。日本に6年間住んでいたこともありますので、日本企業についてもよく理解しています。

デジタルトランスフォーメーションは容易ではなく、成功した企業はリスクを避けようとします。また、社外で起こっている変化の兆しを見ようともしません。しかし、高齢化、米中間の緊張の高まり、サイバーセキュリティ上の脅威など、大きな流れが社会や市場のあり方を変えているとき、そのままではいけません。日本企業を強く信じているからこそ、未来への明確なビジョンを描いてほしいと考えています。

先駆的企業と事業成長

ではここで、ビジョン駆動型経営についてお話ししていきましょう。

私たちはいま先の見通せない不確実な状況に置かれています。このような状況は2つのタイプの企業を生み出します。自ら道を切り拓く先駆的企業(Pathfinders)とただ物事の推移を見守っている傍観的企業(Bystanders)です。

ここでお話ししたいのはもちろん前者です。先駆的企業にはこのような特徴があります。

  • 変化のシグナル(予兆)を意識して捉えようとする
  • 自社のビジネスで大切にしてきた信念にあえて異を唱える
  • 未来のビジネスについて新たな選択肢を探し求める
  • データを活用して不確実性に立ち向かう
  • 強力なビジョンを掲げつつ、変化には柔軟に対応し、戦略を再調整する

先駆的企業の例として挙げたいのは、日本の任天堂です。

任天堂は1880年代、花札メーカーとして産声をあげました。職人が作る優れた商品を市場に送り出していましたが、1920年代、娯楽産業に大きな変化がやってきます。ラジオそしてテレビの登場です。

もしこの変化をただ傍観していたのであれば任天堂は今日なかったでしょう。しかし、1950年代、同社はディズニーとライセンス契約を結び、新しいカードゲームを創ります。これは素晴らしい経営判断でした。テレビ時代にどうして花札が生き残れるのでしょう?

任天堂はその後も市場や社会の変化に目を凝らし、事業展開していきます。コンピューターが家庭にも浸透しはじめた1970年代、同社は家庭用ビデオゲーム機を開発。さらにそれはアーケードゲーム開発へとつながっていきます。

そして、インターネットの時代が始まり、CDやカセットテープなどオンデマンド型のメディアが人々の心を捉えるようになったとき、同社は携帯型ゲーム機を世に送り出しました。そして、この事業姿勢は2019年の最新型Nintendo Switchにまで受け継がれています。

では、なぜこのような商品を生み出すことができたのか。それは消費行動をはじめ、ストリーミングやクラウド、デジタルトランスフォーメーションといった技術の進化をいち早く感じとり、未来のトレンドを予測することができたからです。

先駆的企業は市場に潜在するテンション(緊張関係)をつかむのが上手です。そして変化のシグナルや破壊的な力を読みとることに長けています。彼らはそうした変化を利用して新たな需要を創出し、緊張関係を解消します。

先駆的企業であるために

市場に潜在する緊張関係から未来を読み取るには、マクロの力(環境・社会・経済等の要因)とシグナル(起こりつつある変化の予兆)に目を凝らすことを通じて、トレンド(長期的な変化の動向)をとらえることが必要です。

マクロの力には「経済」「地政学的状況」「人口動態」など11のカテゴリーがあり、その中でも「テクノロジー」はほかの10の要因すべてに関係しています。

この図は上の文章を図にしたものです。

シグナルには強弱があり、弱いシグナルとしては、まだ主流ではない新技術の開発、まだ競争が生じていない新規領域に向けた市場戦略、新製品や新サービス、そして小規模なイノベーションや漸進的な変化、発展などがあります。強いシグナルとしては、大規模なイノベーションや新市場戦略、強力な新製品や新サービスなどがあります。

トレンドはマクロの力とシグナルが交わるところに生じる長期的な変化です。トレンドを予測することによってリスクやビジネスチャンスをいち早くつかむことができます。

未来を示す3つのトレンド

これから今後重要となる3つのトレンドについてお話しします。

ひとつめのトレンドは『Collaborative Robotics + 5G (協調ロボットと5G)』です。このトレンドはマクロの力として「メディア・通信」「インフラ」に関わっています。

協調ロボットとはエコシステムをつくって人と協働するロボットのことで、現在、世界のロボット総数の3%ほどを占めています。しかし、5Gが低遅延の通信を実現することにより、倉庫や物流センターでの活用が広がり、従来人が行っていた作業を自動化していきます。工場をはじめ工事現場、軍などでの活用も出てくるのではないでしょうか。将来的には、サプライチェーンや流通の完全自動化が期待されます。

こうした話は空想のように聞こえますが、決してそうではありません。『メタデータ』(データについてのデータ)がその鍵を握っています。カリフォルニア州パロアルトにあるMaanaというスタートアップ企業は、メタデータを活用してこれまで知られていなかった空間における関係性を可視化しようとしています。また、Spark Cognitionという会社はメタデータを航空会社などの予知保全に活用しています。成長を考える上で企業は自社のもつデータの価値を考えてみる必要があるのではないでしょうか。

先駆的企業は市場に生まれるテンション(緊張関係)を察知して解決しようとします。ここでは、それは現状の快適さとリスクテイクの対立です。

ここにあるシグナルは、メタデータ、AI、RaaS(Robots as a service)です。GoogleやAmazonは、ロボティクス専用のクラウドベースのシステムを構築しようとしていますし、5Gやエッジコンピューティングもシグナルに数えられるでしょう。

ここにある緊張関係の解決法は、小さな賭けです。調査や小さな変更を行って結果を見ながら少しずつ進化とイノベーションを積み重ねるのです。

協調ロボットは日本が世界をリードできる得意分野のはずですが、現状はそうなっていません。その理由はリスクを恐れて新しいことに挑戦できていないことにあるのではないでしょうか。

二つ目のトレンドはわたしが『YoT:The You of Things(つながるモノに包み込まれる個人)』と呼んでいるものです。これは従来の汎用的なIoT(Internet of Things)から進化したInternet of Xで、ウェアラブルデバイスをはじめとして家電や車やさまざまな機器が一人ひとりの個人と結びつくことを表しています。

5Gネットワークの普及が多様なモノを結び付け、これまでのスマートフォンを使ったオンデマンド型の消費文化から、様々なデバイスに支えられた継続的なデマンドに変化していきます。これはスマートフォン時代の終わりの始まりです。

スマートフォンの出荷統計を見ると日本においても米国においてもその数は減少傾向にあり、消費者は買い控えをしています。その反面スマートウォッチの売り上げはこの3年間で91%も増加しました。

Amazon、Apple、Facebook、Google、Microsoftなど多くの企業がスマートグラスの開発を行っていますし、デジタルデバイスとしての指輪やリストバンド、スマートイヤホンなどもすでに存在します。家庭にある洗濯機やテレビ、さらにはトイレでさえネットにつながってきています。

ここにある緊張関係は、欲しい時に手に入れるというオンデマンドと継続的なデマンドのせめぎ合いです。後者は身の回りのあらゆるデバイスからのデータを活用して私たちのニーズを予測して情報や製品やサービスを提供してくれます。

そのシグナルとして挙げられるのは、AIやウェアラブルや5G。そしてここで企業が考えるべきなのがデジタルトランスフォーメーションの加速です。YoTは小売や金融、公共などの分野を変える力を持っています。

三つめのトレンドは『AI + Data + Recognition(AIとデータによる個人行動認識)』です。これらは「富の分配」「地政学的状況」「健康」といったマクロの力に関係しています。AIが機能するためにはデータと意思決定のフレームワークの両方が必要ですが、今を生きる人はそれらによってスコアリングされます。

認識システムは様々なデータポイントで私たちを識別、モニタリングし、オンライン上や実世界での私たちの行動を予測します。こうして消費者や顧客を学習することにより、他の方法では到底不可能なパーソナリゼーションが可能になります。

以前Amazonが発売した電子レンジには音声認識機能が付いていてアレクサに対応しています。いったいなぜ電子レンジに話しかける必要があるのでしょうか?それはユーザーの行動を認識してスコアリングし、情報を活用できるようにするためです。こうしたことは『行動生体認証』と呼ばれています。

アリババはこの行動生体認証を利用して中国最大のショッピングイベント『独身の日(11月11日)』にあわせ、50万個の商品を事前梱包しました。ここがすごいのですが、消費者が何を買うかを80%以上の精度で予測できたので、すべての商品を当日発送できました。本当にすごいです。

ユーザーの行動を認識する電子レンジ、体温を測るメガネ、気持ちを推し量るリストバンド、健康状態をチェックするトイレ。こうしたものが作り出すのは個人のデータが織りなすエコシステムです。ユーザーと信頼を築きプライバシーを守り、こうしたデータを個人の幸福のために活用できるなら、その企業には大きな成功が待っています。データがお金よりも価値あるものになったとしたら、皆さんの事業はどう変わるでしょう?

ここにある緊張関係はデータの生成とデータの所有の対立です。そしてシグナルとして挙げられるのは中国、GAFA、AI、データ、そして消費者のスコアリングです。事業にとっては、データを活用する際の透明性、信頼の確立、そしてデータを有形の資産(アセット)に転換することが重要になります。

未来に向けて

最後に傍観的企業について少し述べておきましょう。その特徴は次の通りです。

  • 新たに出現する緊張関係やシグナルに対応しない
  • 未来をコントロールできると信じている
  • 未来に関係する新たなアイデアを受け入れない
  • 危機に遭遇するまで不確実な状況を放置する
  • 自明なROIや具体的な回答を好む
  • 自社の脆弱性に気づいていない

傍観的企業に陥ることなく、未来を追求することが大切です。長期的な計画を持つことはもちろん重要ですが、大きな変化や不確実性の前ではそれが足枷となることもあります。外部の視点にもとづいてビジョンを策定し、進んで異なるアイデアを試行するべきです。

小さな賭けを重ね、次の時代を想像しながらこれまでの常識を破っていきましょう。デジタルトランスフォーメーションに投資し、取り組みを急がなければなりません。未来は決して一夜にしてやってくるのではなく、今日行う一つひとつの意思決定の積み重ねによって作られていくのです。

富士通の未来ビジョンへのアプローチ

エイミー・ウェブ氏の講演に引き続き、高重から富士通の未来ビジョンへのアプローチと2つのトレンドについてプレゼンテーションを行いました。

わたしたちは先が見えない不確実な時代にビジネスを行っています。だからこそ、経営には未来を示す羅針盤が必要です。本カンファレンスの事前アンケートでは、回答者の85%の方々が「3年以内に皆さんが属する業界がデジタルイノベーションによって構造変化する」と答え、すべての方々が「未来シナリオの策定が重要」だと考えています。

未来ビジョンにもとづくビジネス提言

私のチームは2012年から富士通の未来ビジョンの策定に取り組んでおり、それを『Fujitsu Technology and Service Vision』というかたちで発信してきました。

最初からきちんとしたものができないことは分かっていたので、毎年内容をアップデートしてより良いものに進化させてきました。

そのアプローチとして、実現したい未来社会のビジョンを「テクノロジーにエンパワーされる人間中心の持続可能な世界」と定義し、そこから現在にバックキャストして今すべきことを考え、同時に起こりつつあるマクロ要因やテクノロジーの進化を未来に向けてフォーキャスト。双方向からトレンドをとらえてビジネス提言を行ってきました。

その中で、デジタルトランスフォーメーションには早くから注目し、2014年にIoTであらゆるものがつながる世界でどのようにイノベーションを生み出すのか、その後、エコシステム型ビジネスモデル、新たな産業革命、人とAIの協働、データを学習してイノベーションを生み出す企業、高まるデジタルトラストの重要性、そして昨年はビジネスと社会の目標を一致させていくといった提言を行ってきました。

マクロ要因とテクノロジーの進化

では、先の見通せないこの時代に、どのようなマクロ要因とテクノロジーが私たちの未来を形作っていくのでしょうか?

今日参加いただいた皆様による事前アンケートの結果を見ると、ビジネスに最も影響を与えるマクロ要因として人口動態(少子高齢化)、産業構造(デジタル破壊)、環境(気候変動/産業廃棄物)やエネルギー(ゼロカーボン)がトップに来ました。環境エネルギー問題がビジネスの優先課題になってきているのは非常に印象的です。

一方、ビジネスに最も影響を与えるテクノロジーには、AIとデジタルツインが最も多く挙げられました。これらを活用した予測と実世界の制御がビジネスの重要課題になってくるということだと思います。そして、少子高齢化などのマクロな課題をこれらのテクノロジーでどのように解決するのかが問われているのだと思います。

新たな2つのトレンド

ここでエイミーさんに続いて、私からも未来を指し示すトレンドを2つお話したいと思います。

そのひとつは『Borderless Work and Life(ボーダーレスな働き方と生活)』です。

コロナ禍は世界中で働き方とライフスタイルを激変させました。PwC社調査によるアメリカの例になりますが、企業従業員のリモートワーク率は70%に達しています。興味深いのは、従業員の83%がリモートワークが成功したと考えており、経営者も52%が生産性が向上したと感じていることです。多くの経営者は、コロナ禍が収束した後ももう元には戻らず、オフィスワークと在宅が混在するハイブリッド型の働き方を志向しています。

一方日本のリモートワーク率は昨年11月時点で25%でした。従業員1万人以上の大企業は45%ですが、100人未満の中小企業は13%に止まっています。

これにはさまざまな理由が考えられます。オンラインで仕事をするIT環境がないこと、押印など紙ベースの業務プロセスが残っていることが足かせになっていると思いますが、根本の課題はマインドセットとカルチャーではないかと私は思います。リモートワークは、働く個人の自律性を前提とします。欧米では個人が自律的に働く文化が主流ですが、日本の社会はやはり集団での協調性を重んじます。

富士通はリモートワークを通常の勤務形態とする『Work Life Shift』というプログラムを開始しました。リアルとデジタルでつながる社員が働くことと生活することの全体でウェルビーイングを実現することを目指しています。これには最適な働き方の実現(Smart Working)、オフィスのあり方の見直し(Borderless Office)、社内カルチャーの変革(Culture Change)という3つの柱があります。

この中でもカルチャーチェンジが非常に重要です。人事制度をジョブ型に変更し、一人ひとりが自律的に共通の目的を共有しながらオープンにコラボレーションして働く企業カルチャーへの変革を進めています。

現在、在宅勤務をしている社員の数は全体の80%以上と定着していて、私自身もこの1年ほとんどオフィスに行っていません。

一方、このようにオンライン化やデジタル化が進むなかでは、リアルな体験のプレミアムな価値を見直さなければなりません。デジタル時代に求められるのは、人の創造性であり、オフィスも人が効率的に働く場所から、人と人がふれあって共感する場所、創造的な仕事のためにコラボレーションする場所へと変える必要があるのではないでしょうか。そしてリアルとデジタルが融合したボーダーレスな体験を実現するためにこそ、デジタル技術を使わなければなりません。

また、この働き方の変化は、都市のあり方にも影響します。昨年、東京の人口が初めて5ヶ月連続で減少しました。地方で暮らしながらリモートで仕事をする人が増え、企業側でもオフィスを分散化する動きが出てきています。都市集中型の社会から職住近接の分散型社会にシフトする可能性を視野に入れる必要があります。

もうひとつのトレンドは『Digital Sustainability(デジタルによるサステナビリティ)』です。

いま、事業のあり方についての意識が急速に変化しています。昨年2月に私たちが行った経営層向けのグローバル意識調査によれば、中長期の事業存続のため「社会への価値提供が重要」と答えた回答者はじつに全体の92%にもおよびました。

その主な理由として次の4つが挙げられます。

  • 企業の商品・サービスのブランド価値向上(50%)
  • 若い世代の社会課題解決への高い意識が強い影響力を持つ(47%)
  • 投資家が環境・社会・企業統治 (ESG)を重視(45%)
  • 生活者が企業に社会課題の解決を求める(43%)

つまりこれは企業を取り巻くステークホルダーが事業活動に社会への価値提供を求めているということです。

ではどうすればいいでしょうか?デジタル技術がその鍵となります。富士通の調査において回答者の89%が、「デジタルトランスフォーメーションが社会への価値貢献に役に立った」と答えています。

今後、マクロの社会課題とテクノロジーを掛け合わせる所に、これからのビジネス成長の大きな機会があります。少子高齢化、都市の持続可能性、環境負荷といった困難な課題の解決にこそ、テクノロジーをベースとしたイノベーションで立ち向かっていかなければなりません。少子高齢化で生産年齢人口が減少する中、デジタル技術を活用して自動化を進める一方で人がより創造的な仕事ができるようシフト。量子コンピューティング技術で創薬を加速し、健康寿命の延伸に貢献。デジタルツインで都市モビリティを最適化、スパコンのシミュレーションで災害レジリエンスを強化。ブロックチェーンによるEnd-to-endのトレーサビリティ強化など、様々な可能性があります。

信頼されるビジネスへ

もちろんどの企業にとっても事業の「利益追求」と「社会への価値提供」の両立は簡単なことではありません。

この矛盾を克服するためには、ビジネス目標を社会の共通目標に合わせていく必要があります。そのために、企業パーパス(社会における企業の存在意義)の重要性が高まっています。

富士通も昨年自社のパーパスを新たに策定しました。「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」に全社一丸となって取り組んできます。

私たちはデジタルトランスフォーメーションには次の3つのステップがあると考えています。

  1. デジタル化によって変化への対応力(レジリエンス)を強化する
  2. 顧客やステークホルダーにより大きな価値をもたらすよう既存ビジネスを変革する
  3. ビジネスモデルを社会的な価値を共創するエコシステム型に進化させる

複雑な社会問題の解決には、一社単独ではなく、多くのプレーヤーが知恵と技術を出し合うエコシステム型の取り組みが不可欠です。

これは、より信頼できるビジネスと社会への変革のロードマップです。しかし、ステークホルダーから信頼が得られなければ、私たち自身も中長期的に淘汰されることになるでしょう。

皆様と未来ビジョンから新しいビジネスを共創することができれば幸いです。

不確実な時代をチャンスに

参加者ディスカッション
エイミー・ウェブ氏から3つのトレンド(Collaborative Robots + 5G、The You of Things、AI + Data + Recognition)を、そして高重から2つのトレンド(Borderless Work and Life、Digital Sustainability)が紹介されました。講演に続き、参加者は少人数のグループに分かれ、これら5つのトレンドのうち自社や業界にとって最もインパクトをもたらすトレンドは何かについて議論を行いました。

このブレイクアウトセッションの後、講演者と参加者の意見交換の場が設けられました。以下にそのディスカッションの一部を紹介します。

高重

皆さま、ブレイクアウトセッションはいかがでしたでしょうか。ここでいくつかのグループにどのような議論があったか共有いただきたいと思います。

グループA

大きく3点あります。まずグループとして、最も重要なトレンドはBorderless Work and Lifeを選定しましたが、5つのトレンド全てが相互連関しているという話が出ました。また、2つめとして、先駆的企業と傍観的企業のどちらのマインドセットとカルチャーで考えるかによって成果が大きく異なってくると考えました。例えば個人データを学習して評価する場合でも、傍観者の立場を取れば、データ利活用よりもデータ保護やそもそもデータを取らないというコンサバな行動になってしまいます。最後3つめとして、どのトレンドも業界によって受け止め方が変わってくるということです。例えば、製造業の場合、オフィスワーカーの働き方変革は進みましたが、工場のエッセンシャルワーカーでは殆ど進んでいないという課題を抱えています。

高重

ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、様々なテクノロジーがつながっていて、その取り組みをどういうマインドセットで行うかということが重要になりますね。

グループB

我々のチームはAI + Data + Recognitionを選定しました。それぞれの企業やグループでデータの使われ方や収集のされ方などが異なっているため、単にテクノロジーだけでなく、例えばルールや規制、法律の整備やカルチャーの変革を行っていかなければいけないんじゃないかというような議論をさせて頂きました。

高重

データの収集であるとか、文化の違いというような事ですね。データという事に関して、エイミーさん、少し意見をお願いできますでしょうか。

ウェブ氏

日本ではプライバシーの規制があることは知っていますが、もっと大きなことを考える必要があります。在庫追跡予測分析、市場の変化を調べるだけでなく、小売店で何が起きているかを把握し、それが組織全体にどのように反映されるかを理解することが重要です。データサイエンスチームをお持ちかどうか分かりませんが、今後数年のうちに重要な決定を下す必要があり、今がそのためのベストなタイミングと言えます。何故なら、より優れた海外の企業の新規参入が考えられるからです。

高重

まだまだ議論が尽くしきれませんが、最後に重要なポイントをエイミーさんにお聞きしたいと思います。今日の話にあったような未来洞察を行なっていくにあたり日本企業が直面する課題をどう克服するのか、優先すべき事柄についてアドバイスをいただきたいと思います。

ウェブ氏

富士通は起こりつつあるシグナルを捉えることを実行し、それらがビジネスに与える影響をモデル化していると思います。大手邦銀の北米のイノベーション部門に友人がいるのですが、未来洞察には異なるマインドセットが必要だと話していました。未来から現在を見る目が必要になります。高重さんも先ほど「未来からのバックキャスト」とおっしゃっていましたが、成功する企業はそれをうまく行なっています。

私からの皆さんへのアドバイスは“Be more flexible, please (もっと柔軟な姿勢で物事に立ち向かうこと)”です。かつては決められた通りに物事を遂行する厳格さが日本企業の強さの源でしたが、それがいまは足枷になっているように思います。今こそ、小さな賭けや実験を積み重ねていくべきです。事業活動や、戦略的な未来洞察や、イノベーションに柔軟性を織り込むことができれば、日本企業が多くの領域で世界を制することができるでしょう。中国企業よりむしろ、日本企業が、です。ただし、そのためには早く動くことが不可欠です。

皆さんが得意としていることの1つは、3~5年のプランニングサイクルです。今こそ不確実性を受け入れ、これらのプランにさらに柔軟性を組み込むべきです。


最後に締めくくりとして、富士通 執行役員専務の窪田からクロージングの挨拶を行いました。

窪田 雅己 富士通株式会社 執行役員専務

ご挨拶3

窪田 雅己
富士通株式会社 執行役員専務

エイミーさん、そして本日ご参加の皆様、本日はお疲れ様でした。初めてのオンラインイベントでしたが、皆様のご協力のもと、全体として大変有意義なものになったと思っております。

冒頭、古田の挨拶にもありましたように、いま富士通はICT企業からDX企業への事業変換を図っております。この不透明な時代に未来を切り拓こうとされている皆様の取り組みを技術とサービスで全力サポートして参りますので、今後とも富士通をどうぞよろしくお願い申し上げます。

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