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日独における「新しいモビリティ」への2つの異なる道

日独における「新しいモビリティ」への2つの異なる道

発行日:2019年10月11日

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要旨

  • 今年のフランクフルト・モーターショーにおける新旧の対立は、自動車産業がモビリティの新しいトレンドに向けて「生きるか死ぬか」の戦いの状態にあることを示している。
  • 日独の自動車産業は新しい「CASE」の開発のリーダーであるべきだが、実際にはアメリカや中国に後れを取っている。
  • 日本とドイツの自動車産業の戦略は大きく異なっている。ドイツでは生産と設計のデジタル化による革新(Industry 4.0)にフォーカスがあり、日本では効率化の追求と社会的なモビリティのデザイン(Society 5.0)にフォーカスしている。
  • 長期的には両国の戦略は成功する可能性もあるが、両方をミックスすることによってより大きな利益を得ることができるだろう。

フランクフルト・モーターショーでの
新しいモビリティの戦い

トヨタ自動車株式会社代表取締役社長の豊田章男氏は、日本の自動車産業は「生きるか死ぬかの戦い」に直面していると警告している(Toyoda, Akio 2018)。ダイムラーベンツ社の前CEOであるディーター・ツェッチェ氏は、今年の辞任の際にドイツの産業界に対して、「これまでうまくやってきたことを継続すれば、我々のビジネスは終わる」(FAZ 2019.03.01)との認識を示していた。

自動車産業の未来のためのこの生死をかけた戦いは、9月12日から始まったヨーロッパで最も重要な自動車イベントであるフランクフルト・モーターショーで広く展示されている。ショーが始まる前には、今年のイベントが過去のものとは異なることは既に明らかだった。

かつてのショーは、全体的に国際的な魅力を失っていた。米国からはフォードのみが主要OEMとしてショーに参加し、日本からはホンダのみ、ドイツのOEMでさえ展示スペースを70%も削減した。ショーが始まると、デモ参加者がゲート前に集まり、より持続可能なモビリティ・ソリューションを力強く要求したのだった。通常であればオープニング・スピーチをするはずのフランクフルト市長は招待されず、後に、自分が批判的なスピーチを行うために主催者側からブロックされたのだと、公に不平を漏らしていた。広報活動が災いした結果、自動車産業協会(VDA)の会長は、激しい批判を浴びて辞任し、イベント全体の将来が疑問視されている。

「ディーゼル・スキャンダル」は収束したように思われたが、ドイツの自動車産業のイメージにこのような深い傷を残した理由は何だろうか?

単純な理由の一つは、グローバルに見て自動車需要が深刻なほど減速しているため、企業がマーケティング予算を削減しなければならなかったことである。したがって、全体的なセンチメントのひどい悪化が予想された。しかし、さらに耳が痛い真実は、業界の主力製品であるガソリン消費量の多いSUVと、効果的な電気自動車(EV)戦略に対する需要との間に大きなギャップが生じたことである。その結果、ラインナップに新しいEVを備えた企業のみがショーに参加するインセンティブを持ったのである。

例えばホンダは、2025年までにヨーロッパで電動自動車のみを販売するという発表とともに、e-ホンダを披露した。ポルシェは、新しいタイカンのスポーツEVを披露したが、それ以外はほとんどハイライトすべきものが無い。フォルクスワーゲンは、ID.3のプレミアに主に焦点を当てており、新しいEVデザインに使用できるまったく新しい「電気」プラットフォームを導入することで、同社の未来になると期待が持たれている。一方、BMWはガソリンを大量に消費するSUVの生産でまだ成功しており、通常の大型車ではなくMINI Cooper SE EVを展示した。これは、多くの点でビジョナリーなEVであるi3およびi8から一歩後退している。

新しいモビリティの課題

自動車業界の課題は2つの方向から生じている。業界はいま、自動車の設計、技術、パートナーシップ、およびサービスの「CASE」(Connected / コネクテッドカー、Autonomous / 自動運転、Shared / シェア、Electric / 電気プラットフォーム)革命に直面している。同時に、デジタル化、都市化、持続可能性、個別化というようなメガトレンドは、根本的にライフスタイルとモビリティの需要を変化させている。技術と将来の需要は変化すると予想されるが、実際の現在の需要は、よりパワフルなSUVに向かう消費者の緩やかな動きにとどまっている。したがって、企業は将来の潜在的な需要、タイムリーな戦略変更、および現在の市場で利益を得る必要性との間で苦しんでいる。その結果、ほとんどの企業は、企業の国内市場、顧客基盤、技術力の長所と短所に応じて、将来のモビリティに向けた異なるアプローチを展開している。

米国においては、強力なソフトウェアを持つものの自動車産業が比較的弱いという理由により、デジタル・プラットフォーム・プロバイダーとソフトウェア開発者は、自家用車の自動運転および「MaaS」(Mobility as a Service / サービスとしてのモビリティ)ソリューションの開発を主導している。コネクテッドカーの場合、テスラは、無線アップデートが可能で全国のテスラネットワークで充電できるバッテリーベースの電気自動車(BEV)で標準を設定している。自動運転の場合、GoogleとWaymoの協力関係は、AIアルゴリズム、開発者のエコシステム、および増え続けるフィールドトライアルからのデータアクセスで業界をリードしている。

中国では、AlibabaやWeChatなどの大規模なeコマースプラットフォーマーが地方自治体と協力して大規模な公共交通システムとMaaSソリューションの拡大を実現している。アリババとWeChatの電子商取引プラットフォームに緊密に統合されているDiDi Chuxing(滴滴出行)は、中国版のUberに相当するものであるが、既に年間75億回の乗車を計画している。政府の強力な支援を受けて、中国もEV開発を進めている。中国のBEV市場は市場シェアを40%獲得しており、世界最大になった。これらの「革命的な」開発は、自動車開発のフォロワーではなくリーダーであることが期待される日本とドイツの自動車戦略と驚くほど対照的であるように思われる。

ドイツのモビリティ戦略

一般的には、ドイツの自動車会社は、持続可能性を重視した都市空間のリデザインの開発をサポートするために、新しいオープンなMaaSソリューションを実験している。例えば、ダイムラーとBMWは、ラストワンマイルでのカーシェアリング、駐車場と充電から公共交通機関と自転車の共有までの交通を統合するMaaSマルチモーダルモビリティプラットフォームの開発をサポートしている。これらのOEMの支援を受けたスタートアップが開発したモビリティプラットフォーム(Moovel / Reach Nowなど)は、それらのブランド名で消費者に直接提供されるか、地方都市に都市ブランドのMaaSプラットフォームとして提供される。

このようなイニシアチブは、自動車をますます公共輸送指向の都市デザインに統合することを想定しているが、自動車会社がデジタルモビリティサービスを開発するのにも役立っている。しかし、このような取り組みが、自動車生産に深く根ざしたままである自動車業界のビジネスモデルの変革に、どれほど貢献できるかは疑問の余地がある。

したがって、ドイツのモビリティ戦略における最も重要な変化は、急速に進化する自動車生産サプライチェーンのデジタルトランスフォーメーションである。ドイツの大手自動車サプライヤー(ボッシュ、コンチネンタル、ZFなど)は、CASE生産開発において主要なプレーヤーになっている。センサー、レーダー、アクティブステアリングコントロールなどのEVキーコンポーネントを設計するだけでなく、新しいコンポーネントをデジタルカープラットフォームやデジタル生産システムに統合している。このデジタルトランスフォーメーションの一環として、サプライヤーは、自動運転が現実になるずっと前に、ブレーキやステアリング制御などのアクティブな安全システムの開発から利益を得ている。この開発における彼らの利点は、新しい技術を最初に導入する高級車セグメントにおける支配的な地位である。

図表1:EVプラットフォームの成長とシステム統合

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Source: (Toyota 2019; Bloomberg 2019).

ドイツの立場からは、ソフトウェアシステムインテグレーターとしてのコンポーネントメーカーのこの新しい役割は、自動車業界のデジタルトランスフォーメーションの中で最も多くの機会を提供しているように見える。よって、政府が「Industry 4.0」戦略でデジタルサプライチェーンの開発を積極的にサポートしていることも、それほど驚くべきことではない。

このような環境で、第2位の自動車サプライヤーであるコンチネンタルは、デジタルの未来への投資を優先している。センサー、電子機器、ソフトウェアを販売することで、製品ポートフォリオの約60%を既にデジタル化している。その結果、株価は驚異的な976%の上昇となった。一方で、トヨタやダイムラーなどの大手OEM、デンソーなどの従来のサプライヤーは、過去10年間において2倍にすることさえできなかった(2009年4月から2019年4月まで)。

日本のモビリティ戦略

一方、日本の自動車産業の強みは、効率的な生産、ハイブリッド電気自動車(HEV)の長期開発、巨大な家電業界からのリチウムイオン電池供給のリーダーシップにある。しかし、グローバル企業と比較して、日本企業はCASE戦略の開発により大きな課題を抱えている。生産ネットワークに必要な変更は、特に難しいように思われる。なぜなら、国内市場が低迷する中で、大量生産者としてビジネスを続けており、それは将来の技術への投資能力を制限することを意味するからである。また、効率的な燃焼エンジンとドライブトレインの生産から多くの利益を得ており、複雑なハードウェア生産の自動化に優れているものの、これらはすべて包括的なデジタル化によって困難な状況に追い込まれるだろうと考えられるためである。

しかしながら、「革新的な」CASE戦略に対するより保守的なアプローチは、eモビリティの深化がもしも純粋な技術的観点から現在予想されるよりもゆっくりと進化するのであれば、それほど不利ではないかもしれない。既に高度に進んだ日本のモビリティ市場の発展の多くは、そのような見方を支持しているようである。

3800万人の東京の大都市を中心とする日本の交通システムは、公共交通機関を中核とするシームレスなMaaSシステムを他国よりも長期間にわたって開発してきた。日本では、デジタル決済システム(「eマネー」)、デジタル料金所、電車や高速道路の案内システム、個々のスマートフォンベースのGPSナビゲーションなど、多くの「未来のトレンド」が最初に試行的に導入され、実証されてきている。しかし、それらが期待された利益をもたらしたり、あるいは新しいビジネスモデルの開発に繋がったりすることがそれほど頻繁には起こらなかったのである。

日本の立場から、特に都市化と人口の高齢化は、将来のモビリティ需要に強く影響するように思われる。日本人は、年間246回公共交通機関を利用しているが、ドイツでは177回、中国では108回、米国では40回にとどまる(UITP 2017)。東京の都心では、自家用車を毎日の通勤に利用している日は約12%にしか満たない(Urban Land Institute 2018)。日本の主要都市全体でみると、自家用車の使用は平均して約30%であり、これは毎日の外出(パーソントリップ)に公共交通機関を使用するよりも若干低いだけである。しかしながら、公共交通機関が容易に利用できるため、平日の約40%は自転車や徒歩による移動となっている(MLIT 2015)。

その上、eコマースとデジタルサービスの使用が増加することにより、モビリティにさらなる変化がもたらされる。若い世代は、全体的に外出することが少なくなり、自宅周辺で過ごすことが多くなっている。例えば、20〜29歳は、2015年において平日の外出(パーソントリップ) はわずか1.4回であり、これは1992年の2.1回と比較して減っている。一方で70〜79歳の高齢者は、1.2回が1.6回に増え、より活発な生活を送っている。

ところが地方では、人口減少と自動車の所有が顕著である。100世帯あたり45台しか使用していない主要都市と比較して、福井、富山、山形といった人口の少ない県では、100世帯あたり170台の車を使用している(JAMA 2018)。堅実で手頃な価格の軽自動車と小型燃焼エンジンの需要が大きく伸び、高付加価値の通勤車と都心部での車の需要が低下している。

その結果、産業界は、自動車と運転手とのインタラクションをサポートし、セルフパーキングやエンターテインメント機能を備えた効率的なファミリーバンと機能的に進歩した車を提供している。ただし、これらの車のほとんどは効率的なHEVとどまっている。

これらの車は、週末にはレジャー活動のために使用され、定期的な通勤用ではないため、より高価なBEVが二酸化炭素排出量に影響を与えるまでにはいたっていない。したがって、自動車会社は、BEVの魅力を高めるような、より複雑な戦略を講じる必要がある。例えば、自動車用バッテリーと家庭用エネルギー管理システムへのシームレスな統合が、ピーク負荷の緩衝や屋上ソーラーパネルの効率的な使用により電気料金を引き下げるという点で、家計に好まれるのではないかと期待している。そのため、日産は国内外の大手電力会社とスマートホームの開発に協力しており、トヨタとパナソニックは大手住宅事業を合併し、スマートホーム開発を主要な事業ラインとして促進している。

現実的なモビリティの視点

日本のモビリティ市場における変化は、グローバルな規模での長期的なモビリティの傾向を分析する際の重要な基準にもなるはずである。例えば、McKinseyとBloomberg New Energy Finance(2016)によるグローバルでの傾向に関する広範な分析によれば、日本の経験に即した3つのモビリティの傾向が示されている。

急成長している都市、特に発展途上国では、自動車の効率的かつ費用対効果の高い使用(「クリーンアンドシェア」)の要件が、需要を牽引している傾向がある。効率が向上したガソリンエンジンとハイブリッド車は、徐々にBEVに置き換わりつつあるが、デジタルインフラストラクチャは使用共有という概念を広めている。変化は、大部分は漸進的である。というのも、技術的な革新によってではなく、予算制約のある消費者や地方政府のコストを考慮して行われるからである。これは、生産とインフラの効率化に重点を置いた日本の産業の中核シナリオである。

それとは対照的に、自動運転(「プライベートオートノミー」)は、豊かな郊外を持つ大都市における自動車所有者にとっては豪華な変種になりつつある。高級車の所有者は、ドライバーに依存することなく、より便利かつ効果的に車で時間を過ごすことができるようになる。おそらく、高級車や商用車(タクシー)からより広範な市場に追加的な機能が伝わっていくと、トランスフォーメーションはかなり進化する。

需要に関しては、近い将来都市中心部において交通の複雑さと混雑が自律型ソリューションの訴求力を制限すると考えられるため、豊かな郊外での利用が優勢となる。例えば、トヨタは、「e-Palette」ビジョンが示しているように、「レベル5」の完全自動運転車が共有の作業スペースとサービススペースに向けて車全体の設計を根本的に変更できる場合にのみ、自動運転技術のブレークスルーが実現できると期待している。

一方、大都市の中心部では、公共交通網を中心としたMaaSシステムをサポートすることで、広範なデジタル化と接続性を活用することができるだろう(「シームレスモビリティ」)。ダイナミックなアジアの大都市と主要なデジタルプラットフォームプロバイダーは、インフラストラクチャ計画のために行政と協力しながら、民間および公共交通機関の多様なパートナーをつなぎ合わせることができるため、このようなシナリオで利益を得ることができる。

スタートアップ企業は、さまざまなモビリティプロバイダーが新しいアプリやサービスを開発するのを支援することで、この市場で新しい機会を見出すことができる。大手OEMは、変化する都市のランドスケープとインフラストラクチャにおいて、このようなMaaSアプリケーションの開発をサポートしてパートナーであり続けるだろうが、この競争の激しい低マージンの市場で直接的に利益を得ることは期待できない。

本論では、国際的なモビリティの傾向と戦略を比較した。これまで見てきたように、ドイツと日本のCASE戦略の進化的アプローチには、いくつかの長期的な利点があると思われる。自動車プラットフォームおよびサプライチェーンのデジタルトランスフォーメーションに対するドイツのアプローチは、最も先進的なTier 1サプライヤーの間で既に利益を上げている。遅れている中小企業の効果的なデジタルトランスフォーメーションに向けて、政府からのいくらかの支援を受けつつ、より広範な適用をすることが、業界の持続可能な成長を大幅に改善する可能性がある。

一方、最先端の都市環境を持つ国の一つである日本の優位性は、新しいモビリティデザインの重要な要素としてとしての公共交通機関の重要性を示している。新しい電気自動車を可能な限り早く開発する代わりに、包括的なデジタルサプライチェーントランスフォーメーション、高齢者やカジュアルドライバー向けの「拡張運転」技術の開発、および家庭用エネルギーエコシステムへの自動車の統合が、一貫してCASE戦略の重要な要素になる。別のステップでは、革新的な部分のCASEトランスフォーメーションは、根本的に異なる車や都市のデザインを備えた「モード5」自律モビリティを必要とするため、準備にはもう少し時間がかかる。

トヨタは、仕事場や配送などの用途に自動化され個別にカスタマイズされた「e-palette」EVに基づいた未来ビジョンを作っている。そのビジョンによれば、車は、人々を職場やお店に運ぶ単なる道具から、人々が生活する近隣地域に必要なサービスや市場を提供する「Society 5.0」の重要な構成要素となる。その結果、自動車産業の役割は自動車の提供からモビリティの設計へと変化していくだろう。

参考文献

schulz

本記事の執筆者

経済研究所
上席主任研究員

Martin Schulz(マルティン・シュルツ)

専門:国際経済、企業戦略、対外投資など

1989年 ベルリン自由大で政治学修士、1990年 経済学修士を取得、1996年 同大学で博士号(経済学)を取得。1998年まで同大の政治経済研究所助教授。1996年以降、英国バース大学、イタリアのバリ大学、ポーランドのシュテティン大学、ベルリン社会科学学術センターにて勤務。1991年~1993年 東京大学社会科学研究所研究員。1997年 立教大学経済学部奨励研究員。1998年~2000年 東京大学社会科学研究所研究員および同大学経済学部研究員。一方、1998年~1999年には日本銀行金融研究所に滞在。2000年7月 富士通総研経済研究所入社。

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