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ビッグデータおよび機械学習以降のAI戦略:欧米中の比較からわかること

ビッグデータおよび機械学習以降のAI戦略:欧米中の比較からわかること

発行日:2020年1月10日

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要旨

  • AIのイノベーションは、米国と中国における大規模なインターネット・プラットフォームでの機械学習の成功が原動力になっている。かつて研究力を誇っていた日本やヨーロッパなどは後退してきており、新しい戦略が求められている。
  • ヨーロッパの「産業AI」戦略は、米国/中国のインターネット大手企業と競合している機械学習にとどまらず、さらにその先を見越したものとなっている。
  • 企業の観点からすれば、政府は、大規模な新しい「国家的チャンピオン」よりも、むしろ専門に特化した企業やアプリケーションを備えた繁栄するAIエコシステムの開発を支援すべきである。

国際比較から見たヨーロッパのAI

EUは、米国や中国のイノベーションリーダーが台頭する中、効果的なAI開発の方法を見出そうと悪戦苦闘している。機械学習の進歩には、大規模なデータセットの可用性とモデルのトレーニングへの多額の投資が欠かせないが、この分野における現在の成功の多くは、米国と中国のインターネット大手企業による莫大な投資と実験によってもたらされたものである。それに対し、ヨーロッパ市場はまだ国ごとに分断されており、EUのインターネット・プラットフォーム企業は小さ過ぎ、データへのアクセスもまた、AIエコシステムの繁栄を実現するには、規制が厳し過ぎる。

AI研究においてかつてはリーダーであったEUは、学術研究において競争力を失いつつある。図表1から、EUを米国や中国と比較してみると、AI投資に大きな差があることが明らかである。また、特許出願数においてもEUは米国に大きく引き離されてしまっている一方で、学術論文発表数でも中国に抜かれている(しかも、中国の論文はその質も向上している)。

(図表1)EU/米国/中国のAI研究の比較
EU 米国 中国
資本(ベンチャー/プライベート・エクイティ)(2017~18年) 28億ドル 169億ドル 135億ドル
特許出願数(特許協力条約(PCT)に基づく出願、1960~2018年) 1,074 1,863 1,085
研究者数 43,064 28,536 18,232
トップクラスの研究者(実数ベース) 5,787 5,158 977
発表論文数(2017年) 14,776 10,287 15,199
論文の質(FWCI) 1.2 1.5 1

出典:AI Index (2019)、Deloitte(2019)、Elsevier (2018)、Center for Data Innovation(2019)、WIPO (2019)
注:FWC指数(FWCI)は、論文被引用数の世界平均を1とし、それに照らして論文の質を測定したものである。中国は、過去5年間という短期間のうちに、同指数を1に近づけた。



EUは、競争から脱落しつつあるように思われるが、AI研究者数は現在も40,000人を上回り、広範な研究基盤を有している。従って、将来の開発に向けて適切な戦略を推進すれば、EUが持つAI潜在力を十分に活用して、成長著しいAI市場において米国や中国に追いつくことができるはずである。しかしながら、成功するためには、欧州の各国政府は学術基盤をビジネスアプリケーションに関連付けたり、米国や中国の企業による寡占状態を超えるデータプラットフォームを開発したり、または現在の小売および消費者向けのプラットフォーム以外の多くの分野でAIの応用先を見つける必要がある。

欧州のAI戦略

AIアプリケーション・ブーム、大手企業からの相次ぐ支援投資、さらには米国政府(2016および2019; US NATIONAL SCIENCE & TECHNOLOGY COUNCIL)、日本政府(NEDO 2017)、中国政府(Chinese Ministry of Industry and Information Technology 2017)が本腰を入れてきていることに危機感を募らせ、イノベーションを重視するフランスの新政府は、2017年にAIに関する警報を発令した。同政府は、フィールズ賞を受賞しながらもマクロン政権のもとで政治家に転向した類いまれな数学者、セドリック・ヴィラニを中心とするチームにレポートの作成を委託した。同レポートは、フランスの学術的能力を基盤として、野心的かつ的を絞った方法でAI開発に取り組むための土台を築いた。

フランスからの警鐘とEUによる国家戦略の後押しに続いて、ドイツ政府も遅れじと、急速に取り組みを進めている。つまり、ドイツ政府は、学術的なAI研究における強みと、拡大を続ける同国のデジタル化プラットフォーム「インダストリー4.0」とを統合しようとしているのだ。「ガイア・エックス(Project GAIA-X)」クラウドに基づいて、EUのデータは統合・共有されることになる。さらに、AIの研究機関は(フランスとドイツが強力にリードする中)各国政府の支援を受けるとともに、多額の追加資金を提供するEUの「ホライズン」研究プログラムのもと、欧州ネットワークの一部として協力することになる。

以上の結果、新たな戦略では、既存のAI研究とともに、「インダストリー4.0」の一環として、AIの応用の可能性がある分野に重点を置く。これは、新技術を開発したり、新市場を開拓したりするのではなく、むしろ、新技術を従来型セクターに応用することに重点を置くヨーロッパの取り組みを強化するものである。AIの開発者や利用者の能力開発についても、同じことが当てはまる。米国や中国において現在推進されているような新たなAIスキルやビジネスモデルの構築に取り組むのではなく、既存の技術や(工学的)スキルのアップグレードを図り、新たに登場するAIの応用分野に統合する。

企業の視点から見たAI戦略

ビッグデータや機械学習を超えたこのような「産業AI」戦略は機能するのか? 最近の機械学習ブームと、Eコマース(Amazon)、広告(Google)、ユーザーコンテンツ(Facebook)分野でのAIの応用の成功により、分析、ユーザーインターフェース、制御システム(ロボット工学を含む)でのさらなるブレイクスルーに対する期待が高まっている。ますます高性能な機械が登場し、データを分析し結び付けることによって、ビジネス界における「新たな資源」に変えてくれるとコンサルタントたちは期待している。Accenture(2018)は、AIには「資本や労働力の物理的限界を克服し、価値と成長の新たな供給源を切り開く可能性がある」とさえ予想している。同社では、AIが経済成長率を2035年までに倍増させる可能性があると考えている。

しかしながら、人間に匹敵する対応力の幅や柔軟性を備えた人工知能、すなわち「汎用(general)」AIが登場し、新たなビジネスモデルや分野、サービスの開発を通じて上記のような成長を可能にするまでには、まだかなりの道程があるように思われる。現在最も成功している「ディープラーニング(深層学習)」の応用でさえも(これによってAmazonやGoogleは、買い物ニーズや関心のありそうな広告を顧客に対して助言できるようになったのだが)、まだ十分に洗練されているとは言い難く、検索エンジンの最適化、インターフェースの個人向けカスタマイズ、自然言語処理といった「狭い(narrow)」(注1)あるいは「特化型」のツールに留まっている。依然として、特定のインターネット・プラットフォームのコンテキスト内に限定されており、ビジネス管理の最適化、機械の自動化、人間とのインタラクションといった他の形態では簡単に利用できるものではない。McKinsey(2018)では、もう少し現実的な推定をしており、(ディープニューラルネットワークの)AIの利用事例の69%が既存の分析手法を向上させるものであり、新たな(「未開拓の」)分野に貢献するものはわずか16%に過ぎないとしている。

「狭いAI」の未来は特化型機能にある

人間の知能に匹敵する「汎用」AIへ向けた進歩が緩やかであるのに対して、コンピューター・ビジョンや言語処理などの特化型機能を持つ「狭い」AIは、機械学習の成功を急速に牽引してきた。ほんの10年前には、AIにとっての大いなる課題であったOCR(文字認識)とディクテーション(口述筆記)は、今では基本的な入力方法となり、インターネット・プラットフォーム上で無料提供されている。自然言語処理の進歩によって実現したAmazon AlexaやGoogle Homeなどのホームアシスタントも、今では便利な管理ツールとして役立っている。また、顔認識技術によって、単なる防犯カメラが、自動監視システムへと進化した。チャットボットが、ヘルプデスクに標準装備されるようになり、今では、むしろ十分に訓練されていない人間のオペレーターよりも賢いように感じられることも少なくない。しかし、このようなビジネス機能の進歩は、インターネット・プラットフォームによって引き起こされたデジタル革命、すなわち情報アクセスやメディア配信、小売業のデジタル化によってビジネスモデルが丸ごと変革されていった時ほどの破壊力を持ったものではない。

AIが提供する機能は、研究やマーケティング、ロジスティクスを洗練させるものではあっても、破壊的な変化をもたらすものではない。製造自動化やビジネス管理などの多くのビジネス分野においては、制御方法、予測分析、知識表現などの特化型AI機能は、機械学習ではなく、論理プログラミング、確率的推論、オントロジー工学といった専門的な手法に依存している。こうした分野では、現在もデータの統合が難しいために、インターネット・プラットフォームの機械学習における強みは、あまり活かされない。研究には、より一層専門的なアルゴリズムやモデルの開発が必要なのである。

AIの応用分野がインターネット・プラットフォームから幅広い業界に広まるにつれて、機械学習モデルに基づいて構築されたAIのモデルやアプリケーションは、他のAI技術や統計・工学的手法とさらに融合し、幅広く多様なアプリケーションを生み出していくと考えられる。全てのアプリケーション・インターフェースが、自然言語処理とコンピューター・ビジョンの進歩から利益を得るのは、間違いないだろう。とはいえ、様々な業界において、業界内外の多様なデータを統合するためのツールを構築するためには、汎用のAIモデルとカスタマイズ可能なAIモデルが必要になると考えられる。ロジスティクスおよびサプライチェーン管理を例にとれば、機械学習はトラフィックの規則性やサプライチェーンの不規則性の発見に使用できる。論理プログラミングは得られた知識を表現するために利用でき、ファジー理論は必要な柔軟性を提供できる。一方で、製造自動化、エッジコンピューティング、ビジネス管理は、それに特化したAIアプリケーション開発をゼロから行わなければならないことが多い。

これらの重要なAIの応用分野に関しては、政府の大々的な介入によりリソースをプールして集中的なAI研究を行ったり、あるいは、投資やデータ要件を、米国や中国のインターネット・プラットフォーム企業並みに引き上げたりすることができる「国を代表するリーダー企業」を育てたとしても、役には立たないであろう。むしろ、学術面において、より多様なAI技術に焦点を当てながら、それらを機械学習の進歩や様々なビジネス分野のニーズへと結び付けるAI戦略の方が、はるかに有益であるように思われる。また、コンピューター・ビジョン、自然言語処理、制御方法などの重要なAI機能の応用について言えば、医療から輸送、セキュリティや文書管理までの様々なビジネス分野において、多数の小規模な、特定の専門分野に特化したAI企業からなるAIエコシステムを広く支援する方が、機械学習の進歩の時間短縮を図るよりも有用と考えられる。

つまり、米中企業の寡占状態にある大規模なインターネット・プラットフォームに依存しない「産業AI」の開発を行うには、多数の専門プロジェクトや企業による広範なAIエコシステムのサポートが必要である。欧州各国政府は、最新の戦略を見ると、この課題を認識しているように思われる。次回のニューズレターでは、このような「産業AI」の開発計画について詳しく見ていきたい。

注釈

  • (注1)
    AIに関しては、技術的には「強いAI(strong AI)」に対して「弱いAI(weak AI)」という表現がされることが多いが、ここでは応用領域の広さという意味で「汎用AI(general AI)」と「狭いAI(narrow AI)」という表現を使っている。

参考文献

schulz

本記事の執筆者

経済研究所
上席主任研究員

Martin Schulz(マルティン・シュルツ)

専門:国際経済、企業戦略、対外投資など

1989年 ベルリン自由大で政治学修士、1990年 経済学修士を取得、1996年 同大学で博士号(経済学)を取得。1998年まで同大の政治経済研究所助教授。1996年以降、英国バース大学、イタリアのバリ大学、ポーランドのシュテティン大学、ベルリン社会科学学術センターにて勤務。1991年~1993年 東京大学社会科学研究所研究員。1997年 立教大学経済学部奨励研究員。1998年~2000年 東京大学社会科学研究所研究員および同大学経済学部研究員。一方、1998年~1999年には日本銀行金融研究所に滞在。2000年7月 富士通総研経済研究所入社。

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