新型コロナウイルスのパンデミックは、モビリティの未来をどのように変えるのか

デジタルモビリティ – ニューノーマル時代における場所と空間の再構想

新型コロナウイルス感染症のもたらしたパンデミックは、旅行業界と輸送業界に大きな影響を与えました。一方で社会のデジタル化は飛躍的に前進し、私たちのモビリティに対する認識を変えています。物理的な場所や空間の再構想が求められているのです。デジタルモビリティが私たちの暮らしや産業界をどのように変えていくのか、デジタルテクノロジーをどのように活用できるのか、一緒に考えていきましょう。

この図はこの記事ページのイメージ写真です。

デジタル化の加速がモビリティを変える

新型コロナウイルスのパンデミックによって突如人やモノの移動は制限され、一方で社会のデジタル化は大きく前進しました。人々は感染リスクのあるリアルな世界ではなく、自宅からオンラインでつながるようになりました。ロックダウンの間、ソーシャルメディア以外のコミュニケーション、ストリーミング以外のエンターテイメント、オフラインのショッピングは不可能でした。職場では、従業員の在宅勤務を拡大するためにデジタルが活用されました。従業員、サプライヤー、そして顧客がデジタルでつながったことで、これまでなら不可能と考えられていた柔軟な変化への対応が可能となりました。

このデジタル化の加速は、私たちのモビリティに対する認識を変えています。物理世界における場所や空間といった、モノに関する従来の考え方の再構想が求められています。この新たな現実を前に、家庭、企業、地域社会において、どのように働き、買い物をし、生活するのか見直さなくてはなりません。

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デジタルモビリティのもたらす影響は広範囲にわたります。それは単なる仮想空間の拡大を意味するのではなく、私たちのフィジカルプレイス(物理的な場所)の使い方にも変化をもたらします。デジタルの力で仕事と暮らしが融合することにより、クルマや交通機関の必要性が低下した一方、それらが占めていた都市空間は仕事・生活・買物・娯楽が織り交ざった空間として利用されはじめています。

従来型企業にとってこの変化は当初脅威かもしれませんが、デジタルモビリティとサービスの融合は立ち塞がる壁となるよりもむしろ大きなビジネスチャンスをもたらすでしょう。近年では、デジタルネイティブな企業が製造する場所も要らず、店舗の様な場所に縛られないサービスを提供し、従来型企業を圧倒しています。

しかし、ニューノーマル時代ではデジタル空間と都市空間が融合され、従来型企業にも新たなチャンスが生まれています。従来型企業は市場を熟知しており、高付加価値のサービスを提供して、より広範囲のデジタルサービスをシームレスに提供できます。例えば富士通は、ニューノーマル時代におけるDX(digital transformation)企業としての役割を強化しています。富士通は国内大手ITサービスプロバイダーの地位に甘んじることなく、変革を急速に進め、お客様のこれまでの市場とデジタル領域をつなげるべくお客様のサポートに力を注いでいます。

突然起きたモビリティの停滞

新型コロナウイルス感染症の流行は、その発生直後から旅行業と運輸業に大打撃を与えました。都市部では人の移動が8割落ち込み、空港利用はほぼゼロ、業界を支える政府支援が不可欠となりました。こうした状況は数年続き、今後もとに戻らない可能性もあります。航空業界は、密を避けるためのソーシャルディスタンスによるコスト増加をはじめ、旅行需要の低迷、在宅勤務優先に伴う長期的な出張需要の落ち込み、サプライチェーンのグローバル化の減速といった課題に直面しています。こうしたことから大手航空会社は、航空機とともに従業員の最大1/3の削減を計画しています。

幸いなことに、大半の国では最悪の事態を回避すべく、危機緩和に向けて政府の支援プログラムが提供されています。時間が経てば観光産業も復活すると見込まれています。ライフスタイルのデジタル化が進むにつれて、海外の親戚を尋ねたり外国を旅したりする需要も高まっていくことでしょう。ビジネス出張も特に新規取引先との信頼関係を築くために不可欠であり、また一方で分散した形でのグローバルサプライチェーンの構築には、複数のオフショア拠点を管理することが求められます。一方、都市部のモビリティは予想以上に複雑なかたちで変化していくと考えられます。

都市のモビリティの大きな変化

都市のモビリティの大きな変化

デジタルモビリティでクルマ中心から人間中心に

ロックダウン期間中、公共交通機関は当初空となり、その後主要都市での利用を60%減らすソーシャルディスタンス規制が敷かれました。そして、自家用車に代わって、都市部での移動は徒歩や自転車、あるいは配達が中心となりました。渋滞回避のため道路には自転車専用車線が設けられましたが、暮らしが以前のかたちに戻ったとしても、こうした措置は継続されることでしょう。今後デジタル化が進展していくなか、新しいモビリティのかたちを持続可能なソリューションとしていかに落とし込んでいくか、考えていく必要があります。

最近注目を集めたニュースのひとつに、パリの「15分でいける街」構想があります。これは職場にも買物にも、自転車や徒歩で行ける街づくりを目指すものです。パリに加えてロンドンやベルリン、ブリュッセルでも、先行するコペンハーゲン、バルセロナ、メルボルン、ポートランドに倣い、クルマのいらない生活環境の実現を目指しています。これまで1世紀にわたり、クルマ前提で郊外の住居、ショッピングセンター、工業団地などで地域が区分けされていましたが、働き方がデジタルに変わっていくことで、バロセロナの“スーパーブロック”のような生活と仕事が融合した新しい街づくりの取り組みがさらに進んでいくことでしょう。

スマートシティ - バロセロナの“スーパーブロック”

スマートシティ - バロセロナの“スーパーブロック”

長期的な目で見ればポストCOVID-19で起きた渋滞緩和や自然環境の改善は歓迎すべきものです。そして、その影響は広範囲に、かつ即座に表れています。想像以上に早くクルマは移動の第一手段ではなくなり、鉄道や自転車、徒歩などを主体にした広義でのMaaS(mobility as a service)が広まるでしょう。その潜在需要を踏まえ、富士通は米大手自動車会社フォードのグループ会社であるAutonomic社と協業し、何百万台もの自動車をその活動範囲内のサービスやオブジェクトとリンクするコネクテッドカープラットフォームの構築に乗り出しました。フォルクスワーゲングループの社長はオンライン機能を備えたクルマを称して「動くスマートフォン」と呼んでいますが、このニューノーマル時代において、クルマは新しい都市空間の中にさらに溶け込んでいく必要があります。

デジタルネイティブな若者が再構築する東京の都市空間

デジタルモビリティが急速に広がった背景のひとつに、デジタルに慣れた若い世代の存在があります。SNSやネットショッピングを使う生活、インターネット経由で短期的な仕事に就く“ギグ・エコノミー”はもはや当たり前で、都市空間における若者の行動は様変わりしました。国土交通省の統計(MLIT 2017)によれば、1992年には20歳から29歳までの若者の1日当たりの平均外出数は2.6回でしたが2015年には1.8回に減っています。彼らは住居の近くのみを生活空間とするために都心への居住を好み、その結果高層マンションの建設に拍車がかかりました。

都市のモビリティ: デジタルライフスタイル

この図は上の文章を図にしたものです
この図は上の文章を図にしたものです

そしてクルマの利用も減少し、公共交通インフラはより一層整備されました。公共交通機関を利用しやすくなったことで、市民は平日の外出のほぼ4割を徒歩や自転車で済ませられるようになっています。アーバンランド研究所の調査(Urban Land Institute 2018)によると、都心部での自家用車の利用は移動全体の中で12%ほどに抑えられ、多くの道路に自転車専用車線が設けられました。この変化は高齢者の利便性の向上にもつながりました。国土交通省の統計(MLIT 2017)によると、70歳から79歳の1日当たりの平均外出数は1.8回から2.3回に上昇しており、以前より活動的になったことがうかがえます。ニューノーマル時代においては若者のデジタルなライフスタイルがトラディショナルな生活を送る中高年にも浸透していきます。ビジネス街に買物やエンターテイメントなどの付加価値が溶け込むことで活気が生まれ、都市空間は新たなステージへ移行するでしょう。

新しい働き方とワークスタイル

これまでのところ、デジタルは職場環境に深く浸透しているとはいえませんでした。デジタルネイティブな企業では、暮らしと仕事を融合する魅力的な場を従業員に提供する取り組みを実践し、WeWorkは都心部でコワーキングスペースを提供しています。しかし従来型企業の場合、これまでのデジタル化は、ペーパーレスや省スペース、ホットデスク化、都心から周辺都市への事務所移転による家賃節約など、コスト削減を目指したものでした。しかし今、多くの従業員が疑問を持ちはじめています。味気ないオフィスに戻るべきなのか、通勤時間をかけて出社し、上司の目の前に座る必要があるのか、デジタルで同じ目標が達成できるのに対面で長時間の会議を行う必要があるのか。
これからのニューノーマル時代では、企業は、オンライン・オフラインにかかわらず自由に会議ができる環境を整え、従業員がハイブリッドに活躍できるよう従来のオフィス環境を見直す必要があります。富士通は事務所スペースの半減を宣言しており、他の大手企業も従来型のオフィスに代えて、コワーキングスペースやサテライトオフィスを新たに設置すると発表しています。このような変化は、家で親のサポートをする従業員やオフィスから離れた地域に居住する従業員など多様な人材の活用機会をもたらします。加えて、オフショア拠点の設置やビザ発行、労働許可証の取得を行わずとも、チームをグローバルに展開することが可能となります。

富士通 - Work Life Shift の「3本柱」

富士通 - Work Life Shift の「3本柱」

ワークスタイルの変化は広範囲にわたり多種多様です。富士通は幅広いアプリケーション群とサービス群を提供し、あらゆるレベルで新しいワークスタイルを支援します。Office365、Teams、Boxを統合したセキュアなテレワーク環境や仮想ワークプレイスから、AI Zinrai、オフショアソリューションまで提供しています。企業が新しいワークスタイルにこれらのデジタルツールを活用することで、従業員が働く場所を問わずシームレスに仕事ができるようになります。

地方で新たな都市生活を再創造する

変化を続ける都市の中心部では、ニューノーマル時代の働き方や暮らし方がすぐに再構築されるでしょう。一方で、都市は郊外のエコシステムや地方のサプライチェーンに大きく依存しており、このような従来型の生活モデルともつながっていなければなりません。かつてヨーロッパで都市が建設されたとき、仕事と暮らしは狭い空間のなかに収まっていました。デジタルモビリティが加速すれば、市民はクルマありきのライフスタイルを見直し、もっと地域を中心とした個人の役割や地域社会との関わり方を模索していくかもしれません。米国では、クルマ利用や長い通勤時間を前提に都市が作られており、デジタルモビリティの影響を最も強く受けることになるかもしれません。徒歩や自転車を使って健康的な生活を送り、多様なMaaSサービスが充実した魅力的な都市は、近いうちに今後のスタンダードとなるでしょう。アジアでは、大都市の道路渋滞の解消手段として公共交通システムがますます重要な役割を果たしています。これまでの郊外の通勤ハブは効率的な移動をサポートするために作られており、付近にはショッピングセンターやオフィスビルが建設されていました。今後は人々が出会う魅力的な空間として再構築され、仕事と暮らしの融合する新たな場へ発展するかもしれません。

このような変革は民間企業にビジネスチャンスをもたらす一方で、都市計画に関わる行政機関や地域自治体、それを支援する企業に大きな課題も突き付けます。富士通が理化学研究所と共同開発したスーパーコンピューター「富岳」はこのような課題解決の武器となります。世界最高水準の演算能力を持つ富岳は、日本政府の提唱する「Society 5.0」のモデル化やシミュレーション開発を支援し、より良い都市計画づくりや未来予測に威力を発揮できるでしょう。他にも、量子コンピューティングに着想を得た「デジタルアニーラ」は、多様化・複雑化する都市空間における物流の最短ルート探索、最適な商品ポートフォリオ選定、コスト最小化の実現を支援し、物流・倉庫・小売業のお客様に貢献します。

今後デジタルなサービスやテレワークが普及すれば、私たちは都心の文化や教育サービスとつながりつつ、混雑した都心を離れて郊外に移り住むことが可能となります。郊外や地方都市の人気が再び高まるかもしれません。地方や農村地域の状況も変化していきます。財政状況の厳しい地方自治体でも、オンラインで電子商取引や遠隔医療サービスを受けられるならば、地方の魅力は高まるでしょう。地方の病院、公民館、郵便局などの既存の社会インフラは縮小されるものの、デジタルで統合されたサービスやインフラが公共交通機関とともに発展する可能性があります。

このような中、デジタル化の進む都市部とそうではない地方の間に壁を作らないことが求められます。富士通は都心部以外も含めた広域の5Gサービスの開発を支援し、モビリティ・クラウド・アーキテクチャの「Dracena」ですべての人とすべてのモノをリアルタイムに繋げていきます。これからのニューノーマル時代は、テクノロジーを活用して、人々の移動・モビリティをシームレスに融合させることが重要です。都市と郊外をつなぎ、高度な社会インフラ機能を備えた地域センターを設置することで、デジタルでつながった地方・農村を支えるのです。

著者紹介

Dr. マルティン シュルツ

Dr. マルティン シュルツ

2020年から富士通株式会社 戦略企画部 チーフポリシーエコノミスト
2000年から富士通総研 経済研究所に所属

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