コールセンターにおけるCXの進化に向けた人とAIの役割とは
~実践者が語るDX成功の3つの秘訣~

世界的にDX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が高まっており、様々な企業がデータやAIなどのデジタル技術を活用した取り組みを開始しています。コールセンターにおいてもDXをどう仕掛けるか模索する企業が増えています。
富士通では〈コールセンターや問い合わせ対応の顧客体験(CX)の進化〉をテーマに2019年6月27日セミナーを開催しました。
先行企業、富士通のエバンジェリスト、導入のエキスパートによるパネルディスカッションの内容を中心に、コールセンターのCX進化に向けた課題と解決策をご紹介いたします。

トピックス

企業が生き残るための必須ワード「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」

セミナーのオープニングに登壇したのはエバンジェリストの武田幸治氏。同氏は、〈ビジネスの価値基準を転換するデジタルシフト〜競争力を生み出すデジタルの力〉と題して、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の動向と、企業が実現し成功するための「3つのキーワード」について語った。
DXとは様々なデジタル技術を蓄積・駆使して、新たなビジネスを創出すること。
「DXがここまで注目されるのは、デジタル技術で業務の効率化や合理化を図るというレベルではなく、ビジネスのあり方を再定義し、新たなビジネスモデルを創造することを目的としている点です」と武田氏は話す。
実際、DXは急速に拡大し、すでに様々な企業のコラボレートによって新たなソリューションやビジネスが創出され、身近なところでは、自動車の自動運転システムなどがよく知られている。しかし、こうしたデジタルシフトの中で気になるのが〈2025年の崖〉、レガシーシステムがDXの足かせになっているという問題だ。

武田氏は、「企業の経営者の皆様は、DXが今後生き残るための必須ワードであることを理解されています。同時に、アクションを起こさなければならないと理解していても、具体的な取り組み方が分からないというのも現状。それがDXへ積極的に取り組めない大きな理由だと考えられます」と話す。《図1》で示されるように、すでにAIやIoTなどのシステムやソリューションを取り入れている、もしくは検討中と答えた企業の数は増加傾向にあり、今や企業にとってデジタルビジネスは、“活用して当たり前なもの”であると言える。一方で、多くの企業がAI導入に関して、いまだに技術検証や活用シーン検証を行っている段階だ《図2》。「つまり、興味があるがAIについての理解が不足している、どう活用をすればいいか分からない企業が多い」と武田氏。

DXを成功へ導くための「イメージ」「ベネフィットの視点」「共創」

そうした事情を踏まえた上で、実現・成功するための最初のキーワードとして、「イメージすること」を挙げる。「成功しているDXの事例を参考に、AIなどの技術が自分たちの業務の中でどう活用できるのか、マッチングできるのか、そのイメージを膨らませること。そこからスタートしてみることがまずは大切です」と武田氏は説明する。

富士通株式会社 エバンジェリスト 武田 幸治 氏
富士通株式会社 エバンジェリスト 武田 幸治 氏

次に挙げたのは「ベネフィットの視点」だ。「イメージする際には、DXによってどんな体験や満足感が得られるのかというベネフィットの視点を持つことが大切です」。そもそもベンダー各社の提供する技術は、それぞれが特長を生み出しており、そのもの自体で簡単に優劣をつけられるものではない。DXの目的を優れた技術や機能を導入するためと捉えるのではなく、「あくまでも、“顧客満足度の視点に立った新たな価値の創出”と捉えることが大事」と武田氏。
3つ目のキーワードは「共創」だ。「富士通の技術とお客様の技術やノウハウを掛け合わせる、足りないと思える技術があればスタートアップと連携を図るなど、さまざまな技術と知識のコラボレーションが必要です」と武田氏は話す。

セッション1

AI導入の壁「適用領域の見極め」「状況に応じた成長」

今回のセミナーでは、コールセンター(コンタクトセンター)の業務プロセスを劇的に変えたDXの実践例として、AIチャットボット「CHORDSHIP powered by Zinrai」と「Zinrai Contact Center Knowledge Assistant(Zinrai CKA)」の事例が紹介された。まずセッション1では、阪井章三氏が登壇して、CHORDSHIP導入の際にお客様が抱えていた不安や課題をどのようにして解決したのか、その体験を語った。
「CHORDSHIP」はコールセンターに特化した対話・機械学習ハイブリッドAIで、迅速で的確な自動応答を実現する。大手保険会社様向けの事例では、ネット上で販売している保険商品のチャットサポートにCHORDSHIPが導入されたケースを紹介。見積書の提示など、申込み作業の手前までをチャットボットで対応している。他にもSNSアプリケーションとの連携で損害保険会社様に導入いただいた事例も紹介された。
タイヤのパンクやバッテリーがあがったときに緊急利用されるロードサービスだが、従来は電話で手配していたものを、AI導入後はチャットボットが前さばき(ヒアリング)する。「利用者はSNSの写真(添付)機能を活用し、GPS機能を駆使することで、車のある場所や状況を知らせる事ができます。AIの導入によって、これまで電話で30分かかっていたものが5分ですむようになりました」と阪井氏は話す。

富士通株式会社 エンゲージメントソリューション事業部 シニアマネージャー 阪井 章三 氏
富士通株式会社 エンゲージメントソリューション事業部 シニアマネージャー 阪井 章三 氏

導入を成功させるポイントは、お客様が抱える不安や課題を解消すること。「AI導入における不安で多いのは、導入後も状況に応じてAIを成長させていけるのかという課題です」と阪井氏。
つまり運用部門でAIを成長させていく、適時チューニングを施すことができるのかという不安だ。前述の〈2025年の崖〉での既存のシステムの弊害の一つに、システムのブラックボックス化の問題がある。随時エンジニア達によって改善・改良が施されたシステムがブラックボックス化され、運用部門でコントロールできない状況に陥ってしまった例だ。AI導入ではまずこうした不安を解消した。

システムのホワイトボックス化で導入後はユーザー自らがAIを育成

具体的には、システムのホワイトボックス化だ。「実際に運用する部門で維持・向上できるようチューニング箇所を可視化することで、自分たちでコントロールできることを確認しました」と阪井氏。メニュー選択や回答の絞り込み方などの「対話の流れ」に関する部分を、自由に定義する仕組みとすることで、運用部門がノンプログラミングでチャットのトークシナリオを生成・修正できるようにした。また、チャットでの対話ではさまざまな言い回しが出てくるが、「チャット特有の言葉のゆらぎを吸収する類義語辞書をAIが自動生成するため、「手動で辞書を追加する手間がかかりません。こうした使い勝手の良さを導入前に確認していただくことはとても大切です」とお客様の不安解消のポイントを説明した。

セッション2

複雑化するコンタクトセンター「人材確保」と「多様化するチャネルへの対応」

続くセッション2では星一弥氏が登壇し、コンタクトセンターにおけるZinrai CKAの導入に際しての“教師データ不足”をいかに解決したのか、その対策を語った。
コンタクトセンターは、主に顧客からのクレームや質問を電話で受付する従来のコールセンターの機能に加えて、メールやチャットなどさまざまなチャネルからの問合せを一括でサポートしている。そのためオペレーター業務は高度かつ煩雑で、多くのコンタクトセンターでは人材不足と未経験者の早期育成、さらに人件費の削減が課題として挙げられている。

富士通株式会社 システムプラットフォーム ビジネス本部 エンタープライズ商品企画部 星 一弥 氏
富士通株式会社 システムプラットフォーム ビジネス本部 エンタープライズ商品企画部 星 一弥 氏

「業務の中でも、特に大変なのはナレッジ検索です」と星氏は話す。「通常、ユーザーからの問い合わせには、オペレーターがナレッジリストから検索して回答しています。しかし、単純にキーワードだけを入力しても類似候補がたくさん出てきてしまったり、珍しいワードを入れるとヒットしなかったりと使い勝手に難がありました」
また、欲しいナレッジが結果候補の上位にリストされなかったり、目的の答えを探すのに時間を要していた。「弊社のミドルウェア製品ヘルプデスクの場合も同様で、特にミドルウェアに関する質問なので、回答には高い専門知識が必要です。そのため、これまではオペレーターの育成期間に3〜6カ月を要しており、慢性的に新人の教育コストが発生していました」と星氏。状況はコンタクトセンターの人手不足だけでなく、迅速な顧客対応という点から見ても早急に改善したい課題だった。

AIによるナレッジ検索の自動化でコンタクトセンターの人手不足を解消

Zinrai CKA《図3》は、音声認識AIとナレッジ検索AIでオペレーターを強力に支援するソリューションで、お客様との会話をリアルタイムでテキスト化し、蓄積されたナレッジやFAQデータの中から適切な回答を自動的に提示する。「キーボード入力が不要となり、会話が可視化されることでメモを取る必要もなくなります。精度の高いナレッジ検索が自動でなされることで、作業は非常に楽になりました。
また、使いながら定期的に再学習やチューニングを施すことで、件数を重ねるごとに、精度はさらに高まっていきます」と星氏。
ベテランのオペレーターのスキルとノウハウをコンタクトセンター全体で共有することができ、教育コストの削減も実現。また的確な回答をスピーディに行うことは、顧客満足の観点からも大きな効果を生んでいる。
「結果的に満足いただけるシステムとなりましたが、導入時に不安材料となっていたのが、十分な教師データが準備できないという課題でした」と星氏。こうした教師データ不足はAI導入をためらう理由の一つだが、「データを代用できる場合が多々あります。例えばFAQデータ、インシデント、マニュアル、過去のメール、音声データなどです。手持ちのデータをどのように代用できるのか、そのアイデアと方法を提案することで、お客様の不安を解消することができます」と星氏は対応のポイントを説いた。

<図3>:オペレータ画面

パネルディスカッション

CXを向上させるコンタクトセンターのあり方とは?

セミナーの終盤では「コンタクトセンターが抱える課題をAIは解決できるのか」と題したパネルディスカッションが行われた。
進行役でエバンジェリストの西本伸一氏に呼び込まれる形で、株式会社ユーコット・インフォテクノの梅垣氏、富士通コミュニケーションサービス株式会社の人見氏、富士通の近藤氏が登壇。まず、ディスカッションに先立ち、西本氏が、顧客体験(CX)という視点に立ったコンタクトセンターのあり方について語った。

富士通株式会社 エバンジェリスト 西本 伸一 氏
富士通株式会社 エバンジェリスト 西本 伸一 氏

顧客体験は、顧客が企業の商品・サービスに興味を持ち、その商品・サービスを利用するまでの一連の体験だが、「そもそもCXのX、つまりExperienceには“体験”ではなく“経験”という意味もあります」と西本氏。「例えば“ECサイトでショッピングをしたが、購入した商品に不具合があり問い合わせをした”という一連の流れの中でCXを考えてみると《図4》、顧客は商品の存在を知るところからスタートし、コールセンターで通話サポートを受けるまで、一連の時間軸の中でさまざまな体験をします。この体験が積み重なって累積されたものが企業やブランドに対する“顧客経験”となります。ここで重要なのは、いくら良い商品で良いプロモーションを行っても、最終的にコールセンターで不快な思いを体験すると、顧客にとってのブランド価値が下がってしまうという点です」と西本氏は話す。

では実際、利用者側は現行のコンタクトセンターに対してどのような感想を抱いているのだろうか。
「最も多いのは、未だに繋がりにくいという意見なのです《図5》」と西本氏。「そのため、コンタクトセンターを使いたくないと思う利用者は多く、特に若年層の電話離れと相まって、以前にも増してテキストコミュニケーションへのシフトが注目されてきています」と指摘する。

これについて人見氏は「一言にコールセンターと言っても、様々な業務があります。チャットボットのようなテキストで情報をやり取りする方がスムーズで良い場合もありますし、電話で直接やり取りする方が効率的なケースもあります」と話す。自動車保険のロードサービスの場合を例にあげると電話で用件を聞くときに、一番時間がかかるのは、トラブルに見舞われた場所の住所を把握することだ。ところが、外出先でいきなり住所を聞かれても、スムーズに答えられる人は少ない。

富士通コミュニケーション サービス株式会社 CX統括部 サービス・イノベーション推進部 人見 正人 氏
富士通コミュニケーション サービス株式会社 CX統括部 サービス・イノベーション推進部 人見 正人 氏

「そんなときCHORDSHIPのように、SNSアプリケーションに位置情報機能を取り込んだサービスがあればスムーズに対処できます」と人見氏。「一方、クレームへの対応や、ニュアンスを含めて内容を確認したい場合は、オペレーターが直接対応するべきだと思います」と状況に応じて、それぞれの特性を生かした使いわけが必要だと説明する。
この点について近藤氏も「ロードサービスのケースのように、オペレーターの前さばきとして活用するなら、チャットは非常に有効です」と話す。「利用者からすれば24時間どこにいても手軽に使えて利便性が高いですし、前さばき的なことをAIがやってくれることで、オペレーターは人間にしかできない、本当の意味でのお客様対応に時間を割くことができます」と、AI活用による顧客サービスの相乗効果について触れる。

富士通株式会社 次世代営業本部 デジタルマーケティングオファリング部 シニアマネージャ 近藤 祐朗 氏
富士通株式会社 次世代営業本部 デジタルマーケティングオファリング部 シニアマネージャ 近藤 祐朗 氏

CXの進化へ「人とAI、それぞれが果たすべき役割」と「連携・循環」

では今後、我々はAIをどのように活用し、CXを進化させていけばよいのだろうか。
「現在のAIの実装可能なレベルは、ルールに則ってそれを確実にこなすレベルから、データの傾向を分析してルールを導き出すレベルに向かっている段階《図6》」と西本氏。これを受けて阪井氏は、「現段階でAIに任せられるのは、型の決まった問い合わせの自動化などです。そうした段階であるからこそ、人とAIの理想的な関係を高めていくことが、今後は大切だと思います」と話す。具体的には、「まずAIが回答し、回答できない部分をオペレーターが答える。さらにオペレーターが対応した内容をナレッジとして、以降のAIの対応時に活用していく。こうした“連携”と“循環”によってAIの完成度は高まります」と、“AI成長”のポイントを挙げる。

さらに、この点について、ユーコット・インフォテクノの梅垣陽一氏がユーザーの立場から自身の体験を語る。
「私達はUCCグループに提供している各種システムの問合せ対応をよりスピーディに行うために、Zinrai FAQ検索を導入しました。しかしFAQ検索用に活用しようとした過去の問い合わせデータが使えず、新たに用意する教師データも準備に時間がかかりすぎるという状況に陥りました」と当時を振り返る梅垣氏。「そこで富士通のアドバイスを元に、過去のデータと既存のFAQをそのままZinrai FAQ検索に投入する方法を選択しました。検索結果に対するユーザーの評価と紐付けすることで、より確度の高い検索ができるように教師データを育てて行くのですが、半年ほどで十分な確度で回答が導かれるようになりました」と梅垣氏は話す。

株式会社ユーコット・インフォテクノ イノベーション推進部長 (兼)システムサポート部長 梅垣 陽一 氏
株式会社ユーコット・インフォテクノ イノベーション推進部長 (兼)システムサポート部長 梅垣 陽一 氏

導入を迷わせる「教師データ不足」の課題を「AIを育てること」で解決に導いたこの事例について、阪井氏は「ベンダーとしても、大事にしているのはスピード感です。例えばチャットボッドのアップデートは2ヶ月おきくらい。だからトライアルでやるにしても、導入までに時間がかかっては仕方がありません。」とこれに同調する。その上で、「やはり、仮にデータが揃っていない場合でも、まずは着手してAIを育てていくというやり方が理想です」と、お客様の状況に応じた対応の必要性を説いた。
CX進化に必要な「人とAIそれぞれが果たすべき役割」から始まった討論は、AIの完成度を高めるために「人とAIが成すべき連携・循環」の具体的な方法へと着地し、パネルディスカッションは締めくくられた。

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[2019年8月掲載]

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