基幹業務システムの
モダナイゼーションにおける
アジャイルの活用

アジャイルプロジェクト事例

プロジェクトの背景

お客様の基幹システムは、建築事業と不動産事業を統合した全社的業務を担っていました。お客様のビジネスにおいては、不動産事業の一般消費者の反応が、建築事業に大きく影響します。一般消費者の反応を予測することは年々困難になっているため、企業が競争優位を確立するためには、この一般消費者を含む市場の変化に俊敏に対応することが求められていました。

こういった背景から、お客様は企業活動の中核を支えるICT基盤を刷新することを計画されました。変化に俊敏に対応できる柔軟性・拡張性をもち、DXの環境を整えたICT基盤を構築するために、構築から20年以上が経過したメインフレームの基幹業務システムをモダナイズすることが計画されました。

プロジェクトの概要

対象システムのモダナイズには、総工数11,000人月、開発期間約5年、資産規模6.2MStepが見込まれました。それに基づき、本プロジェクトは、計画策定/PoC/プロトタイプ開発を経て4段階のウォーターフォール開発を行うスケジュールが想定されました。

しかし、実際に開発を進めていくと、いくつかの課題が出てきました。

  • 開発規模が拡大したStep2で、大幅な遅延が発生し、生産性や品質が低下
  • 開発期間中に現行システムの仕様を凍結できず、新システムとの二重開発によりコストが増加

こういった点を解決するには、従来手法の踏襲では限界があると判断し、新しい開発手法を検討するとともに、大きすぎる開発規模を最適化することが必要と考えました。

アプローチの見直し

(1) アジャイル要素を組み込んだ共創体制

当初の開発プロセスは、ウォーターフォールのV字モデルに現行ソースの解析プロセスを加えたN字モデルというべきものでした。現新コンペアはテストタスクの一部として実施していましたが、網羅性が不十分な点、手戻り発生による延伸、不確実性リスクの積み上げによるコスト増大などの課題が生じました。

検討の結果、現新コンペアはプログラムテスト完了後に行うのが最も効果的であると判明しました。また、現新コンペアには現行システムをよく知るユーザーの参画が不可欠であるため、ユーザー/ベンダの共創体制を構築しました。さらに、現新コンペアはあらかじめ作業量を見積もることが困難なため、内部リリースを繰り返してユーザーからのフィードバックを反映するようにしました。このようにしてアジャイルの要素を組み込み、課題に対応していきました。

(2) 漸進型リリースモデル

リリースに関しては、業務の制約なども加味しながら開発期間に収まるよう計画を策定しました。当初の段階的なリリース計画から、多数の小ロットに分割した漸進型のリリース計画へと変更していきました。10名前後からなる開発チームを形成し、それらに適したサイズにサブシステムの分割を行いました(小ロット化)。開発の初期(ファーストロット)では、リスク軽減のため単一ロットから始めていき、徐々に開発チームを増やして多重度を上げていきました。1ロットを終えたら次のロットに着手することで、プロジェクトメンバの習熟度を向上させながら、生産性と品質向上につなげました。

(3) 自律型チームのWA

小ロット開発の体制を円滑に進めるために、マネジメント体制も従来の統制を重視したものからチーム自律性を重視したものに変革しました。各チームが助け合うグループのWA(和)を形成し、グループがさらに大きなWAを形成することで、統制型の階層型組織ではなく,自律改善型のチーム一丸体制を構築することで協調・自律・助け合いの組織に変革しました。

これら個々の取り組みは、プロジェクト内での仮説と検証を繰り返した結果確立したものでした。しかし、それぞれの取り組みはSAFe®で提唱されているAgile TeamやPI Planning等の様々なプラクティスと近いものになっていきました。結果として、大規模なモダナイゼーションプロジェクトを、アジャイルマインドをもって推進し、成功に導くことができました。

プロジェクトの成果と結果

本プロジェクトでは、ファーストロットの稼働から最終ロットの稼働までの間、システム停止を引き起こすような重大障害は発生しませんでした。開発初期から開発サイクルを重ねるごとに、軽微な障害の発生状況も減少し、品質改善効果を得ることができました。

本プロジェクトは、お客様の満足度についても非常によい評価を得ています。プロジェクト開始初年度のお客様満足度が6ポイント(10点満点)であったのに対し、プロジェクト終盤には10ポイントに向上しました。お客様との協働体制を構築することで信頼関係が醸成されたことや、漸進型リリースによる成功体験の共有を積み重ねたことが満足度向上につながりました。

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