2017年10月23日更新
今を生き抜く病院戦略
第03回 「2018年同時改定における外来、在宅部門の変化への対応」
~キーワードは”かかりつけ医”機能~
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高 氏
2016年度改定では診療報酬上の「かかりつけ医」機能を明確にした
地域包括ケアシステムは団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されることを目指している。その構築には医師の「かかりつけ機能」が必要不可欠となっている。診療報酬上では、そのインセンティブ(誘引)として、前回2016年度改定では医科、歯科診療所及び200床未満病院、調剤薬局において「かかりつけ医」「小児に対するかかりつけ医」「かかりつけ歯科医」「かかりつけ薬剤師」を診療報酬上で明確にした。
厚労省幹部が「地域包括ケア元年と考えている」と位置づけた前回2016年度の改定内容は、2025年に向けて「医療と介護の一体化」を目指す地域包括ケアシステム実現を強く意識している。具体的には医科、歯科診療所及び200床未満病院、調剤薬局では「かかりつけ医」「小児に対するかかりつけ医」「かかりつけ歯科医」「かかりつけ薬剤師」を診療報酬上で明確にした。また、在宅医療や訪問看護も見直した。主治医機能を評価した外来点数も下記のような変更並びに新設があった。
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地域包括診療料・同加算の算定要件緩和
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認知症地域包括診療料・同加算の新設
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小児かかりつけ診療料の新設
図表)前回2016年度改定における主治医機能を評価した外来の主な改定項目
前々回2014年度改定で創設された 1.の地域包括診療料1503点(月1回、200床未満病院と診療所)と、地域包括診療加算20点(再診料1回につき、診療所のみ)は算定要件のハードルの高さが届出のネックとなっていた。診療所が地域包括診療料を算定する場合は①時間外対応加算1の届出、②常勤医師が3人以上在籍、③在宅療養支援診療所──の「すべて」を満たす必要があったが、②の常勤医師は「2人以上」に緩和された。また、病院が地域包括診療料を算定する場合は、①救急告示病院等、②地域包括ケア病棟入院料の届出、③在宅療養支援病院の届出──の「すべて」を満たす必要があったが、これも①の救急関係は削除された。2015年7月時点で93医療機関だった地域包括診療料の届出は要件緩和で前回改定後の2016年7月では199医療機関へと増加した。
図表)地域包括診療料と地域包括診療加算の主な算定要件・施設基準等
2015年7月 | 2016年7月 | |
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地域包括診療料 | 93 | 199 |
地域包括診療加算 | 4,701 | 5,248 |
図表)【地域包括診療料・地域包括診療加算の届出】(厚労省保険局医療課調べ)
ただし、厚労省は地域包括ケアシステムでのキーパーソンとなるかかりつけ医機能の充実を図るためには、同加算の届出はまだまだ少ないと考えている。17年2月の中医協総会に厚労省が提示した資料では、「かかりつけ医」の定義として「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」とした。これは日本医師会・四病院団体協議会の合同提言からの引用になる。また、「疾病の経過に応じ想定されるかかりつけ医の役割(案)」では、「生活習慣病を有する患者の例」として、①日常的な医学管理と重症化予防、②専門医療機関等との連携、③在宅療養支援、介護との連携──と具体的にやるべきことを例示している。
実は1987年に旧厚生省は「家庭医制度」を打ち出した。だが、英国の「一般医 」(GP:general practitioner)のように、国の管理下に置かれる可能性があるため診療側の反対で中断した。同様に今回のかかりつけ医の議論においても、診療側には英国のGPのような「人頭払い」(capitation payment)になることへの危惧がある。これはかかりつけ医に登録された受診者の人数に応じて報酬が支払われるもので、患者はまず登録医を受診することになり、医療機関を自由に選択可能なフリーアクセスは阻害されている。実は民主党政権時代に廃止になった「後期高齢者診療料」(600点、月1回)も、慢性的な疾患を抱える後期高齢患者の「かかりつけ医」の役割を果たす医師のみが算定できるものだった。これも患者1人につき、1つの医療機関しか算定できない要件が診療側の反発を招いた。
今回の提案について厚労省は、「フリーアクセスを守るためには緩やかなゲートキーパー機能を備えたかかりつけ医の普及は必須」とした。支払い側はドクターショッピングやポリファーマシー(多剤投与)等による医療費増を回避するため、かかりつけ医機能を強化させたいと考えている。そのため2018年度改定においては、ICT(通信情報技術)による遠隔診療拡大も含めて、かかりつけ医機能に対する評価がなされる可能性は高い。
在宅医療のコアは医師による訪問診療と看護師による訪問看護
都道府県が2025年の「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4区分ごとの必要病床数を策定する地域医療構想策定の計算式において「療養病床の入院患者数のうち、医療区分1の患者の70%を在宅医療等で対応する患者数として見込む」とされている。そこでは現在、療養病床に入院している医療区分1の軽度患者は、在宅等(自宅、介護施設、居住系施設等)に移ることを想定している。
在宅医療の中心となるのは、医師による訪問診療と看護師による訪問看護である。訪問診療について前々回の2014年度改定では「在宅不適切事例の適正化」として「同一建物」の在宅時医学総合管理料(在医総管)や訪問診療料の引き下げが実施された。特に在医総管は4分の1程度の点数に下がるという衝撃の引き下げとなった。ただし、月1回以上個別に訪問すれば減額免除といった規定があり、医師3人までに限って、医療機関単位ではなく医師単位での患者数カウントが容認された。そのため、必要な訪問診療を受けることができなくなった例はほとんどなかった。
そして、前回2016年度改定では「患者の重症度、訪問回数に応じた医学管理料のさらなる細分化」や「在宅医療専門の診療所の制度化」等が実施された。インパクトが大きかったのは「同一建物居住者」は「単一建物診療患者の人数」となったことである。これまでの「同一日に訪問診療を行う人数」から「単一建物内で医学管理を行っている人数」へと変更になった。在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料は共に軽度者に対する月1回の訪問診療による点数が新設され、これまでの月2回の訪問診療の中でも患者の状態によって「別に定める状態の患者」とそれ以外とに分かれた。その中でさらに、単一建物患者が「1名の場合」、「2〜9名の場合」、「その他の場合」で分けられた。
これによって別々の日に訪問診療を行えば高い管理料点数が算定可能だったものが、できなくなってしまった。有料老人ホームやグループホーム等の単一建物内で軽症患者を多く診ている医療機関は大幅減収となった。一方、居宅(自宅等)で末期のがん患者や神経難病といった重症な在宅患者を数多く診ている医療機関は単価アップというメリハリが効いた内容だった。
次回2018年度改定に向けての在宅医療に関する細かな議論はこれからだが、患者の重症度や住まいに応じてさらに評価を見直す可能性が高い。これからの在宅医療に求められるのは「24時間365日体制」「重症度の高い患者への対応」「看取り体制の充実」の3つの機能であろう。
さいごに
2018年度改定は、2年に1回の診療報酬改定と3年に1回の介護報酬が6年に1回だけ重なる同時改定になる。その次は2024年度になるが、それだと2025年まで1年しかない。したがって2018年度が大改定になることを厚労省も明確にしている。200床未満病院と診療所のかかりつけ医機能を持つ医療機関が担う機能として地域包括ケアシステムの航空管制官のような役割がますます重大になってくる。
著者プロフィール
株式会社MMオフィス
代表取締役
工藤 高 氏
1982年、日本大学経済学部卒業後、都内の(社医)河北総合病院に入職。
その後、複数の病院を経て1999年に現在のMMオフィス設立。
診療報酬制度の分析に基づく病院経営戦略コンサルティングを得意としている。
日経ヘルスケア巻頭コラム「病院経営最前線」を連載しており、関東学院大学大学院で医療経済学の講義も担当している。
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