2021年08月17日更新

病院とICT活用 第04回 ウィズコロナ、アフターコロナに向けた病院のニューノーマル戦略

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

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国内で2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大は、クリニック・病院の経営に大きな影響をもたらしました。新型コロナウイルス感染症の拡大に合わせて、医療体制確保の観点から日本の各地でこれまで複数回にわたる緊急事態宣言が出されました。その間、国民は不要不急の外出を控え、できるだけ人が多く集まる場所は避けるなど、感染予防のために、いまだに不自由な暮らしを余儀なくされています。

2021年2月に新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種スケジュールが公表されて以降、医療従事者、65歳以上の高齢者、基礎疾患のある方、高齢者施設従業者、一般と順次接種が行われる大方針に沿うかたちで、各地において接種が進んでいる状況ですが、全国民のワクチン接種が完了し、感染症が収束に向かうにはもう暫くの時間がかかりそうです。

2020年度診療報酬改定の基本方針と新型コロナウイルス感染症の対応

2020年4月の診療報酬改定では、わが国が直面する課題として、「超高齢化社会」と「生産人口の減少」が挙げられ、今後も社会保障制度が持続的かつ安定的に運用していくこととともに、働き方改革、生産性向上への対応が必要となります。

「社会保障制度の安定性・持続可能性」を確保するためには、医療機関の機能分化・連携と医薬品の適正使用に向けた対策が打ち出されています。また、「働き方改革・生産性向上」については、医師・医療従事者の負担軽減が急務であり、タスクシフティングやタスクシェアリング、ICTの利活用といった対策が打ち出されています。

一方、新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療提供体制の崩壊危機が叫ばれ、院内感染対策、医療提供体制の確保のための資金確保として、補助金や診療報酬の引き上げが行われました。我が国は、超高齢化社会、働き方改革、そして新型コロナウイルス感染症に向けた対応という3つの課題に向き合う必要があるのです。

新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査

2021年2月に、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会が協力して行った「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」の結果が公表されました。それによると、2020年と2019年を比較した医業収益は、前年比マイナス5.1%で、新型コロナ患者の受入れ病院が前年比マイナス5.6%、新型コロナ患者の受入れなし病院が前年比マイナス2.9%と、新型コロナ患者の受入れ病院の方が大きな影響があることが分かりました。

また、4月から12月の医業利益への影響を見ると、4月が前年同月比マイナス10.9%、5月がマイナス13.0%となり、その後6月、7月、8月、9月と改善していったものの、10月から再びマイナスに転じています。長引くコロナ禍の影響の深刻さがうかがえます。

Withコロナで変わったこと

新型コロナは、私たちの生活にどのような変化をもたらしているのでしょうか。まず、感染症対策として、マスク着用、手指消毒、3密を避ける行動などが日常化しました。その結果、かぜやインフルエンザといった季節性疾患が大きく減少しています。また、コロナ禍では働き方改革が進み、リモートワークが推奨され、都心部への通勤が大きく減少しました。娯楽・飲食についても密を避けることが求められており、娯楽や外食の自粛が進んでいます。購買についても、ネット販売が大きく普及し、店舗に出向いて気軽にショッピングを楽しむ機会が大きく減少しています。

一方、「受療行動」については、医療機関でのクラスター発生の報道などから外来受診を控える動きが出て、これまであった待合室の混雑や長い待ち時間を避ける行動が増えています。医療機関への受診頻度も減少、受診間隔が長期化する傾向が出ており、重症化の心配が出てきています。診療スタイルについても、従来の外来医療から在宅医療へ、そして時限的に拡大されたオンライン診療のニーズが一気に高まっています。患者が受診方法を自由に選べる時代が近づいているとも言えるでしょう。長引くコロナ禍は、生活様式と受療行動に大きな変化をもたらし、過去の常識が通用しない、「ニューノーマル」と呼ばれる新しい社会構造が医療の現場にも生まれようとしているのです。

ニューノーマルに合わせた医療機関経営の変化

コロナ禍のクリニック・病院は、感染症対策として、患者同士の距離の確保や、待合室での滞在時間の短縮、できるだけ接触を避けるための改善が必要となっています。早急にこの改善に取り組み、患者に告知し、医療機関を「安心」「安全」と認識してもらうことが重要な戦略となっています。また、医療機関の経営についても、ニューノーマルに合わせて変えていく必要が出てきています。患者の活動範囲が狭くなっていることから、駅前よりも住宅地に近い駐車場を広くとった病院の方が好立地になったり、いわゆる巣ごもり生活の定着から、ウェブページやSNSの閲覧が増えていることから、看板などのリアルな告知よりもネット上の告知がより重要になりつつあります。さらには、受診控えの影響で患者がなかなか増えない状況下では、「単価増」や「コストダウン」を強く意識する必要が出ています。サービス提供の在り方を見直し、自費分野の拡大を視野に入れ、患者の利便性を意識した改革が必要となっているのです。

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著者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役

大西 大輔 氏

過去3,000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行う。

経歴
2001年 一橋大学大学院MBAコース修了
2001年 医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社
2002年 医療IT総合展示場「メディプラザ」設立 (~2016閉館)
2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立

大西 大輔 氏

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