2020年07月15日更新
これからの介護事業経営 第22回 介護報酬の行方
小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏
1. 改正介護保険法 6月5日成立
6月5日、改正介護保険法を含む「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」が国会で成立しました。この法律案では、介護保険法、老人福祉法、社会福祉法などの改正法案が含まれていました。これをもって、通いの場の拡大、重層的支援体制整備事業、社会福祉連携推進法人、介護福祉士養成学校の卒業生へ二特例の5年間延長などが確定したことになります。法律は、6月12日に公布されて順次施行されるとしています。
2. 2021年度介護報酬改定の論点
今後の焦点は、社会保障審議会介護給付費分科会での介護報酬改定審議に移っています。今後は、前回平成30年度介護報酬改定の検証を進めながら、2021年度介護報酬改定の審議が進められていくことになります。6月1日に行われた社会保障審議会介護給付費分科会では、2021年度介護報酬改定における4つの論点が示されました。その論点とは、
- (1)地域包括ケアシステムの推進
- (2)自立支援・重度化防止の推進
- (3)介護人材の確保・介護現場の革新
- (4)制度の安定性・持続可能性の確保
です。
今後は、この4つの論点が順に審議されていきます。通常は2巡目の審議で方向がまとまりますが、さらに審議が必要な項目については3巡目の審議が行われるのが一般的です。その審議の間は、業界団体へのヒヤリングなども行われます。例年では12月に審議会の意見が取りまとめられて、1月には新しい介護報酬単位が答申されます。その後、解釈通知、Q&Aなどの算定要件が3月から4月に掛けて出されていきます。ただし、今年の場合はコロナ禍の影響もあって審議が年越しとなる可能性が捨てきれません。しかし、遅くても来年1月には取りまとめられると思われます。では、各論点について見ていきます。
3. 地域包括ケアシステムの推進
地域包括ケアシステムの推進については、医療介護の連携の推進がベースとなります。在宅限界を高めるための在宅サービス等の在り方、介護保険施設での対応の在り方、高齢者向け住まいにおける更なる対応の在り方、人生の最終段階においても本人の意思に沿ったケアが行われること、などの観点から、今後の方策をどうするかが主なテーマとなりました。また、認知症への取り組みも論点とされています。
在宅限界とは、可能な限り在宅で過ごす時間を長くすることを言います。もともと地域包括ケアシステムは、介護施設に入所せず、病院に入院せず、可能な限り在宅で過ごすことを目的した考え方が根底にありました。現在は、その上位の概念として、地域共生型社会の実現が示されていて、地域包括ケアシステムはその実現のための戦術であると位置づけられています。
さらに、施設の役割や高齢者住宅の在り方が問われることになっています。特に介護老人保健施設の在宅復帰の強化による基本報酬区分の「その他型」の存続や、高齢者住宅への囲い込み対策の強化などが懸念されています。ターミナルケアも論点にあがりました。しかし、ここで大きな問題が浮上しています。それは地域包括ケアシステムで重要な役割を持つ訪問介護が、ヘルパースタッフの高齢化と人材不足によって危機的な状況になっていることです。なんらかのテコ入れを行わないと、地域包括ケアシステムが機能しないことが懸念されます。この点についても、今後の論点になっていくと思われます。
4. 自立支援・重度化防止の推進
今回の介護報酬改定の注目点の一つである、自立支援介護、インセンティブ型報酬の導入が論点にあがりました。これまでの介護報酬は、お世話をすることで基本報酬が算定できました。リハビリテーションを提供することで加算が算定できました。インセンティブ型報酬に移行が進むと、バーセルインデックスなどの指標の評価結果で報酬単価に差が出る仕組みに変貌することとなります。今回の介護報酬改定では、従来のお世話だけの介護から、結果が求められる介護への移行が、どこまで進むかが大きな注目点となっています。また、VISITやCHASEといったデータベースの整備と共に、科学的介護、すなわちAI(人工知能)がケアプランを作るシステム導入も加速すると考えられます。
5. 介護人材の確保・介護現場の革新
人材の確保策では、ケアマネジャーへの処遇改善や、有効求人倍率が13倍を超えた訪問介護の雇用対策などが論点になると思われます。また、三重県で実施が先行していて、今後は国が優良事例として横展開を進めていく、介護助手制度の推進も注目されます。しかし、ケアマネジャーへの処遇改善については、現状では実現が後退しているとの見方も出ています。今回のコロナ禍対策で取り入れられた人員基準の緩和や介護報酬への位置づけの継続も期待したいと思います。介護現場の革新は、介護ロボット、見守りセンサーやICT化の推進が焦点となっていきます。前回の改定で見合わせとなった、介護ロボット等導入加算の動向には注目すべきでしょう。この3年間で、どこまで介護ロボットの実用性が向上したかがポイントとなります。
6. 制度の安定性・持続可能性の確保
制度の安定性・持続可能性の確保の論点については、遅れている全世代型社会保障検討会議の審議結果と、それに続く「骨太方針2020」「成長戦略2020」に大きく左右されると思われます。ここでは、2040年に向けた社会保障制度の見直しなどの大枠が示されてきます。この「骨太方針2020」「成長戦略2020」の内容によって、今後の介護保険制度の方向が決まると言っても過言ではありません。いずれにしても、2040年問題に向けた対策として、介護保険制度の簡素化、大規模化が進められ、介護給付についても削減の方向である事は間違いないでしょう。
このところ、コロナ禍対策として矢継ぎ早に給付金などの支給や介護報酬上の特定措置を進めていますが、あくまでも単発での給付や措置です。今回設定された介護報酬上の特例である電話での安否確認による報酬算定や、月に一定回数の二区分上の報酬算定についても、現場目線では算定出来ないとの意見も多く聞きます。
しかしながら、暫定的な報酬アップが実施されたという事実は残ります。その分、来年度の介護報酬改定での報酬アップはあまり期待出来ないとの見方が多いようです。そのため、状況によっては、来年の介護報酬改定がマイナス査定となる可能性もゼロではないと考えています。また、今回のコロナ禍の対策の流れで、感染症対策に何らかの介護報酬上の加算などが設けられるのではないでしょうか。
いずれにしても、来年度の介護保険制度改正は、コロナ禍の中で着々と進められていることを認識しなければなりません。これからは、第二波を想定したコロナ禍対策も重要ですが、介護報酬改定の審議の行方にもしっかりと情報アンテナを張る時期になってきています。
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これからの介護事業経営 【連載記事】
- 第01回 地域包括ケアシステムと複数事業化のすすめ
- 第02回 介護保険制度改正の方向と今後の事業経営
- 第03回 介護保険制度改正の審議状況と解説
- 第04回 介護職員処遇改善加算の算定のポイント
- 第05回 介護保険事業 押さえておきたい実地指導の傾向と対策
- 第06回 介護保険部会の意見取りまとめを読み解く
- 第07回 平成30年度(2018年度) 介護報酬改定の動向
- 第08回 平成30年度介護報酬単位の答申内容の検証
- 第09回 次期2021年介護保険法改正への動き
- 第10回 平成30年度改定後の実地指導対策
- 第11回 介護職員処遇改善加算で慢性的な人材不足は解消出来るか?
- 第12回 さらに加速する制度改正の動向と拡大する保険外サービスの可能性
- 第13回 遂に審議が終了。新・処遇改善加算の詳細と問題点を探る
- 第14回 介護職員等特定処遇改善加算の厚労省告示の解説とその意義を考える
- 第15回 介護職員等特定処遇改善加算の通知とQA解説
- 第16回 激変の2019年度実地指導
~「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針」全解説~ - 第17回 介護職員等特定処遇改善加算の最終確認
- 第18回 加速する2021年介護保険法改正審議の論点とポイント ~大激変の予兆~
- 第19回 介護保険法改正の動向と介護報酬改定の行方 〜2020年の展望〜
- 第20回 2021年度介護保険法改正の内容と楽観できない先送り報道
- 第21回 介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算の変更点
- 第22回 介護報酬の行方
- 第23回 慰労金支給事業と介護サービス提供支援事業
- 第24回 介護報酬改定も二巡目に
- 第25回 令和3年度介護報酬改定は
著者プロフィール
小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事
小濱 道博(こはま みちひろ) 氏
日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。
小濱 道博 氏コラム一覧
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