ローカル5Gで変わる日本のものづくり

2020年春に商用サービスが提供される次世代移動通信システム「5G」は、高速大容量・多数同時接続・低遅延が特徴です。その5Gの利点を生かして、工場などの限定されたエリアで5Gネットワークを構築するのがローカル5Gです。2019年11月20日、Fujitsu Insight 2019 -DX Days-において、「ローカル5Gで変わる 日本のものづくり」と題し、富士通株式会社 戦略企画本部5G/ICT ビジネス 推進室シニアマネージャーの上野知行が、ローカル5Gの概要や利用シーン、ローカル5Gで実現するデジタルトランスフォーメーション(DX)について解説しました。

ローカル5Gで変わる製造業の現場

富士通株式会社
戦略企画本部5G/ICTビジネス推進室
上野 知行

モバイル通信は10年おきに技術を進化させ、第1世代(1G)から第4世代(4G)のLTEへと進化してきました。そして2020年には第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが日本でも開始されます。この5Gには「高速大容量」「多数同時接続」「低遅延」といった3つの特徴があります。

5Gは理論上、LTE(4G)の約20倍となる20Gbpsのスループットを実現します。また、スマートフォンだけでなく、自動車、製造機器や医療機器、ドローンや監視カメラなどさまざまなデバイスが接続されることを想定しています。今後は5Gを前提とした新しいデバイスも生まれてくるでしょう。産業界からも大きな期待がかかる低遅延については、伝送遅延がLTEと比べて10分の1程度に短くなる1ミリ秒以内とされています。データのリアルタイムな処理が可能となり機器の自動制御、自動運転、遠隔手術などへの利用が期待されています。

5Gは狭義の意味では通信技術を示していますが、利活用の観点から見れば暮らしと社会に変革をもたらすICTやDXに関わる大きなテーマといえます。

その5Gの仕組みを自営ネットワークに活用したのがローカル5Gであり、これは通信キャリアではない事業者が自身専用の5Gシステムを運用できるプライベートネットワークです。工場やプラント、ビルにおいて、その所有者や利用者が無線局の免許を取得することで、自営のネットワークとしてローカル5Gを使うことができます。また免許取得した他社のシステムを使っての5G利用も可能です。

このローカル5Gが、ものづくり、建設現場やプラントなどの分野で活用されることで、どのような変革が導かれるのでしょうか。

これまでの製造業の現場では、たくさんのケーブルが張り巡らされ、機器のレイアウトや作業範囲が制限されていました。しかし、ローカル5Gを活用した無線化でこうした制限を取り払うことで、自動化を促進し生産性向上を実現します。

工場内のどこからでもセキュアにネットワークに接続できるようになることで、生産ラインもニーズに応じて柔軟に組み換えられるようになり、ロボットの制御も無線でリアルタイムに実行できます。また製造工程から得られるさまざまなデータの収集、活用も可能となります。

作業指示の方法も変化してくると考えられています。これまでは専門性の高い現場監督が、その場に赴いて作業指示を出していました。加えて、人の経験に基づく判断、操作に委ねられていたため、指示するまでに時間がかかることもありました。

しかし、ローカル5Gを活用すれば、目視監視を自動化し、遠隔地でも高精細の画像から現場の状況をリアルタイムに確認できます。遠隔地から重機の操作や現場への指示も可能になれば、一人の優秀な現場監督が複数の現場に指示できるなど作業の効率化を促進できます。

利用シーンを飛躍的に拡大する5G
敷地内利用や屋内利用、他人の土地をまたぐ
固定通信利用も可能なローカル5G

ローカル5Gが導くDX

ローカル5Gは通信キャリアが提供する5Gと何が違うのでしょうか。通信キャリアの5Gのサービスエリアは日本全国をカバーしていますが、ローカル5Gのサービスエリアは「建物」「土地」の単位になり、そのエリア内での使用となります。

人間の社会や体に例えれば、通信キャリアの5Gは「人と人とのコミュニケーションを支えるもの」、一方、ローカル5Gは「人の体内の神経(例えば目から脳、手足をつなぐもの)」といえるでしょう。

また、通信キャリアの5Gは画一的なネットワークサービスを提供することが求められています。これに対してローカル5Gは、自社専用で利用するネットワークのため自社のニーズにあわせて個別に最適化した自社専用の5Gシステムを構築できます。

ローカル5Gは個別最適化した自分仕様のネットワーク

製造業におけるローカル5Gの活用で、Cyber FACTORYの構築へ

製造業では、ローカル5Gがどのように活用されるのでしょうか。

従来の製造現場には、装置の稼働状況や生産物の状態などを目視で監視し、手作業で調整、操作を行っている場所が多く存在します。こうした現場では熟練者の不足が顕在化してきており、それらの作業の継承、自動化や効率化を求める声も高まっています。これらの課題解決にローカル5Gが期待されています。

ものづくりとローカル5G

ローカル5Gを活用したユースケースを見ていきましょう。富士通と協業しているエリクソン社が、ジェットエンジン部品を製造しているメーカーの製造現場に、ローカル5Gを適用した例です。ディスクと刃を一体化したジェットエンジンの部品であるBLISKの製造には、金属を削るのに15~20時間を要します。そして、製造後に検査を行い、エラーがあれば改めて削り直していました。しかし、削り過ぎた場合は修正できないため不良品となっていました。

この作業を改善するため、エリクソン社は、低遅延を特長とする加速度センサー付き5GモジュールをBLISKに組み込みました。異常が発生した際はすぐに検知し動作を修正することで、部品製造の歩留まりの向上を実現しました。

5G適用によりジェットエンジンのコンポーネントの生産性が向上

また、複数のロボット間の連携作業にローカル5Gを適用した例では、各ロボットを制御するPLC(制御ロジック)をエッジコンピューティングとして実現するクラウド基盤(エッジクラウド)の上に配備し、ロボットとエッジクラウドをローカル5Gで接続することで、円滑な連携が行える仕組みを構築しました。これにより、有線のケーブルを使わずに、柔軟な設備配置も可能となります。

この例のように、ローカル5Gとクラウドを活用すれば、ものづくりの現場は大きく変わります。これまでのものづくりの現場におけるネットワークは、堅牢性を重視した多段構造を取っていました。その結果、さまざまな場所に、さまざまな仕様の制御装置が組み込まれて、生産ラインの変更やその保守が難しいという課題を抱えていました。

一方、ローカル5Gを活用してエッジクラウドで制御を実現すれば、システムの単純化が可能となり、保守性の向上に加え新たな仕組みの導入を容易にします。また、工場内の様々な製造設備や機器(エッジ機器)から収集されるデータをローカル5Gのネットワークで遅延なく送受信できれば、工場をリアルタイムにクラウド上に写像する「Cyber Factory」を実現できます。

5Gが実現する工場のCyber Factory化

富士通の5Gネットワーク製品を製造している富士通テレコムネットワークス株式会社では、ローカル5Gを活用して、障害物やノイズが多い工場建屋でも機器や人の位置、稼働情報をリアルタイムに取得するシステムを構築しています。また、構内搬送やピッキングの最適なルートを瞬時に導き出せるデジタルアニーラと組み合わせることで、無人搬送車の運用を安心・安全かつ、容易に実現し、作業効率を飛躍的に向上させていきます。

このようにして、収集したいろいろなデータをCyber Factoryに貯蔵し、分析することで、これまで見えていなかったパターンを検出できます。その結果、得られた洞察から、ものづくりを発展させる鍵がとり出せるのではないでしょうか。

ローカル5Gを活用したものづくりの実現に寄与する富士通の取り組み

今後、実世界のデータをすばやく収集し、適切に処理して、価値ある情報に変換し、さまざまなサービスを実現することが重要になります。5Gの役割は、それらをつなぐことといえるでしょう。したがって、5Gは単なる通信技術ではなく、AIなどのデータ分析を含めた大きな枠組みとしてとらえる必要があります。富士通では、必要となるデータ分析、デジタル化、ネットワークインフラに関する技術・サービスを提供しています。

実世界とデジタル空間をつなぐ5G

製造業向けには、お客様の競争力強化を支援するために、ものづくりのあらゆる情報をつなげるプラットフォームとして 「ものづくりデジタルプレイスCOLMINA」を提供しています。

製造現場の情報をローカル5G経由でCOLMINAにつなげることで、工場における人、または製造物、そして、ものづくり全体にかかわる業務システムやノウハウの連携を、ひいては企業間におけるサプライチェーンの連携を実現できるようになります。

これを工場に適用すれば、製造現場のセンサーや製造機械のカメラから取得したデータを、ローカル5Gを介してデジタル空間に渡せるようになります。デジタル空間では、受けとったデータをもとに見える化やデータ分析シミュレーションを行い、その結果を実世界にフィードバックすることで改善につなげられます。実世界とデジタル空間を使った改善のサイクルを繰り返し、さらなるDXにつなげていくことができるでしょう。

5Gが生産現場の高度化にも貢献

また、ローカル5Gは人間の行う作業の品質向上にも役立てられます。

生産現場ではさまざまな工夫により作業ミスの低減に取り組んでおり、作業が正しく行われたのかを検査するチェックポイントを設けて、作業の抜け漏れをなくしています。

作業の様子をカメラで撮影し、映像分析結果をセンサーとして活用します。高精細カメラと組み合わせれば、作業者がマニュアルと異なる手順で操作したとき、すぐに通知して正しい作業をやり直せます。これを実現するには、多数の高精細画像をリアルタイムで通信する手段が必要となるため、大容量高速通信を実現するローカル5Gが適しています。作業現場における作業者の行動を分析すれば、作業プロセス改善のためのデータも取得でき、「次に何を準備しておけば良いのか」といった将来予測を立てることも可能になります。

エッジコンピューティングとの連携で、ローカル5Gの可能性はさらに大きく

ローカル5Gの活用によって、製造業におけるクラウドの活用法も変わっていくでしょう。これまでのような「インターネットを介したクラウドアプリケーション」という使い方では、ローカル5Gの強みである低遅延のメリットを生かすことができません。しかし、エッジコンピューティングを利用して、遅延を抑えつつ製造機械を制御し、そこから得られた情報をクラウドで分析するという形にすれば、「低遅延」と「データ処理の負荷の最適化」を両立できるでしょう。

このようなローカル5Gの活用を後押しするものとして、富士通は、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)というプラットフォームを開発しています。

ローカル5Gの活用を後押しする MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)

また、自分仕様のネットワークが構築できるローカル5Gは、自社で基地局を持つことができます。そのために富士通では、汎用のハードウェアで動くソフトウェア基地局の開発を進めています。ローカル5G導入のスモールスタートが行いやすくなり、幅広い企業の要求に対し、柔軟に対応できるネットワークが実現できます。

これから本格的な導入が進むであろうローカル5Gは、製造業にとってDXを加速するドライバーになるでしょう。2020年は日本の5Gイヤーとなり、ローカル5Gを活用しようと取り組む企業も増えるはずです。

しかし多くの企業では、5G導入のために専用の人材を配置するのは難しいのではないでしょうか。

富士通には通信キャリア向けに培ったネットワーク技術と多くのITシステムを納入運用した実績があります。また、お客様と富士通との共創のノウハウ、ネットワークインフラやアプリケーションから基地局の開発まで、お客様を幅広く支援することが可能です。ローカル5Gを利用するには免許取得が必要となりますが、その申請や運用も富士通が支援します。富士通は、お客様のローカル5Gシステムの構築から運用までを、トータルかつ強力にサポートしていきます。

ローカル5G適用にあたって忘れてはいけないのは、ローカル5Gそのものは単なるネットワークにすぎないということです。ローカル5Gを駆使したDXの実現に向けて、アプリケーションやサービス全体をしっかりと考えることが必要であり、富士通はDX企業としてその取り組みを全面的に支援していきたいと考えています。

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