製造業で導入が進む品質管理のAI活用例

著しく進化を続けるAI(人工知能)技術は、様々な業種で実用、実装の段階に入ってきています。特に製造業では、製品の品質管理は熟練者に頼る部分が大きく、少子高齢化による労働人口の減少問題を抱え、熟練技術者の退職による若手へのスムーズなノウハウ継承が懸念されています。品質管理体制を維持することは企業の生命線であり、この問題をAI活用によって解決しようという動きが活発化しています。AIの導入で得られる効果を、具体例を交えてご紹介します。

正常品の画像を学習して異常品を検出

製造業の品質管理でAI導入が進んでいるのは、「外観品質検査」です。ディープラーニングが正常品の画像のみを学習して、異常品とのわずかな差異を検出します。AIが異常品を自動検知することで、人の目視にかかっていた時間と作業コストが削減されます。

従来の製造ラインでの外観検査では、異常パターンをすべて洗い出すのは困難なため、検査機が誤って「異常」とみなす誤検知エラーが続出し、それに対応する人的作業のコストが大きな課題でした。ディープラーニングを活用すれば誤検知が発生した場合でもそれを「教師データ」として再学習させることで、さらに次回以降の検査精度を向上させることができます。

また、設備等の画像データを解析するシステムでは、設備表面の錆びやひび割れを高精度で検知することができます。特に錆びでは画素単位での検知が可能なので、領域の何%が浸食されているのかという「定量的なリスク」を捉えることもできます。この技術は設備等の破損・浸食に限らず、梱包工程での箱の破損や汚れ、繊維など素材系の品質検査にも応用できます。

「専門分野別意味検索」でベテランのノウハウを伝承

図1 ネットワーク表示による探索候補の直感的絞込みイメージ

製造業の現場にある蓄積された膨大な過去製品の技術報告文書やトラブル事例の技術情報などは、ドキュメントの表記・表現には記載者ごとに“ゆれ”があるため、探したい類似情報を素早く見つけることが大変困難でした。「専門分野別意味検索」という社内技術情報の活用を支援するAI技術は関連情報をネットワーク表示(図1)して探索候補を直感的に絞り込むことができ、求めている情報を効率的に見つけ出すことができます。新製品の開発時などに過去機種の技術情報の活用がしやすく、製品の品質改善や開発コスト削減を果たすことができます。

また工場などの現場では、現在も手書きによるドキュメントが多く存在します。既存のOCR技術では判読することは難しい手書き文字でも、AI技術を活用することで高精度で認識することが可能です。人の手でデータ入力をする場合と比べて、作業時間と入力ミスを大幅に低減できます。

富士通AIサービス事業本部
第一フロンティア事業部
永井 浩史

富士通AIサービス事業本部第一フロンティア事業部の永井浩史は「専門分野のドキュメントを誰が書いたのかも検索でき、読んだだけでは分からない難しい内容の場合は書いた人に直接電話して聞くこともできます。過去の技術情報はベテラン社員のノウハウの蓄積であり、これを経験の浅い社員でもすぐに検索できることになります」と話します。

AIが人の動作を認識して事故防止につなげる

AIは、部品の故障予兆を捉えることにも活用できます。例えば、自動車の製造で車載部品に関する複数のデータ項目を組み合わせて「正常状態」を定義し、“そこから離れている度合い”を元に「異常度」という新しい指標を定義。異常度を算出して可視化することによって、部品ごとの故障リスクを捉えることが可能になりました。

さらに、動画データで人の動作を理解することも可能です。ディープラーニングで人の骨格情報を分析し、工場内で作業者の体の動きが正常で安全なものなのか、それとも異常で事故発生につながりかねないものなのかを確認することで、現場での事故を防止する安全管理面でも役立てることができます。

永井は「今のディープラーニングは姿勢や体の角度を認識して、正確に判断することができます。例えば、大きな工場内で『不審な行動をしている人がいる』ことは、人間にしか分からないことです。しかし、動画データを集めることにより、ディープラーニングで判断できるところまで来ています」と解説します。

グローバルの競争を勝ち抜くためのAI導入

富士通研究所
人工知能研究所 特任研究員
丸山 文宏

AIは今後さらなる進化を遂げることは間違いありません。品質管理の自動化は徹底され、人をますます強力に支援するAIシステムの構築が進んでいきます。ディープラーニングの適用領域は、現状の「画像・音声・テキストデータ」から「時系列データ」「グラフデータ」へと拡大する研究が進んでいます。また、現在は“ブラックボックス”的な技術であるため社会での実装領域が限られているディープラーニングにおいて、「なぜそういう分析結果を出したのか?」という理由と根拠を人間に分かるように提示する「説明可能なAI」が開発されています。

さらに、大量の仮説モデルを網羅して可能性を探る、新たな機械学習技術「ワイドラーニング」の開発も進んでいます。これは、製品異常判定で故障の予知検知や重大障害を検知するシステム保守など、低頻度の事象の判断やAIの透明性が必要な業務での導入が想定さています。富士通研究所人工知能研究所特任研究員の丸山文宏は「AIが進むことで、製造の現場で人間が教えたことをすぐにAIが学習するようになるでしょう。そして最終的には、工場で人間同士が作業するのと同じように、人間とAIを搭載したロボットが協調して作業するようになります」と語っています。

ただし、AIはあくまでも“手段”の1つであり、完全に人間に取って代わることはできません。AI活用の目的は多くのデータの中から人間に必要な情報を的確に捉え、その特徴を人間に分かるように分析・フィードバックすることで業務を革新し、企業利益を最大化することにあります。しかし、日本企業のAI技術導入状況は欧米先進国や中国と比べて著しく遅れているといわれます。日本の製造業の現場がAI技術を活用して、安定した品質管理システムを確立すれば、グローバルの競争を勝ち抜くことができるでしょう。

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