いわき市役所様

AIを駆使して膨大なデータから介護予防に挑む

高齢者の状態は変化します。でもどこかで接点を持っていて情報を共有する仕組みがあればフォローすることが可能です。富士通とともに取り組んでAIを活用し効率よく将来介護度が悪化しそうなハイリスク候補者をリスト化できるようになりました。

いわき市役所
介護保険課
介護認定係 係長

いわきの地域包括ケア「igoku」
編集長
猪狩 僚 氏

背景

介護予防こそが日本の未来を切り拓く

少子高齢化は大きな社会問題です。介護認定者にかかる介護保険費も増加し続け、地方自治体にとっては大きな負担になっています。これを適正化するために重要になるのが、介護予防です。

実際に、高齢者の社会参画を促し、食と栄養を整え、運動を促すことで、少しでも長く元気でいられる期間を増やす取り組みが全国に広がっています。福島県いわき市は積極的に地域ケアに取り組んできました。

しかし、地域包括ケアを推進する、いわき市役所 介護保険課 介護認定係 係長 猪狩 僚氏は問題点も指摘します。「役所は申請主義です。介護を申し出ていただけないと役所は把握できません。介護予防には今現在介護認定されてない多くの方から、将来介護度が急激に悪化しそうなハイリスク者を見つけ早期にアプローチしてフォローすることが必要です」

福祉の担当者は高齢者を見守る活動をしていますが、時間も人も限られているだけに、すべての住民と接触することは不可能です。いわき市には後期高齢者だけでも5万人以上が住んでいます。効率的にハイリスク者を見つけ出す方法が求められていました。

経緯

データを活用して効率的なアプローチを

当初、猪狩氏は介護保険システムのデータを活用することを考えました。2017年のことです。しかし、それだけではハイリスク者の抽出は難しいことがわかり、市役所が持つ住民情報や介護認定情報、障がい情報、特定健診結果などを活用したいと考えました。そのためには部署の垣根を超えなければなりません。

「実現するのは簡単ではありませんでした。目的外利用にならないかを審議してもらって認めてもらうまで9カ月かかりました。約9万7000人の高齢者全部と同居家族のデータを活用できるようになったのです」と猪狩氏は語ります。

猪狩氏は、介護保険システムを手がける富士通に声をかけ、介護予防対象者の把握をスタートさせました。2018年には、年齢や年収、障害の有無などから、職員の経験則によってハイリスク者を298名抽出し、その全員を地域包括支援センターの職員が訪問してヒアリングしました。その結果、8割強の方に何らかの関わりが必要なことがわかりました。

そして2019年から始まったのがAIの活用です。どんな条件にあった人が短期間に介護認定されているのかといった過去の実績をAIに学習させ、AIによって順位づけされた上位230名のハイリスク者を抽出して、状況を確認しました。

効果と今後の展望

この取り組みが広がることで日本が変わる

高齢者の状態は変化します。なので、どこかで接点を持っている仕組みが重要です。適切なアプローチや支援を行うことで介護の重度化を防ぐことができるのではと考えています。

「しかし、時間も人も限られるなかで全員と接触することは現実的には難しい。だからこそハイリスク者を絞り込むシステムが必要だったのです」と猪狩氏は、今の取り組みを続けて社会的、経済的効果が広く浸透していけばと語ります。

次の展開として考えているのが、ITを活用した業務の効率化です。ハイリスク者を訪問した職員は役所に戻ってから訪問結果をシステムに登録していますが、タブレットPCなどを携帯してその場で入力できれば、入力にかかっていた時間を本来の業務に当てることができます。

「福祉の領域には高齢者をはじめ多くの人たちが関係します。ちょっとした業務の効率化でもインパクトが大きいものです。同様な思いを持ってくれる自治体が増えれば、この国の明るい未来が見えてくると思うのです」と猪狩氏は語ります。

いわき市役所

日本
業種地方自治体
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[2020年掲載]

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