研究者の夢 Researcher's Dream

人間のように柔軟に思考し行動する「気が利くAI」の開発に向けて

藤本 純也Fujimoto Junya人工知能研究所

Article|2024-04-18

人間のような「気が利くAI」を作りたい

大学での研究室では、キッチンでの作業を支援してくれるロボットの開発プロジェクトに携わりました(*1) 。このプロジェクトでは、センサーを搭載したロボットハンドで食器を正確に認識し、食器洗浄機へ運ぶことを実現しました。しかし、実際には、できなかったこともたくさんあります。例えば、食器が裏返しになっていたり、形状が変わったりするだけで対応ができなくなることがあります。さらに実際に役立つものにするには、食事後の片づける食器であるか、洗浄後に食器をしまう場所はどこか、割れ物で丁寧に扱う必要があるか、といった多くのことを考慮できるようになる必要があります。人間にとって簡単な指示も、ロボットが対応するには難しい場合が多いです。ロボットに簡単な動作を行わせるためだけでも、細かいプログラムの入力が必要であることなど、実験を通じてはじめて経験できることがたくさんありました。

これらの経験から、人間の対応能力の凄さを実感するとともに、細かなプログラムを入力しなくても、前後の状況や、個別の家庭のルール、常識やマナー等も把握して、適切にお皿を棚にしまってくれるような「気が利くAI」を開発したいという想いが強くなりました。学ぶことの多かった大学時代に様々な視点から実験のアドバイスをくださった指導教授には、特に感謝しています。教授は、考えるだけでなく自分の手を動かし、実際にものを作って確認をすることの重要性と、その楽しさも教えてくださいました。

初心者と熟練者の違いの分析を効率化する技術開発

入社してから、多くのプロジェクトを通して、自分の手を動かして試行錯誤を早く回す経験を積み重ねてきました。その中で最も印象に残っているプロジェクトは、株式会社ブロードリーフの「OTRS+AI」サービスに採用された作業分節AI技術の共同開発プロジェクトです(*2)。工場などの現場では、作業者の習熟度による作業のバラツキが課題となっています。初心者とお手本となる熟練者の作業をカメラで撮影し、映像を見て作業のどの部分で違いがあるのかを分析し、改善を繰り返すことが行われていますが、それには多くの時間と労力が必要になります。そこで、作業習熟度向上の教育期間を短縮するために、初心者と熟練者の作業の差の確認を効率化する技術の開発に挑戦しました。

一般的に、一連の定型作業における要素作業を高精度に自動検出するAIモデルを構築するには、作業の様子を映した映像と各要素作業の対応を人手でラベル付けした大量の教師データを準備し、AIに学習させる必要があります。これにより、学習したデータに対してのみうまく機能する過剰適合の現象を防ぐことができます。しかし、人が検出方法をプログラムしないまでも大量の教師データを作成するのは効率的ではありません。そのため、作業一回分の教師データで作業を認識できるようにしたいと考えましたが、そのような既存のモデルは存在しませんでした。難しい挑戦でしたが、試行錯誤を繰り返し、最初に教師なしの分析を行うことにより抽出した構造を確率モデルに組み込むことで、一回分の教師データだけで作業を認識できる独自モデルを開発することができました(*3)。

開発の過程で、頭で考えたものが実際に上手く動いた瞬間の喜びや楽しさを何度も感じることができました。さらに、初心者と熟練者のそれぞれの要素作業ごとの作業時間や動作の違いを手軽に確認できるようになったことで、お客様からも大満足したと感想を頂きました。実世界には多様性や不確実性があり、AIを製品化することはハードルが高いと感じられます。精度や汎用性を追求し過ぎず、一定の条件下で便利に使用できるように、スピード感を持ってアウトプットし、実際の現場で試用していただくことが重要だと考えます。このプロジェクトの研究成果をいち早く世に送り出すことができ、本当に嬉しいです。

充実した毎日を送る

私の一日は朝食からスタートします。基本的にテレワークなので、子供を保育園に連れて行ってから仕事を開始します。手を動かして考える時間をしっかりと確保することが重要だと考えているため、打ち合わせと作業する時間のバランスを保つようにしています。最近は仕事以外の時間に、機械学習の専門書を読んでいます。理論を学ぶだけでなく、あらたなAI技術の応用にどのように結びつけるか意識して考えながら読んでいます。もちろん、仕事はいつもうまくいくわけではありません。困難に直面することやうまくいかない時期もありました。そんな時、ももいろクローバーZの歌やダンスなど何事にもまっすぐに取り組む姿に元気をもらい、困難を乗り越える力となりました。

私は運動が好きで、20年以上にわたりバドミントンを趣味として楽しんできました。毎年、バドミントンの大会に向けて週に一、二回の練習を行っています。練習仲間には、富士通の研究所のメンバーもおり、研究以外のつながりも大切にしています。バドミントン以外では、妻と一緒にテレビを観たり、自転車で散策したりすることも、リフレッシュに最適です。

父との記憶、研究開発の原点とその先

幼い頃、私はファミリーコンピュータ(ファミコン)のゲームで遊ぶのが好きな子供でした。ファミコンのケーブル端子の故障でゲームの画面が映らなくなった時のことです。研究開発の仕事をしていた父がファミコンを分解し、基板にケーブルを半田付けして修理してくれました。ファミコン内部の緑色の基板を初めて見たことも印象的でしたが、そんな風に物をすぐに修理できることにも憧れました。研究開発の道に進んだのは父の影響もあったと思います。研究分野は異なりますが、世の中に役立つ技術を作りたいということは、親子の間で共通だと思います。ChatGPTをはじめとしてAIのビジネス応用が著しい進化を遂げましたが、知能を持つAIやロボットが人々の日常生活を支援するためには、AIがリアルな世界を理解する能力の向上など、まだ多くの課題があります。これらの課題を解決し、技術の発展に貢献するために、今後も独自のアプローチで研究開発を続けたいと考えています。

編集後記

彼はロボットのハードウェアよりも、ロボットを制御する「知能」に深い興味を持っていると教えてくれた。散歩したり、お風呂に入っている時にひらめきが多いと語った。研究アイデアを具現化するために、書き出してから一晩寝かせ、再検討することが多いようだ。彼が実現したい人工知能の「知能」が来る日を楽しみにしている。(技術戦略本部 白 湘一)

藤本 純也
Fujimoto Junya
人工知能研究所
大学院 情報理工学系研究科卒
2010年入社
私のパーパス
アイデアをカタチに、みんなの活力に

本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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