デザインセンター長×デザインアドボケート対談 変革は組織から社会へ―富士通デザインセンターの歩みと展望

デザインセンター長×デザインアドボケート対談
変革は組織から社会へ―富士通デザインセンターの歩みと展望



掲載日 2023年4月14日

デザイン思考を活用したDX企業への変革を目指し、2020年4月に発足した富士通デザインセンター。これまで、経営層に対するTOP FIRST プログラムをはじめ、幹部社員向けのタスクフォースプロジェクト、各部門の社員向けのeラーニングなどによるデザイン思考の浸透を図りつつ、デザイナー伴走型のプログラムにより、その価値を実践の中で提示。社内外から注目を集めたデザインアドボケートの導入やデザインテキストブックの公開など、富士通のデザイン経営をけん引するさまざまな取り組みを積み重ねてきました。3年という節目を迎えた現在、これまでの歩みを振り返り、今後の展望をセンター長の宇田とデザインアドボケートの横田の2人が語り合いました。

インタビュイープロフィール
富士通株式会社 デザインセンター

  • センター長 宇田 哲也
  • デザインアドボケート 横田 奈々

部署名・肩書は取材当時のものになります。


富士通13万人へのデザイン思考の浸透に邁進した3年間

宇田: 早いものでデザインセンター発足から3年が経ちました。時田社長の「富士通13万人の社員がデザイン思考をビジネスリテラシーとして体得する」という強いメッセージを受けてのスタート。そこから、「TOP FIRST プログラム」をはじめとしたさまざまな階層でのプロジェクトや全社活動としての「フジトラ(Fujitsu Transformation)」などを通じ、社内外で富士通のデザイン思考浸透活動が認知され、手探り状態ではありましたが、デザインセンターの果たす役割についても一目置かれるようになってきました。

横田: 改めて、富士通の置かれている状況とデザインセンターの役割をどのようにとらえていますか?

宇田: 富士通を取り巻く事業環境はものすごいスピードで変化しています。メーカーが生産した製品・サービスをユーザーが大量消費するという一方向の消費の流れは終わろうとしているため、販売者視点でのモノ売り・コト売りの発想からの脱却が必要なんです。そうした中では生活者一人ひとりを見て対話しながら、より良い生活に向けて改善を図っていくためのデザイン思考が欠かせません。新しい時代の生活者と共創者の関係を作り上げるためのプロトタイプがデザインアドボケート。富士通のDXをリードすべきデザインセンターは、時代の変化に先回りして世界や社会に必要とされるものを生み出していかなくてはならないのです。

デザインセンタ―長 宇田 哲也

横田: 私自身は、富士通の大きな変革の真っただ中に入社し、2年目でデザインアドボケートに就任させていただきました。「変わり続けているのが当たり前」とポジティブに受け止めています。学生時代にスタートアップでインターンを経験していますので、カオスを楽しむマインドなんです。

宇田: 頼もしいですね。デザインセンターの新しい挑戦やデザインアドボケートは社内外から評価され、停滞する日本経済の課題を打破するものとして、大手経済紙をはじめ、テレビ、専門誌など数々のメディアで取り上げられました。企業の一部署の取り組みとしては異例の注目度だったと思います。

デザインアドボケート 横田 奈々


社会とのコミュニケーションの要であるデザインアドボケート

横田: いま私が務めているデザインアドボケートの導入には、宇田さんとしてはどんな狙いがあったのですか?

宇田: 富士通社内で実施されている「ジョブ型人材登用」をベースに、変化の激しい時代に対応して、組織がそのとき求める人材を登用して素早く結果を出すためのデザインを加えました。これまでの時間をかけて昇進していくキャリアプランとは異なり斬新なポジションだと思います。加えて、デザインアドボケートはユーザーのもとに飛び込んでいくため、コミュニケーション力、プレゼン力、共感力、リーダーシップが求められる役割であり、人間的な魅力も重要です。

横田: 実は私、デザインアドボケートに就任する以前から富士通の情報発信に課題を感じていたんです。スタートアップでの経験からもっとプロセスを見せていく重要性を感じていて、課題に挑戦できるチャンスと思いデザインアドボケートに応募しました。

宇田: そういえば、就任後初めての社外イベントで横田さんが見せた活躍が印象に残っています。約700人が参加したFigma(※)イベントの舞台上、アクシデントで生じた5分間を堂々とトークでつないだのには驚きました。当初はメディアで「23歳課長」などと騒がれましたが、社内外への発信を通して、徐々に意義や本質を理解してもらえてきましたね。

デザインアドボケートとしての初登壇イベント「Schema by Figma」でのプレゼンの様子

横田: 場を見て何を話すかを察知する能力は学生時代のDJ経験で培われたものです(笑)。ユーザー視点で発想するという意味では、デザインもDJも同じかもしれません。今後の活動としては、noteや3月開設のYouTube、SNSなどで発信を続けていきます。デザインアドボケートのゴールは、デザインセンターが考える「社会課題に取り組むエコシステム」に多くの方が参画してくれること。今は、さまざまな活動の中で、社会課題に対してデザインアプローチが有効という仮説を確かなものにしていくことにやりがいを感じています。

  • ※Figma(フィグマ)
    ブラウザ上で簡単にUIデザインができるツール。複数のメンバーでリアルタイムに編集できるためチームでの作業にも向いている。
デザインアドボケートとして発信する動画もテキスト記事も、すべて自分で企画、撮影、編集を行う

デザインで社会課題の解決に貢献する組織へ

宇田: これまでの3年間は、社内へのデザイン思考の浸透を目標にしてきました。これからは、デザインによる直接的な社会課題の解決への貢献を目標に、デザインやデザイン組織のグローバル化、社外に向かってのオープン化に取り組んでいく方針です。また、デザインセンターが目立つよりも、社内外を問わず富士通デザインセンターと関わった方々にデザインの魅力や価値を周囲に広げてもらうようなアプローチへと転換していきたいと思っています。利用する人にとって製品の魅力・使いやすさのそばにそっと、でも確かにデザインセンターが存在している姿を目指していきます。

横田: 「デザイン=見た目をよくするもの」だったのが、課題を発見するために有用なプロセスであることが浸透してきましたよね。これまで富士通はお客様の要望に応えることが仕事でしたが、これからは社会課題を解決していく意識を一人ひとりが持ち発信することが求められると思います。私自身、「(自分の)取り組んでいることは伝えないと知ってもらえない」という時田社長の新入社員に対する言葉で、発信は全員がやっていくものだと改めて気づかされました。発信することで言語化され、もう一度自分で考えるプロセスが生まれる。それが大切なんです。

宇田: これからの富士通を担うのは、若手層だけでなくベテランも含めた全世代です。重要なのは、それぞれが社会や組織に貢献するためには何をすべきかを自問自答して行動していくこと。グローバル化の中で競争力が低下している日本ですが、本来ならば強い企業・組織が日本を支えるべきところが、過保護にされて企業体力が低下し、国としての競争力も低下してしまったのではないかと思います。同じように強い企業・組織は強い従業員が支えるべきで、一人ひとりが強くなる必要があります。

横田: 富士通の強みは多様な人材だと思います。例えば、デザインセンターにはUI、プロダクト、コンサルティング、VRなどさまざまな分野に精通している人材がいて、どんな方と仕事をしていても日々学びがあります。一方、富士通で長く働いている方はプロセスに則って仕事をする姿勢が強いと感じることがあります。もう少し“暴れて”もいいんじゃないかなと思うことも。私自身は「デザインで人と経済を沸かす」という個人のパーパスを掲げて、デザインの魅力や価値をさまざまな形で発信し、目の前の課題に取り組んでいきたいと考えています。

宇田: 社会の変化、技術の進歩によって、富士通自体の事業もどんどん変化しています。強い組織とは、違うことをやっているように見えてお互いを理解して、いざという時にはスピーディーに結びついて対応できる組織。求められるものが目まぐるしく変化していく時代には、組織の多様性が強さになります。一人ひとりの強さと組織の多様性によって、変化に先回りしていく。富士通やデザインセンターが今後も継続するために、そして社会課題の解決に貢献するために、一人ひとりが考えて行動する姿勢が求められていると思います。



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