実現可能性の高いアイデアを楽しく発想できる「デジテク・カード」が、IAUD国際デザイン賞金賞を受賞

実現可能性の高いアイデアを楽しく発想できる
「デジテク・カード」が、IAUD国際デザイン賞金賞を受賞



掲載日 2024年3月18日

変動する時代の中、デジタルトランスフォーメーション(DX)が声高に叫ばれ、イノベーションや新規事業創出に向けたアイデアを求められる機会が増えています。しかし、アイデアを出そうとしてもなかなか思いつかなかったり、思いついたとしても技術的な実現性が低く、コンセプト止まりになったりすることはないでしょうか。そんな問題意識から生まれたのが、アイディエーションツール「デジテク・カード」です。IAUD国際デザイン賞2023で金賞を受賞したこのカードについて、担当者に話を聞きました。

  • ※ IAUD国際デザイン賞
    ユニヴァーサルデザイン社会の実現に向けて、特に顕著な活動の実践や提案を行なっている団体・個人に授与し国際的に表彰するIAUD(一般財団法人 国際ユニヴァーサルデザイン協議会 )の事業

インタビュイープロフィール

  • ジャパン・グローバルゲートウェイ
    デリバリーテクノロジー推進統括部

    • マネージャー 松井 和貴
    • 岡村 香奈
    • 朴 理紗
  • デザインセンター 経営デザイン部

    • 部署名・肩書は取材当時のものになります。
左から、在家・松井・朴・岡村

デジタル技術に詳しくない人でも実現可能性の高いアイデアが発想できるカード

富士通では、10年以上前から共創活動に力を入れています。お客様と共にワークショップ(以下、WS)を開催し、あるべき姿を描いたり課題解決を目指したりする活動です。ただ技術に詳しくない人もいるWSでは、アイデアが出ても技術的な実現可能性の低い、突飛なアイデアが多くなりがちでした。逆にWSを技術志向にすると、難しい資料を大量に読んでも良いアイデアに結び付かないことがありました。

例えば、デジタル技術に詳しくない人のアイデアは「AIが良い感じにおいしいコーヒーを淹れてくれるマシン」といったあいまいな発想になりがちです。この発想を、もっと具体的な機能に落とし込むためのツールがデジテク・カードです。デジタル技術に詳しくない一般の方が使うことも念頭に置き、製作しました。

在家は、次のように当時を振り返ります。「既に社内に、デジタル技術を志向したアイディエーションツールはいくつかありましたので、それらを参考にして使い方が分かりやすく発想しやすいカードを作りたいと考えました。富士通の従業員は、デジタル技術に詳しい人と、興味はあるが詳しくない人に二分されると感じていて、私のような詳しくない人でも使えるように製作しました。楽しくないツールは使いたくならないので、楽しみながら発想できるカードを目指しました」

デジテクカードの活動・目的

コンセプトは「アイデアはひらめくものではなく、見つけるもの」

「アイデアは独創力のある一握りの優れた人だけが思いつけるものではなく、誰でも見つけられるものだと考えています。とはいえ、『では見つけてください』と言われても難しいかもしれません。それを助けるのがデジテク・カードです」(松井)。

デジテクカードのコンテンツ内容

カードはAI、IoTなど5分野の技術を対象に、全部で27枚あります。これらのデジタル技術は、富士通の技術力で実現できるもので、注力している分野を考慮してまとめました。例えばAIの分野には「変動を推測する」「最適な判断を支援する」といったカードがあります。
試作品のデザインでは写真やCGを使いましたが、試行錯誤の結果、イラストに変更しました。

「柔らかい印象のイラストのほうがアイデアを発想しやすいと考えてデザインを見直しました。また写真は具体的過ぎて、発想の幅が狭まるのではという懸念もありました」(在家)

カードの表にはイラストと共に「○○を□□する」というデジタル技術が与える効能が書かれており、裏には実際にそのデジタル技術を使った事例がいくつか載っています。効能を読んでピンと来ないデジタル技術でも、裏の事例を読むことで、自分の課題と置き換えて発想できる人もいるのではと考えました。

カードの画像カードの表にはデジタル技術の効能、裏には事例が書かれている

オンラインでもワークショップが可能に

デジテク・カードを使うWSでは、課題の洗い出しから始めます。「カードを使う前に、ユーザーにインタビューをしたりペルソナを設定したりして、社内の業務の進め方や想定するカスタマージャーニーなどから困りごとや機会損失を探し、ユーザーが抱える課題を洗い出します」(岡村)。
このように丁寧に課題を洗い出すことで、担当営業ですら把握していなかった課題が出ることもよくあるそうです。

課題の洗い出しが終わると、いよいよカードを使ったアイディエーションです。
「3~4人のグループを作り、トランプのようにカードを配ってカードを見ながらアイデア出しを行います。それを共有し、カードをシャッフルしてもう1回アイデア出しを行うことで、他の人のアイデアと組み合わせたりカードを交換したりして、さらにアイデアの幅を広げるよう促します」(朴)。

ジャパン・グローバルゲートウェイ 朴

コロナ禍で対面のWSが難しくなったのを受け、オンラインで利用できるデータ版も開発しました。
「データ版ではカードの表と裏が1画面で見られます。様々な改善を重ねた結果、今ではオンラインでも対面と遜色のないアイデア出しができるようになりました。遠隔地の方も参加できますし、オンラインホワイトボード上で自分以外の人やチームのアイデアを簡単に確認できるなどのメリットもあります」(朴)。
オンラインWSと対面WS、それぞれの良さを生かし、実績を重ねています。

「営業スタッフの業務改善につなげた企業や、地元企業や市民も参加したWSで、アイデア実現のためのリビングラボ活動に弾みをつけた自治体など、さまざまな領域でデジテク・カードが活用されています」(岡村)。

ジャパン・グローバルゲートウェイ 岡村

「病院や外来患者が抱える課題を把握し、DX提案につながるアイデアを検討するWSを開催しました。その結果、課題が見えてきて方向性が定まり、パッケージを提案してビジネスにつながりました」(松井)。
「お客様との会話のきっかけづくりや、PoC(概念実証)、製品提案の足掛かりとして使うほか、富士通と一緒に新しいことにチャレンジしませんか、とWSを開催することもあります」(朴)。
デジテク・カードは新入社員やインターン生の研修で、教材として使われたこともあります。学生向けのアイデアソンで採用した際には、デジタル技術に詳しくない高校生でも問題なく使えたそうです。

デジタルデバイドという現代の障害を取り除きたい

デジテク・カードは、IAUD国際デザイン賞2023を受賞しました。これまで富士通ではこの賞に、障がい者や高齢者が豊かな生活を送るための製品や活動を応募してきました。「このカードは、デジタルデバイドの解消がテーマです。これからの社会では、デジタルが使えないことも障害になり得るため、デジテク・カードもユニバーサルデザインの一種だと考えて応募しました。金賞をいただいて、本当に驚きましたが嬉しかったです」(在家)。
「応募の際には、ゲーム感覚で楽しみながら、デジタル技術に詳しくない人でも実現性を重視したアイデアが抽出できることを強調しました」(松井)。

デザインセンタ― 在家

審査員のコメント

「あらゆるビジネスや組織におけるアイデア発想や製品開発プロセスにおいて、専門家とそうでない人とのギャップを埋めるための非常に興味深く有用なツールです。その目的は、共創し、ハイブリッド・コラボレーションを促進し、技術革新が、恵まれない人々や新技術にあまり馴染みのない人々を含む、すべてのユーザー・グループにとってアクセスしやすく有益なものになるようにすることです。」

デジテク・カードを現場担当者の誰もが使える武器に

デジテク・カードは「1人で見ているだけでも勉強になるし、1人でアイデア出しをするのにも使える」(在家)ツールですが、デリバリーテクノロジー推進統括部では、デジテク・カードの使い方の勉強会を開催するなど、普及展開活動に努めています。「オンラインの勉強会には全国から参加があり、勉強会に参加できない方向けには、説明動画も提供しています。のれん分けのように現地で勉強会を開催して、普及している社員もいます」(岡村)と人気の様子を語ります。

ジャパン・グローバルゲートウェイ 松井

今後の展開について、「デジテク・カードがSE、BP(ビジネス・プロデューサー)に当たり前に使ってもらえる武器になれば良いですね。WSのひな形もあるので、ぜひ多くの方にチャレンジしてもらいたいです」(松井)と更なる広がりを目指しています。
システム開発の検討や商談推進での実績を増やしていくほか、「デジテク・カードの技術を、例えばお客様が持つ技術と組み合わせると、面白いアイデアが生まれるかもしれません」(岡村)といった共創やクロスインダストリーへの活用にも期待が高まっています。

また、デジテク・カード自体も進化し続けます。「技術のトレンドは推移しますし、富士通の強みとなるデジタル技術も変わります。それをカードに反映させ、アップデートしていきたいですし、裏面の事例も適宜見直していく予定です。デジテク・カードをきっかけに共創がスタートすれば、とても嬉しいですね」(松井)

デジテク・カードは、お客様と一緒に課題を見つけ、共に新しいビジネスを創出するためのカードです。デジテク・カードを活用して、お客様と共に新たな一歩を踏み出せれば幸いです。

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