時代の変曲点

Fujitsu Technology and Service Vision 2021

「Fujitsu Technology and Service Vision 2021」では、大きな時代の変曲点の後の新しい世界を形づくる5つの重要なトレンドを紹介するとともに、より持続可能な世界の構築に向けた富士通のレスポンシブルビジネスへの取り組み、富士通が今後重点を置く領域での未来シナリオ、そしてその実現に貢献するテクノロジーイノベーションのビジョンを紹介します。

パンデミックにより急速かつ強制的にデジタル化が進み、ビジネスそのもののあり方も大きく変わりました。時代の大きな変曲点に立つ今、経営の優先課題から新しい世界を形づくる5つのトレンドについて提言します。

変曲点となるパンデミック後の世界

2020年:リアルな日常の停止

新型コロナウイルスの感染拡大による社会・経済への影響

新型コロナウイルスの感染拡大は、わたしたちの生命を脅かしたと共に、日々の生活と経済活動に大きな影響をもたらしました。2021年5月時点で、累計の感染者数は1.7億人を超え、350万人を超える尊い命が失われました。

ワクチンが提供されるまでは人と人との接触を抑制する以外に有効な対抗策は無く、世界の多くの都市が閉鎖(ロックダウン)あるいは緊急事態下に置かれました。これは需要と供給の両面に非常に大きなショックを与え、世界経済は未曾有の不況に突入しました。2020年に世界のGDPは前年比3.3%減少し、各国で失業率も大きく上昇しました。その影響を受けて数十年にわたり着実に減少してきた貧困層の数が上昇、世界全体で新たに8,800万人が極度の貧困状態になり、 1日1.90ドル未満で暮らす人が7億人を上回りました。

パンデミックは人々の移動を制限し、グローバル化に向かう世界の潮流を逆行させました。外国に旅行する人は年間で10億人減少し、観光産業の収入は135兆円もの打撃を受けました。一方、世界中で学校が閉鎖され、15億人もの学生や生徒が教室での授業を受けられなくなりました。

これらの激変が世界のほとんどすべての国々で同時に起こったことは記憶されるべきです。地球上で非常に多くの人々が、これまで当たり前だったリアルな日常生活が止まってしまう経験を余儀なくされたのです。

パンデミックがもたらしたインパクト

パンデミックの世界的な影響パンデミックの世界的な影響

*1 WHO、*2 IMF、*3 *6 世界銀行、*4 *5 国連世界観光機関

2020年: 危機への対応

新型コロナウィルスの危機にどのように対応したのか?

この大きな危機に対して、わたしたちはどのように対応したのでしょうか?

都市が閉鎖あるいは緊急事態下に置かれる中で、全世界で非常に多くの企業が在宅勤務の実施を選択しました。富士通も、緊急事態宣言発出と同時に日本の従業員8万人を直ちにオンラインで働く在宅勤務にシフトさせました。その後、従業員の声に真摯に耳を傾け、全世界13万人の従業員のウェルビーイング(心身共に充実して健康に生きること)を向上することを目的に、リモートワークを通常の勤務形態とする新しいハイブリッドな働き方に抜本的に変革しました。

この危機に対応するために、デジタル技術が大きな力を発揮しました。在宅勤務に伴い、全世界でオンライン会議のトラフィックが急上昇しました。同時に在宅でのオンラインショッピングが伸長し、全世界でのeコマース取引額は前年比27.6%上昇しました*7。また、学校が閉鎖を余儀なくされる中で、多くの学校がオンライン授業に踏み切りました。ある大学の経営層の方は、長年議論してきたことがたった1週間で現実になったと語っています。

世界中の医療従事者が自身への危険をかえりみず、感染者の治療にあたってきたことは真に賞賛に値します。パンデミックは人の健康がどれほど重要であるかを再認識させました。企業も従業員とその家族、さらには顧客やコミュニティの人々の健康と幸せがビジネスの持続可能性に直結するという認識を新たにしたのです。

*7 Insider Intelligence

人の時代へ

未来はどのような世界なのでしょうか?

変曲点の先には何があるのでしょうか?わたしたちは、新しい世界が人を中心としたものになると信じています。

これまで企業は効率を向上し利益を最大化するために硬直的な事業構造を定め、特定のステークホルダーに価値を提供するように運営されてきました。しかし、これからの新しい世界では、変化に対応しうる柔軟な働き方やビジネスプロセスが重視されます。そして、企業は社会における役割を明確化し、幅広いステークホルダーに価値を提供し、社会的責任を果たすことを求められます。

企業はこれまで、自らをB2C (企業から消費者) またはB2B (企業から企業へ) と自社のビジネスを定義していましたが、この新しい時代はB2E (Business to Everyone)「企業からすべての人へ」、人を中心にビジネスを構築していきます。

ヒューマンセントリックな価値の提供

B2E(Business to Everyone)の定義

B2Eは、企業が人々のニーズに焦点を合わせることを意味しています。それが従業員、顧客、あるいはより広いコミュニティの人々であれ、企業がすべての人に関係するようになることを示しています。

新しい世界の優先課題

パンデミック後の新しい世界では、何が経営の優先課題なのか?

富士通の調査において、パンデミック後の新しい世界における経営の優先課題としてトップに挙げられたものは変化への対応力(レジリエンス)の重要性です。これに続き、ビジネスプロセスの自動化とデータ駆動経営や、オンラインとオフラインを融合した顧客体験や人をエンパワーするヒューマンセントリックな経営が挙げられています。
一方、パーパス駆動の経営や顧客・コミュニティからのトラスト、エコシステム型のビジネスモデルも欠かせない重要な要素です。

パンデミック後の世界で経営に重要な要素

パンデミック後の世界で経営に重要な要素とは?パンデミック後の世界で経営に重要な要素とは?

今回、調査から得られた洞察と様々な経営層の方々との対話にもとづき、今後の新しい世界を形づくる5つのトレンドを抽出しました。
これから、組織がどのように変化するのかについての4つのトレンドと、それを支え加速させる5番目のトレンドを紹介します。

1. サステナビリティ・ファースト

気候変動などの世界のサステナビリティ(持続可能性)を脅かす問題への対応や、誰も取り残さない平等な社会を築くための取り組みが、これまで以上に強く求められています。

環境・社会課題は深刻さを増す

企業は環境・社会課題にこれまで以上に真剣に取り組むように

昨年起きたパンデミックは、経営者の意識を大きく変化させました。富士通の調査に対して、78%のビジネスリーダーが「パンデミックを契機に社会への価値提供の重要性が増した」と回答しています。さらに、71%の企業が国連の持続可能な開発目標 (SDGs) に沿って社会に貢献する活動を強めていく計画です。

サステナビリティは経営の優先課題に

78%
パンデミックを契機に社会への価値提供の重要性が増した
71%
SDGsに沿った社会への貢献活動を増加する
91%
DXは社会への価値提供に役立った

この背景には、株主・投資家、顧客、従業員、コミュニティのメンバーを含む重要なステークホルダーが、企業の倫理的な行動や、環境・社会課題克服への貢献を強く求めていることが挙げられます。

重要なことは、ビジネスの目標と社会の目標の方向性を合わせることです。
そのために、パーパス(企業の社会における存在意義)が大きな意味を持ちます。企業はパーパス駆動型のビジネスに変革することによって、お客様、従業員、より広い社会のメンバーなど全ての人との関係性を強く維持することができます。

では、困難な課題を解決するために、何をすればよいのでしょうか。富士通の調査において、91%のビジネスリーダーが、「デジタルトランスフォーメーションが社会への価値提供に役立った」と回答しています。サステナビリティ向上のためにこそ、デジタル技術を活用したイノベーションが必要なのです。

  • サステナビリティ向上のために、あなたの組織はどのような役割を果たしますか?
  • ビジネスと社会への価値提供の方向性を合わせるには、どうすればよいでしょうか?

2. レジリエンス

組織はこれまで以上に絶え間なく変化する環境の中で活動しなければなりません。パンデミックは一生に一度しか起こらないような激変を引き起こしましたが、まだその混乱は続いています。

この混乱の中から、新しい経営の在り方が生まれてきます。富士通の調査において今後のビジネスにとって重要な要素としてトップに挙げられたのは、レジリエンス(変化への対応力)でした。これまで企業は最小のコストで最大の成果をあげるために事業の効率化を推し進めてきました。しかし、今後は効率性以上に変化への対応力を重視する必要があるのです。

レジリエンスと柔軟な適応力は表裏一体の関係にあります。富士通の調査において、パンデミックの混乱にうまく対応できた組織は、3つの大きな理由を挙げています。第1には、変化にアジャイルに対応したこと。第2にデジタル化にすでに対応できていた、もしくは対応を加速したこと。第3に従業員のウェルビーイングを最優先したことでした。

パンデミックにうまく対応できた理由

1位 アジャイルに対応した
49%
2位 デジタル化にすでに対応できていた・対応を加速した
42%
3位 従業員のウェルビーイングを最優先した
40%

この不確実性の時代にアジャイルに変革を実現できる組織能力やカルチャーを築き、人間中心のマネジメントを実行することが重要です。さらに外の世界で何が起こっているのかを敏感に察知する能力が不可欠となります。過去の経験や常識にもとづくのではなく、リアルタイムのデータにもとづいた予測型の経営が求められます。

  • 組織のアジリティを高めるために、どのような施策が必要でしょうか?
  • ビジネス環境の変化を把握するために、最も重要なデータは何でしょうか?

3. ボーダレス・ライフ

仕事はプライベートの生活とは異なる時間帯に、家から離れた場所で行われてきました。しかし、2020年に家庭が働く場所になりました。2021年2月の富士通のグローバル調査で、3社に2社の企業で従業員が40%以上のリモートワークを実施していると回答しています。

一方でリモートワークは新しい課題も生み出しました。離れた場所にいる人がどのようにコラボレーションし、どのように彼らをマネジメントすればよいのでしょうか?人は組織の最も重要な財産です。富士通の調査において、89%のビジネスリーダーが、「従業員のウェルビーイングが組織の中長期的な業績に大きく影響する」と回答しています。

この変曲点の先で、仕事と生活はどのように変わるのでしょうか。富士通の調査によると、パンデミックが収束した後の2025年においても、2社に1社が40%以上のリモートワーク率を予測しています。経営層は、かつてのオフィス中心には戻らずハイブリッド型の働き方になることを見通しているのです。

ハイブリッドワークへのシフト

リモートワークをする従業員の比率をパンデミック前、パンデミック中、パンデミック後で表したグラフ

今後、オフィスと家、リアルとデジタルの体験が融合していきます。さらに、都市はどうなるでしょうか?世界の他の都市にも見られましたが、東京の人口は初めて8か月連続で減少しました。人々が住みやすい地方に転出してリモートで働くケースが増えると共に、企業が都心を離れてオフィスを移転する動きがあります。わたしたちは、従来の都市集中型の社会から職住近接の分散型の社会を再構築する機会を手にしています。

  • ハイブリッド型の働き方からどのような新しい機会が生まれ、課題にどのように対処すれば良いでしょうか?
  • 従業員の能力を最大限に発揮させるために、デジタル技術をどのように活用すればよいでしょうか?

4. ビジネス=エコシステム

人の体験価値・社会価値を共創するデジタル・エコシステム型ビジネスモデルへの変革

人の体験価値・社会価値を共創するエコシステムへ

産業化の時代には企業はそれぞれが属する垂直型の業界の中で供給中心のバリューチェーンを構築し、画一的な商品を提供してきました。

しかし、デジタル化によって業界の壁は崩れ、一人ひとりのライフサイクルに寄り添ったサービスや体験価値を共創するエコシステム型のビジネスモデルへの変革が起こっています。例えば、金融サービスは教育や医療、日常のショッピングや不動産の購入といった人の生活シーンの中に溶け込んで目に見えなくなっていきます。また、自動車もモビリティサービスへと変化。これらのトランスフォーメーションを可能にするのは、従来の業界の壁を越えた、異業種企業が連携するエコシステムです。

パンデミックはデジタル化を急激に加速し、この産業構造の変化を後戻りできない流れとしました。今後の新しい世界では、データとデジタル技術にもとづくエコシステムがビジネスの主体となっていきます。

では今、何に取り組まなければならないのでしょうか?サステナビリティ・ファーストのトレンドで述べた環境・社会課題には、国境や業種を越えて様々な政府や企業・生活者が関わっています。このような複雑な課題を解決するには、個々の努力では到底不可能であり、透明で信頼性のあるデータにもとづくエコシステム型のアプローチが不可欠です。新しい社会のビジョンを共有し、社会的な価値を共創することが強く求められているのです。

  • どのような企業や隣接業界が、エコシステム・パートナーの候補でしょうか?
  • どのようなデータが、エコシステムの維持と成長のために不可欠でしょうか?

5. トラステッドな自動化

これまで述べた4つのトレンドを支える基盤となるのが、データとテクノロジーです。パンデミック後の新しい世界では、ビジネスプロセスのあらゆる局面でデータが大きな役割を果たします。富士通の調査において、79%のビジネスリーダーが「パンデミックに引き起こされたビジネス・社会環境の変化に対応するためにデータ活用が役に立った」と回答しています。さらに、83%の回答者が、「データ駆動型の経営が競争力を維持強化するために不可欠になる」と述べています。

新しい世界における企業はどのような形になるでしょうか?富士通の調査において、82%のビジネスリーダーが「ビジネスプロセスの自動化への投資を増強する」意思を示しています。さらに、44%のビジネスリーダーが「現在自動化されていないビジネスプロセスの50%以上が2025年に自動化されている」と予測しています。

データ駆動と自動化

83%
データ駆動型の経営が競争力を維持強化するために不可欠になる
82%
ビジネスプロセスの自動化への投資を増強する
44%
現在自動化されていないビジネスプロセスの50%以上が2025年に自動化されていると予測

2025年のビジネスプロセス自動化率の予測を示したグラフ

このようなデータ駆動で自動化されたビジネスにおける、人とテクノロジーの在り方を再構想しなければなりません。当然そこには雇用への影響を始めとする緊張関係があります。それらをどのように解決していくかが問われているのです。経営には倫理が不可欠であり、テクノロジーは人が信頼して使えるものでなければなりません。人とテクノロジーがお互いの強みを発揮して困難な社会課題を解決に導き、世界をより持続可能にしていくことが求められています。

  • 自動化を行う際、どのように信頼と倫理を組み込めばよいでしょうか?
  • どのようにして、人とテクノロジーの間により強いつながりを構築することができますか?

Fujitsu Future Insightsグローバル・デジタルトランスフォーメーション
調査レポート2021
パンデミック後の世界の優先課題
デジタルトランスフォーメーション調査レポート2021デジタルトランスフォーメーション調査レポート2021

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  1. 2020年:リアルな日常の停止
  2. 2020年:危機への対応
  3. 人の時代へ
  4. 新しい世界の優先課題
  5. 5つのトレンド
  6. 1. サステナビリティ・ファースト
  7. 2. レジリエンス
  8. 3. ボーダレス・ライフ
  9. 4. ビジネス=エコシステム
  10. 5. トラステッドな自動化
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