富士通 グローバルテクノロジーソリューションビジネスグループ モダナイゼーションナレッジセンター センター長 枦山 直和

ITシステムのモダナイゼーションが急務に。富士通が確立したベストプラクティスとは?

企業の業務を長く支えてきたメインフレームやUNIX機などの老朽化が、大きな課題となっている。クラウドサービスや人工知能(AI)など、最新の仕組みを活用するために基幹業務システムとの連携が不可欠だからだ。ビジネスの今と未来を見通し、老朽化したシステムをどうモダナイズするかが問われている。多くの企業のモダナイズを手掛け、富士通のモダナイゼーション事業をリードするモダナイゼーションナレッジセンター長の枦山 直和に最新のトレンドを聞いた。
(聞き手:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫 氏)

※所属、役職名は取材当時のものです。

モダナイゼーションをしなければ、
データ活用もままならない

モダナイゼーションナレッジセンター(MKC)は、どのような組織なのでしょうか。

モダナイゼーションの事例とノウハウを富士通グループ全体の知見として集約し、ベストプラクティスを構築して、あらゆるお客様に提供可能にすることを目的としています。2022年9月の設立以来、メインフレームやUNIXを含む、数多くのモダナイゼーションを手掛けてきました。そのニーズは日増しに増え、数人規模でスタートした本センターも、現在は50人を超える組織に成長しました。今後も拡充していく方向です。

設立から1年を経て、ようやく形が出来上がってきたという実感です。モダナイゼーションの膨大なノウハウをきちんとしたフレームワークに収め、体系化することの重要性を改めて認識しています。富士通独自の技術やソリューションだけにこだわらず、世界中のソリューションやサービスの中から優れたものを積極的に活用しています。

ひと口にモダナイゼーションといっても、お客様の状況によって千差万別です。豊富な事例を類型化することで、お客様ごとの状況に合わせた実効性の高い提案をしています。

お客様からは、具体的にどのような相談が増えていますか。

オープンシステムやダウンサイジングで導入された多くのシステムが、既に20年以上を経過しています。それらを新しいプラットフォームへ移行したいというニーズが、やはり一番多いです。モダナイゼーションをしなければ、データ活用もままならないからです。半ばブラックボックス化しているシステムの内部を紐解き、構造を可視化して、最低限のリスクでモダナイゼーションしたいというご相談を多く受けています。

同時に、今後の進化のために新たなテクノロジーに乗り換えたいというニーズも多いです。しっかりとしたPoC(概念実証)を実行し、自信を持って移行していくことが求められます。

メインフレームも、まだ多数稼働しています。40年以上も使っているレガシーなシステムの場合は、全体を抜本的に見直したいというお客様が増えています。その場合は、当社のコンサルティング機能を活用してゼロベースで考えていくことが多くなります。パッケージのアプリケーションをうまく活用し、業務フローの標準化と併せて進めていくケースが多いです。

その一方で、「何をすればよいか分からない」といったお客様もいます。そうした場合、MKCはモダナイゼーションのコーディネーター役を務めます。お客様のニーズをしっかりとヒアリングし、一緒になって方向性を見出していきます。

富士通が見出したベストプラクティスは
「4つのプロセス」

富士通が確立したモダナイゼーションのフレームワークについて、教えてください。

「4つのプロセス」が重要ですので、事例を交えてご説明します。

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モダナイゼーションの4つのプロセス

第1のプロセスは、「業務・資産の可視化」です。業務プロセス、アプリケーション、データの現在の状況を詳細に調査し、可視化します。

ベースライン調査で資産をより正確に把握します。対象となるアプリの数や種類など、対象資産の規模を把握できていない企業は意外に多いです。あるお客様は、約40万本強、100MLocの資産の棚卸しを行い、資産規模を正確に把握した結果、当初予想していた規模の10分の1だったことが分かりました。

ホスト利用機能調査で課題を把握することも重要です。利用ユーティリティやAIM/DC、AIM/DBの利用機能など、 難易度を早期に把握することで、リライト/リホストの推進方針を明確化できます。DBの階層構造を明確に把握しておく必要がありますし、ソースを全量調査することで、ドキュメントや有識者の記憶だけを頼りに進めていた計画に漏れがないかを確認することも大切です。

モダナイズ(PoCを含む)の対象資産を確定するために、稼働資産分析も重要なポイントになります。アプリ資産の調査だけでは予算感に合わない場合があり、そこから対象資産を絞り込み、確定させる作業です。

第2のプロセスは、「グランドデザイン」です。エンタープライズアーキテクチャに関する手法の1つである「The TOGAF® Standard」を使って作成していきます。現状のシステム環境にとらわれず、お客様が描く理想を検討し、具体化します。その理想を実現するために、現行のシステムからどのような移行経路を辿るのがベストかを考え、最適なモダナイゼーションをデザインします。

約2年間をかけ、大規模な基幹システムのグランドデザインを「The TOGAF® Standard」に基づいて実施したケースがあります。業務特性を考慮したうえで製品比較、シミュレーション、実機検証を行い、早期に課題を発見しました。

また、比較的小規模な業務システムのグランドデザインを3カ月で実施した事例では、お客様のシステム規模や開発期間に合わせ、「The TOGAF® Standard」のメソドロジーを当社側でカスタマイズして柔軟に対応しました。具体的には、DA/AA/TAのサイクルを短いインターバルで実施し、期間を大幅に短縮しています。

第3のプロセスは、「情報システム全体のスリム化」です。グランドデザインが明確になると、古いシステムの中で不要な部分やカットすべきものが見えてきます。そうしたものを排除して全体をスリム化することで、省力化やコスト削減につなげていきます。

そして、第4のプロセスが「モダナイゼーション」です。短期で安価な切り換えを可能にする「リホスト」、短期で安価かつメンテナンスを容易にする「リライト」、最適な機能配置を実現する「リビルド」。4つ目の方向性として、一気にDXへ行く方法もあります。DXでは、お客様の業務に合わせて最適な提案を行い、経営戦略とビジネスを連動させていきます。

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未来のあるべき姿から逆算して
ベストなモダナイゼーションを計画

4つのプロセスはどれも重要ですが、中でもモダナイゼーションの全体像を決める「可視化」と「グランドデザイン」が大きなポイントになりそうですね。

同感です。「可視化」では、現行システムのステップ数やアプリケーション資産の属性情報を確認し、資産の重複や不足、使用・未使用の候補、アプリケーションが利用しているホスト機能などを丹念に洗い出します。ソフトウエアの大きさや複雑度を可視化する「ソフトウエア地図」やシステム相関分析ツールなど、多数のツールを駆使します。

「グランドデザイン」で重要なのは、お客様の経営ビジョンに基づいて「未来の情報システムのあるべき姿」を描き、そこから逆算(バックキャスト)してモダナイゼーションの計画を策定することです。現状から積み上げる方法では、理想のシステムを実現することは難しいと考えます。

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グランドデザインでは、まず経営ビジョンに基づいて「あるべき未来の姿」を描き、そこから逆算してモダナイゼーションの計画を策定する

また、ITシステムのことだけ考えていては、グランドデザインはできません。ビジネスとして目指す理想を明確化することが重要です。富士通の強みは、ビジネスモデルにまで踏み込んでお客様と一緒にITシステムを考えていくことです。

とはいえ、お客様のニーズは多岐にわたります。標準的な「The TOGAF® Standard」の流れに従い、ビジネスモデルの検討から地道にグランドデザインに取り組む企業がある一方で、今回だけはビジネスは変えないという形で、データ、アーキテクチャ、テクニカルなどを含むITだけにフォーカスして計画する場合もあります。

モダナイゼーションについて、富士通の強みはどこにあるとお考えでしょうか。

まずは、実績だと思います。これまで富士通を選択してきたお客様は、過去のシステム構築の経緯と事情を共有しているので、安心して任せていただける場合が多いです。また、様々な業界、業種業態の企業のシステムを構築してきた経験とノウハウを評価して、他社から切り換えていただくお客様も多いです。

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富士通が獲得したモダナイゼーションの商談事例。
積み上げてきた信頼と実績、そしてパートナーとの強固なリレーションシップといった富士通の強みが評価されている

次に、モダナイゼーションの経験値です。様々な業務の自動化の仕組みを理解し、グローバルでの経験も重ねています。自前のソリューションにこだわらず、グローバルに良いものを柔軟に活用する戦略を評価していただくケースも増えています。

最も重要なのは、単なるシステムの移行ではなく、ビジネスモデルの理想という経営目線を備えている点でしょう。コンサルティング領域の強みがあります。ビジネスの成長と社会課題の解決を目指す「Fujitsu Uvance」を掲げる富士通だからこそ、気づける課題もあります。

「Fujitsu Uvance」による
DX推進事例から見えてくるポイント

「Fujitsu Uvance」を導入する企業も増えてきたと思います。デジタルトランスフォーメーション(DX)のポイントは、どこにあるでしょうか。

「Fujitsu Uvance*」は、7つの重点領域と、5つのキーテクノロジーでDXを進め、社会課題の解決を目指すものです。事例も続々と増えています。

*「Fujitsu Uvance」……富士通が長年培ってきたテクノロジーと幅広い知見を融合させ、業種間で分断されたプロセスやデータをつなぐことで、顧客の成長と社会課題の解決に挑むソリューションの総称。

ある医療系の企業は、地域医療の質を上げるため、患者の同意を得てバイタルデータや医療データを複数の医療機関で共有するヘルスケアデータ基盤を構築しました。患者の医療データをネットワークで管理することで、様々な医療機関が活用できます。また、患者自身も診療の結果や薬の処方データをモバイルアプリで容易に確認できます。地域の医療機関を連携させる取り組みです。

流通業の事例もあります。店舗のPOSデータはマーケティングや販売戦略に活用されてきましたが、購買履歴しか分かりません。そこで、店内に設置したカメラで消費者が店内を移動する様子を撮影し、その動線を画像処理やAIの技術で分析し、興味を示した棚や商品などを解析することで、データに基づく店舗経営の最適化を可能にする仕組みです。

「Fujitsu Uvance」でDXを進める企業や組織が増えていく中で、明確に見えてくることがあります。すなわち、実効性の高いDXを実現するには、前段階としてレガシーな基幹業務システムのモダナイゼーションをしっかりと進めていかなければならないということです。

DXの主軸はデータ活用にあり、業務データとの連携が不可欠です。基幹業務システムをしっかりとモダナイゼーションし、様々なデータ資産を新たな目的へと柔軟に有効活用できる環境を整えなければ、DXは成功しません。

今後、MKCはどのような活動をされていきますか。

多岐にわたる問い合わせが来ているので、これを集約してより効果的な対応ができる体制を整えたいと考えています。また、以前はメインフレームとUNIX機からのモダナイゼーションを中心に活動してきましたが、今後はモダナイゼーションできる範囲を拡大していきます。

また、ツール類のさらなる充実も重要な課題です。自社のソリューションに磨きをかけるとともに、他社の良いツールを発掘していきます。そこに富士通が得意とするエンドツーエンドの支援をしっかりと組み込みながら、お客様に提供していきたいと思います。

グローバルな視野での展開も進めます。グローバルでメインフレームを利用されているお客様はかなり多いです。当社の海外拠点を通じ、そちらにもしっかりと対応していきます。国内と海外の両面で、ベストプラクティスの確立と適用を進めます。

システムのモダナイゼーションは、ビジネスモデルと一体で考えていく必要があります。旧来のシステムの良い部分も活かしながら、システム資産の管理、クラウドへの展開、データの活用を組み合わせて、お客様のビジネスを加速するシステム構築に貢献していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

  • SAP、SAPロゴ、記載されているすべてのSAP製品およびサービス名はドイツにあるSAP SEやその他世界各国における登録商標または商標です。
  • The TOGAF® Standardは国際標準化団体「The Open Group」におけるエンタープライズアーキテクチャの方法論とフレームワークです。
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本記事は、日経クロステック Specialに、2024年2月に掲載された記事を再掲したものです。所属・役職は取材当時のものです。記事・写真・動画など、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。

既存情報システムを最適化し、DX基盤としてのあるべき姿に

富士通は、独自の強みをお客様の価値に変え、お客様資産の最適化とDXをご支援します。

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