富士通 執行役員EVP CDXO(最高デジタル責任者) CIO(最高情報責任者) 福田 譲
ITシステムは「企業のありようを映す鏡」 。富士通、変革への飽くなき挑戦とその価値
富士通はグローバルで、経営とITを連動させたデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている。グループ内で30以上に分かれていたIT部門を富士通グループ・グローバル全体で統合し、4000以上にのぼる業務システムの標準化・シンプル化を進めている。変革をリードする福田 譲は「富士通は日本企業の縮図と言うべき、あらゆる課題を抱えている」と語る。だからこそ、挑む価値がある。富士通が進めるDXの取り組みとは。
(聞き手:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫 氏)
DX推進に立ちふさがった、経営課題
福田さんに任されているミッションと、富士通の経営課題について教えてください。
CDXOとCIOを兼務している私には、「DX」「社内IT」「デザイン」という3つのミッションがあります。
DXはD(Digital)よりX(Transformation)、すなわち経営変革の面が非常に重要になります。今日のデジタル時代に合わせ、富士通をグローバルに定義しなおす仕事です。この「経営の変革」をデザインするために、2020年7月に子会社だった富士通デザインを富士通に統合し、約200人のデザイナーを中心にデザインセンターを設立しました。
経営変革の話に、なぜデザインが出てくるのか。不思議に感じる方もいるかもしれませんが、世界の最先端を走るIT企業を見ればわかるように、今日のビジネス価値はデザインがリードしています。言葉で伝えきれない抽象的な概念を分かりやすく可視化・具現化するのが、デザインの力です。企業が自らをトランスフォーメーションしていく過程において、組織や個人が1つの理想を共有するために、デザインは重要な役割を果たします。デザインセンターは富士通グループの変革を支える核心的な存在として、様々な部門や組織の変革をデザインしています。また、一部のデザイナーはグループ会社の「Ridgelinez」に合流し、お客様のDXを支援しています。
富士通は経営主導で事業と組織を大きく変革している最中ですが、大きな課題を抱えていました。戦略的な経営施策の推進を、残念ながらITが阻んでいるという事実です。
その課題は御社に限らず、多くの日本企業に共通する課題ではないでしょうか。
そうかもしれません。ITシステムは「企業のありようを映す鏡」です。よく「ITやデータがバラバラだ」と言われますが、それは組織がバラバラなのです。バラバラな組織がバラバラなシステムを作っているだけのことです。組織が大きくなる過程で縦割りの構造となり、様々な要因が絡み合って部門間に壁ができ、結果として個別最適が進んで分断化されたITが会社中に存在する、そうした日本の縮図と言うべき、あらゆる課題を抱えています。
現場ごとに独自に積み上げてきた業務の改善が、システムにそのまま反映されているという意味でしょうか。
そうです。現場起点のカイゼンは、アナログ時代には最強の仕組みでした。全社をデータで一望することが難しかった時代は、製造業を中心に、優秀な現場が日本を世界のトップレベルに押し上げました。しかし、経営にデジタルが導入されていく中で、日本は過去のやり方から脱却できず、変革が進まなかったのではないでしょうか。それは、富士通にも当てはまる部分があります。
4000を超えるシステムの
モダナイゼーションをいかに推進するか
富士通には4000を超えるシステムがあると聞きました。これをモダナイゼーションするには、どのような課題解決が必要になってくるのでしょうか。
まず、システムの全体像を把握し、モダナイゼーションが必要なシステムを整理する必要があります。しかし、3年前には富士通では全体で稼働しているシステムの総数や全体像が把握できていませんでした。聞くたびに、回答が来るまで1カ月かかり、数も毎回変わります。富士通グループのIT部門は、30以上の組織に分かれていたため、それぞれの組織は自部門のシステムは認識しているものの、全体像は把握できていなかったのです。
そもそも「システムの定義」が統一されていませんでした。定義からグループ全体で合わせ、ようやく4000以上のシステムリストが完成したわけです。「全体像を把握しきれていない」のは、富士通に限らず、多くの企業に共通する課題ではないでしょうか。
約4000のシステムのうち、購買関連で60以上、人事関連では400以上ありました。別々のシステムは、別々の業務プロセスやマスタ、データを生みます。グループ全体で、データドリブンに経営を最適化することは不可能な状態でした。
従来の仕組みでは、ITへの投資予算はビジネス部門が個々に管理し、IT部門はその実行支援部隊でした。ビジネス部門の求めに応じて個々にシステムを開発してきた結果、同じ業務領域にも関わらず、個別のシステムが大量に生まれ、それらの更新が個別に行われ、その都度、関連するインターフェイスをすべてテストしなければなりませんでした。これらの作業でIT部門は非常に忙しいにも関わらず、予算も人手も既存システムの保守・運用に大部分が費やされている状態でした。
この状態を根本的に変え、富士通グループ全体でシステムをシンプルに統合し、モダナイズしていく新しい施策が必要でした。
そのような状況を整理してモダナイゼーションするには、何が必要でしょうか。
まず、システムに関わるあらゆるイニシアチブを各ビジネス部門からIT部門へとシフトし、CIOをコントロールタワーにします。1人のリーダーシップの下に全体を俯瞰し、グローバルとグループ各社を横断して全体最適化を進めなければ、システムの重複やムダを完全に避けることはできません。極めてシンプルかつ教科書的なアプローチです。経営戦略とIT戦略を連動させる使命を持つCIOが、経営戦略に沿ってそれを進めます。
いま、富士通では実効性を持ってこの作業を進めています。たとえば「購買」という機能は多くの部門に存在しますが、その目的やプロセスはどれも大きくは変わらないわけです。したがって、「購買」のシステムは、セグメントごとにグループ・グローバル全体で1つにします。また、従業員がグループ内の組織を横断的に異動してグローバルに活躍する人的資本の時代に、人事関連システムが400以上もあって良いはずはありません。人事のシステムも、根幹部分についてはグローバルで1つに統合します。こうした課題の一つひとつを経営視点で取り上げ、先回りして解決する強いリーダーシップで進めています。
経営戦略のためにIT戦略がある、
この主従関係を明確にせよ
富士通では、具体的なモダナイゼーションをどう進めていますか。
IT戦略は経営戦略を実行するために存在します。つまり、これはITだけのプロジェクトではなく、経営のプロジェクトなのです。それがまさに富士通の社内DXであり、そのためにまず経営とITの目的と手段を明確にし、そのための方法論を作りました。
モダナイゼーションを進める際、手段であるITをいきなり変える前に、戦略、組織、制度などを標準化・整流化する必要があります。それがあって初めて、ITのあるべき姿が議論できるようになるわけです。このアプローチを進める土台を作るため、IT部門の組織を大きく変えました。まず、グループ内、グローバルで30以上に分かれていたIT組織を1つに統合し、グループ内のあらゆる組織のシステムを管理します。
続いてIT部門内の組織も、従来のような「国ごと」ではなく、「機能別」のフラットな組織にすべて作り直しました。1つの機能を担うITシステムは、グループ全体で1つのチームが担当します。例えば、「財務」の領域を担当するチームはグローバルで1つ、「人事」の領域を担当するチームもグローバルで1つ、という具合です。
これにより、財務なら財務、人事なら人事という具合に、グループ内のあらゆるシステムやデータを集中管理できるようになります。これが、富士通という巨大組織における「データドリブン経営」を可能にするわけです。また、あらゆる従業員は、世界中のどの事業所や組織に異動しても、同じシステムとデータを使って仕事ができます。異動するたびに、新しいやり方を覚えたりする必要は無くなるわけです。これは非常に大きな組織変革であり、従業員の意識改革にもつながります。
経営とITの目的と手段を明確にし、具体的なKPIを設定して取り組みを進めている
IT戦略は経営戦略のためにある。このシンプルな概念を徹底し、経営主導でマネジメントのあり方や業務の標準化を進めています。そして、それらの「ありたい姿」を、グループ全体最適でITに実装・実現するのがITの役割と考えています。
このような組織再編を断行したうえで、現在、各チームが担当するシステム領域ごとに、ベストなモダナイゼーションについて具体的に検討し、方針が決まったものから実行に移しています。
最適なモダナイゼーションの方向性は、機能やシステムごとに異なります。既存システムの改編でモダナイゼーションできるものもあれば、ゼロから作り直した方が早い場合もあります。「新たに作り直した方がよい」とチームが判断した場合は、新しく作り直します。「今の仕組みのままで問題なし」と判断したシステムは、クラウドへのリフトを検討します。「単なるリフトではなく、モダナイゼーションすべき」と判断した場合は、クラウドシフトに加えて、様々な機能強化を試みるわけです。
社内システムをモダナイゼーションした結果、どのようになりますか?
4000あったシステムを、1,000以下に統合・シンプル化する計画です。そのために、エンタープライズアーキテクチャの実行フレームワークを導入しました。
富士通はグローバルに統合する戦略を採っていますが、日本企業の中には海外部門は現地に任せきりにしているケースが多いように思います。
「国や地域ごとに権限を与え、それぞれが自律的にビジネスを展開する」という経営戦略なら、IT戦略もそれで問題ありません。IT戦略は経営戦略を実現するためにあるからです。しかし、グローバルで横断的にビジネスを進めるという経営戦略なら、IT戦略もグローバル横断でなければなりません。冒頭で「ITシステムは企業のありようを映す鏡」と申し上げたのは、そういう意味です。
約70人の「DX Officer」で進める
富士通全体のDX「フジトラ」
富士通のDXは、どのように進めているのでしょうか。
全社のDXは「Fujitsu Transformation:フジトラ」と言い、CEO(最高経営責任者)とCDXOの直下に置いたCEO室で進めています。フジトラには主要な部門・グループ会社・各国を横断して約70の部門が参画しており、各部門のDXリーダーとして約70人の「DX Officer」がいます。この約70人が横につながり、全社最適化を進める仕組みです。IT部門は、この70部門の中の1つになります。
フジトラの施策の1つとして、「One Fujitsuプログラム」を展開しています。その大きな目的は、グローバルで全社横断の変革を進めることです。これはITプロジェクトではなく、あくまで経営プロジェクトです。合理的で迅速な意思決定を支える「リアルタイムマネジメント」、経営資源のEnd to Endでの「データ化・可視化」、グローバルでの「ビジネスオペレーションの標準化」。この3つの重点施策を軸に、自らの変革に取り組んでいます。
富士通グループの持続的な成長と収益力の向上を目指し、そのために必要な3つの重点施策を軸に、変革を進めている。
このDXには、組織から従業員個人レベルまで、あらゆるレイヤーでの変革が含まれます。グループ会社や組織の統廃合、冒頭で述べたようなデザインを活用した組織変革などが含まれています。
データによって状況を論理的に把握し、経営の意思決定を行うデータドリブン経営は、経営変革のベースとなる重要な基盤です。ある施策がうまく行っていない場合、変更したり元に戻したりする必要がありますが、そうした検討もデータに基づく必要があります。経営戦略とITは、まさに表裏一体なのです。
富士通が進めているそうした変革の経験やノウハウは、どのような形でお客様に還元されていくのでしょうか。
これまで述べてきたような経営戦略とIT戦略の連動、グローバル規模の組織変革、システムのモダナイゼーション、DXを含め、富士通グループ自身が実践し、積み重ねてきた経験とノウハウを整理し、具体的な課題解決という形でお客様に還元していきます。自らのDXのために独自に開発したツール群やセキュリティの仕組みも、積極的に提供します。Ridgelinezと連携し、お客様の事情や状況に合わせたコンサルテーションを可能にする仕組みができています。
例えば、これまで個別に開発してきた多数のシステムが存在し、自社のITの全体像をなかなか把握できないお客様は多いです。富士通グループも、そうでした。例えば、そこに「ServiceNow」などのシステムを導入して全体像を把握し、システムごとの関係性を整理して、一括管理します。そのうえで、脆弱性などのリスクが発生した際に、その影響範囲をリアルタイムで把握可能にします。システムごとにばらばらに存在するデータを統合し、経営判断に生かすことも可能になります。
富士通グループ内では、ERPは「SAP」、CRMは「Salesforce」、ITサービスや社員サービス領域では「ServiceNow」をグローバル・グループ標準として導入し、モダナイゼーションを進めています。グローバル・グループ全体最適での導入に留意しており、標準性の高いデータの利活用やAIによる高度化を進めています。このモダナイゼーションとビジネス変革のノウハウは、「Fujitsu Uvance」にも生かされています。
まず富士通自身が挑戦し、富士通自身を変える。結果が出れば、お客様にもお薦めするというスタンスです。富士通を変えることができたなら、多くの日本企業にも参照いただけるはずです。その価値をご理解いただき、ともに「やってみよう」と言ってくださるお客様と、実効性の高いDXをぜひご一緒に目指したいと思います。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
本記事は、日経クロステック Specialに、2023年11月に掲載された記事を再掲したものです。所属・役職は取材当時のものです。記事・写真・動画など、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
既存情報システムを最適化し、DX基盤としてのあるべき姿に
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