DXを支えるシステム基盤の作り方

富士通は「全社横断で挑む システム改革」で何を目指したのか

企業のDXを支援する富士通は、自らも率先してDX企業になろうとしている。しかし、同社に存在する2000超のシステムがその足かせとなる。老舗IT企業の富士通が、目指す姿をかなえるために導入したシステム基盤とは。

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する富士通は、自らも率先してDX企業に転換するために、IT部門への「ServiceNow」の導入を2020年度に開始した。2024年度までに全社的な導入完了を目指す。老舗IT企業の富士通は、同社の目指す姿をかなえるためにはServiceNowは不可欠だと語るが、それはなぜか。

写真左から、高橋 勉、木村 幹奈、五味 茂雄、山元 一郎

富士通がDX企業に変革するために求めたシステム基盤

富士通は2021年に新事業ブランド「Fujitsu Uvance」を策定した。「あらゆるもの(Universal)をサステナブルな方向に前進(Advance)させる」という造語であり、富士通はDXの推進はサステナビリティー(持続可能性)の実現につながると捉えている。

同社の高橋 勉氏(デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部エグゼクティブディレクター)は「Fujitsu Uvanceは、『イノベーション(変革)によって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にする』という目的に基づいて立ち上げられたものです。現在、変革を促すための新事業に取り組んでいるところですが、それには体験価値や社会価値を共創するエコシステム型のビジネスモデルへの変革が欠かせません。サステナビリティーを志向したコネクテッドエコシステムが必要でした」と、取り組みの意義を説明する。

例えば同社が20年以上使い続けてきた決裁システムは、コロナ禍のような環境変化に対応するのが難しい。富士通が目指すビジネスモデルの変革を実現するにはそうしたレガシーシステムを捨て、新たなシステムへの移行が求められた。また、同社は2020年の段階で従業員のワークライフバランスを確保する制度「Work Life Shift」を導入したが、そのためにも新システムはSaaS(Software as a Service)で実現することが必須だった。

富士通のIT部門は「1業務1システム、アプリケーションも1システム1インスタンス、ITインフラはSaaSで実現」を原理原則とする。同社には2000超のシステムが存在し、それらも段階的なシステム刷新と統合が求められていた。システム刷新に当たって同社が重視したのが「傾聴」だ。現場の声に耳を傾けて従業員視点で既存の課題を洗い出し、優先順位を付けて実装すべき機能を明確にしていった。高橋氏は「当然ながらグローバルで利用できるシステムでなければなりません。そのためには、各国の法律も考慮して進める必要がありました」と語る。

システム改革の手段として富士通はServiceNowを選択した。同社の営業部門は「Salesforce」、経営財務部門はSAP製品と、部門ごとに主に使うツールが異なる。これらを統合管理する必要があり、それに好適なサービスがServiceNowだった。

富士通の五味茂雄氏(デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部 シニアディレクター)は「確かにSalesforceやSAP製品は特定の業務に特化した優秀なツールですが、社内に存在する全ての事務手続きをそれらのシステムだけで完結できるわけではありません。われわれの考えるシステム改革を成し得るためには業務フローをデジタル化し、プロセスを見直す必要がありました。それにはワークフロー改善を強みとするServiceNowが最適解だったのです」と選定理由を明かした。

中央集権型の自立組織でServiceNowの導入をけん引

システム改革はトップダウンで進められた。「新システムの構築は経営層の協力が必要不可欠でした。まず、ボトムアップで優先順位を明確にした後に、ServiceNowを活用した目指す姿を経営層に提示しました。また、われわれが目指したものは、単なるシステム改善ではなく『UXの向上』と『変革』を目標としているため、経営層と100人を超えるプロジェクトメンバーの意識を一つにすることが重要でした」と五味氏はアプローチを説明する。

富士通はServiceNowをGlobal One Instance(グループ全体で単一のシステムを利用すること)と考える。前述した原理原則に加え、グローバル共有のデータや業務プロセスを国内に閉じずにグループ全体で活用するには「1業務複数システム」では実現が困難だからだ。

既存システムをServiceNowに移行するには、グローバル共有のデータと業務プロセスの定義が重要だ。国や地域ごとにそれらが異なることがあり、プロジェクトを進める上での大きな課題になったが、ServiceNowのグローバルベストプラクティスを取り入れて各リージョンの折衝を進めていった。

また、ServiceNowの集合知を持つCoE(Center of Excellence)チームが、プロジェクトの推進に大きく寄与した。Global OneInstanceの運用には統制チームが欠かせず、同社CoEチームは全体運営や規約、変更管理、ServiceNowのアップグレード管理などを担った。さらにロードマップの策定やServiceNowを用いたDX推進、新ソリューションの開発、ユースケースの創出などを本社の方針に合わせてけん引した。

システム刷新の対象の一つである決裁システムは、物品購入から新規プロジェクトの予算申請などで20年以上使われていた。申請は上長や予算管理部門、経理部門、役員を経由するため、申請フローの整理には各部門の調整が必要になる。同社の木村幹奈氏(デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部 シニアマネージャー)は「ユーザー部門からも80人ほどプロジェクトに参加してもらったため、チームビルディングだけでもひと苦労でした」と当時の状況を語った。

社内に大きな影響を与えるシステムだからこそユーザー部門からもできるだけ多くの従業員に関与してもらい、稼働後の混乱を最小限に抑えた。また、メンバーの一体感を醸成するためにオンライン会議の内容や資料を共有し、誰でもコメントを追加できるようにするといった工夫も凝らした。オンライン会議は、アイデア出しや他メンバーとの意思疎通、合意形成が難しい。木村氏は「プログラム開発は3カ月で済みましたが、プロジェクトの準備には多くの時間を割きました」と語る。

富士通グループは個人情報の扱いに敏感な欧州にも拠点を持つため、グループ間の個人情報移転に関する保護契約を従業員と締結し、利用するデータの範囲も最小限に絞り込む工夫もした。

時間短縮や非効率作業の削減以外に得られた副次的なメリット

こうして富士通はITサービスやプロジェクト管理、IT資産管理やIT予算管理、オペレーション管理、人事サービス、ビジネスアプリケーション開発に至る多様な場面で利用するシステムをServiceNowに統合した。

社内のポータルサイトの統合では、ServiceNowの「IT Service Management」を活用して社内システムのサポート窓口の仕組みを1つのサービスポータルに統合した。その結果、これまでは各業務やシステム、商談に個別で対応してきた運用業務が平準化・効率化され、問い合わせについては1インシデント当たりの解決時間を30~50%削減した。決裁システムはServiceNowのローコード/ノーコードツール「AppEngine」で構築し、起案から決裁までの時間を30%短縮した。

IT予算管理システムには、ServiceNowの「Project Portfolio Management」とTBM(Technology Business Management)を実現するクラウドサービス「Apptio」を用いて、ダッシュボードでIT予算を可視化する仕組みを構築した。他にもキャリア入社した従業員向けの研修や、顧客向けサービスのライセンス管理にもServiceNowを利用している。

富士通の山元一郎氏(デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部 マネージャー)は「CoEがユーザー認証やデータ連携などのプラットフォーム共通の機能を整備したため、各システムはアプリケーション開発に専念することができ、従業員が使いやすいシステムを素早く構築することができました」と述べた。

同氏は「ServiceNowは企業文化の転換にも寄与した」とも語り、その理由を次のように説明した。

「ユーザー部門から意見や知恵を借りて各種システムやアプリケーションをアジャイル型で開発しました。これまでは着実にプロジェクトを進めるためにウオーターフォール型を採用していましたが、アジャイルへの転換はスピードを重視するようになった表れだと感じています」

さらに、ServiceNow Japanから他社の解決事例などテクノロジー以外のサポートを得られたことで、業務見直しのヒントを頂けたと感想を述べた。

自ら体験して得たServiceNowの知見を顧客企業に提供し、DXの連鎖を生む

富士通は現在、ServiceNowの多角的な利用を検討している。2022年度は導入・検証フェーズにある人事サービスやITオペレーション管理の本番稼働を手始めに、システム化未実施領域の対応を図る。また、ServiceNowが2022年10月にリリースしたばかりの最新版「Now Platform Tokyo」で実装される「Manager Hub」や「Admin Center」「Issue Auto Resolution for Human Resources」といった新機能の利用検討も進め、さらなるDXを目指す。

ServiceNowはファーストリリースの2011年12月以降、年2回アップデートされてきた。Tokyoではデータの匿名化を促進する「ServiceNow Vault」や、企業のESG(Environment、Social、and Governance)目標やKPI設定をまとめる「ESG Management」、物理的資産のライフサイクルを自動化する「Enterprise Asset Management」(EAM)といった新機能を備え、富士通も導入を前提に検証・検討している。

富士通は現在、ServiceNowを自社で活用するだけでなく、顧客企業に提供して導入から運用までEnd to Endで支援している。最後に高橋氏は富士通でServiceNowを全社的に活用する意向と、顧客企業への提供について次のように示した。

「ServiceNowのサービス資格を持つメンバーは100人以上にまで増え、海外拠点との連携も強化しているところです。当社のServiceNowの導入はシステム刷新を目的としたものでしたが、さらなるイノベーションの推進という副次的なメリットも得られました。成果を量産し、蓄積したノウハウを社内に水平展開していく予定です。そして、われわれの体験を通して得たServiceNowの知見をお客さまに提供していく考えです」

転載元:ITmedia エンタープライズ
ITmedia エンタープライズ 2022年10月28日掲載記事より転載
本記事はITmedia エンタープライズより許諾を得て掲載しています https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/2210/28/news018.html新しいウィンドウで表示

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