デザインで発想する企業コミュニケーション 積水化学×富士通エクスペリエンスデザイン部が 踏み出す「業界イノベーション」の第一歩【前編】

デザインで発想する企業コミュニケーション
積水化学×富士通エクスペリエンスデザイン部が
踏み出す「業界イノベーション」の第一歩【前編】



掲載日 2022年8月16日

富士通デザインセンター エクスペリエンスデザイン部が、社外のお客様向けにUXを起点とする総合デザインサービスの提供を開始して1年。古河電気工業株式会社様と「銅の普及」を仕掛けたプロジェクトをはじめ、製品開発で培った経験とデザイン思考で本質的な課題解決に導く試みが、各所で実を結びつつある。
今回ご紹介するのは、積水化学工業株式会社様が、社内のイノベーションを推進するために、社外コミュニケーションツールの開発というデザイン思考の実践を通して社員の「“化学屋”マインド変革」を図った異色のプロジェクト。
「アイデア実装」×「デザイン思考教育」の実現を目指した約4カ月にわたる奮闘とプロジェクトの手応えについて、積水化学工業株式会社 開発企画部 グループ長の青木様、イノベーション推進G リーダーの仁木様、富士通 エクスペリエンスデザイン部の小池、南澤の4人が語りました。

前編のポイント

  • 水無瀬イノベーションセンターに象徴される積水化学のイノベーション文化醸成というミッション。
  • デザイン思考の実践を通して“化学屋の特有の思考プロセス”を脱却すべくプロジェクトを発動。
  • 上位概念からの思考プロセス、デザイナーの視点が入ることで広がるアイデア。

インタビュイープロフィール

  • 青木 京介 様 :
    積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 開発企画部
    イノベーション推進Gグループ長
  • 仁木 章博 様 :
    積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 開発企画部
    イノベーション推進Gリーダー
  • 小池 峻 :
    デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 デザイナー
  • 南澤 沙良 :
    デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 デザイナー

部署名・肩書は取材当時のものになります。

デザイン思考をイノベーションの起爆剤に

——— 初めに、今回のプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

青木: 積水化学のアメリカ駐在メンバーが、現地で富士通デザインセンター センター長の宇田さんと知り合ったことがご縁のきっかけです。ちょうど富士通さんからデザインサービスをご提案いただくというお話が出たタイミングが水無瀬(みなせ)イノベーションセンター(MIC)の竣工時期と重なり、「富士通のデザイン思考を取り入れて何か新しいことができるのでは」と期待を持ったことが始まりですね。

仁木: MICそのものが、従来の延長線上で新製品を出しても大きく飛躍することは難しいという考えのもと、「社内外での融合を促進し、オープンイノベーションを創出する」ことを目的として作られましたからね。今回のプロジェクトをMICのイノベーション文化醸成の一環にしたいという想いは、経営トップ層とも一致していました。

青木: 実は以前からデザイン思考を取り入れようという機運はありましたが、単発的なワークショップで終わってしまうことがほとんどで。宇田さんから「アウトプットにこだわります」とお話を聞いて、最終的に「デザイン思考が形になったらどうなるのか」を体験できる点に非常に惹かれました。我々は割と硬いメーカーで“化学屋”です。ロジカルな考え方は得意と自負していますが、先の見えない時代にロジカルだけでやっていけるのか、デザイン思考という新しい切り口が我々の発想の幅を広げてくれるのではないか、と思ったんです。

積水化学工業株式会社 青木様

仁木: 参加したメンバーは、デザイン思考について教科書的な知識は持っていたけれど、実践で使うところまではいっていなかった。今回は4カ月という長期のプロジェクトにどっぷり入り込んで、体験することで自分のものにしてほしいという狙いもありましたね。

積水化学工業株式会社 仁木様


「積水化学をコミュニケートする」概念的なテーマに戸惑うメンバーも

——— プロジェクトはどのように進めましたか?

小池: 実践形式でアウトプットを作る前提のもとプロジェクトを設計しました。そのため、積水化学の皆さんがリアルに抱えている課題を上手くテーマに紐づけられないかと考えました。具体的には「ユーザーから一番遠い製造業の川上にいる積水化学とその技術を、いかにしてステークホルダーに知ってもらうか」という課題を抽出し、「積水化学をコミュニケートする」というテーマを設定しました。教育のための教育にせず、今回のプロジェクトが課題解決の施策の一つになるというゴールイメージを持ってもらうことは、特に大切にしたポイントです。

南澤: そのテーマを柱に全5回のワークショップを行いました。最初に「このプロジェクトを通して何をしたいか、積水化学をどうしたいのか」をビジョンとして考え発信するワークを行い、次に、他社ではどういうコミュニケーションをしているのかをリサーチするフェーズ。残りの3回で、本題である「積水化学をコミュニケートする」アイデアを考え、選定し、ブラッシュアップ、最後にプレゼンテーションする、という流れですね。

第1回のワークショップは何をするのか半信半疑だったメンバーも多かったそう

青木: 今だから言えますが、「積水化学をコミュニケートする」というテーマを聞いたとき、個人的にはよくわからないなと思っていました(笑)。最終的にお客様にお渡しするアウトプットができればいいなという感覚でスタートしたので。

小池: 「MICのノベルティを作る」とすればものすごく具体的でわかりやすいのですが、それではそこにとどまってしまい広がりがない。例えば、実際にワークで「積水化学のカフェを作る」とか「こういうWEBサイトを作る」とか、ノベルティに閉じないアイデアが出ましたが、より上位概念のテーマを置くというのが結構大事なんですよ。

デザインセンタ― 小池


HOWではなくWHATを追求することで生まれた、今までにない発想

——— ワークショップではどのようなやりとりがありましたか?

青木: 最初は飲み込めていなかったものが、回を追うごとに「これをやるためにこういう流れだったんだ」という全体設計が見えてきて、腹落ち感がすごくありました。具体的なアウトプットの手前の抽象的な上位概念から落とし込みをすることで、気付きやアイデアの広がりが大きくなったと思います。

仁木: 積水化学のメンバーは、年齢も職種もさまざまな社員が約10名集まっていましたが、そこに富士通のデザイナーが入ったワークショップはとにかく新鮮でした。1チーム4名ぐらいに対して2名のデザイナーが入って、ほぼマンツーマンに近い状態。技術屋だけでは絶対出てこない全く違う観点からのコメントが多く、こういう場だからこそ経験できたことだと思います。今回実際に製作した傘なんか、すごく盛り上がりましたよね。

MICを訪れる人たちにも積水化学のビジョンを共有したいという想いを形にした貸出傘のアイデア。オーロラフィルムを通して世界を見ると世界が違って見えることを、「世界にまた新しい世界を。」というスローガンに重ね合わせた点がポイントのひとつ
コンセプトを説明するパネルとともにMICのエントランスにお目見えした「SEKISUI umbrella」(デザイン:城)

南澤: 最初に出てきたジャンプさせる前のアイデアは、割とノベルティという枠に縛られていたり、「そもそもなぜ作るのか」がわからないまま何となく面白いから出したり、という感じでした。それに対して、「なぜそれが必要なのか」「なぜ面白いと思ったのか」という深掘りや視点を変えるお手伝いをさせていただいたんです。

青木: 確かに、「なぜ?」とよく聞かれましたね。我々はどうしてもHOWにこだわってしまう。ついつい目先のやりたいことに飛びついて忘れがちになるWHYやWHATを、何度も聞かれたのが印象的でした。

小池: 「何をどのように解決するのか」のWHATは非常に大切です。最初のワークで自分のビジョンを語ってもらいましたが、これも「WHATを宣言すること」なんです。自分の想いに一度立ち返ってアイデアにつなげてもらったり、逆に想いはあるのにアイデアが出ない人にはHOWの部分を刺激したり、ということをしましたね。

青木: アイデアを絞り込んで仕上げていくフェーズで、「結構、追い込むな~」と思いました(笑)。でもそれはすごくいいことだなと。新しいものを作るときには、決められた道筋があってその通り行けばゴールできるものではないですよね。あっちに行ったりこっちに行ったりというプロセスを短い時間で何回もやった、その本気度がワークショップの質を上げてくれたと感じています。

南澤: デザイナーもどんどん本気で返すようになってしまって(笑)。

デザインセンター 南澤

青木: 「本気と本気で議論して、よりいいものを作ろう」という一体感が生まれていましたよね。ワークショップの最後にはプレゼンまでしましたが、WHYとかWHATの深掘りができているので、自信を持って発表できたのではないかと思います。

仁木: 富士通さんにどっぷり入ってもらって色々なサジェスチョンをいただき、それだけでも参加してよかったという声もありました。非常によくサポートしていただいたと感謝しています。

  • 本稿は前後編になります。後編では、プロジェクトを通して印象に残った事柄やものづくりの未来についてお聞きしています。後編はこちら >
納品されたばかりの「SEKISUI umbrella」を手に満面の笑みのプロジェクトメンバー。
左から、小池、青木様、城、南澤、仁木様、吉田様


デザインに関するお問い合わせ
ページの先頭へ