デザインで発想する企業コミュニケーション 積水化学×富士通エクスペリエンスデザイン部が 踏み出す「業界イノベーション」の第一歩【後編】

デザインで発想する企業コミュニケーション
積水化学×富士通エクスペリエンスデザイン部が
踏み出す「業界イノベーション」の第一歩【後編】



掲載日 2022年8月24日

富士通デザインセンター エクスペリエンスデザイン部が、社外のお客様向けにUXを起点とする総合デザインサービスの提供を開始して1年。古河電気工業株式会社様と「銅の普及」を仕掛けたプロジェクトをはじめ、製品開発で培った経験とデザイン思考で本質的な課題解決に導く試みが、各所で実を結びつつある。
今回ご紹介するのは、積水化学工業株式会社様が、社内のイノベーションを推進するために、社外コミュニケーションツールの開発というデザイン思考の実践を通して社員の「“化学屋”マインド変革」を図った異色プロジェクト。
「アイデア実装」×「デザイン思考教育」の実現を目指した約4カ月にわたる奮闘とプロジェクトの手応えについて、積水化学工業株式会社 開発企画部 グループ長の青木様、イノベーション推進G リーダーの仁木様、富士通 エクスペリエンスデザイン部の小池、南澤の4人が語りました。

後編のポイント

  • 実現したアイテムはどれも好評でデザインとストーリーの大切さを証明。
  • 今後はデザイン思考ワークショップの継続だけでなく積水化学の風土改革のパートナーにも
  • 新しい価値を生み出し、ものづくりの未来をともに創っていく決意を新たに

インタビュイープロフィール

  • 青木 京介 様 :
    積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 開発企画部
    イノベーション推進Gグループ長
  • 仁木 章博 様 :
    積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 開発企画部
    イノベーション推進Gリーダー
  • 小池 峻 :
    デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 デザイナー
  • 南澤 沙良 :
    デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 デザイナー

部署名・肩書は取材当時のものになります。

完成度の高いアウトプットでプロジェクトの存在感を示す

——— プロジェクトの集大成であるプレゼン発表や出たアイデアへの反響はいかがでしたか?

小池: コロナ禍により今回はすべてオンラインでの実施だったため、通常行うプロトタイピング(アイデアを実際に形にする試作品作り)の工程ができませんでした。しかし、なんとかこのプロジェクトの成果を可視化したいと思い、アイデアのいくつかをプロトタイピングして、最終報告会に合わせてサプライズでお送りしたんです。

プロトタイピングした「再生プラスチック名刺」「未来への切符(MICへの招待状)」「SEKISUI UNIFORM(エプロン)」「積水かるた」「SEKISUI BLOCK」

青木: サプライズでしたね(笑)。MIC内に常設展示ブースが設けられましたよ。発表会には所長や各部署のトップ、他部署の人たちもたくさん来ましたが、総じて「非常によかった」「面白いことをやっていたね」と高評価でした。最終的に製作された再生プラスチックカードは社内外から大きな反響をいただいています。第一声で「おしゃれですね」と言われるデザインももちろん素晴らしいのですが、「社会課題に対する意識から再生プラスチックを使用しているんです」とストーリーとして語れるものがあると説得力が違います。すでに最初に用意した300枚が残りわずかになってしまいました。

水無瀬イノベーションセンターのホームページへ飛ぶ二次元バーコードが印字された再生プラスチックカード(デザイン:山下、南澤)。招待状として封筒に入れて配布も

仁木: 「SEKISUI umbrella」はまだ届いたばかりで使用を開始していませんが、目にした人には見た目のインパクトとメッセージ性が好評ですね。我々も先ほどさしてみましたが、オーロラフィルムを通した風景は、内側に印字された「世界にまた新しい世界を。」の文字と相まって、いつもと違って見えますね。

さまざまな色の表情を変えるオーロラフィルムは晴れの日でも差したくなる


変革のパートナーとして強みを掛け合わせて活動を広げる

——— 今後の展望やパートナーシップについて、どのようにお考えですか?

青木: 実は、次のプロジェクトを一緒にやりませんかというお話をさせていただいています。今回のような経験を色々な人たちに広げるために、今回のプロジェクトに参加した人たちを起点としてイノベーション文化を醸成する活動もしていきたいと考えています。富士通さんは社内の風土改革に対しても知見をお持ちなので、デザイン思考のワークショップと会社全体を変える動きの二本柱でお付き合いできればいいですね。

仁木: やはりイノベーションは1社だけでできるものではないと感じています。もう少し幅広く、イノベーションのパートナーとなる仲間をどんどん増やせたら、と。富士通さんはかなり先を行っているので、そこは見習いながら、ともに日本の製造業の未来を変えていけるような、そんなつながりを作れたら面白いなと思います。

積水化学工業株式会社 仁木様

南澤: そう言っていただけるのはありがたいです。デザインしたものを事業として実現するためには、実際に生産して世の中に広げていく事業活動が必要です。今回のワークショップに「積水ネイル」というコンシューマー向けのアイデアもありました。そういった事業に近いところまで発展していけると、一緒にやらせていただいたデザイナーとしては嬉しいです。デザインする人と実現するパートナーという関わり方は魅力的ですよね。

小池: 皆さんがおっしゃったことに同感です。今後は何かあった時に気軽にお声がけいただけるような間柄になれると嬉しいですね。例えば、「こんな技術(HOW)があるんだけど何に使えるの?」とか「課題(WHAT)に対してどうしていいかわからない」とか、要件そのものがはっきりしていない困りごとを課題探しから一緒にできるようになっていければと思います。

デザインセンター 小池


「ものづくりの未来」に必要なのはデザインの力とオープンイノベーション

——— 最後に「ものづくりの未来」について語り合っていただければと思います。

青木: 「いいものを作る」ことはこれまでと同様に大事ですが、現代において「皆、今以上に高性能なものを求めているのか?」という疑問もあって。スマホだって、皆さんは、もう満足していますよね? そうなると、やはり「ものの背景にあるストーリー」に価値を見出したりお金を払ったりするのだと思います。そういうストーリーを作り出せるのはやっぱりデザインです。我々には今それが足りていないのではないかと感じています。日本の製造業全体という観点でも、我々が生き残っていくうえでも、ただ高機能なものを作るのではなく、いかにストーリーという価値を与えられるか。そういうものを、一緒に作っていきたいなと思っています。

積水化学工業株式会社 青木様

仁木: 「一緒に」というのは鍵だよね。今までは、自分の会社だけで「ものづくり」をやっているケースが多かった。そうではなく、今は、色々な会社がそれぞれの強みを生かして融合して、オープンイノベーションで「ものづくり」をする、という世界に変わっていくと思う。イノベーションセンターも、そういう場にしたいという想いでいます。

南澤: 私は最近、作る人が課題感を持っていないと良いものは作れないのではと感じています。画期的な技術を開発するまで行かなくとも、ただ組み合わせを変えるだけでもすごく良いものになったりするケースが実はたくさんあるのではないかと思うんです。でも、きちんと課題感を持っていないと気付けないな、と。全員が何かしら課題感を持ち、それぞれやりたいことがあって、その手段としてものづくりがあるという姿が健全なのかなと思います。

デザインセンター 南澤

小池: 我々エクスペリエンスデザイン部の本活動には、「日本の製造業を強くする」という大きなテーマがあります。国内大手メーカーの主力事業はかなり昔から続いているので、長い目で見ると先細っていることを感じている企業も多く、第二の柱や第三の柱を作りたいというお話をよくいただきます。既存事業を維持することももちろんですが、新しい事業を作るお手伝いもできればと考えています。

青木: そうですよね。改善や革新もなく、従来通りのやり方で生産し続けるだけではコストや品質はいずれ追い付かれますし、「新しい強みを生み出すんだ」という小池さんのメッセージは、我々にも非常に響きます。勇気づけられました。




プロジェクトメンバー
デザインセンタ― エクスペリエンスデザイン部
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エクスペリエンスデザイン部


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