富士通デザインセンターに日本酒部!?“好き”を原動力に挑戦する日本酒体験のリデザイン

富士通デザインセンターに日本酒部!?
“好き”を原動力に挑戦する日本酒体験のリデザイン



掲載日 2023年2月2日

近年、海外でも人気が高まっている日本酒。しかし、少子化や嗜好の変化により日本国内での消費量は減少し、“文化的危機”とも言える状況なのはあまり知られていません。
この課題の解決につなげたいと、デザインセンターの日本酒好きなデザイナーたちが集まり発足したのが「日本酒部」。デザインの力で日本酒の新たな体験を創造するプロジェクトに取り組んでいます。日本酒の体験をリデザインする “リデザインチーム”と、Z世代に刺さる日本酒体験を考える“Z世代チーム”が鋭意活動中。2022年7月には、「五感で、日本酒と出会い直す」と銘打ったプレイベントを、2023年1月には社外の人もお呼びしたイベントを実施しました。この体験イベントを作り上げたリデザインチームの皆さんに、活動にかける想いやプレイベントの手応えについてお聞きしました。

日本酒の魅力を広め、日本酒消費量を増やしたい

きっかけは、富士通デザインセンター長 宇田哲也がアドバイザーを務めている「BIZAN PROJECT」(DXビジネスの創出で徳島の地域課題解決を図るプロジェクト)の中で出た、日本酒消費量の低迷という課題です。日本酒が好きな宇田の「興味がある人、一緒にやりませんか?」という声かけでメンバーが次々と集まり、富士通デザインセンターに「日本酒部」が発足しました。部活メンバーは日本酒好きという共通点の他にも、それぞれが活動への期待や想いを持っています。

小関: 仕事の一環で好きな日本酒に携われるなんて、こんなに嬉しいことはなかったです。業界の状況は前から知っていたため、いち消費者、いちデザイナーとして日本酒の魅力を世間に広めて活気づけたいという思いで臨みました。

小室: 日本酒という共通の趣味を持った上で、異なる部署のメンバーと一緒にそれぞれの専門的な知見を交えながら新しい何かを生み出してみたい、というのが参加を決めた理由です。

土居: 普段はパソコンやスマートフォンなどの“CMFデザイン”を担当しています。CMFとは「カラー・マテリアル・フィニッシュ」のことで、見た目のデザインだけでなく、使った人の心が豊かになるように製品の表面を仕立てることが僕の役目です。活動の中でその知見を活かし、“CMF”の認知も広められればと思いました。

プロジェクトが始動してすぐに出た「日本酒体験は、今も昔もあまり変わらないのでは?」という意見から発想したのが、「日本酒に出会う」体験の“リデザイン”というテーマでした。



もっと気軽な日本酒体験のタッチポイントを

まずは日本酒業界の現状を把握するため、メンバーたちは徳島の酒造現場を訪問。日本酒造りのリアルな現場から見えてきたのは、「免許制で新規参入が難しい」「人手不足のため、新しい取り組みなど製造以外に力を入れることができない」といった課題でした。

土居: 蔵人の方々も「実はやりたい。でも、できない」もどかしさを抱えていることがわかりました。さまざまな“縛り”が消費者とのタッチポイントを狭めている現状に、私たちデザイナーが介入して日本酒体験を変えていく価値は大いにあると思いました。

この“タッチポイント”をどう作り出すか―。徳島から戻ってまず実施したのは、日本酒に関するヒアリングでした。すると、普段飲まない人にとっては「どれを選んでいいのかわからない」「苦手な味だった時に飲み切る自信がない」などの不安要素があり、この不安要素が敷居を高くしていることがわかりました。

小関: 私たちメンバーが日本酒を好きになったきっかけは、自分にとっての好みの日本酒に出会えたことでした。でも、味や香りは飲んでみないとわからない。また、普段日本酒を飲まない人にとっては、「甘口」や「辛口」といった味を表現する用語も馴染みがなく、選ぶ際のガイドの役割を果していない。しかも価格の幅もあり、日本酒を飲む前のハードルがすごく高いことがヒアリングから見えてきました。

イベントの流れは「選ぶ」「探る」「拡げる」

もっと気軽に日本酒を体験してほしい。そんな想いから生まれたコンセプトは「五感で、日本酒と出会い直す」。そして、このコンセプトを具現化した日本酒体験イベントを企画します。日本酒の「味」や「香り」をボトルデザインで表現することで、参加者は感覚的に日本酒を選び、好みに合う日本酒を見つけるきっかけになる、というものです。

イベントの流れは「選ぶ」「探る」「拡げる」。まず、様々なボトルに入った9種類の日本酒の中から“見て”“触って”直感的に飲みたい日本酒を選び、試飲します。これを繰り返して、味や香りの違いを楽しみ、自分に合う日本酒を探る。飲んで「これ好きかも」と思った日本酒のコースターを確認すると、そこには飲んだ日本酒の情報が記載されており、日本酒への興味を広げるきっかけになる。まさに、五感で選ぶ体験です。

小関: この体験のコアは、日本酒の味や香りを「飲む」以外のプロセスからもイメージできることです。そして、体験のゴールは、日本酒に敷居の高さを感じている方への「気軽に自分の好みの日本酒に出会うきっかけづくり」です。

土居: 五感を生かした「直観的な日本酒体験」は、日本酒への興味を深めてもらうことを第一に考えた体験イベントです。種類や味など、日本酒の豊富さや奥行すらもデザインから感じ取られるようにしたのがポイントです。

横田: 私は日本酒に興味をもち、これから「好きになりたい」段階なので、普段日本酒を飲まない体験者とできるだけ同じ視点で考え、意見を出すことを意識していました。



メンバーの専門性を活かし細部にこだわる

今回、特に注力したのがイベントで使用する日本酒のマッピング。全員で飲み比べを行い “初めての人が飲んですぐに味や香りの違いが分かる”日本酒を選定し、それぞれの味・香り・舌触りの感覚から得たイメージを、ボトルをはじめコースター、ロゴ、空間などで表現しました。

あべ木: マッピングは「味」と「香り」の2軸で行いました。酒蔵のアンバサダーを務めている有識者や年間100種類以上の日本酒を嗜む方達にもご協力いただき、数々の日本酒の中から候補を絞り込んでいきました。

メンバー5名で実際に試飲し、マッピングを決定

土居: モック制作会社の方と何度も議論を重ねて、ボトルのプロトタイプを作りました。色や質感を通して、飲む前から日本酒の特徴を感じていただき、期待を高めることを狙っています。

マッピングの結果とそれぞれの日本酒の持つ個性を併せて、ボトルデザインに落とし込んだ
活版印刷を使った、持ち帰りたくなる名刺サイズのコースター
  • ロゴ:おちょこの底によく使われる蛇の目マークをモチーフに、いくつかのパターンでゆるやかな変化で構成することで、日本酒の種類の豊かさを表現
  • イベントで、のれんとして利用

——— このように、さまざまな企画やデザインを限られた時間の中で展開しましたが、日々の業務と並行した日本酒部の活動は、どのように進められたのでしょうか?

小室: 役割分担はありつつ、意思決定は全員で話し合って進めました。短時間の打ち合わせでも相互レビューを徹底したことが、結果的に譲れないポイントを守って質を維持することに繋がったのかなと思います。

あべ木: 限られた予算と時間の中で、それぞれがクリエイティブ活動に集中し、納得のいくアウトプットにつながるよう、横断的に進行管理や調整に務めプロジェクトを推進したプロジェクトマネージャーの存在は大きかったですね。

活動の輪を広げながら、さらなる展開を目指す

およそ10カ月の活動期間の集大成として実施したデザインセンター内のプレイベントは、参加者の半数近くが今回ターゲットとしていた日本酒初心者。「瓶のデザインで味をイメージできることを実感できた」「日本酒を飲むきっかけがなかったので、今回のような楽しみながら飲める体験はよかった」など、狙い通りの声が挙がりました。一方、この体験をどう「購入」につなげるのかという課題も残ります。

今後の展開について、また今回の経験をどう生かしていきたいのか、皆さんにお聞きしました。

小関: 次は社外の方々にも体験してもらったり、購買につながるよう実際の醸造所や酒蔵の方々とコラボできればと思っています。また、今回の経験を生かし、リアルのタッチポイントでのプロモーション活動の進化も図っていきたいです。

あべ木: 知識量に関係なく「感覚で楽しむ体験」は、その場にいる全員がフラットに語ることができる、ということに改めて気づきました。このコンセプトは世界で共通するものだと思います。いずれ海外にも日本酒の魅力を広げていきたいですね。

土居: 今回は日本酒でしたが、衣食住にまつわる色々なものを取り上げて、知見を生かす機会を増やしていきたいです。CMFの汎用性をさらに高めて、新たな展開とCMFの認知に繋げていければと思います。

横田: 自分たちの“想い”からモノ作りや体験を設計したのは、普段の業務とはまた違い、多くの学びがあり楽しかったです。身の回りにはさまざまな問題が存在しています。デザインを生かした取り組みで、様々な地域課題の解決に取り組みたいです。

小室: 日本酒部の活動はデザインセンターの魅力を発信する良い機会だと感じています。コミュニケーション・グラフィック・CMFなどの専門性を持ったメンバーが集結しているからこそ、デザインセンターの総合力が高まる。こういった取り組みが、新たなコミュニティや活動の創出につながればと思います。

「日本酒が好き」「日本酒の魅力を広く知ってほしい」という想いが発端となり生み出されたこの新しい日本酒体験は、日本酒の新たなファン獲得の可能性を広げました。この体験のブラッシュアップや、より多方面の社外パートナーとのコラボイベントなど、今後の活動の拡がりに社内外から期待の声が高まっています。

ダイジェストムービー

プロジェクトメンバー

富士通 デザインセンター : 写真左より、あべ木 緑(ビジネスデザイン部)、土居 慶祐(エクスペリエンスデザイン部)、
小関 美咲(フロントデザイン部)、横田 奈々(ビジネスデザイン部)、小室 理沙(フロントデザイン部)
  • ※部署名・肩書は取材時のものになります。
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