プロダクトの表面をデザインする専門家~CMFデザイナー&デザインエンジニア~

プロダクトの表面をデザインする専門家
~CMFデザイナー&デザインエンジニア~



掲載日 2022年2月7日

デザイナーと一口に言っても、やっていることは多種多様。デザインセンターでは様々な専門性を持つデザイナーが活躍しています。 今回話を聞いたのは、パソコンやスマートフォンなどの外観の加工・加飾などのデザインをしているCMFデザイナー(Color:色、Material:素材、Finish:仕上げ)の深谷と、技術の知識とコミュニケーション力でデザイナーとエンジニアの間をつなぐデザインエンジニアの宮村。それぞれの仕事の役割やデザイナーとしての考え方などを聞きました。


インタビュイープロフィール

  • 宮村秀幸:富士通株式会社 デザインセンター エクスペリエンスデザイン部、デザインエンジニア。
    プロダクトデザインのハード開発を14年、2003年からデザインエンジニアとして特化し現在に至る。コロナ禍前は、現場に立ち会うためにアジア各国を飛び回り年間約3か月を海外で過ごす。
  • 深谷正子:富士通株式会社 デザインセンター エクスペリエンスデザイン部、CMFデザイナー。
    プロダクトデザインのハード開発を15年、途中UXデザインを経て、2010年からCMFデザインに特化し活動中。また日本流行色協会の専門委員も務め、プロダクトやインテリアのトレンドカラーパレットの作成にも携わっている。


パソコンやスマートフォンの外観をデザインしています

——— それぞれの仕事について、具体的にどんなことをしているのか教えてください。

深谷: CMFチームは、工業製品の材料や加飾・量産技術に熟知した宮村たちのようなデザインエンジニアと、トレンドの素材の生かし方やカラーリングを提案してクリエイトする私も含めたCMFデザイナーが一緒に仕事しています。

CMFデザイナーの仕事としては、ハードデザイナーと一緒に富士通クライアントコンピューティング製のパソコンやFCNT製のスマートフォン、富士通フロンテック製のATMのデザイン開発を主に行っています。その中でパソコンやスマートフォンなどの筐体の素材に合わせて、塗装やアルマイトなどの加工方法や外見の色を決めたりします。

  • 色選定の様子:最適な色相・明度・彩度の組み合わせを
    バランス良くコーディネートしていく
  • モックアップレビューの様子:光沢・艶消・粗い触感・
    さらりとした手触りなど、様々な表面仕上げのモック

宮村: デザインエンジニアは、日々進化するデジタルデバイスを作るために必要な技術の調査・開発や、量産品の外観クオリティの監修を行っています。

デザイナーが出すアイデアを実際に量産する製品にするためには、樹脂・金属などの素材とその加工方法や、インク・塗料・アルマイトなどの加飾技術についても熟知していなければなりません。試作品でOKが出ても量産体制に移行するときにうまくいかない場合も多いので、その辺りも慎重に進めていきます。

 スマートフォンの金属調フレーム
(塗装色の確認と選択している様子)

現在、担当している製品としては、主にコンシューマー向けのスマ―トフォン、タブレット、パソコンなどです。日本製品ももちろんありますが、近年コロナ禍になる前は、新技術が集まる中国に頻繁に行って、クオリティ監修のために現場で立ち会ったり、人脈を作って情報収集したりしていました。

宮村、深谷が携わった製品例


みんなが納得できるものをつくりたい

——— 最近の仕事の事例を教えてください。

深谷: 「LIFEBOOK U7シリーズ」を手がけました。これは法人向けPCのシリーズなのですが、コロナの影響でテレワークが増えるなど、働く場所が変化したこともあって、筐体のカラーをこれまでのブラックからウォームシルバーに変更しました。この色は、明度が4.5~5(※ブラックは1.5~2)で人間の目に緊張を与えず優しいという科学的なエビデンスもあって、ヨーロッパ市場への輸入を見据えて参加したドイツのチームを含め、みんなが腑に落ち納得するものが作れました。

現代の働く環境に最適なCMFデザインを施した「LIFEBOOK U7シリーズ」
  • 働く人のいろんなシーンに溶け込むデザイン
  • 家やカフェなどのインテリアにも馴染む色味


デザイナーのアイデアを実現するためには技術や製造現場の知識が必要

——— デザイナーのアイデアを実現するためには、デザインエンジニアとの協力が不可欠なのですね。

深谷: そうですね。いつもとても頼りにしています。デジタルデバイスのデザインは技術的なことがクリアになっていないと実現できないことも多いので、技術的なことでわからないことがあれば聞きにいきますし、常に新しい素材や技術の情報なども共有してもらっています。

宮村: 技術や素材のトレンドが興る中国での人脈や情報収集はすごく大事にしています。今はコロナの影響で実際に行くことはできないのですが、中国の”WeChat”というSNSで中国人の友人・知人とつながっています。
また中国以外にもアメリカやヨーロッパ、アジアなど各国の同じような職種の人たちともアプリでつながっています。できるだけ世界中から、最新の情報を得られるようにしています。




デザインのもとは、日頃から集めておく

——— CMFデザイン、デザインエンジニアリングのために行っている調査・研究などはありますか?

深谷: リーマンショック、コロナ、オリンピックなど世界的な動きによる経済動向をチェックすることや、暮らしに変化を与える新進的な技術を把握すること。また生活者のライフスタイルや嗜好性を把握するために、国・地域・性年代別などの属性別に雑誌やWEBサイトを参考にした定性的な調査やアンケートなどによる定量的調査などを継続的に行っています。

宮村: 中国の最新技術の情報を絶えずアップデートして貯めておくことと、次に来るトレンドをキャッチすること。いまならPC軽量化、これから徐々に来そうな例としてはエシカルな素材(廃材、再生プラ、海洋プラスチック)などが挙げられます。
以前、中国メーカーの技術開発の流れをウォッチしていて、アルミの7000番(それまでよりも堅牢なアルミ素材)の波が来ることがわかったので、しばらく前からエンジニアやハードデザイナーに「こういうのがあるよ、次にくるよ」と刷り込んでおいて、きちんと評価を進めておいてもらい、ここぞというときに使ったというケースもありました。

———デザインするときに始めにすることや心がけていることはなんですか?

深谷: 「誰がどのように使うのか」「どんな使用環境か」「いまのトレンドは?」ということを起点として考えます。例えば実際にカフェや電車、公園などでPCを使っている人がいたら、どんな行動をしているかを観察して、のちのデザインに生かしたりすることもあります。

CMFデザイナーとしては、どこかで琴線に触れるものに出会ったら、材料、仕上げ、工程、触感、色の見え方をじっくり観察して、そのデザインになった理由や使用環境などを一連のストーリーとして考察します。また普段から時代の変化の兆しを肌感覚でキャッチして、それが将来的に生活者のニーズに合致していくことを論理的に説明できる準備をするように心がけています。

———デザインエンジニアとして心がけていることはなんですか?

宮村: 技術の知識を常にアップデートして蓄積することと人脈作り、加えて現場でのコミュニケーションを大切にしています。
海外では日本の感覚では起きないことが多々起こります。現場に担当者や責任者が来なかったり、予定していた工場のラインを押さえられていなかったり。調色に行ったのに色を見る環境が整っていないなど予想外のこともよく起きます。苦労も多いですが、現場で働く方は一度仲間と認めてくれたら、心を開いて真摯に向き合ってくれるのも事実なので、こちらの希望や思いを伝えるためにコミュニケーションの取り方は工夫しています。

色調整が難航する場合は、原因究明のために、メーカーの使っている顔料を確認させてもらい、ターゲット色にあったものを選択し、調整していきます。


パソコンはついつい裏返して見てしまう

——— 職業柄ついついいろんな素材や見た目のものを触ってしまう、いろんな光源の下で発色を確かめてしまう、みたいなことはあるんでしょうか?

深谷: ついついというか、そんなことも考えないくらい日常的に自然にやっていますね。周りも似たような人が多いから、特別なことだとも思っていないかもしれません。色見本帳を持って歩いて確認したり、いろんな光源で見て確認するのは、もはや生活の一部となっています。

宮村: 私もやります。中国に行ったときは、家電量販店で店員にいろんなことを質問しながらスマ―トフォンやパソコンなどの写真や動画を撮らせてもらい、それらを持って帰って資料としてみんなと共有します。
あとコロナになる前は、ついつい物の表面をシュっと触っていました。感触を自分で確かめて、肌で記憶したくなるんですよね。あとノートパソコンとかは、絶対にひっくり返して裏面も確認します。

深谷: 私も裏返して見ますね。それで仕上げとか素材とか、よさそうなものを見つけると、あれはどんな素材を使っているとか、どんな仕上げをしているとかを情報共有します。私の場合、大事なことは周りの人に話すと忘れないので、覚えておきたいことほど人に話すようにしています。



中国での現地調査資料




———今後、取り組んでいきたいことを教えてください。

深谷: どんな分野でも、トレンドを反映し生活を豊かにする、安心安全をモットーとしたものづくりを続けていきたいと思います。

宮村: 仕事としてはハードウェアのデザインを離れることはないと思いますが、富士通は会社のためになるなら何でもやっていい会社になってきたと思うので、人を勇気づけたり鼓舞するようなモチベーションスピーカー的な役割も担っていきたいなと考えています。
あとはトレンドのところでも少しお話した、エシカルな素材やリアルファブリックなどを使う取り組みも実現していけたらと思っています。


———最後に皆さんへ伝えたいことや想いがあればお願いします。

深谷: それぞれの分野の方々と一緒に、自分たちの手で育んだ製品がお客様のもとで喜びをもって使われることをイメージしながら、丁寧に、丁寧に作り上げていきたいと思っています。

宮村: デザインエンジニアとしては富士通のものづくりのDNAや三現主義(現場・現実・現品)を大事にしたいと思っています。これからもデザイナーの皆さんとともに、お客様が笑顔になってくれるような製品を作っていきたいですね。

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