診療所向け新電子カルテシステムを、デザイナーがコンセプト設計から参画して製品化

診療所向け新電子カルテシステムを、
デザイナーがコンセプト設計から参画して製品化



掲載日 2023年3月28日

デザインセンターでは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスなど様々な富士通製品のデザインを手掛けています。通常デザイナーは、製品の画面設計など、開発の後半の段階でユーザーエクスペリエンス(UX)やユーザーインターフェース(UI)を改良する仕事をすることが多いため、仕様が決まった状態でのデザイン作業が中心です。そんな中、昨年リリースされた診療所向けの新しい電子カルテシステムHOPE LifeMark-SX Cloud エントリーモデル(以下、SXエントリーモデル)は、製品開発を始める前の企画段階からデザイナーが参画し、開発された製品です。ヘルスケア事業部の開発チームとデザイナーが一緒に検討を進めながら理想的な製品が完成しました。このプロジェクトのデザイン主担当加藤と、デザインリーダーの金子に話を聞きました。

インタビュイープロフィール
デザインセンター ビジネスデザイン部 デザイナー

  • 加藤 沙織
  • 金子 一英

部署名・肩書は取材当時のものになります。


製品化が決まる前からヘルスケア事業部とデザインセンターが連携

——— 加藤さんはこれまでどのような仕事をしてきたのですか?

加藤: 入社してからからこれまで、様々なソフトウェアやサービスのUX/UIのデザインに携わってきました。入社当初はサーバー、ストレージ、ネットワークといったITインフラ環境を管理するシステムのデザインを担当することが多かったですが、2009年ごろからヘルスケア事業にも携わるようになり、その中で従来の診療所向けのシステムのデザインを担当する機会もありました。

——— それでこのSXエントリーモデルの開発に当たって、ヘルスケア事業部から相談があったのですね。

加藤: 3年ほど前、初めて話が来たときには、まだ製品になるかどうかもわからない段階でした。この段階でデザインセンターにお声がけいただくことは初めてで、とても驚きました。

金子: もともとHOPE LifeMark-SXという製品があるのですが、より低コストで導入の手間もかからない、Webカルテ版の構想があったのです。その後、自民党が掲げた「医療DX令和ビジョン2030」でも電子カルテの全医療機関への普及が挙げられており、時代の潮流に合わせた戦略とも言えます。

加藤: ヘルスケア事業部では新しいSXエントリーモデルを、初めて電子カルテを使うユーザーでも分かりやすく使いやすい製品にしたいという狙いがありました。開発の初期段階からデザイナーが参加することで、そのコンセプトを具現化し、顧客にとってより魅力的な体験が作り出せると判断されたのだと思います。こうしたことから、企画フェーズでのデザインチームと事業部との協業がはじまりました。ヘルスケア事業部が従来製品からの知見や機能の優先度などの機能面を精査し、デザインセンターではコンセプトや利用シーンの整理、他社製品などの市場調査、使いやすさを重視した画面デザインなどを行いました。

金子: 加藤が主担当で、私は他のHOPEシリーズの動向などを踏まえたディレクションや調整を行いました。



随所に使い勝手の工夫を取り入れた、親切なインターフェースを実現

——— SXエントリーモデルのコンセプトはどのようなものですか?

加藤: 一言で言うと「シンプル&ミニマム」です。SEが医療現場に行かなくても導入でき、医療スタッフが業務で使いこなすまでの教育コストも抑えられる製品を目指し、機能的なニーズとユーザー視点の使いやすさをバランスよく取り込むよう意識しました。

——— どんな診療所をターゲットに想定していますか?

加藤: 様々な診療所で使っていただくことを想定していますが、特に新規開業される診療所や、紙のカルテを使っていて新たに電子カルテの導入を検討されている診療所をターゲットとしています。紙のカルテで運用されているのですから、これまでの通り紙のカルテに書くような感覚で電子カルテを使えれば難しく感じることなくお使いいただけるようになるはず、というのが最初のアイデアです。

金子: これまでのHOPEシリーズで培ったノウハウを活かしながら、全く新しいソリューションを一からデザインしていきました。企画段階からデザイナーが入ってコンセプト設計を行ったことで、ぶれのない開発ができたと思います。

デザインセンタ― 加藤

加藤: 開発の早い段階からヘルスケア事業部とゴールの意識合わせができていたのがよかったと思います。SXエントリーモデルの方向性がしっかり定まったので、例えば検討段階で開発メンバーと「この機能は『シンプル&ミニマム』がコンセプトのSXらしくないから見直そう」という会話を何度もしてきました。

——— 具体的にどのような特徴があるのですか?

加藤: これまでの製品には、例えばキーボードでコマンドを打つことでスピーディーに入力できるなど、学習すればするほど作業効率が上がる機能がたくさんありました。ただ、それらの操作を習得するまでにはかなりの時間が必要でした。SXエントリーモデルは、マニュアルを見なくても基本的な操作は理解できるインターフェースになっています。機能やメニューは状況に応じてユーザーが探すのではなく、必要なタイミングでシステム側から提示するような親切な設計です。例えば入力エリアにフォーカスが当たると、入力時に使うシェーマ(身体部位の図)の機能などが表示されたり、検査に関する入力をしたら検査時に必要な申請ダイアログが表示されたり、痒い所に手が届くような機能を取り入れています。また、提示された順に入力すればミスが起きないような工夫も各所に入れました。これを実現するために、よくある診察の流れをヒアリングし、利用シーンを確認しながら、どのタイミングでどんな機能が必要なのか、何度もすり合わせを行いました。

金子: エラーを防ぐ仕組みも特徴的で、エラーが疑われる入力があるとその都度注意喚起のメッセージが表示されます。カルテを閉じるときにも自動的にチェックを行ってアラートが出るなど、うっかり誤った内容のまま保存しないよう工夫されています。

加藤: UIもシンプルなデザインを心掛けました。例えば入力エリアに関しては、よく使われる枠線で囲われたテキストボックスではなく、シンプルさを優先して下線のみのスタイルのものを採用しました。スッキリ洗練された印象の画面になっただけでなく、ノートに書くような感覚で入力できるようになったと思います。

金子: 『シンプル&ミニマム』というコンセプトを補うために、必要に応じて他製品と連携できるようにしました。初めから連携を念頭に置いて設計したため機能面だけでなく見た目も統一感があり、他の製品をシームレスに操作できるようになっています。

HOPE LifeMark-SXシステム(利用イメージ)

——— 製品はいつリリースされたのですか?

加藤: 診療所向け電子カルテとして2022年10月にリリースされ、現在は医療事務に関する追加機能を開発中です。例えばマイナンバーカードの健康保険証利用への対応等、お客様のフィードバックもいただきながら開発や機能強化を行っているところです。

金子: 販売方法も刷新され、オンラインでの販売サイトを用意することで開業医の方がご自身で製品紹介サイトから販売パートナーさんを選び、問い合わせて契約できるようになりました。また、購入前に手軽に体験版を使って試すことができるので、使いやすさを理解してもらいやすくなったと思います。



10年間で最高の出来の自信作

——— リリースされたSXエントリーモデルは、期待通りの製品になりましたか?

金子: 私は旧モデルから10年以上SXシリーズに関わってきましたが、今回UIの本来あるべき姿からデザイナーが検討することができ、それが実装されて念願がかないました。互換性などの制限がほとんどなく一から設計できたため、初めての方でも迷わず使える理想に近いUIを実現できました。これまで私が関わってきた製品の中では最高の出来ですね。自信作です!

デザインセンター金子

加藤: 販売パートナー様に試作品をデモした際には「とても分かりやすい」と喜びの声をいただきました。これまでお客様やパートナー様にご意見をいただいても、様々な制約から対応できなかったこともあったので「これを待っていた」という感想もありました。またお客様からは「機能がシンプルなので、紙から電子カルテに移行するには使いやすい」とコメントいただき、デザインで意図した思いが伝わったようで嬉しかったです。



ヘルスケア事業部とデザインセンターの連携が成功の鍵

——— 今回「自信作」と言える製品ができた要因は何でしょう?

金子: ヘルスケア事業部とデザインセンターが、それぞれの強みを活かせたことです。お互いを尊重して協力、連携できたことが大きかったと思います。

加藤: このプロジェクトでは、製品の企画段階から携わることができて貴重な経験となりました。自分のデザインした製品でお客様に喜んでいただけることはもちろん嬉しいですが、チームで開発をして「良い製品ができた」と一緒に喜べることにもまたやりがいを感じます。

——— このプロジェクトに限らず、デザイナーとして心掛けていることは何ですか?

加藤: 身の回りのものを見たり使ったりする際、当たり前に受け取らずに常に考えるようにしています。「こうあるべきでは」「これが本当に正しい使い方なのか」などと疑問を持つことが、デザイナーとしてのアイデアにつながるのではないでしょうか。

金子: 同感です。加えて「どうやったら理想に近づけられるか」という視点もあると、夢だけで終わらず実現に結びつくと思います。富士通の以前のキャッチフレーズ「夢をかたちに」を体現できればいいですね。その一環として、私は自主的にオンライン診療に関する新しいサービスについて研究しています。ヘルスケアのDXに少しでも貢献したいという思いで始めました。社内論文によってビジネスにつながる機会を得られる社内制度もありますので、将来的に大きな企画にできればと考えています。

加藤: 私には子どもがいますが、子どもと通うクリニックでもSXシリーズが使われています。このように自分や家族の生活の中で使われる製品のUX/UI改善につながる仕事に、今後も積極的に関わりたいですね。

金子: 今回、デザイナーが製品の企画段階から参画することで、今まで以上に使いやすく分かりやすい、現場にフィットした製品ができたと自負しています。デザイナーの価値を発揮できるシーンは、DXなどの新しい領域でもできることはたくさんあると考えています。これを機に、デザインセンターの活躍の場が広がることを願っています。



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