富士通デザインセンターの若手デザイナー3人に聞いた
「おすすめの本」3冊

富士通デザインセンターの若手デザイナー3人に聞いた
「おすすめの本」3冊



掲載日 2023年2月16日

デザインセンター社員によるおすすめ書籍の第3弾をお届けします。今回は、入社3年以内の若手デザイナー3名に1冊ずつ本を紹介してもらいました。入力フォーム制作の際に辞書のように使える実用的なノウハウ本、就活の際に出合いデザインの意義について考えた本、表現の持つ暴力性や差別について気づきが得られる本と、今回も多彩なラインナップとなりました。ぜひ本を選ぶときの参考にしてみてください。



誰もが入力しやすい入力フォームの辞書

『Form Design Patterns ―シンプルでインクルーシブなフォーム制作実践ガイド』
著者:Adam Silver
監修:土屋 一彦
翻訳:株式会社Bスプラウト
出版社/出版年:ボーンデジタル/2019年
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『Form Design Patterns ―シンプルでインクルーシブなフォーム制作実践ガイド』
著者:Adam Silver 監修:土屋 一彦 翻訳:株式会社Bスプラウト 出版社/出版年:ボーンデジタル/2019年
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横田奈々

デザインアドボケート 横田 奈々

解くべき問いを生活者と共に考え解決に向けて伴走することで、デザインやデザインセンターへの共感を生み、ファンになってもらうことを目指す役割を担当。


学生時代、スタートアップ企業でSaaS開発のデザイナーとしてインターンをしたことがあります。サービス内の入力フォームのUI(ユーザーインターフェース)デザインを行っていた時に、どういったデザインにすれば良いか判断に困ったことがありました。そのとき当時の上司から薦められたのがこの本です。フォームに入力してもらう際、一人も置き去りにしないためのインターフェースデザインについて、紹介・解説しています。

この本の一番の特徴は、UIとそのソースコードを両方掲載している点です。インターン時代、先輩に「UIデザインはお絵描きだけでは駄目。実装するのが最終目的なので、どうすれば使いやすいのか、それをどう実現できるかも考えることが重要」と言われたことが、大変印象に残っています。UIをデザインする際、実装の知識はデザインの良し悪しの判断や、開発者との連携にも役立ちます。本書を参考にして、実際の業務でSEに実装の具体的な指示をしたこともあります。また実装事例も載っているので、実際にそのサイトへアクセスして理解を深めることができる点も便利で良いと思います。

タイトルにある通りインクルーシブなフォームについて詳しく解説されていて、例えば視覚障害者が使うスクリーンリーダーがどう読み上げ、視覚障害者にはどう聞こえるかについての説明もあります。学生時代はインクルーシブな視点が足りなかったので、インターンの場で初めて本書を用いて学ぶことができました。

一番役に立ったのは、テキストフィールドのエラーメッセージの表示位置についてのトピックです。例えば電話番号のフィールドに15文字分の入力フォームがあり「○文字以内で入力してください」とエラーメッセージを出す場合、これには様々な表示方法・実装方法があります。中には晴眼者には分かりやすくても、スクリーンリーダーで読むととても分かりにくい表示位置があることを知ることができました。この本を読んだ後は、晴眼者に加えてインクルーシブな視点でのUX(ユーザーエクスペリエンス)を意識してUIをデザインし、デザインとして表面に現れない部分にも気を配って実装の指示をするようになりました。見た目だけでなく「なぜこの位置にそのコンポーネントを表示するのか」というデザインの理由付けの軸を持てましたし、レビューの場でデザインの根拠を説明する際にも役立っています。

様々な観点からフォームを説明している辞書のような本で、UIデザインやWebデザインをする人にはぜひおすすめしたいです。



自分がモノを作る理由を与えてくれた本

『ソーシャルデザイン―社会をつくるグッドアイデア集』
グリーンズ 編
出版社/出版年:朝日出版社/2012年
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『ソーシャルデザイン―社会をつくるグッドアイデア集』
グリーンズ 編 出版社/出版年:朝日出版社/2012年
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坂井 俊介

フロントデザイン部 デザイナー 坂井 俊介

リテール系のプロダクトデザイン・サービスデザインを中心に担当。

私は大学でプロダクトデザインを学び、卒業後はメーカーのデザイナーになりたいと思っていました。ただ当時は何のためにデザインをするのか、何のためにモノづくりをするのか、という意識が弱く、進路を迷っていました。漠然と「世の中にマッチしたものを作りたい」と考えるようになり、それを作品集としてまとめた際、大学のOBから「坂井くんには富士通が合っていると思うよ」というアドバイスと共に薦められたのがこの本です。とても興味深い内容で、入社前のの冬季実習で「社会に対してどうデザインするか」という課題に取り組んだ際にも役に立ちました。そのOBがなぜ私に富士通を薦めてくれたのかは聞けずじまいでしたが、薦めてくれたことが後押しになったのは確かです。

この本はソーシャルデザインをテーマに、社会課題を自分ごととしてスケールダウンした解決アイデアなどが紹介されており、デザイナーに限らず誰が読んでも面白い本だと思います。例えば「1章:自分ごとからはじめる」「2章:これからの○○を作る」などそれぞれのトピックごとに実例が紹介されています。社会課題と言うと大げさに聞こえますが、本を読むと「なるほど、こんなきっかけがこの活動につながったのか」「こんなふうに気軽にスタートしたのか」と分かり、自分にもできそうな小さな一歩が社会を変えるきっかけになり得ると気づきました。

現在私は、リテール系のプロダクトデザイン・サービスデザインを担当しています。本書がきっかけでデザインに対する姿勢が少し変わり、例えば買い物客のユーザー体験をデザインする際に、自分が買い物客だったらどう行動するかと自分ごととして捉えたり、「こうだったら面白いな」というワクワクする感覚を元にデザインするようになりました。それまではモノのきれいさ、使いやすさを追求してプロダクトをデザインしていましたが、今はそれに加え、作る前、作った後の体験や社会背景なども考えて、「何のために作るのか」「なぜそのモノが必要なのか」という存在意義も考えるようになりました。

学生時代は社会課題にあまり関心を持っていませんでしたが、この本を読んで新たにサービスデザイン、ソーシャルデザインの視点を身に付けられ、自分がモノを作る理由が見えてきたと思います。決して教科書的な本ではなく初歩的な内容ですが、私にとっては本書がデザイナーとしてのターニングポイントになりました。デザイナーに限らず多くの人にお勧めしたい本です。



デザインが差別を助長していないか考えるヒントに

『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』
著者:清水 晶子、ハン トンヒョン、飯野 由里子
出版社/出版年:有斐閣/2022年
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『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』)
著者:清水 晶子、ハン トンヒョン、飯野 由里子
出版社/出版年:有斐閣/2022年
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ビジネスデザイン部 デザイナー 廣澤 梓

富士通製品のWeb販売におけるUX検討やWebデザイン、新規サービスのUI制作などを担当。

ジェンダーやマイノリティに関する本はデザインの仕事にも通じるので、よく読んでいます。この本の著者の一人が書いた本を読んだことがあり、興味を持って手に取りました。

この本では「ポリティカル・コレクトネス」という言葉がどのように扱われてきたかに触れながら、タイトルの通りその先への問いを投げかけています。ジェンダー、ルーツ、身体、認知の特性など、社会の構造が起こしてしまう差別について、3名の著者がそれぞれの取り組みや考察を交えて丁寧に取り上げていて、論考と鼎談という構成で最後まで興味深く読みました。

ジェンダーの話で思い出すのは、ある研修の冒頭、自己紹介の際に私が言われた言葉です。受講者一人ひとりに仕事内容についてコメントをしていた司会の方が、私に対しては「紅一点ですね」とだけ言ったのです。専門性は完全に無視され、私の属性は「女性」のみであるかのようなコメントに、大きな違和感を覚えました。また座席表は、私の名前だけ赤字で書かれており、属性と文字の色を結び付けられたことに強い不安を感じました。表現が時に他者を否定する暴力性を持つことを改めて痛感しました。

私がデザインに携わる際には、差別的な構造を無批判に取り入れていないかをできるだけ考えるようにしています。例えばチャットボットに女性を表すアイコンを使うという指示があるときは「女性でなければいけないのか」「案内係は若い女性の仕事という偏見を助長していないか」と考えます。

あるサービスのWebサイトに使う写真について、「若い女性にしたほうが見栄えがいいのでは」という意見が上がりましたが、実際のユーザー層を想定した中年男性の写真を掲載することになりました。実際のユーザーが、そのサービスを利用する状況が伝わる写真を選ぶことが重要です。アクセス数や売り上げなどの短期的な視点でデザインを扱おうとすると、よくある表現や目を引くビジュアルを採用してしまいがちですが、現実のユーザーに届けるために本当に必要な表現は何か、近視眼的にならずに検討する必要があります。それに配慮しつつビジネスに貢献することは決して不可能ではないと思います。

第4章の「『思いやり』から権利保障へ」は、私がうまく言語化できていなかった部分が明確にされていて特に感銘を受けました。差別が良くないのは当たり前で、困っている人を思いやることは大事なことです。しかしマイノリティの人が不便を感じるということは、世の中が、普通とされる人しか想定せずに設計されていると考えることもできます。例えば車いすやベビーカーで電車に乗る人に対して、「乗せてあげても良いですよ」という優位意識を持っていないでしょうか。思いやりや心がけ次第、つまり時と場合によって他者の権利を侵害するか擁護するかが変わるという状況はあってはなりません。この章でその要点を知ることができました。

デザインセンターには「社会問題をデザインで解決していく」というミッションもあり、本書の内容はこれに通じるものがあると思います。倫理や規範について考え続けるための入り口として、デザイナーにおすすめの本です。

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