富士通デザインセンターの若手マネージャー3人が推薦。
「おすすめの本」3冊

富士通デザインセンターの若手マネージャー3人が推薦。
「おすすめの本」3冊



掲載日 2022年11月14日

デザインセンター社員のおすすめ書籍第2弾となる今回は、デザインセンターの若手マネージャー3名から1冊ずつ本を紹介してもらいました。仕事にすぐに役立ちそうな本から、人との接し方のヒントになる本や、デザインの基本となる考え方を助ける本まで、多彩な3冊をご紹介します。興味を持ったらぜひ、あなたも手に取ってみてください。



キャッチコピーとデザインがギュッと詰まった事例集

『何度も読みたい広告コピー』
出版社/出版年:パイインターナショナル/2011年
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『何度も読みたい広告コピー』
出版社/出版年:パイインターナショナル/2011年
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エクスペリエンスデザイン部 マネージャー 星 真人

富士通・富士通グループ製品に関わるハードウェアデザインをメインに担当。


私はこれまでハードウェアのデザインを主に担当してきましたが、人にメッセージを伝えたり説明をしたりする仕事も多く、デザインと共にキャッチコピーを考える機会もありました。キャッチコピーを作る際の参考にするために、数年前に購入したのがこの本です。広告コピーの名作が1冊にギュッと詰まっています。

例えばポスターでは、デザイン、レイアウトも重要ですが、キャッチコピーも同じくらい重要な要素で、長く説明しなくても、短い言葉で端的に表すことができれば伝わりやすくなります。逆に言葉を間違えると、同じ内容を説明しているはずなのにネガティブに聞こえることもあるため、慎重に言葉を選ぶよう心掛けています。

この本は、見開き1ページにキャッチコピーとボディコピー、コピーライターの名前、プロジェクト、受賞歴、コピーライター本人による解説(アプローチや思考方法)、実際のアウトプット(ポスター等)が掲載されている事例集のような本です。名作と言われるコピーが100以上も紹介されているだけでなく、制作者本人が何を意図してその言葉を選んだのかも解説されており、1冊で多くの制作者の視点を学べる貴重な本だと思います。紹介されている広告は、商品広告、企業広告など様々ですが、解説を読むと、キャッチコピーには大きく分けて作り手目線、ユーザー目線、第三者目線の3種類があることが分かります。私も自分が説明する時に、この本を参考にして視点の切り替えを意識するようになりました。

10年以上前の本のため事例自体は古いのですが「対象物に対して理解を深めた上で、試行錯誤しながら純度を高めたフレーズで表現する」という本質部分は今も昔も変わらないでしょう。個人的には、資生堂の「一瞬も 一生も 美しく」というコピーが好きです。このコピーは、非常に短いフレーズの中に、化粧品会社の目指す方向性がすべて詰まっているようで、秀逸だと感心します。

開発の企画が始まる時に、製品のデザインやプロジェクトのゴールイメージをポスター仕立てにして、開発関係者に示すことがありますが、この本をよくポスターや資料の紙面構成の参考にしています。開発の企画段階で最終形をはっきり示すことで、ゴールが明確になり、スムーズな開発にもつながると思います。分かりやすい資料がスムーズな開発の一助になればという思いで制作しています。

事例集のためパラパラと眺めるだけでも参考になります。何度見ても目に入ってくるデザイン、コピーもありますし、「遠くから見ても目を引くな」、「Webサイトならこれくらいの長い文章でも読んでもらえるだろう」など仕事をするうえでとても参考になります。特に、デザイナーにおすすめの本です。



なぜそちらを選ぶのか。自分が選択をする際にも他人の選択を理解するうえでも役立つ

『選択の科学』
著者:シーナ・アイエンガー
翻訳:櫻井 祐子
出版社/出版年:文藝春秋/2010年
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『選択の科学』
著者:シーナ・アイエンガー
翻訳:櫻井 祐子
出版社/出版年:文藝春秋/2010年
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フロントデザイン部 マネージャー 森下 晶代

サービスデザインを中心にした、お客様とのビジネス推進を担当。

年度末で慌しい中、いろいろな決断に迫られた時期に出会った本です。私は、本は必要な時に呼んでくれると思っているのですが、当時まさに「この本に呼ばれた」と感じました。

著者の両親はインドから米国への移民で、厳格なシーク教徒だそうです。シーク教徒のコミュニティの中で、自分で選択することなく宗教にともなう慣習の通りに生きてきた両親を見ていた著者は、アメリカの公立学校で文化の違いに触れました。何でも自分で選択して決めるクラスメイトの行動や、学校生活を通じて、選択に関心を持ち研究テーマにしたそうです。

この本では、選択に関する様々な実験結果が紹介されています。例えば「選択肢は多ければ良いというわけではない」「よく知らない分野の選択に関しては、自分で選ぶより信頼できる人に選んでもらったほうが後悔は少ない」などは選択できる自由がある方が良いという感覚とは違う結果で、とても印象的でした。

また、この本との出会いは、自身の選択する行動そのものを見直すきっかけにもなりました。複数の道の中からどの道を選ぶかはその人次第。何を基準にするかは、まさにその人の人間性を表していると言えます。マネージャーになって自分が判断する機会が増えただけでなく、他人がジャッジする瞬間に立ち会う機会も増えました。そして自分だけでなく他人が、何を基準にどうやって選んでいるのかを気に掛けるようになりました。

例えばデザインの提案に対して、現場の担当者やお客様にノーと言われることもあります。なぜノーなのかは、その人の立場や価値観、バックグラウンド、文化などが関係しているとあらためて気づきました。そして「そこに重きを置いているのか」「ノーと言わざるを得なかったのでは」などその人の考え方を推察して、様々な考え方を受け入れられるようになったと思います。

よく、デザインは共感が大切だと言われます。この本を読めば、自分とはまったく異なった思いにも共感できるように、あるいは共感は難しくても理解はできるようになるかもしれません。「自分は選ばないかもしれないがそういう選択もある」といった気付きにもつながりますし、さらには「そういう価値観なら、こういう歩み寄りができるかも」という対応もできるかもしれません。私自身、この本を読んで違いに対して、許容の幅が広がったように感じます。

ところで、私はキャリアや人材育成に関係する仕事をすることもありますが、キャリアも選択の結果です。「○年後に□□をする」と綿密にキャリア設計をするアプローチもありますが、私はあまり具体的に決め過ぎずに、その都度選択していくことも重要だと考えています。プランドハップンスタンスという理論の通り、一つ一つの出会いや環境に対して、どう反応し選択するかが肝心ではないでしょうか。計画通りにキャリア形成できなくても、納得のいく選択をしていくことで自分の進みたい方向に進めると思っています。

実際、キャリアに悩んでいる人にこの本を薦めることもあります。選択をする機会が多い人、他人の選択についてもっと知りたい人、多様性について考えたい人にお薦めの本です。

  • プランドハップンスタンス:
    日本語では「意図された偶然」などと訳される。キャリアは自分以外の環境(偶然の要素)に左右されることが多いため、偶然のチャンスに対してポジティブに選択していくことでキャリアを積むという考え方。


谷崎潤一郎からデザインの視点を学ぶ

『陰翳礼讃』(いんえいらいさん)
著者:谷崎 潤一郎
出版社/出版年:中央公論社/1995年
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『陰翳礼讃』(いんえいらいさん)
著者:谷崎 潤一郎
出版社/出版年:中央公論社/1995年
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ビジネスデザイン部 マネージャー 揖(かじ) 隆弘

富士通が自社で開発するサービスのデザイン開発、および組織のデザイン思考浸透活動に従事。
人間中心設計専門家。

学生の頃、デザイナーの深澤直人氏が紹介していたコラムを読んで興味を持ち、手に取った本です。

初版は90年ほど前です。この本が書かれた当時の日本では西洋化に邁進しており、伝統的な日本の生活様式は失われつつありました。伝統的な日本の家は、闇を許容した暗がりの中での生活でしたが、西洋では光が家の四隅まで届くような設計で、我々の今の生活も夜でも明るいのが普通です。しかし実はそういう環境では、日本の工芸品である漆器や螺鈿細工の本当の美しさは分からないと著者は言います。この本には、当時の家屋のような薄暗い影の中で、器や衣服、蒔絵などがどう美しく見えるのかが書かれています。能や歌舞伎が、影の中でどう見えるかといった日本の文化についても触れられています。

とにかく文章が素晴らしく、挿絵は一切ありませんが、闇の中での様々な美しさが90年の時を越えて手に取るように伝わってきます。もし、古い日本家屋に行ったことがある方なら、自分の体験を思い出しながら読むと情景が浮かんでくるのではないでしょうか。物の美しさはそれ単体では決まらず、どういった場所に置かれどういった環境で使われるのかで決まるということに、あらためて気づかされました。

私は人間中心設計専門家の資格を持っており、常にユーザーの視点でデザインすることを心掛けています。また、ユーザーを中心に据えるだけでなく、ユーザーが置かれている環境や文化のコンテキストによってもデザインの価値が変化するということも、意識する必要があります。この人間中心設計のアプローチは、この本の「豪華な金で装飾された漆器は、影が深く光の力が弱い日本家屋で使われるからこそ美しい」という視点と共通するものがあります。90年前に書かれた文豪の随筆と、現代のデザインの考え方に共通点があるのは、とても興味深いです。

デザイナーの中には、大学で教授にこの本を薦められて読んだという人もおり、デザインの世界では昔から読まれている有名な本のようです。「美しさ」について言語化されており、改めて考えさせられる本ですので、デザイナーに限らず美術関係の仕事をしている人は、一度読んでおくと良いと思います。私も時々読み返したいと思っています。

実はこの本は既に著作権が切れており、Amazon(Kindle)など様々な形態の電子書籍で、無料または非常に安価で提供されています。電子書籍で気軽に読むこともできますが、私はこの本は紙で読んでこそ、味わいのある内容だと思います。できれば文庫本で読むことをお薦めします。私の持っている旧版の文庫本だと60ページ程度と短いですので、すぐに読み終わると思います。古い本なので、旧漢字や文体が少し難しいところもありますが、ぜひ手に取り、文章から伝わってくる日本の伝統的な美しさを感じ取ってみてください。

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