ビジネスは「デザイン」できる?事業部とデザイナーが事業創出でタッグ
共創プロジェクト「デジタルラボ」の軌跡 Vol.1

ビジネスは「デザイン」できる?
事業部とデザイナーが事業創出でタッグ
共創プロジェクト「デジタルラボ」の軌跡 Vol.1



掲載日 2021年6月07日

富士通株式会社(以下、富士通)が「DX企業」としての飛躍を誓い、DXビジネスの実践を目指す中、デザインセンターと事業部が一体となった4つの共創プロジェクトが進められている。すべてのプロジェクトに共通するのが、DXと親和性の高い「デザイン思考」の実践を掲げている点。今回はそのうちの1つ、「デジタルラボ」プロジェクトの進捗を取材。デジタルラボ事業部の萩原シニアディレクターと溝渕マネージャー、そしてデザインセンターの浅川部長が、プロジェクトの軌跡と今後の展望について語った。(全3回配信)

インタビュイープロフィール

  • 萩原 稔 :
    ソーシャルデザイン事業本部)デジタルラボ事業部 シニアディレクター
  • 溝渕 真名武 :
    ソーシャルデザイン事業本部)デジタルラボ事業部 マネージャー
  • 浅川 玄 :
    デザインセンター)ビジネスデザイン部 部長

(注)部署名・肩書は取材当時のものになります。



記事のポイント(Vol.1)

  • 当初、事業部サイドは事業企画における「デザイン(思考)」の効果に半信半疑だった。
  • デザイナーも、初の試みに対して戸惑いを感じていた。
  • しかし、ターゲットを明確化し、前向きに「共創」に取り組むことで成果が得られた。

交錯する不安と期待、事業部・デザイナー双方にとって新たな試みが始動

萩原

「デジタルラボ」プロジェクトでは、研究開発領域のDXへの貢献をミッションとし、統合ソリューション「Digital Laboratory Platform(DLP)」の構築を目指している。DLPは、AIによるビッグデータ解析や、VRによるナノレベルの世界の可視化、またロボット制御による実験の自動化などの機能をトータルで提供する、データ駆動型の研究開発環境である。

取り組みの本格始動は2020年7月。プロジェクトのメンバー構成は、デザインセンターから4名、デジタルラボ事業部から6名。実は当初、デザインセンターと事業部のメンバー双方に若干の戸惑いがあったと言う。事業部にとってみれば、事業企画に「デザイン思考」を用いるという共創プロジェクトのコンセプトそのものが、具体的にイメージしにくいものだったのだ。

「まず率直に思ったのは、『ビジネスをデザインする』なんてできるはずがない、ということ。

研究開発は、比較的高い専門性が求められる領域でもありますし、そこに『デザイン』がどう結びつくのかが思い描けませんでした。一方で、これまであまり接点のなかったデザインセンターと組むことで、何か新しいことができるのではないかという期待もありました」(萩原)。



溝渕

「私はこれまで、案件のグランドデザインなど、いわゆる『絵を描く』ところでデザインセンターに支援をいただくことが多かったのですが、今回のように事業企画のフェーズにデザイン思考を取り入れるとなると、一体どうなるのだろう…?という感じでしたね。 その分、何が起こるのか非常に楽しみでもありました」(溝渕)。



従来、社内では「デザイン」と言えば専らデザインコンセプトの立案、あるいは画面やプロダクトのデザインのことを指していたのだから、事業部メンバーのこうした反応は当然とも言える。また、共創プロジェクトにアサインされたデザイナーにとっても、事業部との連携は手探りでのスタートだった。

浅川

「デザインセンターでは、共創プロジェクトの発足にあたり、

  1. アイデア
  2. 課題
  3. 解決
  4. プロダクト
  5. 利益

の5つを、順を追って磨いていくための共創フレームワークを新たに構築しました。

今回はまず、事業企画に関わる1から3までに挑むことだけは決まっていたものの、フレームワークを実ビジネスで活用するのは私たちも初めて。とにかく挑むしかない、という心境でしたね」(浅川)。

こうして、互いに一抹の不安と未知の領域への期待感を持ったメンバーが結集し、「デジタルラボ」の共創プロジェクトはスタートしたのだった。



新規事業創出のチャンス大?ターゲットは「MI」に決定

デジタルラボ事業部は、「研究開発(R&D)」と「ヘルスケア(Wellbeing)」という2つの領域を軸にビジネスを展開している。このうち、R&D領域の顧客は、「製薬メーカー」と「材料メーカー」の2系統に大別できる。今回のプロジェクトでは、材料メーカーにおけるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)にフォーカスすることに決めた。MIとは、AIを活用した材料開発のアプローチである。

「MIは、ここ数年非常に注目されていて、今後の大きな伸びが期待されています。比較的新しい領域ということもあり、我々自身も分かっているようで分かっていない部分があるのではと考え、ターゲットに設定しました」(萩原)。

ある程度成熟した製薬の領域よりも、MIにはより多くの新規事業創出のチャンスが開かれていると考えられたのだった。そして、この読みは的中する。デザイン思考を用いた一連のアプローチを通じて、予想した以上に顧客の抱える課題が数多く浮かび上がることとなった。



“As is”の共有からスタート、共創プロジェクトの足取り

2020年7月から11月までの約5か月間に、デジタルラボの共創プロジェクトは以下の取り組みを段階的に推進していった。

  • 「カスタマージャーニー」の作成
  • 材料メーカー3社へのヒアリング
  • ヒアリング結果をふまえた社内ワークショップ
  • 「ビジョン」と「仮説アイデア」の作成
  • 材料メーカー3社への再ヒアリング

まずは、プロジェクトの出発点として、デザインセンターのメンバーと事業部メンバーとが、顧客事業への共通認識を持つ必要があった。そのため、デザイナーが事業部メンバーからレクチャーを受けた上で、「カスタマージャーニー」を作成。デジタルラボ事業部のMI領域の研究開発に対する現状認識を可視化した。

「トータルで丸2日間くらいかけてお話しいただきました。
事業部の方々のご協力なくしては成立しないフェーズです」(浅川)。

デザイナーが作成したカスタマージャーニー。事業部の認識をフェーズごとに可視化した


続いて、顧客である材料メーカー3社へのヒアリング。デザイナーからの提案を受け事業部サイドが快諾し、顧客との関係性が良好であったことからスムーズに実現に至ったと言う。
ヒアリングでは、研究者だけでなく、とりまとめ部門の方々も含め、各社2時間ずつお話を伺うことに成功。研究開発業務を5つのプロセス(調査、設計、合成、分離分析、評価)に分類し、各プロセスに潜む課題を抽出した。

「製薬に比べて、思いのほか属人的な部分が多いといったことなど、ヒアリングを通して初めて現場の業務実態を知ることができました」(溝渕)との言葉通り、ヒアリングは、事業部にとっても多くの気づきを得るきっかけとなった。

その後は、ヒアリングから見えた課題解決のアイデアを生み出すべく、事業部とデザイナーが一体となってワークショップを実施。実に98個ものアイデアが出されることとなった。

そして、これらのアイデアのグルーピングと、ユーザーにとっての提供価値という観点で整理し、DLPの「ビジョン」と14項目の「仮説アイデア」を立案。
これらを携え、前述のメーカー3社へ2度目のヒアリングを行い、アイデアをブラッシュアップした。

可視化された14の仮説アイデア(例)

こうして、共創プロジェクトは、仮説アイデアに対する顧客からの具体的なフィードバックを得て、プロダクト化への道筋をつけるに至った。共創フレームワークにおける1アイデア→2課題→3解決のステップをクリアし、一定の成果を挙げたことになる。

左から 溝渕、浅川、萩原
  • (注)
    本稿は全3回になります。次回(Vol.2)は、これまでの取り組みについて、三人の率直な感想に迫ります。
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    本取材は、2021年3月に実施したものです。取材関係者に関しては、取材前14日間における新型コロナウイルス感染症発生国への渡航歴、また、咳、くしゃみ、鼻水、発熱などの症状がないことを確認した上で、消毒や換気など新型コロナウイルス感染症の拡大防止に最大限配慮して行いました。

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