確かな手応えを実感! 共創で得られた気づきと学び
共創プロジェクト「デジタルラボ」の軌跡 Vol.2

確かな手応えを実感!共創で得られた気づきと学び
共創プロジェクト「デジタルラボ」の軌跡 Vol.2



掲載日 2021年6月14日

富士通株式会社(以下、富士通)が「DX企業」としての飛躍を誓い、DXビジネスの実践を目指す中、デザインセンターと事業部が一体となった4つの共創プロジェクトが進められている。すべてのプロジェクトに共通するのが、DXと親和性の高い「デザイン思考」の実践を掲げている点。今回はそのうちの1つ、「デジタルラボ」プロジェクトの進捗を取材。デジタルラボ事業部の萩原シニアディレクターと溝渕マネージャー、そしてデザインセンターの浅川部長が、プロジェクトの軌跡と今後の展望について語った。(全3回配信)

インタビュイープロフィール

  • 萩原 稔 :
    ソーシャルデザイン事業本部)デジタルラボ事業部 シニアディレクター
  • 溝渕 真名武 :
    ソーシャルデザイン事業本部)デジタルラボ事業部 マネージャー
  • 浅川 玄 :
    デザインセンター)ビジネスデザイン部 部長

(注)部署名・肩書は取材当時のものになります。



記事のポイント(Vol.2)

  • 「デザイン」に対する事業部の認識が、共創プロジェクトを通して更新された。
  • 立場の異なる二者が共創することで豊かなアイデアが生まれ、顧客との充実した対話につながった。
  • プロジェクトが順調に進んだ背景として、大きく3つの要因が考えられる。


共感を呼び、課題探索の扉を開く デザイナーによる「絵」の力

当初、「デザイン」という言葉のイメージが限定的であるがゆえに、事業企画とデザイン思考がどのように結びつくのか、うまくイメージができなかったという事業部メンバー。その従来型の理解は、共創プロジェクトを通して次第に塗り替えられていった。

「デザイナーが『絵』を描くうえで意識しているのは、誰に何を理解してもらうのか。そのためには情報をどう整理すればいいのかという点です。

だからこそ、単に見栄えが良いだけではなく、関係者の理解や知識を可視化・共有するために役立つアウトプットができると考えています」(浅川)。

浅川

それを象徴するのが、プロジェクトの序盤に作成された「カスタマージャーニー」、そして顧客へのヒアリングと内部でのワークショップの成果をまとめた「Digital Laboratory Platform(DLP)のビジョン」である。

Digital Laboratory Platform for MI R&D
  • 注:
    「社会」と「研究開発」をつなぐビジョン。①研究開発に携わる部門のデータの蓄積・アクセス・活用を実現する「Knowledge Portal」 ②市場トレンドや顧客ニーズをつかみ、研究開発と社会の連携を支援する「Knowledge Connector」の2つで構成される。


「顧客と日々接している私たちは、顧客の事業について当然一通りのことを分かっているつもりでいました。でも、絵にしてもらったものを眺めると『この辺は我々もまだ押さえられていなかったね』とあらためて気づくことがありました」(萩原)。
顧客とのコミュニケーションにおいても、「可視化」は大きな意味を持った。特に、二度目のヒアリングの際、「絵」を介することで、より深い聞き取りが可能になったという。

「お客様自身が漠然と抱いていた課題感を、端的にビジュアル化して提示することで、『ああ、そうそう』『まさにこの通り!』といった共感を得ることができました。そこから、より具体的に『本来はこうしたい』というお客様の想いに迫ることが可能になったのです」(溝渕)。

顧客が抱える課題感の深部に迫ることで初めて、顧客の商品を利用するエンドユーザー、つまり「顧客の顧客」への視点が得られた。
「DLPの主な利用シーンは研究室の中ですから、我々もその部分に特化してソリューションを構想していました。しかし、今回、研究者の方々は自社の営業とエンドユーザーの会話が見えにくいことが研究開発上の支障であると感じていることが新たに分かりました。『顧客の顧客』という視点に気づけたことは、私にとって一番の収穫でしたね」(萩原)。

「可視化」と「共有」のアプローチがもたらした発見は、それまでの思考の枠組みを大幅に拡張させるインパクトを持つものだった。

溝渕


異なるバックグラウンドを持つ者同士だからこそ、広がる学びのチャンス

研究開発領域の人間ではないデザイナーとのワークショップもまた、刺激にあふれ多くの発見があった。 「デザイナーからは、我々が考えつかないようなアイデアが次々に出てきました。『そんなの無理に決まっている』『これはビジネスにはならない』という自分たちの先入観が、自由な発想を妨げていたことを痛感しましたね」(萩原)。

ワークショップでは、関連する事業領域や国内外の先進的な事例の情報をインプットとして提供するなど、ファシリテーターであるデザイナーが、アイデアが生まれやすい場づくりを行ったという。
ソリューションの提供価値をより自由に発想できる場は、事業部メンバーにとっても、今までにない手応えを感じられた経験だった。

「アイデアワークショップでは、制限を設けず発想を広げていくことに意味があります。『そこまで発想を広げてもいいのか』と参加者が思えるような働きかけも意識して行います」(浅川)。

「DLPとは一体どのようなプラットフォームであるべきなのか。デザインセンターとの共創によって、その全体観を初めてあぶり出すことができました。
まさしく今後のプロダクト化のベースになる取り組みだったと思っています」(溝渕)。

またデザイナーにとっても、気づきがあったという。
それは、顧客との信頼関係の作り方。「お客様への二度目のヒアリングは、『初回ヒアリングを受けて検討した内容は、きちんとお客様にフィードバックしましょう』という萩原さんの一声で実現しました。事業部ではこのようにしてお客様との信頼関係を日々積み重ねているのだな、と非常に印象的でした」(浅川)。



「うまく行く」のには理由がある3つのポイント

一定の成果を上げた「デジタルラボ」プロジェクト。事業部との緊密な連携が実現したポイントは3つあるという。

1つ目は、事業部側の協力体制。プロジェクトの発足当初に行われた事業部によるレクチャーは、「カスタマージャーニー」を作るうえで不可欠なステップだった。
しかし、具体的な成果をイメージしにくい段階では、事業部側にとってはある種の負荷となってしまう。それでも、事業部が積極的にレクチャーしたことが、最初の成功要因となった。

「やはり共創プロジェクトとして進める以上は、互いにしっかり連携しようという意識が何をおいても求められると思います」(萩原)。

萩原

2つ目は、ソリューションのターゲットが当初から明確であったこと。そして3つ目は、事業部と顧客の間に信頼関係が構築されていたこと。これらは互いに連動している。「材料メーカーのMI(マテリアルズ・インフォマティクス)というターゲットがはっきりしていたので、我々としてもアプローチがしやすかった。
また、お客様とデジタルラボ事業部の間に信頼関係があったからこそ、ヒアリングにも快く応じていただくことができました。」(浅川)。

一方で、デザイナーには、今後に向けた反省点もあるという。
それは、デザイナーの役割をプロジェクトの発足時点で明確にするとともに、各アクションの目的を事業部メンバーに対し事前に十分共有することができていなかった点。

「『デザイナーはこんなことをできます』『この目的のためにこれをやります』というお話を初めにきちんとできれば良かったと思っています。また、ワークショップには、事業部の経験豊富な方々を中心に参加していただいたのですが、もっと若手のメンバーにも入っていただいた方が良かったかもしれないね、と。後から萩原さんとはそんな会話もしました。
こうした気づきは、次回以降、同様のケースですぐに活かすことができそうです」(浅川)。

事業部とデザインセンター、双方にとっての学び。
これらはいずれも、共創プロジェクトを通して両者が実践を経験したからこそ、得られたものだった。

左から 溝渕、浅川、萩原
  • (注)
    本稿は全3回になります。最終回(Vol.3)は、すます加速するデザインセンターとデジタルラボ事業部の「共創」の今をお届けします。
  •  
    本取材は、2021年3月に実施したものです。取材関係者に関しては、取材前14日間における新型コロナウイルス感染症発生国への渡航歴、また、咳、くしゃみ、鼻水、発熱などの症状がないことを確認した上で、消毒や換気など新型コロナウイルス感染症の拡大防止に最大限配慮して行いました。

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