【イベントレポート】クリエイティブ業界の最新事例から考える
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン
掲載日 2024年2月7日
掲載日 2024年2月7日
多様性を尊重した責任ある事業活動(レスポンシブルビジネス)に取り組む富士通で、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下DE&I)※1をテーマにしたイベントが開催されました。その様子をレポートしま す。
2023年12月5日(火)、富士通株式会社 Kawasaki Towerにて行われたインスピラボ主催のイベント「クリエイティブ業界の最新事例から考えるダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」。会場、オンライン合わせ、100人を超える人が参加しました。今回のイベントの趣旨は、クリエイティブ業界では今、どのようにダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを捉え、実践しているのか、海外の最新広告事例を挙げながら、今後の企業のあるべき姿を考察するというもの。
ゲストはクリエイティブディレクターのシャイニー・リーさんです。
シャイニーさんは台湾生まれ、世界三大広告賞である Cannes Lions(カンヌライオンズ)や One Show、ACC など国内外の広告の審査員も務める新進気鋭のクリエイター。東京、ニューヨークと渡り住み現在は台北をベースに活動中です。(出典 :Whatever)
「DE&I」は近年、富士通のようにグローバルに展開する企業はもちろん、どの分野でも重要な概念になりつつあります。今回のイベントでは例としてカンヌライオンズで高い評価を受けた受賞作なども紹介しました。
その一つが「The Underdogs」。社員たちがアップルの製品を使って働き方をアピールするCMで、社内でともするとお荷物と思われているかませ犬たちが頑張るストーリー。シャイニーさんが注目したのは多様なキャラクターとキャスティングでした。2人の子を育てるシングルファザー、白色人種ではないメンバー、LGBTQのデザイナー、女性の上司など、固定観念にとらわれない配役が印象的な作品です。DE&Iが目指す「性別や年齢などの違いを認め合い、それぞれが力を発揮できる環境で仕事をする」ことが体現されています。
続いてシャイニーさんの近作から、自身が注力しているテーマ「ジェンダーにまつわる固定観念をなくすために大事にしていることと、絶対にやらないこと」(DO’s & DON’Ts)についての事例を紹介。クリエイティブディレクターとしてどのようにDE&Iを実践しているかを伺いました。
まずはシャイニーさんが担当した、Uber EatsのCMから2つ。1つはPXマート(台湾の大手スーパーマーケット企業)とのコラボレーションCM、もう1つが定額制のサブスク「Uber One」のプロモーションCM。
Groceries. Like That! https://www.youtube.com/watch?v=r0NXiUjeSEU / Uber Eats
Uber One 一訂省 https://www.youtube.com/watch?v=tClUwgAeiCs / Uber Eats
「餃子パーティー編」と「土を食べなくてもいい編」※2です。実はこの2つのCMには共通していることがあります。どこかわかりますでしょうか?
それは女性が1人だけでキッチンに立っていないということ。男性も一緒にエプロンをつけて料理をしていることがわかります。これには「料理は女性が作るもの」という固定観念を取り払う狙いがあるといいます。他にもあえて典型的な家族像を描かず、色々な家族の形があると映像を通して伝えることを心掛けたそうです。
続いてはMomentum(モーメンタム)という自転車ブランドのCMから。男性と女性が、それぞれの家から自転車に乗って仕事場へと向かいます。何気ない通勤風景に見えますが、実はこのCMでシャイニーさんがクライアントを説得するのに苦労した点があるといいます。果たしてどこでしょうか?
実はこちら、女性がドロップハンドル、男性がフラットハンドルを使用しているのです。台湾では日本と同様、いわゆるママチャリタイプの「フラットハンドル」を選ぶ女性が多く、ドロップハンドルの自転車に乗ることは少ないそうです。それだけにこの表現方法はクライアントにとっても挑戦であり、説得が難しかったのだそうです。
シャイニー: 絵コンテの段階でクライアントから、なぜ女性がドロップハンドルなのかと聞かれましたが、性別で趣味や持ち物を決めつけない、多様なライフスタイルを見せたいと説得しました。
CMが流れ始めると、自転車愛好家たちが「女性がドロップハンドルを使っている」とすぐに気づいてくれ、好意的に受けとめてくださったことが嬉しかったですね。
では、そんなシャイニーさんが考える「 DO’s & DON’Ts 」とは?
シャイニー: クリエイトする上で最も重要なのは「無意識に固定観念にとらわれることをやめ(DON'T)、DE&Iを意識しながらデザインすること(DO) 」だと思っています。 最後に皆さんに、この言葉を贈りたいと思います。
“Whatever you make, make a difference. Whatever you make, make it matter.”
--あなたが作ることは何でも、きっと何かを変える力を持っています。--
世の中に良い影響を与えるものを作っていきましょう。
この後は質問コーナー。「この時間を通してどのようなインスピレーションが得られましたか?」という問いに対しては、Slido(スライドゥ)※3を通じてたくさんの前向きな回答が寄せられました。
こうして無事イベントが終了。企画運営を担当したインスピラボのスタッフに話を聞くと、全員が確かな手ごたえを感じていました。
——— 開催してみていかがでしたか?
宮入: シャイニーさんの実践知をお話いただくことで、クリエイティビティが持つ可能性をあらためて感じました。デザイナーとしてさまざまな表現やメッセージングに関わる機会がありますが、そういったときに「気をつけないと」と抑圧するのではなく、表現にDE&Iの視点を加えることで、より豊かに・パワフルなメッセージを投げかけられるのでは?と考えさせられるイベントになりました。
小針: 私は以前、人事部に所属していたこともあり社内でさまざまなDE&Iに関する“場”を作ってきました。その経験から、DE&Iというテーマは何か“場”を作ってもすぐに日々の業務や暮らしに活かすことが難しいテーマだと思っていたのですが、今回は参加者の9割から「今後に活かせる」と回答をいただきました。さまざまなステークホルダーと接する方はもちろんこと、富士通では動画や文章などを社内SNSで発信する方も増えてきているので、「自分にとって必要だ」と感じる方が多かったのかなと思いました。
伊賀上: 今回、シャイニーさんから実際の素敵な事例とお話を伺えて、DE&Iについて社内のさまざま部署のメンバーと対話できたことは非常に良い機会でした。DE&Iには「一つの正解」がありません。対話を通じて進めていくことが重要だとシャイニーさんもおっしゃっていました。今回のイベントを経て、それぞれが受けたインスピレーションを共有しあい、議論したことで、よりDE&Iへの意識を高めることができたと感じています。
——— 今回のイベントで得たことと、それを今後どのように活かしていきたいですか?
伊賀上: シャイニーさんが作品を「DO’s & DON’Ts」を意識して制作されていることに大きなインスピレーションを受けました。言葉で理解するよりも、自分で考え実際に形にすることは、ずっと難しいと感じています。私たちが行うこと一つ一つは小さく見えることもありますが、それぞれの行動がより良い社会に繋がることを信じて、「DO’s & DON’Ts 」を丁寧に意識し実践していきたいと思います。
小針: シャイニーさんから最後に「あなたがつくることはなんでも、きっと何かを変える力がある」という言葉をもらいました。DE&Iは正解があるものではなく、正義の反対はまた誰かの正義だなと常々感じています。どうしたらいいか悩むことも多いですが「きっと何かを変えられる」と信じて作り続けていきたいです。
宮入: インスピラボの活動は、未来の可能性を広げるインスピレーションを届けることです。今回のイベントでは、シャイニーさんの視点をもらうことで、参加してくださった人たちがなんとなく思い描いていたDE&Iのイメージや役割について、その意味や解釈の幅を広げることができたのではないかと思っています。今後も、最前線の方々からインスピレーションをもらいながら、自分自身の行動に活かしポジティブに進化していきたいなと思っています。
シャイニー: 今回はクリエイティビティとDE&Iをテーマにセミナーをさせていただき、参加者の皆さんと共に有意義な時間を過ごせて嬉しく思います。そして、セミナー中にはたくさんの素晴らしい質問をいただきました。質問の内容から、参加者の皆さんがこの課題に非常に関心を持っており、積極的に実践したいと考えていることがわかります。是非、セミナーで紹介した「DO’s & DON’Ts」をインスピレーションに、議論を重ねながら自分に合った方法を見つけていただければ幸いです。