テクノロジービジョン

Fujitsu Technology and Service Vision 2022

「Fujitsu Technology and Service Vision 2022」は、CEOをはじめとするビジネスリーダーがデジタルイノベーションによってサステナビリテイ・トランスフォーメーションを実現するための方法を提言しています。

テクノロジーイノベーションによるサステナブルな社会の実現に向けてどのようなビジョンを描くことができるでしょうか?富士通がお客様と共に創りたい4つの未来ビジョンを紹介します。

ここで紹介する4つのビジョンはサステナビリティ・トランスフォーメーションを成功させる鍵となるものであり、Fujitsu Technology and Service Vision 2021から更に発展させたものです。

これからの10年でテクノロジーの未来がどこに向かっているのか、また、組織のビジネスプロセスを変革するために、5つのテクノロジー領域でどのように富士通が貢献できるのかを紹介します。

 デジタルデータが投影されたスマートグラスを身につけた人物の画像。

サステナブルな未来へ

環境・社会・経済のシステミックな課題を解決に結びつけるには、イノベーションが不可欠です。10年後に向けて、どのような未来を構想すべきでしょうか?

わたしたちは、よりサステナブルな世界を形づくる鍵となる要素は、ヒューマンセントリック、データドリブン、コネクテッドの3つだと考えています。リアルとデジタルが融合したネットワーク社会の中で、テクノロジーにエンパワーされた人々がイノベーションを継続的に生み出していきます。

サステナブルな世界を形づくる鍵となる3つの要素

  • ヒューマンセントリック 誰もが尊厳をもって可能性を最大化できる。
  • データドリブン データ・インテリジェンスによってレジリエンスを高め、イノベーションを生み出す。
  • コネクテッド人・モノ・サービスが安心安全につながるエコシステム。

この図は、サステナブルな社会に必要となる様々な業種やサービスがつながりあう様子を表現しています。製造、都市、顧客体験、健康といった要素のほかに、資源、エネルギー、モビリティ、公共サービス、教育、食、金融、物流、エンターテインメント、スポーツ、ライフサイエンスなど、多くのサービスがつながりあいます。

上述の3つの要素に沿った、これからの10年を導いていく4つの未来ビジョンを紹介します。

ヒューマンセントリック、データドリブン、コネクテッドの3つの要素に沿った、4つのテクノロジービジョン。1つ目が「ボーダレス・ワールド」、2つ目が「ダイナミック・レジリエンス」、3つ目が「ディスカバリー革命」、4つ目が「すべてにトラストを」。

リアルとデジタルが融合し、ヒューマンセントリックなエクスペリエンスを実現することにより、誰もが尊厳をもって可能性を最大化。

不確実な未来のシナリオをデジタル・リハーサルし、ビジネスや社会のレジリエンスを構築。

データを活用して人とテクノロジーが創造的にコラボレーションし、イノベーションを加速。

人・モノ・サービスなどを安心・安全につなぐ分散型トラストが再生型社会をサポート。

1. ボーダレス・ワールド

どうすれば誰もが人間らしく尊厳をもって生きることができるでしょうか?身体の状態や年齢や、どこに住んでいるのか、経済的な状況も乗り越えて、一人ひとりの可能性を最大化していくにはどうすればよいでしょうか?それは容易なことではありませんが、テクノロジーに何ができるでしょうか?

これは未来の選択です。分断された世界を選ぶのか、それとも人をエンパワーするオープンで境界の無い世界を選ぶのか。進化を続けるテクノロジーの力を何のために使うのかを考えなければなりません。

これからの10年、わたしたちはリアルとデジタルのエクスペリエンスが融合し、人々の生活や仕事をエンパワーしていく未来の姿を構想しています。

ホログラムの男性と一緒にコーヒーを飲んでいる女性の画像。フィジカルとデジタルの融合によって作られたボーダーレスな世界を描いている。

リアルとデジタルの融合

インターネットは人と人、人や企業が情報をコミュニケーションする方法を革新しました。その後、インターネットは2つの道に進化していきました。

一つはモバイル、写真やビデオ、ソーシャル、eコマースなど、一人ひとりがより良いデジタル・エクスペリエンスを享受する方向です。オンラインとオフラインのエクスペリエンスは融合し、さらに今、VRを使った新たなデジタル空間での没入型エクスペリエンスであるメタバースが急速に拡大しています。

もう一つはIoT(Internet of Things)でセンサー・データを活用してリアル世界をモニタリングして制御する方向への進化です。スマートファクトリーなど、様々な領域で高度なデジタルツインが発達しています。

デジタル・エクスペリエンスの進化

オンラインとオフラインのエクスペリエンスが融合(Online Merges with Offline)。人がアバターを使って自由自在に没入できるメタバースが拡大の兆し。

この図は、リアルとデジタルが融合する上での、進化の方向性を表現しています。情報のインターネットからスタートし、その後インターネットは2つの道に進化していきました。一つは、エクスペリエンスのインターネット(XR, Metaverse)です。もう一つは、リアル世界のデジタルツインです。今後10年の大きなトレンドとして、この2つの平行進化が一つに収斂していき、ボーダレス・ワールド(リアルとデジタルの融合)が実現されていきます。

リアル世界制御の進化

スマートファクトリーのオペレーション、都市の道路や公共交通機関の状態など、様々な領域でセンサーデータを使って可視化し、最適制御するCPS*1の取り組みが進む。

*1 Cyber-Physical System

2つの世界の融合

デジタル空間内にリアル空間を再現し、そこからロボットなどを操作してリアル世界での様々なワーク(工場オペレーション、工事、ロジスティクス、医療、宇宙作業など)を行う。また、リアルとデジタルが融合した新しい体験を可能に。

今後10年の大きなトレンドは、この2つの平行進化が一つに収斂していき、リアルとデジタルが完全に融合したボーダレスな世界が実現されていくことです。健康・医療、モビリティ、教育、ショッピングなど人の生活(ライフサイクル)を支える様々なインテリジェントなサービスが、人をエンパワーしていきます。一方で、リアル世界とデジタル世界を一気通貫した制度やルールを整備することが課題になっていきます。

ヒューマンセントリック・ネットワーク

ボーダレス・ワールドの基盤を担うのは、リアル世界とデジタル世界をシームレスにつなぐインテリジェントで超高速のネットワークです。人と様々なサービスをつなぐエコシステムを支え、ヒューマンセントリック・エクスペリエンスを実現します。わたしたちがリアルと感じる解像度のデジタル・エクスペリエンスを実現するには、現在の5Gを超える大容量・超低遅延・多接続のモバイル無線技術が必要であり、2030年頃の6G商用化に向けた研究開発が活発に進められています。さらに、エッジとバックボーンを含めた、End-to-endでの柔軟性や信頼性が不可欠です。

100ギガビット超(毎秒)

リアル解像度のエクスペリエンス5Gの10倍の高速通信により、臨場感と奥行、人の五感情報まで躍動的に再現。

1マイクロセカンド

End-to-endの超低遅延と信頼性距離の概念を超えて、自動運転や、遠隔地からのロボット制御を実現。

100%

仮想化された、AI制御のオープンなインフラストラクチャAIとセキュリティ技術により、エクスペリエンスと効率性の両立と、変化へのレジリエンスを実現。

100

エネルギー効率光電融合技術等による、インフラ全体のグリーン化。

富士通は、5G・6Gテクノロジーから光バックボーンネットワークまで、未来のネットワークづくりを推進しています。オープン規格にもとづく、まったく新しいクラウド・ネイティブな5G基地局をグローバルに提供。仮想化により地域や時間帯によって変化する通信量に応じて運用に必要なリソースを柔軟に変更・効率化することにより、カーボン・フットプリントを大幅に低減します。さらに量子インスパイアード技術やAI技術を応用して自律的に最適制御すると共に、最先端のセキュリティ技術を組みこむことにより、レジリエントなネットワークを実現します。

また、ITインフラのエネルギー消費の増大が大きな問題となっています。コンピュータとネットワークすべての光信号処理と電気信号処理を融合し、消費電力を大幅に削減する光電融合技術を2030年頃に実現するために、パートナーと共に取り組んでいます。わたしたちは、未来のサステナブルな社会を支えるテクノロジーインフラの構築に貢献していきます。

人のエンパワーメント

未来の働き方

パンデミック後に在宅勤務が拡大し、ハイブリッド・ワークが主流になってきました。しかし、フィジカルな作業が必要な工場や建設現場などへのリモート・ワークの適用は容易ではありません。今後、超高速・低遅延のネットワークでつながってリアルとデジタルが融合することにより、デジタル空間からエンジニアリング業務や現場でのオペレーションを行うことも可能になっていきます。その第一歩として、富士通は、人手不足に悩む建設現場でローカル5Gを活用して建機を遠隔操作するプロジェクトなどにも取り組んでいます。

仮想の車を運転している人をイメージした画像。

つながりあう体験

未来の街や人々の生活はどう変わっていくでしょうか?今後、リアルとデジタルが融合することによって、人々をエンパワーする全く新しい体験が生み出されていく可能性があります。例えば、リアルな街をデジタルツインとして再現したメタバース空間で、誰もがショッピングや観光、イベントなどの様々な体験を楽しむプロジェクトも始まっています。デジタルの街で買ったリアルな商品が自宅に届いたり、リアルな街にいる人がデジタルの街にきた人と交流したり。今、様々な可能性を探求することが求められています。

つながりあう体験を表現するための、世界のデジタルマップの上に集まる人々のイメージ画像。

尊厳ある生きかた

身体が不自由な人や高齢者は、日々の生活や仕事において様々な制約があります。しかし、ボーダレス・ワールドでは、誰もがバーチャル世界で自分の才能を発揮したり、遠隔ロボットを操縦してリアル世界を見てまわったり、最先端の教育を受けることができるなど、様々な可能性が拡がっていきます。テクノロジーを活用することにより、誰もが尊厳を持って生きるシナリオを真剣に検討することが重要です。

仮想体験を楽しみ、車椅子に乗っている方の写真。

2. ダイナミック・レジリエンス

人類が生き延びてこられたのは、わたしたちの脳が持つ予測能力を使って不確実性に対応したことが大きな理由のひとつです。実世界の状況を把握し、経験から学び、予測することによって、飢餓や自然災害といった大きなリスクに対応してきました。しかし、その対応能力も限界に来ています。

わたしたちは、複雑で予測が困難な世界に生きています。パンデミックや大規模な自然災害、地政学上の不測の事態にどのように対処すればよいのでしょうか?過去のデータに基づいた、従来の予測手法や計画は役に立ちません。

これに対して、不測の事態が生じた時にどのようなインパクトがあるかをデジタルを使ってリハーサルし、問題に備える考え方が主流になっていきます。リアルタイムに得られるデータにもとづいて問題の予兆を検知し、迅速にリソースを動員して未然に防ぎ、インパクトを最小化するのです。

大都市の上空からの眺めをイメージした写真。

デジタル・リハーサル

人は、世界を把握して何が起こりうるかを予測する能力を、デジタル技術を使って拡張してきました。これまでの10年間におけるIoTの進化によって、様々なセンサーから得られるデータをモニタリングし、リアルタイムの状態をダッシュボードに表示してデジタルツインとして可視化することを可能にしました。例えばスマートファクトリーなどの一部の分野では、データを分析して設備故障を予知し、需要変動に応じてサプライチェーンの在庫や生産ラインを調整するなど、実世界をダイナミックに制御するレベルまで来ています。

デジタルツインの進化

この図は、デジタルツインの進化を表現しています。最初に、IoTの進化によって、様々なセンサーから多様なデータを収集することができるようになりました。収集したデータを活用して、実世界を写像したデジタルシャドウを構築し、実世界をモニターすることができるようになっています。更に、一部の分野では、実世界をデジタルの世界から制御(ダイナミック・インターアクション)ができるレベルに到達しています。これからの10年では、健康、行政、エネルギー、環境、防災、モビリティといった複数のデジタルツインを連携し、実世界をデジタル世界でリハーサルし、複雑な課題に対応できる、フェデレーテッド・システムへの進化が期待されています。

これからの10年、都市モビリティ、エネルギー、環境、防災、健康などの分野で発達していく独立したデジタルツイン間をつなぎ、データを相互連携させる方向に進化することが期待されています。大規模災害発生時に都市交通やエネルギー供給がどのような影響を受けるかをデジタル空間でリハーサルしてシステミック・リスクへの対応プランを準備したり、有事にリアルタイムのセンサーデータに基づいて迅速・的確な行動を促すことが目的です。また、気候変動インパクトのシミュレーションやパンデミックへの対応についても、効果が期待されます。

デジタル技術 x 人文社会科学コンバージング・テクノロジー

しかし大きな課題は、ますます個人化し、流動化する人の行動をどのようにモデル化するかです。この問題に対し、デジタル・テクノロジーのデータ分析能力と人文社会科学が培ってたヒューマンセントリックな洞察を融合させることによるブレイクスルーが期待されています。富士通はこれをコンバージング・テクノロジー(融合技術)と呼んでいます。

超大規模のリアルタイム・デジタルツインと行動科学のコンピューティングモデルを組み合わせることによって、都市や社会の複雑なダイナミクスをデジタル・リハーサルできるソーシャルデジタルツインを実現することが期待されます。富士通はこのテクノロジー・フロンティアにチャレンジしています。数百万台規模のコネクテッドカーのデータをリアルタイムに処理できるデジタルツイン・プラットフォーム(Dracena)を実用化し、カーネギーメロン大学などとの共同研究を進めると共に、英国のNational Digital Twin Programmeに積極的に参画しています。

複雑な環境・社会課題解決の前進を阻む大きな理由のひとつはステークホルダーが多岐にわたることです。ソーシャルデジタルツインを活用することにより、政策立案者、企業、生活者を含むすべてのステークホルダーがトランスペアレントに重要な情報を共有することができます。

この図は、ソーシャルデジタルツインの実現モデルを表現しています。シミュレーションに行動科学の知見を組み合わせることによって、実世界における都市や社会の複雑なダイナミクスをデジタル・リハーサルできるソーシャルデジタルツインを実現することが期待されます。

現状がどうなっているのか、このまま行動を変えなければどれほど危機的な未来が待っているのか、もし行動を変えればどのような未来が起こりうるのかという情報です。ソーシャルデジタルツインは、どういった政策オプションが最も社会の共通善に合致するのかをすべてのステークホルダーが議論するためのオープンなプラットフォームの役割を果たします。

レジリエンスを高める

レジリエントな都市

よりグリーンでレジリエントな都市を実現するために、何ができるでしょうか?例えば、ソーシャルデジタルツインを活用することにより、高速道路や公共交通機関の料金をダイナミックに変更するとどれだけのドライバーが公共交通機関にシフトし、その結果特定の道路のトラフィックがいつどれだけ緩和されるかというシナリオをリハーサルできるようになります。さらに、どれだけCO₂排出削減につながるかをドライバーに提示することにより、行動変容を促すことも期待されます。

緑あふれる公園と街と空の景色の写真。

自然災害に備える

ソーシャルデジタルツインは、災害をデジタル・リハーサルすることを可能にします。このプロトタイプ的な取り組みとして、富士通と大学・研究機関が共同でスーパーコンピュータ「富岳」を使って津波の影響の精緻なシミュレーションモデルを構築しました。さらに、このシミュレーションモデルを使って、津波警報が発生した場合により迅速かつ安全に避難できるように、誰もが簡単に使えるスマホアプリを開発しました。これにより実際の津波発生時に迅速な避難を支援することが期待されます。

建物に迫る洪水の写真。

レジリエントなビジネス

パンデミックや地政学的な不確実性に対して、グローバル最適地生産のモデルは通用しなくなりました。平時の効率性と有事のレジリエンスのバランスをどう取るのかが、経営戦略の要となります。どのようなデータを準備して起こりうる未来シナリオをデジタル・リハーサルし、リアル・データを常時センシングしてどれだけ俊敏にプランBやプランCを発動できるのかが、今後の中心課題です。

積み重ねられた輸送コンテナや、航空機、トラックの写真。

3. ディスカバリー革命

新しい知識の発見が生み出すイノベーションは、社会・経済の進歩を牽引してきました。しかし一方で、この進歩が生み出した地球環境への負荷が、大きな問題となっています。わたしたち自らがつくり出した問題を解決するために、イノベーションを加速しなければなりません。

これまでわたしたちは実験室やフィールドで試行錯誤を行い、何年もかけて新しい知識の発見やイノベーションに取り組んできました。しかし、飛躍的に向上を続けるコンピューティングパワーを使った超高速シミュレーションや、仮説を立案して推論する次世代のAI技術を活用することにより、その期間を月や日の単位に短縮することが可能になっていきます。ボーダレス・ワールドにおいて、人とテクノロジーの創造的なコラボレーションがイノベーションを加速していきます。

人とテクノロジーのコラボレーションを表現している。デジタルスクリーンを見ている人々の画像。

Computing as a Service

コンピューティングパワーはムーアの法則を乗り越えて、さらに進歩を続けます。量子コンピュータは、2030年頃に実用化される見通しです。量子コンピュータは、従来型コンピュータよりもはるかに大きいデータセットを処理することができる優位性を持ち、従来は困難だった複雑な量子力学計算などを迅速に実行することができます。一方で、従来型のハイパフォーマンス・コンピュータ(HPC)には、非常に広範な問題を解くことができるという特徴があり、お互いに補完的な関係にあります。どうすれば、これらの膨大なコンピューティングパワーを企業や研究機関が幅広く使えるようにすることができるでしょうか?

処理できるデータセット
現在のHPC
2
47
<
量子コンピュータ(1000論理量子ビット)
2
1000

今後10年間のメガトレンドは、超スケールのコンピューティングパワーの民主化です。特性の異なるワークロードに対して最適なコンピューティングリソースを自律的に判別し、HPC、量子インスパイアードコンピュータ、今後実用化される量子コンピュータのコンピューティングパワーがクラウドからサービスとして提供されていきます。超高速で最適化計算やシミュレーションを実行、あるいは大規模機械学習などのAIアルゴリズムを実行することにより、創薬や新材料開発、エンジニアリングなどの広範な領域でイノベーションを飛躍的に加速することが期待されます。

この図は、Computing Workload Broker Cloud Platformを紹介しています。これは、ヘルスケア、材料開発、金融、科学計算、エンジニアリングなどのそれぞれの領域で必要とされるワークロードを自動的に判別し、量子コンピュータ、量子インスパイア―ドコンピュータ、HPCといった膨大なコンピューティングパワーから最適なコンピューティングリソースを提供します。

富士通は、理研との超電導方式量子コンピュータ実機の共同開発を始めとして、様々な学術研究機関や企業と量子コンピューティング技術の共同研究を実施。さらに、HPC上で動く世界最速の36qubitの量子シミュレータを開発し、量子コンピュータのスーパーパワーをいち早く活用するための実用的なアプリケーション開発を数多くの企業と共に推進しています。

人とテクノロジーの創造性

これまでの10年間は、2012年に起きたディープラーニング技術による認識精度の飛躍的向上に幕を開け、コンピュータビジョンや自然言語処理におけるAI技術が急激に進化しました。これからの10年間で、AIにはどういうブレイクスルーがあるでしょうか?

ディープラーニング技術は膨大なデータ間の相関関係を迅速に見出すことに強みがありました。しかし、「何が原因でこの結果が起こったのか、これから起こりうるのか」という因果関係を推論し、仮説・検証を行うことは大きな課題でした。今後、膨大なデータ間の因果関係を自律的に推論し、創造的に仮説を提案、検証を行うAI技術が2030年までに成熟化していくと考えています。富士通は、自律的な仮説生成AI技術や、大規模データ間の因果関係グラフを生成する「発見するAI」技術を開発し、すでにパートナーと共に応用を開始しています。超スケールのコンピューティングパワーと組み合わせて、ゲノム医療や新素材開発などの様々な分野でのイノベーションに貢献していきます。

 
これまでの10年
これからの10年
推論
意思決定
 
仮説提案
因果関係推論
意思決定支援AI
認識
自然言語処理
ディープラーニング
ディープラーニングの進化
  • 文脈理解
  • 自律学習
  • 生成型AI

AIが人の仕事を奪うのではなく、人とAIが創造性を発揮し合ってイノベーションを加速する未来。この実現のためには、人がAIを信頼できなければなりません。AI技術が公平性(Fairness)、説明責任(Accountability)、透明性(Transparency)を持つことが不可欠です。富士通はAI倫理に関する最初のマルチステークホルダー・フォーラムであるAI4Peopleの創立メンバーとして活動してきました。この経験に基づいて富士通グループAIコミットメントの原則を定め、研究開発を行っています。さらに、バイアスや差別を無くすAI倫理テクノロジーの実用化*2に取り組んでいきます。

*2 倫理的AI
   例えば、富士通は、AI倫理ガイドラインに基づきAIシステムの倫理上の影響を評価する方式を開発、手順書や適用例とともに無償公開し、AI倫理テクノロジーの普及に貢献しています。

イノベーションの加速

創薬

量子コンピューティング技術とHPCを組み合わせてデジタルラボラトリーで活用することにより、創薬プロセスを加速することができます。富士通は先端的なバイオベンチャー企業PeptiDreamと協業し、デジタルアニーラ*3とHPCを活用し、中分子創薬における膨大な数の候補化合物の絞り込みやその分子動力学シミュレーションのプロセスを加速させる取り組みを行い、成果を上げています。

*3 量子インスパイアードコンピュータ

薬の実験室での分析の様子をイメージした図。

ゲノム医療

人のゲノム情報と薬剤効果などの因果関係を明らかにすることにより、がん治療に伴う副作用を最小化する個別化医療を実現することが期待されています。富士通と東京医科歯科大学は、スーパーコンピュータ「富岳」のコンピューティングパワーを活用してヒトの2万全遺伝子の複雑な因果グラフ構造を「発見するAI」技術で解析し、遺伝子と抗がん剤の薬剤耐性の因果関係を可視化することに成功しました。今後さらに、30億塩基対からなるヒトの全ゲノム情報レベルの解析に挑戦していきます。

ヒトゲノムのイメージ図。

マテリアル・インフォマティクス

困難な環境課題を克服するためには、人工光合成の新触媒や、次世代エネルギー燃料の候補であるアンモニアや水素生成の新触媒などの新素材開発が非常に重要です。富士通は、「発見するAI」技術と超スケールのコンピューティングパワーを組み合わせることにより、様々な新素材イノベーションに貢献していきます。例えば、アイスランドのベンチャー企業であるAtmonia社と、HPCとAI技術を活用してアンモニアをクリーンに合成するための触媒探索を加速させる共同研究に取り組んでいます。​

分子構造のイメージ図。

4. すべてにトラストを

サイバー攻撃は激しさを増し、データやITシステムだけでなく、エネルギーネットワークなどのリアルな社会インフラまでもがターゲットになってきています。また、フェイクニュースや信頼できないデータが世界中に溢れると共に、プライバシーに対する懸念も高まっています。AIが作り出すバイアスなど、テクノロジーに対する信頼も大きな問題です。もはや、この中にいれば絶対に安心だという所はどこにもなく、すべてを疑う必要があるゼロトラストの時代に突入しています。

ボーダレス・ワールドにおいては、かつてのように企業の境界を守るだけでなく、ネットワークにつながる人やデータ、システム、デバイスすべてのトラストを担保していくことが重要です。

トラストなサイバー世界のデジタルデータを表現する画像。

ボーダレス・ワールドのトラスト

トラストとは何でしょうか?わたしたちは様々な人々が生活する、複雑な社会に生きています。相手を信頼できなければ、安心して社会生活を送ることはできません。トラストとは社会の複雑性を縮退させるメカニズムなのです。今、かつての業界毎にサイロ化された産業構造から、金融や流通を横断するAPIエコノミーや、モビリティサービス、分散型電力など、オープンにつながる分散型ネットワーク構造に急速に変化しています。リアル・デジタルが融合したボーダレス・ワールドへの進化にともない、社会の複雑性はさらに増大していきます。

従来の集中型の「組織のトラスト」だけでは、極大化する複雑性に対応することは不可能です。ボーダレス・ワールドを守るためには、自律的な「分散型トラスト」のテクノロジーが不可欠です。リアル空間とデジタル空間でネットワークにつながるものすべてのトラストを担保する必要があるのです。

従来の「組織のトラスト」(クローズドな集中型)は、境界防御が中心でした。ゼロトラストの時代においては、リアル空間とデジタル空間でネットワークにつながるものすべてのトラストを担保する、オープンな「分散型トラスト」が求められます。

分散型トラスト

ボーダレス・ワールドは誰も取り残さない社会の実現に向けて人々をエンパワーしていきますが、大きな課題(ダークサイド)に直面することを忘れてはいけません。メタバースのようなデジタル空間で出会った人をどうすれば信頼できるでしょうか?写真やビデオはAI技術を使ってリアルに合成できます。あなたの個人データは全く別の国で処理されているかもしれません。また、受け取ったお金はマネーロンダリングが関わっているかもしれません。取り交わされるデータやアセットの真正性をどうやって確かめればいいでしょうか?

この課題を克服するためには、分散型トラスト・テクノロジーが必要不可欠となっていきます。富士通は、分散型IDやマルチ生体認証、プライバシー秘匿などのアイデンティティとプライバシー関連技術に加え、データ流通に不可欠なデータ真正性を担保する新しいトラスト技術を開発してきました。さらに、社会インフラの要となるネットワークやAIシステムのセキュリティ強化と共に、リアル空間にいる人やシステム、デバイスへのデジタル空間からのアクセスを担保するトラスト技術に取り組んでいます。

また、サステナビリティがグローバル優先課題となる中で、環境価値などの非財務領域の無形の価値がビジネスと社会において重要性を増しています。複数のブロックチェーンをつないでトークンを相互に流通させる技術に取り組み、つながり合うエコシステムにおけるEnd-to-endのトレーサビリティの実現を支援していきます。

この図は、分散型トラストを実現するためのトラスト技術を紹介しています。富士通は、アイデンティティとプライバシー、データ・トラスト、トークン・エコノミー、リアル・デジタルのトラスト、サイバーセキュリティの、5つのトラスト技術に取り組んでいます。

トラストの再構築

アイデンティティの革新

特定のデジタルサービスが個人のID*4を管理する集中型IDに代わって、個人が自分のIDを管理する分散型ID技術が注目されています。富士通はボーダレス・ワールドでの重要技術として自己主権型の分散型ID技術(IDYX)を開発し、実用化に向けて様々なパートナーと共に実証を進めています。

*4 識別子や属性

デジタルIDで認証作業を行っている人物のイメージ画像。

データ流通

ビジネスや政府関係のドキュメントや産業データのやり取りがデジタル化されていく中で、その真正性をトランスペアレントに確認できるようにする必要性が高まっています。富士通は、企業や政府省庁の間でやり取りを行うビジネスデータの作成・承認における改ざんを防ぎ、その真正性を保証する透過的トラスト技術(Transparent Trust Transfer)を開発し、パートナーと共にTrust as a Service(TaaS)の普及を図っています。

データ交換を想起させるタイピングのイメージ画像。

再生型の社会

企業がEnd-to-endのバリューチェーンにおいて、どれだけCO₂を削減しているか、人権を保護しているか、責任ある調達を行っているかなどの情報について様々なステークホルダーの関心が高まっています。このような非財務の情報を検証・トークン化し、社会全体に流通させることが非常に重要になっていきます。富士通は、グローバルサプライチェーンや、米や水を取引するトランスペアレントなプラットフォームの構築をブロックチェーン技術を使って支援し、再生型社会の実現に向けた活動を行っています。

再生型の社会を想起させる、流水を手にとっている様子を表す画像。

サステナブルな価値を創出

これまで見てきたサステナブルな未来ビジョンをドライブしていくためには、デジタルテクノロジーを連携させることが重要です。

わたしたちは、コンピューティングとネットワークを融合し、誰もが超スケールのコンピューティングパワーをネットワークを経由して使えるようにしていきます。この次世代の基盤の上で、人とAIの創造的なコラボレーションによる新たな知識の発見を加速すると共に、デジタルテクノロジーと人文社会科学を融合して都市や社会のダイナミックなシミュレーションを可能にします。さらに、分散型トラストテクノロジーとネットワークを連携させ、リアルとデジタルが融合したボーダレス・ワールドのトラスト構築を推進します。

持続可能な社会を想起させる、水辺の都市の画像。

サステナブルな価値を創出するためには、デジタルテクノロジーを連携させることが重要です。わたしたちは、コンピューティングとネットワークを融合し、誰もが超スケールのコンピューティングパワーをネットワークを経由して使えるようにしていきます。この次世代の基盤の上で、人とAIの創造的なコラボレーションによる新たな知識の発見を加速すると共に、デジタルテクノロジーと人文社会科学を融合して都市や社会のダイナミックなシミュレーションを可能にします。さらに、分散型トラストテクノロジーとネットワークを連携させ、リアルとデジタルが融合したボーダレス・ワールドのトラスト構築を推進します。

富士通の先端テクノロジー

富士通は5つのテクノロジー領域にリソースを集中すると共に、世界中のパートナー企業や大学・研究機関とのオープン・コラボレーションを行っています。より良い未来に向けて、これらの技術を核に、様々な企業のサステナビリティ・トランスフォーメーションの取り組みを支援します。

Computing
  • ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)
  • デジタルアニーラ 量子インスパイアード・コンピュータ
  • 量子コンピュータ
  • 量子シミュレータ
Network
  • 5G Open RAN(クラウドネイティブ アーキテクチャ)
  • オープンな光ネットワーク
  • 6G技術
  • 光電融合技術
  • AIによるネットワーク最適化
AI
  • 「説明可能なAI」や「倫理的AI」などのトラステッドAI技術
  • 超大規模データから因果関係推論を実行する「発見するAI」
  • 機械学習の自動化
Data & Security
  • マルチ生体認証
  • 分散型ID(IDYX)
  • 複数のブロックチェーンを接続するコネクションチェーン
  • データの真正性を担保する透過的トラスト技術
  • AIサイバーセキュリティ
Converging
Technologies
  • 超大規模なリアルタイム・デジタルツイン基盤(Dracena)
  • ソーシャルデジタルツイン
  • 高精度の自動センシング・認識技術(Actlyzer)

これらのビジョンに向けて動き始めた具体的な変革のストーリーを、次のページで見ていきましょう。

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