TNFDとは?背景やTCFDとの違い、対応事例について知ろう

社会課題

企業活動も人間の活動の一つである以上、自然や環境の中で行われています。そのため、自然や環境と相互に影響しあうことは避けられません。そこで、自然や環境と企業活動がどのように影響しているかを可視化しようとする試みの一つがTNFDです。本記事では、TNFDの概要や設立の背景、TCFDとの違いや国内での対応事例についてご紹介します。

TNFDとは

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)とは、日本語で「自然関連財務情報開示タスクフォース」と訳されます。自然環境の変化や生物多様性が企業の業績にどのような影響を及ぼすのか、つまり「自然資本」に関する情報を企業や金融機関などが情報開示するために、必要となる枠組みの構築をするための組織、またはフレームワークそのもののことを指します。

TNFDは2021年6月に組織が設立され、2022年3月にフレームワークのv0.1が、6月にv0.2、11月にv0.3が公開されました。さらに、2023年2月にはv0.4が発表される予定で、最終提言は2023年9月とされています。

TNFDが浸透することで、企業や金融機関の自然に関連するリスクとチャンスの透明性を向上させることが期待されています。これにより、投資家などのステークホルダーが、自然をより持続させながら発展していけるビジネスモデルやソリューションを選んだり、投資したりといったことができるようになるでしょう。

TNFDを理解する4点のポイント

TNFDをより理解するために、おさえておくべきポイントには、以下の4点があります。

①自然の定義、ビジネスにどのような影響を及ぼすか
TNFDでは、漠然と捉えられていた「自然」という概念を具体的に定義しました。自然を「陸・海・淡水・大気」の4つの領域で構成されるものとし、自然界は「環境資産(森林や湿地、サンゴ礁、農地など)」というストックで構成されている、と考えます。

このストックを支える生態系が清潔で安定した水の供給などをもたらし、ビジネスはもちろん、人間や社会が利用する財やサービスを提供してくれるのです。これを踏まえて、「生物多様性」とは、生態系を資産として見たときにその質や量を維持するためのものと言えそうです。

②自然関連のリスクと機会がビジネスに与える影響について
さらに、TNFDでは自然関連のリスクがビジネスに与えるリスクとチャンスについて説明しています。前述のように、人間や社会が利用する財やサービスは自然界に依存しています。そのため、環境資産や生態系にプラスやマイナスの影響を与えるとともに、自然界からもその影響を受けると考えられます。

つまり、自然への依存関係が絶てない以上、企業には自然からもたらされる潜在的な脅威があるということです。この潜在的な脅威に対処しなければ、資産の評価が低くなる、企業の評判や営業の許可が得られなくなる、需要が変化するなどさまざまなリスクが発生してしまうでしょう。一方で、自然への悪影響を回避・軽減したり、自然の回復に貢献したりすれば、企業にとっても自然にとってもプラスの状態を生み出すことができます。

③ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標といった4柱からなる情報開示への提言
④自然関連開示におけるロケーションの重要性への指摘
TNFDでは、上記のことを踏まえてバリューチェーン(価値の連鎖)全体で自然関連リスクと機会について評価をします。そして、「ガバナンス」・「戦略」・「リスク管理」・「指標と目標」の4つの柱で情報開示を行うことが求められます。

この「戦略」において、企業が存在する地域の生態系に依存することで、自然関連のリスクやチャンスが発生するとTNFDでは指摘します。特に、事業を行う地域の生態系が劣化していたり、保護価値が高かったりする場合には、業務と自然の依存関係、またその影響について明らかにすることが求められます。

TNFD設立の理由「生物多様性が社会や企業にもたらす影響を知るため」

TNFDが設立されたのは、自然環境の安定や保護、中でも生物多様性が社会の安定や企業の業績にどのような影響を与えるかを知るためです。先んじて気候変動がもたらすリスクやチャンス、対応や戦略の開示(TCFD)が求められるなか、生物多様性がもたらす様々な影響についても、同様に評価や分析、戦略の開示が求められるようになったのです。

特に、WWFの調査によれば1970年から2016年にかけて、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類の個体群が平均68%も減少していると指摘されています。つまり、生物多様性は明確に失われつつあり、これがビジネスとどのように影響し合っているのか理解することは、今後、持続可能な社会を存続させていく上でも重要なことでしょう。

持続可能な社会については、サステナビリティやSDGs、CSRについて以下の記事で解説しています。ぜひ、合わせてお読みください。

「いまさら聞けないサステナビリティ。世界の企業における取組み、CSRとの違い」
 

TNFDのフレームワーク v0.1-v0.2

TNFDのフレームワークは、2022年10月までにv0.1、v0.2の2つが公開されています。それぞれ順に見ていきましょう。

3つの要素で構成された「TNFD v0.1」

1.自然関連のリスクと機会を理解するための基本的な概念と定義
2.気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の情報開示フレームワークに基づいた、TNFDの情報開示に関する提言
3.企業や金融機関における自然関連リスクと機会分析に関する評価アプローチ(LEAPの導入)

最初に紹介したように、1.では自然を定義し、自然への依存と影響、自然に関連するリスクやチャンスの概念を説明して生態系を資産として捉えています。これを「生態系サービス」と言い、生態系サービスには原材料や食料を供給する「供給サービス」、水質の浄化機能や災害緩和機能、花粉媒介などの生物的コントロールを含む「調整サービス」、観光やレクリエーションと結びつく「文化的サービス」がある、としています。

2.は後述するTCFDと統合して開示できるよう、枠組みを一元化したものです。

3.では、自然関連のリスクとチャンスを総合的に評価する「LEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチ」を導入することが提案されています。「LEAP(発見、診断、評価、準備)」の導入により、TNFDに沿った「ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、資本配分」の意思決定と情報開示ができるようになるとされています。

LEAPアプローチの再構成がポイント「TNFD v0.2」

TNFD v0.2では、v0.1を受けて概念や枠組みがより具体的になりました。v0.1で示された3つの要素のうち、1.の定義や2.の開示提案については変更されませんでしたが、3.のLEAPアプローチについては、金融機関版のLEAPアプローチである「LEAP-FI」の一部が再構成されました。

また、新規に以下の3点が追加されています。
・評価や開示の指標と、目標のスケールレベルに対するTNFDのアプローチ
・影響と依存評価の指標についてのガイダンス
・今後作成予定のセクター別、自然課題別、領域別など個別ガイダンスに対するアプローチ

TCFDの概要とTNFDとの関係性

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とは、日本語で「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳され、気候変動が社会の安定や企業の業績にどう影響するかを知るためのフレームワークです。TNFDに先んじて提唱された概念であり、企業は気候変動のリスクやチャンスを認識し、経営戦略に活かすべきとされています。TNFDはTCFDと統合できるような形で構成されたため、「TCFDの自然版」「TCFDの生物多様性版」と言われることもあります。

TNFDとTCFDの違い

TCFDは温室効果ガス換算の排出量から地球規模、世界共通の尺度で測れますが、TNFDは自然という地域性に依存するものを対象としており、より多面的・多角的な視点が必要です。地域によって多様な生態系を内包する生態系では、単一の指標で影響度合いを測定できないのです。

TNFDとTCFDの整合によってできること

TNFDは、TCFDと可能な限り用語やアプローチを統一させるように考慮されています。TNFDとTCFDのフレームワークを整合させることで、自然と気候の統合的な情報開示ができるようにしているのです。そのため、TNFDではTCFDと同じ「ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、資本配分」の4本の柱を軸とした開示内容が求められます。

TNFDの対応事例

日本国内でのTNFDへの対応事例として、環境報告書として、水や生態系など自然資本の現象をはじめとする自然関連リスクを、TNFDの指針に沿って開示した例があります。当該企業では2013年から「生物資源」「水資源」「容器包装」「気候変動」の4つの環境課題を「相互に関連する環境課題」と認識して取り組みを続けており、これはTNFDで示されている統合的なアプローチとも共通しています。

そこで、これまで取り組んできた自然資本に関連する取り組みを、TNFDの「LEAPアプローチ」などのフレームワークに当てはめ、水資源や生物資源から生態系サービスへ、そして生態系サービスから企業へもたらされるリスクやチャンスなどの影響を評価するといった一つの流れとして、試行的に開示を行っています。

TNFDはTCFDから派生した「生物多様性」版イニシアティブ

TNFDはTCFDから派生した「生物多様性」版のイニシアティブであり、TCFDとTNFDの両方が浸透することで、気候変動や生物多様性がどのように企業の事業活動と依存・影響し合っているかを統合的に知ることができます。
11月にもv0.3が公開され、土地などの利権保有者を含む利害関係者という新しい概念が追加される、「発見」前にスコーピングフェーズが追加されるといったLEAPアプローチの強化など、大きく4つのフレームワーク改修がなされており、最終版(2023年9月リリース予定)では事業活動の自然への依存・影響度がより正しくわかるフレームワークになることでしょう。

現在、130社以上の企業や金融機関がこのフレームワークに沿ってパイロットテストを進めていますが、改めて地球環境や自然は危機的状況にあるということを再認識し、パイロットテストに参画していない企業においても、今後これらの動向を適宜把握しながら、サステナビリティに貢献する企業活動を推進していく必要があるでしょう。

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