脱スーパーマーケット。

スマートフォンを新たなインフラに、これまでになかった業態を作り出す

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)の挑戦

 

リテールDX OMO

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが展開する新業態マーケット「BLANDE」。消費者の利便性向上と小売業者の抱える課題解決をするスマートフォンアプリ「Scan & Go ignica(イグニカ)」の推進リーダー角野氏にお話を伺いました。富士通の「リテール向けAPI基盤 Flexible Commerce (Brainforce)」を活用し、OMO(Online Merges with Offline)を前提とした新サービス開発の裏側をご紹介します。



2019年10月、カスミ筑波大学店にレジに並ぶことなくスマートフォンだけで買い物ができるアプリ“Scan & Go ignica(イグニカ)”が導入されてから早3年。以降、「KASUMI LABO」のような職域無人店舗をはじめ、マルエツ、マックスバリュ関東などグループ内にも段階的に導入店舗が増やしながら、アプリのユーザビリティや機能の改善などを行ってきました。

こうして、キャッシュレスなショッピングが浸透していくなか、さらなる発展系として2022年1月22日、2月28日と、同茨城県のつくば市に、スーパーマーケットのカスミが相次いで開業したのが新業態マーケット「BLANDE」です。

1号店の「BLANDEつくば並木店」は「Food、Health、Beauty&Wellness」をテーマとして、ドラッグストアの「ウェルシア薬局」を併設。2号店の「BLANDEつくば研究学園店」は「Food Specialty Store」をテーマとして食に特化した店舗となっています。今回は「BLANDEつくば研究学園店」から、小売業のDXの最新動向を見ていきます。

同店は125台分の無料駐車場を完備しており、1,997㎡という広大な売り場面積を誇る郊外型でも大型のスーパーマーケット。店内にはデリカや精肉の量り売りはもちろん、ベーカリーなども入っており、その品揃えはナショナルスーパーやデパ地下に並びます。

特筆すべきは、BLANDEがスマートフォンを新たなインフラとして、スーパーマーケットのデジタルトランスフォーメーションをこれまで以上に加速している点。
消費者への利便性向上と小売業者の抱える課題解決のためにユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(以下U.S.M.H)が富士通の「リテール向けAPI基盤 Flexible Commerce(Brainforce)」を用いて開発した、「Scan & Go ignica(イグニカ)」アプリ。これを活用して、OMO(Online Merges with Offline)を前提とした、さまざまな新しいサービスの提供を始めています。

例えば、顧客の多くは店に到着すると自身のスマホに入れてある「Scan & Go ignica(イグニカ)」アプリを立ち上げてログインし、自身のスマホで選んだ商品のバーコードをスキャンしながらアプリ上の買い物カートに商品を追加。会計を済ませて購入します。

購入と同時にポイントがつき、消費者はポイントを貯めることで割引サービスなどを受けることができます。雨の日や日曜日など、特定の日にはポイントが倍になるサービスも。
一方、「Scan & Go ignica(イグニカ)」を利用しない場合は、カゴに入れた商品を持って「セルフレジ」にいき、自身で会計を行います。

また、BLANDEでは普段のお買物を楽しんでいただくだけでなく、生活のあらゆる場面を彩るサービスを提供できる、会員制サービス「BLANDE Prime」を開始しています。「BLANDE Prime」はブロンズ(年会費無料)からシルバー(年会費3,000円※税込)、ゴールド(年会費5,000円※税込)まで3つのランクに分かれており、会員様感謝デーとしてポイントが10倍になるサービスがあったり、シルバー、ゴールド会員になるとアニバーサリー特典や季節のお花プレゼントがあったりと、会員ランクに合わせてさまざまなサービスを受けることができます。

※BLANDE Prime の詳細はこちら


その他、店内では営業時間中もおすすめ商品を載せたロボットが店内をお掃除しながら回遊し、顧客に新たな商品提案をしてくれます。そのほか、買ったデリが店内で食べられるイートインスペースがあったり、2Fにはラウンジだけでなく、料理教室スペースなども完備されていたりと、これまでにないカスタマーエクスペリエンスを提供する近未来型のスーパーマーケットを彷彿とさせてくれます。

続々と生まれる新機能。新しいサービスや業態を生み出す一助となった「リテール向けAPI基盤 Flexible Commerce(Brainforce)」

BLANDEにおいてもデジタルシフトの一翼を担っている「リテール向けAPI基盤 Flexible Commerce(Brainforce)」をU.S.M.Hが活用し始めてから2年。続々と新機能を生み出す中で、昨年10月以降に追加された2つの機能とはどのようなものだったのでしょうか。今回、U.S.M.Hの角野氏にお話を伺いました。
まずは、具体的に追加された機能についてみていきましょう。

1. Order & Eat (オーダーアンドイート)2022年5月末リリース

Order & Eat(オーダーアンドイート)とは、「スーパーマーケットの中で飲食店をやろう」という発想のもと、店内のデリカやデリで注文した商品を従業員がピックアップし、顧客のところまで運ぶという形式です。

仕組みとしては、例えば刺身や惣菜を注文すると、品出しなどで店内に出ている従業員の持つ端末に顧客からの注文が入ったという通知が飛び、従業員は鮮魚売り場でお刺身を、お惣菜売り場でサラダをピックアップして皿に盛り付け、指定された番号のテーブルに運ぶ、というもの。運んだ後は、また品出しなどの通常業務に戻ります。

このようにレストランやフードコートとは一味違うサービスが提供できるのがOrder & Eat(オーダーアンドイート)です。U.S.M.H角野氏はこのようなシステムを「事業そのものを変えるためのシステム開発」の一つと捉えているそうです。

2. ロイヤリティ会員機能 2021年末リリース

前述している会員限定のプログラム。会員のランクはブロンズ・シルバー・ゴールドと無料から有料までの3つに分かれており、入会したランク別に、さまざまなサービスを受けることができます。特に会員だけが利用できるラウジは、飛行機の上級会員のように快適に過ごせる場所として好評で、利用状況は好調なようです。

※BLANDE Prime の詳細はこちら
 

Flexible Commerce(Brainforce)を活用したアジャイル開発を進める中での変化と成果(U.S.M.H角野氏へのインタビューより)

角野氏:

U.S.M.Hでは今回、より高いパフォーマンスを達成するため、強く求められる機能から順に開発していき、運用しながらだいたい1週間〜1ヶ月程度の反復期間を設けて、反復期間ごとに機能を評価しつつ、必要に応じて他の機能も追加していくアジャイル型の開発・運用を実施。スピーディに「今」必要な機能を追加していきながら、こうした考え方を工程やツールと組み合わせることで、チームは変化に適応していきました。


話し手:
角野 泰次(すみの たいじ)
1974年5月25日生まれ。愛知県名古屋市出身。1999年、信州大学大学院工学系研究科修了後、電子部品製造業にてITシステムの内製開発を行いながらアジャイル開発導入に従事。その後、大手小売業へ転職し、ITインフラ基盤構築、DXサービス開発などのプロジェクトマネージャーを担当。2020年2月より現職

アジャイル開発を通じて変化した事業会社(システムユーザー)の意識。目の前の業務改善に留まらない、経営的な視点と判断軸の獲得

 

―アジャイル開発を行うことによって、これまでのウォーターフォール開発とは違う点があれば教えてください。

 

角野氏:

今回、ロイヤルティプログラムはアジャイル開発で実施したのですが、その中でシステムユーザーの人たちの意識が確実に変わりましたね。定例中の発言でもアジャイル開発というものを理解した上で発言する人が増えたように思います。

これまでのように自分達の作業を改善したいという視点ではなく、お客様に提供したい価値や、経営的な価値といった、より高い基準での価値提供について考え、コストを下げられるか、新たな価値を生み出せるかといった視点を持てるようになりました。

そうした基準を持てたことで、より高い付加価値を、いかに早く提供するかと考えた時、“じゃあこっちの機能を諦めます”といったトレードオフを自分から言ってくれる人がでてきていることを感じています。

―アジャイル開発を行ったことで、各事業会社(システムユーザー)の意識が変わり、U.S.M.Hや富士通との信頼関係も深まっていったということでしょうか。

 

角野氏:

そうですね。実際にアジャイル開発で富士通さんに作っていただいたモノが目の前で現実になっていくというプロセスを体感できたことによって、「この人たちはちゃんと伝えたらやってくれる」「できないことはできないって言ってできることはちゃんとやってくれる」というように、我々のグループ会社(事業会社)が理解してくれるようになってきました。富士通さんのアジャイル開発メンバーの方々との信頼関係が深まったということを感じています。

1店舗でのアプリリリースから、新たな業態創出まで拡大した、デジタルトランスフォーメーションの成果

 

―Scan & Go ignica(イグニカ)をリリースされてから2年半が経過しています。成果(費用対効果や顧客満足度など)は、どのように考えていますか?


角野氏:

一度私自身がお客のふりをして、Scan & Go ignica(イグニカ)を使って買い物していた高齢の女性に「それ便利なんですか?」と聞いてみたんです。そしたら、「これポイントも倍につくし 使わない意味がわからない。お兄さんも使ったらいいんじゃない」って言われて。

全体として数字が上がってきたのはやはりBLANDEでした。我々も、このアプリはお店のインフラ自体もきちんと合わせることでお客様に支持されるものなんだという確信に変わりましたね。何をすれば、さらに利用率が伸びるかということがわかるきっかけになりました。結果的にBLANDE2店舗はScan & Go ignica(イグニカ)の利用率は30%を越え、基本的にレジ待ちというものが存在しなくなりましたね。

――

利用率が30%と飛躍的に上昇したBLANDE。その成功の大きな要因の一つには、意図的に有人レジを無くしたことにありました。有人レジがある店舗だと、どうしても人は慣れ親しんだ有人レジの方に行ってしまう傾向があります。そこで「BLANDE」では敢えて有人レジをなくしたのです。

加えて入口を1ヶ所にし、顧客の動線をわかりやすくして、セルフレジを利用している人がScan & Go ignica(イグニカ)を利用している人を見て「便利そうだ」と思ってもらうきっかけを作りました。このように、Scan & Go ignica(イグニカ)やセルフレジが浸透した理由として、店舗のインフラを整えたことが挙げられます。

さらに前述の高齢の女性のエピソードからもわかるように、ポイントやクーポンなど、会員特典を充実させたことも大きいようです。会員登録の際に、実際にScan & Go ignica(イグニカ)で会費を払う体験してもらうことで、使い方が一通り理解できるだけでなく、店舗でも使いやすくなるように方向付けました。

こうした新しいレジスタイルの浸透により、レジ待ちという状態がほとんど発生しなくなり、消費者の購買行動が楽になっただけでなく、従業員の業務効率化にもつながりました。これは消費者にとっても事業者にとっても大きなメリットだと言えるでしょう。

Scan & Go ignica(イグニカ)のこれから。業務の可能性を広げる未来のインフラへ

―今後、Scan & Go ignica(イグニカ)をどのように拡張していきたいとお考えでしょうか?

 

角野氏:

「そうですね。いまScan & Go ignica(イグニカ)で抽出したデータを使って、顧客のクラスター分析を行い、顧客の特性にあったレコメンドを出す…ということを実施しています。レコメンドの結果もさらに分析し、当たったか外れたかを見ながら次は何をレコメンドで出すか、またその方法、そしてフィードバックなどのループを作ろうとしています。ループができたら自動化でループが回るようにしたいですね。

そして、ゆくゆくはレコメンドエンジンみたいなもの、お客さんの履歴からおすすめを提示する大手ECサイトがやってるようなことを、リアル店舗でもやりたいです。

――

このようにレコメンドとフィードバックを繰り返すループの仕組みができれば、従来のPOSを置き換える新しいインフラになるでしょう。リテール業において、スーパーマーケットにおける未来のインフラの一つとして定着していくのではないでしょうか。そして次に考えられるのはシステムをどう継続・拡張し、そしてリスクを低減していくかということです。

今後のシステム開発の在り方とは?オフショア開発、リテール企業の内製化を踏まえたシステムベンダーとの新たな関係性

 

Scan & Go ignica(イグニカ)などを使った買い物が、今後POSと並ぶか、むしろPOSを置き換えるようなスーパーマーケットのインフラになると考えると、システムの

―スーパーマーケットにおける未来のインフラの一つとなることを考えた場合、システムの拡張性やリスク低減についてどのようにお考えでしょうか。

 

角野氏:

継続性や拡張性、リスクを低減することなどはこれまで以上に考慮する必要があると思っています。

これまでの便利な道具だった時代からスーパーマーケットのインフラになっているという視点について考える必要がある。単純にコストを下げればリスクが上がるので、どんな体制が最適なのかと考えた時に、オフショアはもちろん、我々自身の内製化というものも進めないと最終的にはリスクは減らないのかと。

―オフショアだけではコスト削減にはなっても、リスキーになるということでしょうか?

 

角野氏:

そうですね。今ももちろんオフショアを使っていて、富士通さんとも協議していただきながら進めていますが、国ごとの事情があるのでコストは下がるものの、リスクは上がります。

そこで、ある部分は内製化したうえでオフショアを使う体制を目指そうと思ったとき、多分我々だけで実現することは難しく、スポーツや勉強でいうところの良いコーチやトレーナーのような存在が必要になります。そこを富士通さんには期待していますね。

―今後も、消費者の期待に応えた新しいサービスを提供し続けていくために、改めて富士通に期待することをお聞かせください。

 

角野氏:

継続して消費者のニーズに応えるサービスを提供し続けていくうえで、プロフェッショナルの力は欠かせません。例えば仮に我々がソースコードを書けるようになったとしても、ミドルウェアの構築や開発プロセスの設計といった環境構築や、自動CIツールの導入などの対応は難しい。

開発技術については、ソフトウェアの場合、どんどん進化していくので、我々には追随できないからです。そのため、こうした先進的な部分でリードしていただきながら、内製化でできる部分のスケーラビリティを担っていただけるといいなと。3年・5年先の未来を考えた時、共に考え、伴走しながら良い形でのビジネスデザインが描ければいいなと思っています。

今後のリテール業界へ向けて

近年、多くのリテール企業がデジタルテクノロジーを活用した新たな価値を消費者、従業員へ提供しています。その取り組みが新たなリテールのインフラとして確立され、継続的に新たな価値を提供し続ける、
新しいスーパーマーケットをどう形作るのか。
富士通は開発技術のプロフェッショナルとして、また、共闘していけるビジネスパートナーとして、リテール業界のデジタルトランスフォーメーションを支援してまいります。

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