クラウドネイティブ本格化で再確認 ~DXレポート解説(前編)~
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2018年9月7日に経済産業省が発表した「DXレポート」は「ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」という副題を付け、レガシーシステムが抱えるビジネスリスクへの警鐘を促しました。経済産業省の言う「2025年の崖」とは何なのか。DXを本格的に進めないとどんなビジネスリスクが発生するのか。前編では「DXレポート」および「2025年の崖」について、後編では2年後の2020年12月28日に発表された「DXレポート2」、さらにその追補版である2021年8月31日に発表された「DXレポート2.1」について解説します。

DXレポートで記された「2025年の崖」とは

DXレポートは、経済産業省が2018年9月7日に公表したデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を促すためのレポートです。「2025年の崖」は、このDXレポートにつけられた副題のキーワードです。これがどんな意味を表しているのか、詳しく説明しましょう。
あらゆる産業において、新たなデジタル技術を使ってこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起こりつつあります。例えばUber、Spotify、Netflix、テスラなどはその代表と言えるでしょう。このようなビジネス環境の中で、企業が競争力維持・強化をするためにはDXをスピーディーに進めていくことは不可欠となっています。ですが、DXを本格的に進めていくためには、課題があります。まずは経営戦略の方向性を定めること。そしてもう一つの課題が、既存システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化です。このような状態で新しいデジタル技術を導入しても、データの利活用・連携が限定的となるため、その効果も限定的となってしまします。また既存システムの維持・運用に資金や人材などのITリソースが割かれ、新しい技術の導入が難しくなる、さらには保守運用の担い手不足で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失などのリスクの高まりも考えられます。これらの既存システムが抱える課題を克服できない場合、デジタル競争の敗者に陥る可能性があるだけではなく、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると、DXレポートでは報告されています。これが「2025年の崖」です。
実際、DXレポートでは約8割の企業が老朽システムを抱えており、約7割の企業が、老朽化した既存システムがDXの足かせになっていると感じているという調査結果を掲載しています。

約8割の企業が老朽システムを抱えており約7割の企業が老朽化した既存システムがDXの足かせになっていると感じている

  • 出典
    経済産業省「DXレポート」(2018年)および一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の進展に対する意識調査」(平成29年)を基に作成

2018年のDXレポートでは、既存システムがDXを本格的に推進する際の障壁になることを、「2025年の崖」というキーワード用いて、強い警鐘を鳴らし、DXを進めるよう促したのです。
しかし、「2025年の崖」があまりにも注目を集めたためなのか、「DX = レガシーシステムの刷新」、あるいは「現時点で競争優位性が確保できていれば、これ以上のDXは不要」という、DXレポートの本質とは異なる解釈がされてしまったと、2020年12月28日に公開された「DXレポート2」で語っています。
ここで改めて、DXの定義について紹介しましょう。経済産業省ではDXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」。
この定義から分かるように、DX = レガシーシステムの刷新ではもちろんなく、競争優位性が確保できていたらDXは不要というわけではありません。データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルの変革に加え、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革する。そしてその上で競争上の優位性を確立することなのです。
とはいえ、DXを推進するためには、レガシーシステムの刷新は不可欠です。DXレポートでは、DXを加速していくために、DXを実現する上で基盤となるITシステムを構築していく上でのアプローチや必要なアクション、あるいは失敗に陥らないための失敗の典型パターンを示した「DXを推進するための新たなデジタル技術の活用とレガシーシステム刷新に関するガイドライン」の概要についても、記述されています。経営戦略におけるDXの位置づけやDX実現に向けた新たな技術の活用やレガシーシステム刷新のための適切な体制や仕組みおよび実行プロセスなどについても紹介されています。

参考情報

2020年12月28日に公表された「DXレポート2」

経済産業省では「DXレポート」を公開してから2年が経過した2020年12月28日、「DXレポート2」を発表しました。その2年の間に、同省ではDX推進指標による自己診断の促進やベンチマークの提示など企業内面への働きかけ、およびデジタルガバナンス・コードやDX認定、DX銘柄によるステークホルダーとの対話の促進など企業外面からの働きかけの両面から、DX推進を後押しする政策を展開してきました。ですが、情報処理推進機構(IPA)が2020年10月に発表した調査によると、95%の企業はDXに取り組んでいないか、取り組み始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っていないと回答。先行企業と平均的な企業のDX推進状況は大きな差があることがわかりました。

95%の企業はDXに取り組んでいないか取り組み始めた段階

  • 出典
    IPA「DX推進指標自己診断結果分析レポート」(2020年5月)

この二極化をより加速したのが、2020年に発生したコロナ禍です。東京や埼玉、千葉、神奈川などの首都圏だけでなく、大阪、京都、兵庫、福岡、北海道などに最大21都道府県に緊急事態宣言が出されたのは、記憶に新しいところです。このような環境下でも事業継続するため、DXに先進的な企業ではテレワークを導入し、働き方改革を行いました。それと共に、押印や客先常駐、対面販売など、これまで当たり前のように行われていた企業文化や商習慣、決済プロセスも変革。その一方で、柔軟に対応できなかった企業もありました。柔軟に環境変化に対応し続け、ITシステムや企業文化を変革することが、DXの本質です。つまりコロナ禍は、DX推進のための良いきっかけになったにもかかわらず、柔軟に取り組めなかった企業は、デジタル競争における敗者になる可能性があるのです。そこでDXレポート2では、常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、素早く変革し続ける能力を身につけること、その中ではITシステムのみならず企業文化を変革することこそ、企業の目指すべき方向性だと謳っています。
DXレポート2ではコロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきアクションについても紹介しています。

  1. 業務環境のオンライン化

    • テレワークシステムによる執務環境のリモートワーク対応
    • オンライン会議システムによる社内外とのコミュニケーションのオンライン化
  2. 業務プロセスのデジタル化

    • OCR製品を用いた紙書類の電子化
    • クラウドストレージを用いたペーパレス化
    • 営業活動のデジタル化
    • 各種SaaSを用いた業務のデジタル化
    • RPAを用いた定型業務の自動化
    • オンラインバンキングツールの導入
  3. 従業員の安全・健康管理のデジタル化

    • 活動量計等を用いた現場作業員の安全・健康管理
    • 人流の可視化による安心・安全かつ効率的な労働環境の整備
    • パルス調査ツールを用いた従業員の不調・異常の早期発見
  4. 顧客接点のデジタル化

    • 電子商取引プラットフォームによるECサイトの開設
    • チャットボットなどによる電話応対業務の自動化・オンライン化

これらのツールを導入することが、企業文化を変革していく上でのファーストステップとなり、DX実現への第一歩となるのです。
もちろん、これらの変革をユーザー企業だけで実施できるわけではありません。そこで重要になるのがベンダー企業の役割です。DXレポート2では、ベンダー企業の目指すべき方向性として、現行ビジネスの維持・運営から脱却する覚悟を持ち、価値創造型ビジネスという方向性に舵を切ること、ユーザー企業とDXを一体的に推進する共創的なパートナーとなっていくが求められると記されています。また企業がラン・ザ・ビジネス(現行システムの維持管理:守りのIT)からバリューアップ(価値向上:攻めのIT)へと軸足を移し、アジャイル型の開発などによって事業環境の変化と即応を追求することで、ユーザー企業とベンダー企業の垣根がなくなっていくと、DXレポート2では示唆しています。

参考情報

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