協業事例インタビュー

GMO学術サポート&テクノロジー株式会社

Fujitsu Accelerator Program for CaaSから生まれた共創事例を、座談会形式で紹介します。今回お迎えしたのは、スーパーコンピュータ「富岳」で研究開発した脳MRI解析環境の実用化をCaaSで達成した、GMO学術サポート&テクノロジー株式会社です。

脳MRI解析を2年→2日に短縮して、研究者による前処理が不要に。富士通のCaaSを使った、スパコン成果の社会実装を実現した初事例

富士通はスーパーコンピュータ(以下「スパコン」)相当の高度なコンピューティング・ソフトウェア技術を使ってアプリケーションやサービスの開発を実行するクラウドサービス群「Fujitsu Computing as a Service(以下「CaaS」)」を提供しています。そして、スタートアップのCaaS利用を促進し、社会課題の解決を目指すアクセラレータープログラムがFujitsu Accelerator Program for CaaSです。

そのCaaSとFujitsu Accelerator Program for CaaSを利用し、「富岳」で研究開発した脳MRI解析環境を実現したのが、GMO学術サポート&テクノロジー株式会社(以下「GMO学術サポート&テクノロジー」)。今回は同社代表の神保岳大さんと、CaaSを担当する富士通の山田、Fujitsu Accelerator Program for CaaSを担当する松尾に、両社がCaaS上で実現したサービス内容や、CaaSの特徴、Fujitsu Accelerator Program for CaaSの役割などを聞きました。

脳画像データの「前処理」にかかる膨大な時間をスパコンで数時間に圧縮

── 最初に、GMO学術サポート&テクノロジーについて教えてください。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

「データ解析を研究者自身が自由自在に」を経営理念に掲げ、サーバー立ち上げ・セットアップといった研究者の解析設備構築支援、解析技術習得のサポート、解析環境整備といったサービスを、大学の医学系研究室、研究所、製薬・ヘルスケア企業などに提供しています。

GMO学術サポート&テクノロジーの技術の軸は大きく3つ。1つは深層学習を使った解析技術の開発。これを医学系研究に応用しています。後述するMRI脳画像解析はこの文脈の話です。2つ目に大規模計算技術。スパコン上でLLMの実装を手掛けています。最後に、シングルセルと呼ばれる遺伝子データ解析技術です。なお、我々は元々「株式会社日本学術サポート」という社名で活動していたのですが、2023年にGMOインターネットグループへ参画したことを契機に社名を変更しています。

GMO学術サポート&テクノロジー株式会社 神保氏

── それでは、今回の富士通との取り組みについて教えてください。

松尾(富士通)

端的に言うと、GMO学術サポート&テクノロジーがスパコン「富岳」で実現した脳MRI解析環境を、CaaS上に実装したものです。これにより、研究者が脳MRI解析を行うための前処理に係る時間を、圧倒的に圧縮できるようになります。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

これまで脳画像解析は、大学や研究機関の各研究室がそれぞれ保有するワークステーションで少しずつ実行してきたんです。しかしながら近年、深層学習やビッグデータの技術進化が進んだことで、数千件単位でデータを処理できるようになってきましたし、またその需要も高まってきました。つまり現在、脳画像データを大量かつ効率的に解析する必要性が社会的に高まっているんです。

とはいえ、MRIで取得した脳画像データを大量に処理するためには、「前処理」と呼ばれる個人差のある脳の形を標準化する作業が必要です。この計算コストは非常に高く、これまでのワークステーションを前提とすると、1人の脳画像を処理するのに12時間もかかってしまいます。これを数千件実施しようとしたら膨大な時間が必要になってしまいますよね。また新しい脳画像処理方法が登場したら、過去の計算をやり直す必要があり、とても現実的ではありません。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

そこで我々が利用したのが、スパコン「富岳」です。「富岳」を使うことで、従来2年かかるとされていた数千人分の脳MRIデータ処理時間を2日間に短縮できたのですが、後述するような事情があり実用化は難しかった。そこで富士通とタッグを組み、CaaSを用いて脳画像解析の実用化をすることになった、というわけです。

スパコン相当のスペックをクラウドで利用できるCaaS

── 改めて、CaaSについて教えてください。

山田(富士通)

CaaSはComputing as a Serviceの略で、高度なコンピューティング技術をクラウドで提供するサービスのことです。スパコン相当の機能をクラウドで利用できるというイメージをもっていただければいいかと思います。

富士通株式会社 山田氏

山田(富士通)

現代社会では環境・経済・政治・地理など、様々なリスク要因が複雑に絡み合っており、同時にその分析をする必要性も高まっています。とはいえ、あらゆる企業が多額のコストをかけてスパコンを所有したり、専門性の高いコンピューティング技術を習得したりするのは現実的ではありません。

そこで登場するのがCaaSです。企業はCaaSを使えば、必要なときに必要なだけスパコン相当のリソースを使えるようになります。このようにクラウド・オンデマンドで利用できる他、顧客業務に対応する様々なアプリケーションとつなげることができる点、豊富な知見を持つエンジニアによるコンサルティングを受けられる点もCaaSの特徴です。ユースケースとしては例えば、創薬・新材料開発の計算、製造業における生産順序最適化計算などが挙げられます。

── そのCaaSを使ったアクセラレータープログラムが「Fujitsu Accelerator Program for CaaS」というわけですね。

松尾(富士通)

その通りです。富士通がCaaSという仕組みを構築したのはいいものの、色んな方に使っていただかなくては意味がありません。特にスタートアップは今までにないサービスを開発し社会課題を解決する方々であり、CaaSにおいてもユニークな使い方をしてくれるのではないかと期待を寄せていました。そこでスタートアップがCaaSにアクセスしやすいように、Fujitsu Accelerator Program for CaaSを作ったのです。

とはいえFujitsu Accelerator Program for CaaSは、一般的なアクセラレータープログラムとは異なり、コミュニティのような運営方法を採っています。2024年4月現在では、CaaSを社会課題解決の一端にしようと国内外で活動する18社のスタートアップが参加。その内の1社が、脳画像解析を通して精神疾患をもつ方の特徴を発見しようとするGMO学術サポート&テクノロジーです。

── GMO学術サポート&テクノロジーは、どんなきっかけでFujitsu Accelerator Program for CaaSに参加したのでしょうか。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

我々は元々「富岳」を利用していたので、CaaSの話を聞いてすぐに興味をもちました。参画したきっかけは、松尾さんから連絡をいただいたんでしたよね。

松尾(富士通)

そうでしたね。GMO学術サポート&テクノロジーは元々神戸の会社なのですが、私も神戸の出身なんですよ。神戸のローカル新聞を見ていたら、同社の記事をたまたま発見したんです。それでHPなどを調べていたら「これは面白い」と思いました。CaaSとも相性が良さそうだなと感じ、HPのお問い合わせから連絡したんです。

富士通株式会社 松尾氏

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

突然連絡が来たので驚きました(笑)。それでお話を聞いて、CaaSの話はもちろん、他の面でも富士通とは相性がいいなと思ったんです。例えば富士通は電子カルテシステムを開発していますよね。それと脳画像の相性の良さは明らか。それで喜んでFujitsu Accelerator Program for CaaSに参加しました。

スパコンでは難しい商用利用や社会実装をCaaSで実現

── GMO学術サポート&テクノロジーは元々「富岳」を利用されていたんですよね。そちらではなくCaaSを使うメリットを教えてください。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

大学や研究所が所有しているスパコンは、商用利用や社会実装の用途には使いにくいんです。一方でCaaSにはそういった制約はありません。これはスタートアップに限らず、営利組織にとっての大きなメリットです。

またスパコンにも得意・不得意があります。深層学習や画像解析が得意なスパコンもあれば、並列計算に特化したスパコンもある。なので仮に深層学習と並列計算をしようとなったら、2種類のスパコンを利用しなければならず、時間的・金銭的・事務的コストが跳ね上がってしまいます。しかしCaaSなら、そのような心配はありません。得意分野の違う、複数の計算環境を同じプラットフォーム上で使えるので、これはCaaS利用者にとっての大きなメリットでしょう。

山田(富士通)

神保さんがお話してくれた通り、様々なニーズや課題にワンストップでお応えできるのは、他のスパコンと比較したときのCaaSのメリットの1つです。また国や研究所の所有するスパコンの利用には基本的には審査が必要なのですが、この審査には何カ月もかかることも珍しくありません。一方でCaaSは最短で1週間程度で使えるようになっています。これも事業会社には大きなメリットだと感じていただけるでしょう。

── 最後に、両社の取り組みやCaaSの、今後の展開を教えてください。

松尾(富士通)

実は、本取り組みは、「富岳」で研究開発したソフトウェアやデータをCaaS上に実装した初めての事例なんです。これまで「富岳」の成果をサービスとして提供する環境はありませんでした。そのため、「富岳」の成果が社会実装されるまでには多くの期間や工数が必要となっていたんです。ですが、CaaSがあることにより、「富岳」で算出したデータを社会実装することが従来に比較して簡単にできるようになりました。今後はこういった事例を、どんどん増やしていきたいと思います。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

今回は脳画像の前処理としてCaaSを利用したので、この成果をもって引き続き、精神疾患解析の研究開発を継続させていきます。

またCaaSはあくまで解析環境の話なので、今後はそこにデータを載せていかなくてはなりません。そのデータはどんどんオープンにして、多くの研究者に使ってもらいたいと考えています。そのための画像研究用プラットフォームをCaaS上に構築したいと思っているんです。

山田(富士通)

研究者全員でオープンにデータを共有する仕組みをCaaS上で構築できれば、同じ前処理を色んな開発者が別々のところでやらなくても済むようになり、社会全体ではより効果的・効率的に研究が進むようになります。そんなオープンサイエンスな取り組みを、CaaSを通して進めていきたいですね。

松尾(富士通)

Fujitsu Accelerator Program for CaaSでも、このオープンサイエンスの話は支援していきたいと考えています。神保さん、引き続きよろしくお願いします。

神保(GMO学術サポート&テクノロジー)

こちらこそよろしくお願いします。ありがとうございました。

(インタビュー・執筆pilot boat 納富 隼平)

GMO学術サポート&テクノロジー株式会社

GMO学術サポート&テクノロジー株式会社は、「AIは人間が一度に解釈できない大きなデータを解析可能であり、超大規模なAIモデルの開発が人類の未来を開く」という信念のもとに、医師・博士(医学)の横山 諒一 氏が2016年に創業した株式会社日本学術サポートを前身としています。創業初期からスーパーコンピュータを用いた大規模AIモデルの研究開発を進め、そこで得たノウハウを大学・研究機関・医療機関の研究・調査に活用し、医療画像や遺伝子データの解析に取り組む研究者を強力に支援しています。2023年には技術の先進性が評価され、GMOインターネットグループにジョインし、テクノロジーのシナジーを活かしてさらなる事業拡大を目指しています。

東京都渋谷区公道坂1丁目2−3 渋谷フクラス
URL:https://www.jras.co.jp/ 新しいウィンドウで表示

GMO学術サポート&テクノロジー株式会社 代表取締役 神保 岳大 氏

東北大学大学院 理学研究科 物理学専攻で博士課程を修了(博士)。物質と生命の間のミッシングリンクである「自己複製能力の獲得」を研究テーマとし、細胞の3次元シミュレーションや画像解析の技術開発と理論モデルの構築を行った。前職では、統計学を駆使したデータ分析スキルを活かしてデータサイエンス部門のマネージャーを務めた。創業者横山の信念に深く賛同し、GMO学術サポート&テクノロジー株式会社において、スーパーコンピュータとディープラーニングを用いた研究開発や、遺伝子データ解析の事業を推進。また、神戸大学大学院医学系研究科腎泌尿器科学分野の客員准教授も務めている。

富士通株式会社 グローバルソリューションBG アドバンスドテクノロジーサービス事業本部 Digital App Platform CaaSプラットフォーム部

HPCやDigital Annealerといった世界に誇るコンピューティング技術、ブロックチェーン技術を活用し安心安全なデータ流通を行えるData e-TRUSTをCaaS Platformとしてクラウド上で提供し、幅広い業界の課題解決を支援します。

富士通株式会社 グローバルソリューションBG アドバンスドテクノロジーサービス事業本部 Digital App Platform CaaSプラットフォーム部 山田 翔太 氏

2008年に富士通株式会社に入社。CAEを中心としたHPCアプリのコンサルティングサービスやPKG拡販に従事。2022年よりCaaSビジネスに参画し、ビジネスフロントとしてパートナー連携支援やサービス拡販を担当。

富士通株式会社 グローバルソリューションBG 戦略アライアンス本部 Strategic Eng.Office Startup Alliance Hub

革新的なスタートアップの技術・製品と富士通グループの製品・ソリューション・サービスを組合せ、世の中へ新たな価値を提供することを目的としたスタートアップ協業プログラム「FUJITSU ACCELERATOR」を運営しております。 経験豊富な専門チームよる伴走支援を2015年から実施、これまで100件以上の協業実績を創出しています。

富士通株式会社 グローバルソリューションBG 戦略アライアンス本部 Strategic Eng.Office Startup Alliance Hub マネージャー 松尾 圭祐 氏

サーバーのマーケティング業務を担当し国内トップシェア獲得に貢献後、経営戦略を通じて、スタートアップ協業を推進する「FUJITSU ACCELERATOR」の立ち上げに参画し、現在ではスタートアップとの協業による新規事業開発を担当。

本件に関するお問い合わせ

富士通アクセラレーター事務局

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