協業事例インタビュー

株式会社ヒトクセ

富士通アクセラレータプログラムでの共創の取り組みを、座談会形式でご紹介します。今回は、テクノロジーの力で広告のターゲットとなる人により効果的に訴求する一方で、対象でない人々を不快にしない広告配信プラットフォームを提供している、「株式会社ヒトクセ」さんです。

スマートフォンの普及で、誰もがインターネットに接続する現代。それに伴ってインターネット広告分野は著しい発展を遂げました。とはいえ、ページ閲覧の邪魔になるポップアップや意図しないページへの強制的な遷移など、既存メディアの広告に比べると、粗雑なものが多いのも、また事実です。

FUJITSU ACCELERATOR第6期に採択された株式会社ヒトクセ(以下、ヒトクセ)は、常に変化する市場で、最新の技術やデータを最大限に活用し、デジタル広告のサービスを運営しているスタートアップ。テクノロジーの力で広告のターゲットとなる人により効果的に訴求する一方で、対象でない人々を不快にしない広告配信プラットフォームを提供しています。

ヒトクセが開発するダイナミックネイティブアドプラットフォーム「カメレオン」は、Webサイトを解析して、自動でサイトに合ったデザインで広告を配信してくれるサービス。電通デジタルや博報堂DYメディアパートナーズとの協同開発実績もあります。

現在、ヒトクセは富士通との共創プログラムとして新たな広告配信プログラムのベータ版をテスト中。大手を含めた多数の企業との協業経験があるヒトクセが、富士通との共創プログラムをどのように評価するのか。また、彼らが考える理想的なオープンイノベーションとは。

ヒトクセ執行役員 経営企画室 室長の島田賢悟氏とヒトクセとの協業を進める富士通総研エグゼクティブ・コンサルタントの今村 健氏にお話しを伺いました。

「Webページのどの部分に関心を持っているか」を判断する技術

なぜ、ヒトクセさんはFUJITSU ACCELERATORに応募されたのでしょうか?

ヒトクセ島田氏(以下、島田)

以前、株式会社リコーさんと共同でVRを活用したバナー広告を360°表示できるプロダクトを開発したことがありました。その際のご担当者が、現在富士通でアクセラレータプログラムを担当されている鈴木さんだったんです。富士通に転職した鈴木さんからFUJITSU ACCELERATOR第6期に誘っていただきました。

富士通総研今村(以下、今村)

富士通総研では、FUJITSU ACCELERATORに参画している関係から様々なスタートアップ企業とのコラボレーションの機会があります。今回は、ヒトクセ様がお持ちの技術がデジタルマーケティングというところからお話を頂きました。マーケティングでは、自社を支持してくださる顧客を理解することがスタート地点となりますが、そのためにもSTP(S:Segment、T:Target、P::Positioning)をしっかり把握することが価値を創出するうえでのポイントです。この基本的な考え方がヒトクセ様とフィットしたというのが一緒に仕事をするモチベーションになっています。

ピッチコンテストには、どのようなプロダクトで参加したのでしょうか。

島田

スクロール操作やタップ位置などから、ユーザーがページ内のどのあたりを見ているかを判断する「視線推測技術」です。既存のWebサイト解析ではユーザーのページ遷移や、ページ内のどこを見たかを把握することはできますが、ユーザーがページ内のどの部分に強い関心を持っているかを計測することはできませんでした。

視線推測技術を活用すれば、よりユーザーの興味関心に近い広告の表示や、ページの中でより訴求力の高いコンテンツを分析することが可能です。協業検討期間の3ヶ月間では、これを富士通さんのクライアントが運営するサイトの改善に使う方向で議論を進めました。

方向性の決定は大変ではなかったのでしょうか?

島田

私は途中からプロジェクトに参加したのですが、すんなり決まったわけではなかったはずです。やはり具体的なアウトプットの内容は、こちらが考えなければいませんから。

今村

手段論になってしまうとあれもできるこれもできるとか、富士通にもこういう技術があるとか、割と混乱しがちです。そのため、何のために実施するのかという目的をはっきりさせるところから始めました。広告が表示されることでその情報を欲しがっていた人達に届けるということを目的としてお互いに共感してからは割とスピーディに進めることが出来ました。

島田

今回に限らず、基本的にお客様の課題に合わせてこちらからプロダクトを提案することが多いですね。この段階で、将来の理想とすぐにできることの両方を整理して、できることを少しずつ階段状に積み上げることで理想型に近づけるのが我々の進め方です。ここがちゃんとしてないプロジェクトは、途中で頓挫してしまうことも少なくありません。富士通さんとの話し合いでは、この部分をきちんと確認できたのがよかったです。

富士通のあらゆるリソースを活用できた

FUJITSU ACCELERATORで、最も意義深かったのはどのような点でしょうか。

島田

あらゆる面で、富士通さんの豊富なリソースに頼らせていただきました。特に良かったのは、プロダクトのコンセプトに沿ったテストクライアントを見つけることができた点です。グループ会社をはじめとした富士通さんの豊富な人材ネットワークを活かして、テストしたい項目にぴったりなクライアントを紹介していただきました。

議論している分野に詳しい方がピンポイントでミーティングに参加していただいたことや、新しいものを開発する際に押さえておかなければならない法律などの知識を知財部の方々が調べてくれたのもありがたかったですね。ヒトクセは大きな会社ではないので、部署がない分野についてはお金を払って外部に調査依頼をすることがあったんです。

また、確認が素早かったので迅速に行動できました。大企業との協業では、実験の許可を取るだけで2週間近くかかってしまうことも少なくありません。富士通さんの場合は、ミーティングで決済責任者に許可を取るだけで動くことができた。

今村

富士通総研は所帯がそれほど大きくないということと、自分たちのビジネスは自分たちでドライブできる風土があるのでスピーディな意思決定ができます。皆さんご存知のように、デジタルな世の中になればなるほどスピードが遅いとディスアドバンテージになってしまいます。また、迅速な業務遂行という意味では、富士通総研だけではなく富士通の各部門の皆さんにもご協力いただきました。感謝しています。

逆に、一緒に活動する中で不便だった点はありましたか?

島田

発注時に大量の書類提出を求められるなど、手続き面での不満もないわけではありませんでした。特に変化の早いネット広告開発では、スピードが遅いとチャンスを逃してしまうこともありますので、ここは改善できるかと思います。

やはりインターネットはスピード勝負の面が強いんですね。

島田

アジャイルな開発は重要ですね。また、試作品のテストをクライアントに依頼する際にはイメージを伝えるためにミニマムな形でプロトタイプを作ります。ですが、富士通さんと協同でこちらを開発すると人件費などの関係からかなり予算がかかると言われてしまって……。大企業との共同プロジェクトでは、初動の開発を工夫しなければいけないですね。

オープンイノベーションには、頓挫しがちなポイントがある

Demo Dayの後は、どのようにプロジェクトを進めているのでしょうか。

島田

Demo Dayで開発したソリューションをプロダクト化しています。現在はベータ版が完成しており、富士通総研さんのサイトで紹介していただき、そこからお声がけいただいたクライアントさんに、実際にご使用いただく予定です。

ベータ版は、どのようなプロダクトなのでしょうか。

島田

先ほど説明した技術をもとに、クライアントのサイト改善に使いやすいようサービスに仕上げています。

用途の一つ目は、リターゲティング広告(一度サイトに訪れたことのあるユーザーに絞ってターゲティングができる広告)です。プロジェクト中に行なった実験の結果、サイト内コンテンツを注視したユーザーは、そうでないユーザーに比べて約1.6倍コンバージョンに達する可能性が高いことがわかりました。

現状のリターゲティング広告は間違えてサイトに訪れたユーザーも対象になっていますが、ここからサイトを注視しているユーザーのみに配信すればいいんです。間違えてサイトに訪れたユーザーにとっては不要な広告を閲覧しなくて済みますし、その結果として広告出稿側の無駄なコストを抑えることもできます。

単純計算でいえば、ユーザーへの不要な広告を1/3減らすと同時にリターゲティング広告のコストを2/3に削減できるはずです。
ほかに、サイト改善のためのレポートも提供します。例えば、美容系商品の販売を目的としたメディアに対して、新製品のトライアルを勧めるバナーを「もう少しサイトの下部に置くとより注目されるようになる」といったアドバイスがあれば、サイト改善のために何をすべきかわかりやすいですよね。

今村

この領域は感性をデジタル化することが重要です。今は他社がやっているからとか、今までこうやってきたからといったように、根拠が非科学的です。今後はこの位置だと見る人にとって快適だとか、気が付きやすいといったデータによる根拠づけをしていくことが広告配信を進化させます。ヒトクセさんと一緒に新たな領域を開拓していけると楽しいですね。

ヒトクセ様は今回以外にも、電通デジタルや博報堂DYメディアパートナーズなど多くの大企業と提携しています。オープンイノベーションを成功させるコツがあれば、教えてください。

島田

これまでの経験から、オープンイノベーションにはいくつかつまづきやすいポイントがあると思います。

例えば、発案時に担当者間で盛り上がっても、そのアイデアを上司に持っていく段階で温度感が変わってしまい、そのまま頓挫するケースは少なくありません。特に初期開発費について話し合う人が、こまめにやり取りして状況をつぶさに把握してくれる方でなければ、話が上に伝わった際に予算面で断念されやすい。特に新しい分野は、値段の予想が難しいです。

また、プロダクトをリリースした際に初動を高めるために既存顧客に紹介していただく場合もありますが、これもよく失敗します。なぜなら、実際にプロダクトを持っていく営業担当者には、新製品を紹介するメリットがないことが多いからです。

今村

FUJITSU ACCELERATORでは事業部の協業検討責任者がテーマ設定からプログラムに密接に関わり、ピッチコンテストの審査員を務め、協業検討の打合せにも出席することで、このリスクを低くしています。我々富士通総研を含め、プログラムには特にスタートアップと協業を通して事業化することに本気の部門・富士通グループ会社のみが参加しています。

FUJITSU ACCELERATOR概要

島田

いずれにせよ、それぞれの会社、あるいは部署ごとの気質を把握して、どのように関わるべきなのかを毎回考えることが大事ですね。

最後に、ベータ版をリリースした後はどのように事業を進めていくつもりでしょうか。今後の展開を教えてください。

島田

実際に運用していただくことでデータを蓄積できるので、それをもとに精度を高めるのが第一ステップですね。

視線推測技術の重要度は、今後より高まっていくと考えています。将来的にプライバシー管理が厳しくなってサードパーティクッキー情報の使用が禁止されることで、広告配信の際に他所で集めた情報が使えなるからです。

しかし、サイト内でのスクロール情報は個人の特定に直結しないので、利用が制限されづらいはず。スクロール情報という個人が提供しても損しない情報が、これまでクッキーで補ってきた個人情報の代わりになってくれれば嬉しいですね。

(執筆:新國 翔大 撮影:齋藤 顕)

株式会社ヒトクセ

動画広告をはじめとするリッチメディア広告の制作や、配信、分析が可能なプラットフォームの開発・運用を行っております。また経営企画室では「好かれる広告」をテーマとした新規事業に取り組んでいます。

E-mail:y.watanabe@hitokuse.com

執行役員 経営企画室 室長 島田 賢悟 氏

東京大学大学院、総合文化研究科修了。会計コンサルとしてのキャリアを積んだ後、2014年9月にエンジニアとして当社に参画。その後、ネイティブ広告サービスChameleonの開発責任者とDSPチームの営業責任者を兼任。2017年4月より営業本部長に就任し、営業全体の統括を担当。2018年3月より執行役員に就任し、経営にも従事。2018年11月から新規事業の統括部署を設立すべく、経営企画室長に就任。

協業担当者

株式会社富士通総研 エグゼクティブ・コンサルタント 今村 健 氏

百貨店にて販売現場・企画/プロモーション・経営企画の経験を積み、その後コンサルタントとして富士通入社、2008年より富士通総研 主に流通業のお客様を対象にビジネスプロセス改革、情報化構想立案、顧客情報分析などのコンサルティングに従事。
近年では、デジタルマーケティングに関するコンサルティングやブロックチェーンを活用した事業企画などにも取り組んでいる。

本件に関するお問い合わせ

富士通アクセラレーター事務局

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