富士通のデザイナーが取り組むまちづくりのコミュニティデザイン活動【後編】

富士通のデザイナーが取り組む
まちづくりのコミュニティデザイン活動【後編】



掲載日 2022年9月22日

東京都港区では、麻布地区を「みんな」で「よく」するコミュニティデザイン活動、「ミナヨク」を推進しています。平成27(2015)年度から富士通が受託事業として支援しており、昨年度はデザインセンターや未来社会&テクノロジー本部に在籍する社員が、プロジェクトリーダーやメンバーとしてミナヨクの活動に参画。今回は富士通社員3名と、サポーターのまちびと会社ビジョナリアルのおきな まさひと氏の計4名に集まってもらい、座談会を開催しました。和気藹々とした雰囲気の中、ミナヨクの活動やまちづくりに対するそれぞれの想いについて語ってもらいました。前編に引き続き後編では、プライベートでのまちづくり活動や、コミュニティデザインに対する想いについてお聞きします。

インタビュイープロフィール

  • おきな まさひと氏 :
    まちびと会社ビジョナリアル 共同代表 facebookサイト >
  • 岩田 尚子 :
    未来社会&テクノロジー本部
  • 湯浅 基 :
    デザインセンター フロントデザイン部所属 デザイナー
  • 境 薫 :
    デザインセンター フロントデザイン部所属 デザイナー

部署名・肩書は取材当時のものになります。

仕事以外でもまちづくり活動に参加

——— おきなさんのまちづくりの活動について教えてください。

おきな: もともと福岡県久留米市で飲食店を営んでおり、そこで結婚式などのイベントを行っているうちに活動範囲が広がり、仲間たちと地域づくりの会社を立ち上げました。今では、久留米市のまちづくりをメインの軸足として、全国でプロジェクトの立ち上げなどの活動をしています。久留米市以外の地域では、住民の方にメインに活動するプレイヤーになってもらい、私たちはプレイングマネージャーのような立場です。
例えば福岡県八女市では、10年前、2012年の豪雨で流されてしまった小さな村で運営するキャンプ場の再生プロジェクトを手掛けました。私はコーディネーターとして入り、自治体と合意形成を図って協議会を作り、企業の支援を取り付け、9年越しで昨年、キャンプ場を再オープンすることができました。このように、住民自身が運営できるようにするための様々なサポートをしています。

——— 富士通のみなさんはプライベートでも何か地域活動をしていますか。

境: 私は、自分の子育てでつながった縁から、こども食堂の活動をしています。こども食堂というとこどもの貧困対策と捉えられがちですが、こどもに限らず多様な方々の居場所を作りたいと考え、友人と活動を始めました。オープンな場を設けることで、例えば社会復帰へのステップの場所や、外食するのに困難がある方が気軽に行ける場所にもなればと、月に1回食堂を開いて、もう4年ほど経ちます。今では学生ボランティアも増えて、スタッフは20人ほどになりました。

湯浅: 私はプライベートで国土交通省の離島振興のプロジェクトに参画し、離島コーディネーターを2年ほど務めました。また、徳島県小松島市のこまつしまリビングラボという地域活動に、オンラインで1年ほど参加したこともあります。離島振興のプロジェクトが縁で、仕事として北海道奥尻島のデータ利活用プロジェクトにも携わりました。

岩田: 私も大学時代からまちづくりに興味があり、社会人になってからも業務と直接は関係ないところで、地域の観光業活性化や地域の独自ビジネスを考えるワークショップなどに参加しています。

——— 地域活動に関係する仕事もしているのでしょうか。

岩田: 私の所属する未来社会&テクノロジー本部は、「あらゆる人々・組織と共に、デジタル未来社会を実現すべく、世界トップのテクノロジー開発に挑戦し、新たな『まち・暮らし』をデザインする」ことを目指し、例えば、神奈川県川崎市様とともに持続可能な未来都市を目指す取り組みを推進しています。この組織は地域活動だけでなく、街づくりの様々な領域に関心のあるメンバーが集まっています。私自身の関わるプロジェクトでもデザインの手法を取り入れていて、ユーザーとなる地域住民との接点や意見を大切にしながら、サービスの企画に取り組んでいます。

湯浅: 私も富士通Japan(FJJ)のプロジェクトを通して、地域に関わっています。自治体、病院、地域企業などを担当する部門が独立してできたFJJは、全国で地域に根ざした活動をしており、例えば自治体、大学と一緒にまちのビジョンを考える活動などをしています。私はFJJが分社する前から、もう5年ほどデザイナーとして参加しています。

境: 私は地域活動の仕事はミナヨクが初めてでした。ただ数年前から、障がいのあるお子様とそのご家族を支援するプロジェクトなど地域にも関連するプロジェクトには携わってきました。プロジェクトで関わった多くの方から「まちにもっと居場所があれば」と聞いたことが、こども食堂の活動やミナヨクプロジェクトへの参加につながっていると思います。



地域活動に興味のある住民は意外と多い

——— 地域活動では、地域の住民がどのように活動することが重要でしょうか。

おきな: 私が地元の久留米市以外の地域で活動をする際には、同じ空気をいっぱい吸って同じ立場で話すことを心掛けています。よく「九州からわざわざ来て、私のまちで何をしてくれるのですか」と聞かれますが、そのまま「わざわざ出てきましたが、あなたは自分のまちで何をしたいのですか」と返します。自分たちのまちを誰かが作ってくれると考えるのではなく、自分たちで考え活動する心構えがあってこそ、まちづくりはうまくいくと思います。住民中心で活動ができるのかと心配されるかもしれませんが、意外と地域で活動したいと考えている方は多いですね。

岩田: 私もミナヨクや所属組織のプロジェクトの中で、自分の地域に関心を持っている方が多いと感じました。関わり方が分からない、きっかけがなくて行動できないという方も多い印象を持ちました。

境: 私も同じ考えです。こども食堂の活動を通して、機会があれば活動したいと思っている人は実は多いと感じています。一人では難しくても、同じ想いを持つ仲間となら、できる範囲で無理せず続けられるのではないでしょうか。こども食堂の活動も、地域の居場所として長く続けることを一つの目標にしています。食堂に来てくれた方がスタッフ側になってくれることもあります。

湯浅: まちづくりの活動では、まちに誇りを持って楽しく活動をすることが重要だと思います。関わった方の人生が豊かになるまちづくり活動ができると良いですね。

まちづくり活動の広がりは豊かな社会実現への第一歩

——— ミナヨクやご自身の地域活動を通じて感じたことを教えてください。

湯浅: 私はこれまで、企業対企業あるいは企業対自治体など、大きな組織同士の仕事が多く、まちづくりに関しても「自治体の事業とは」といった視点で考えがちでした。地域活動を通して、住民の人と人との付き合いから共にプロジェクトを進めていく貴重な経験ができたので、今後地域課題解決のプロジェクトなどで活かしていきたいです。また、富士通のような大企業の場合、企業内も地域社会と似ている部分があり、社内変革にもミナヨクのようなアプローチが有効ではないかと考えています。

岩田: ミナヨクに参加し、コミュニケーションの仕方、関係性構築やチーミングにおける姿勢を学ぶことができました。今後、実際に市民の方と一緒にプロジェクトを進める際には、学んだことを活かしていきたいと思います。

境: 私は、ある地域に長く住んでいる人は、まちの小さな楽しみをいくつか見つけていると思っています。しかし、そういう小さな楽しみをシェアする場所が、特に都心部では少ないと感じています。気軽に楽しみを共有できるきっかけがあれば、地域は変わっていくのではないでしょうか。各地のミナヨクのような活動が点となり、点と点がつながっていけば、豊かな社会の実現に近づくのではと考えています。

湯浅: ワークショップを通じて地域活動の取り組み姿勢やノウハウを学び、富士通のサポートがなくても、自主的に地域活動ができるようにするのが目標です。時には方向性がなかなか決まらないこともありますが、あえて口を挟まず、ヒントやアドバイスだけをお伝えするようにしています。
参加者の方が「まちづくりの活動は面白いな」と感じ、継続的に、あるいは何年か後にでもまた同じようにやってみたいと思ってもらえれば成功ではないでしょうか。

——— 今後、どのようなまちづくり活動をしていきたいですか?

おきな: 最近は地域福祉分野に関心があり、先日採択された久留米市の案件では、重層支援のデザインを行う予定です。重層支援とは、制度と制度の間で取りこぼされてしまう人がいなくなるよう支援することです。現在、制度の狭間で適切な支援が受けられないケースがあるのが課題になっています。医療や福祉の制度の重なり方を、様々なジャンルの市民とデザインし、将来的には医療法人や社会福祉法人が出資し合って、地域福祉会社を作りたいと考えています。

岩田: 私は、まずはいま川崎市様とのプロジェクトで取り組んでいる、テクノロジーを活用して地域課題を解決する仕組みを成功させたいです。また将来的には、ほかの地域の課題解決にも挑戦したいと考えています。地域ごとに課題は違うでしょうが、川崎市やミナヨクでの経験が活かせることもあると思います。また一方で、課題の解決だけではなく、地域のなかで「楽しく生きている人を増やしたい」という想いもあります。

境: 地域活動では「社会的弱者の方」といった属性ではなく、その方自身を受け入れて活動することが重要ではないでしょうか。人はみんな違うという当たり前のことを世の中全体が受け入れるようになれば、結果として格差や障壁は少しずつ解消されていくと思います。今後地域活動でも仕事でも、個の多様性を重視して活動をしていきたいと考えています。

湯浅: 私個人としては、もっとまちで遊ぶ人が増えると良いと思っています。日本では、「自分はまちの一員である」と考えている人が少ないと感じます。多くの人が、「まちの一員である自分もまちを作っている」と捉え、まちづくりに取り組むようになれば良いですね。そのためのきっかけとなる何かを提供できないかと考えています。
富士通としては、スマートシティというキーワードでデータ連携基盤やネットワークの整備などに取り組んでいます。ただ、ITだけでまちが変わるわけではありません。データやネットワークももちろん重要ですが、もっと市民に近い、地域に根ざした活動があってこそ、それらが活かせるのではないでしょうか。IT環境とサービスや活動が両輪となって地域を作っていくと考えると、地域活動の知見は、今後、富士通のスマートシティビジネスや未来社会&テクノロジー本部の活動に、有効に役立てていけると思います 。

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