ふヘンなみらい 第2回 ショートショート作家・田丸雅智さんとクロストーク!物語を書き出すことの楽しさ、そして生まれるもの【前編】

ふヘンなみらい 第2回
ショートショート作家・田丸雅智さんとクロストーク!
物語を書き出すことの楽しさ、そして生まれるもの【前編】



掲載日 2021年11月18日

「ふヘンなみらい」プロジェクト向けにショートショート作品を執筆してくださったショートショート作家の田丸雅智さんをゲストにお迎えし、プロジェクトの立ち上げメンバーである前島朱里、宮入麻紀子(共に富士通デザインセンター所属)との対談を行いました。田丸さんとショートショートとの出会いや、ショートショートの創作が書き手にもたらす前向きな変化など、盛りだくさんの内容となっています!前後編に分けてお届けします。



インタビュイープロフィール

  • 田丸 雅智さん :
    1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。ショートショートの書き方講座の内容は、2020年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。2021年度からは中学1年生の国語教科書(教育出版)に小説作品が掲載。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。
    田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/
  • 前島 朱里 : 富士通株式会社 デザインセンター フロントデザイン部
  • 宮入 麻紀子 : 富士通株式会社 デザインセンター フロントデザイン部


初回打ち合わせで感じた手応え


前島: ずっとオンライン上のやりとりだったので、今日は対面でお話ができて嬉しいです。「田丸さんは実在していらっしゃるのだろうか?」という密かな不安も消えました(笑)。

田丸: それは良かったです。今ここにいる「僕」は、もしかすると本物ではないかもしれませんが……(笑)。

宮入: 最初の打ち合わせのときは、小説家の方とのお仕事が初めてで緊張していたのですが、田丸さんが「ふヘンなみらい」のコンセプトにすごく共感してくださって、とても嬉しかったことをよく覚えています。

田丸: ここ数年、未来をテーマにしたお話を書く機会が増えていたこともあり、個人的な関心と重なり合う部分が多くありました。そのうえで、「ふヘンなみらい」の場合は、〈変わるもの〉だけでなく〈変わらないもの〉にも注目している点がユニークだな、と。お2人には、作品の題材候補となるアイデアを示しながらその意図するところを解説していただいて、1時間ほどの打ち合わせの中で「書きたい」気持ちが高まっていきました。

前島: あのアイデアシートは、〈変わるもの〉と〈変わらないもの〉のカテゴリーを行き来しながら、「こんなの面白いんじゃない?」と私たち自身が楽しみながら作りました。それが田丸さんの創作意欲に呼応したのなら大成功だなと思います。

デザインセンタ― 前島

田丸: 世界観そのものが、とてもショートショート的なんですよね。今の世界には存在しないし、未来に登場するとも限らないけれど、全くの絵空事とも言い切れないぞ……という感じ。たぶんその感覚をもたらしているのが、〈変わらないもの〉、つまり「ふヘン」なエッセンスなんだろうと思います。

ショートショート作家の田丸雅智さん


完成した3作品がもたらしたインパクト


宮入: 実際に書いていただいた作品は、ブラックユーモアというかディストピアの気配が微かにありつつも、それが行き過ぎにならない絶妙なバランスに仕上がっていて、まさにこちらが期待したとおりでした。

前島: 私たちはよく、新しいサービスを検討する際に、未来を描くシナリオを4コマ形式で表現するのですが、そのフレームワークを使うと無条件に「明るい未来」になりがちなことに疑問を感じていたんです。未来は明るいに越したことはないけど、それだけじゃないはずだよね……と。ショートショートは、ユートピアとディストピア、その両面を併せ持った世界を描くことができるし、しかも4コマとは違い物語の中に自分の経験を重ねられる余地があるせいか、内容がすごく頭に残るし、誰かと語り合いたくなる。すごい表現方法だと思いました。

宮入: 私も「文字の力」を再認識しました。文字を追いかけるからこそ、感情移入もできるし、そこに書かれたディテールを追うこともできる。それに、日常会話では話題にしにくいセンシティブなテーマも、「物語の感想」としてならコメントしやすいですしね。対話の中で、自分の価値観を自然に発信することができる。実際、社内でワークショップをやったときに、メンバーの様子からそんなことを感じました。

田丸: お2人からは、社内の方々の声も共有いただいて、作品がどんな風に届いているのかが垣間見えてとても嬉しかったです。書き手として、ふだんは作品が出来上がった後のプロセスに直接関わることがそんなに多くはありませんので。

前島: そういえば、社内で定期開催されているオンラインイベントで、宮入さんが作品の朗読もしました! その時も、リアルタイムでの反響がすごく大きかったです。

田丸: ありがとうございます。嬉しいです。実は、ショートショートと朗読はとても相性がいいんです。全部読んでも10~20分ほどだし、想像力に訴えかける文学なので、ちょっとした楽器演奏や効果音と組み合わせた演出もしやすい。僕の作品も、朗読のイベントでよく取り上げていただいています。

社内のワークショップから生まれた、「ふヘンなみらい」のアイデア


社内に眠る“ひらめき”が輝く契機に


宮入: 今回、社内でショートショート創作のワークショップを複数回行う中で、「書きたい」とか「表現したい」という想いを持つメンバーが思いの外、多くいることに気づきました。これまで、「表現」や「創造」に関わる領域は、基本的に社内の特定部署だけが担ってきましたが、それ以外の部署のメンバーにも発信してもらう機会を作ることで、新しい「種」を集めやすくなる。そんな手応えがあります。

デザインセンタ― 宮入

田丸: ショートショートの創作を通して、社内の皆さんの中で発信の連鎖のようなものが起こったのだとすれば、とても嬉しいです。「書く」ことに関して言えば、ビジネスパーソンの皆さんは日頃から多くの場面で文章を書かれているので、もともと力をお持ちです。だから、「フィクションだから何を書いてもOK」という機会さえ提供できれば、想いや考えを伸び伸びと表現できる方は多くいらっしゃるのではないかな、と。僕も、企業向けのワークショップで同じような印象を持つことが多いです。

前島: 私たちが所属するデザインセンター内では、「サービスデザインの手法としてショートショートの創作はとてもいいね」と専らの評判です。自分で多少アレンジしながら実務で使っているメンバーがいたり、さらに他のメンバーに紹介してくれたりという動きもあって、私たちが思い描いていた以上に、メンバーの行動に良い影響をもたらすことができていると感じます。



『 消音都市 』

文・田丸 雅智 イラスト・いとうあつき

コロナ禍で人とのコミュニケーションがオンライン化され、五感で感じる機会が少なくなっている今の状況ともリンクしやすいテーマかもしれません。お話では、比較的いい面にあえてフォーカスしてみました。(田丸さん)

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