ふヘンなみらい 第3回 ショートショート作家・田丸雅智さんとクロストーク!物語を書き出すことの楽しさ、そして生まれるもの【後編】

ふヘンなみらい 第3回
ショートショート作家・田丸雅智さんとクロストーク!
物語を書き出すことの楽しさ、そして生まれるもの【後編】



掲載日 2021年11月19日

「ふヘンなみらい」プロジェクト向けにショートショート作品を執筆してくださったショートショート作家の田丸雅智さんをゲストにお迎えし、プロジェクトの立ち上げメンバーである前島朱里、宮入麻紀子(共に富士通デザインセンター所属)との対談を行いました。田丸さんとショートショートとの出会いや、ショートショートの創作が書き手にもたらす前向きな変化など、盛りだくさんの内容となっています!前後編に分けてお届けします。



インタビュイープロフィール

  • 田丸 雅智さん :
    1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。ショートショートの書き方講座の内容は、2020年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。2021年度からは中学1年生の国語教科書(教育出版)に小説作品が掲載。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。
    田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/
  • 前島 朱里 : 富士通株式会社 デザインセンター フロントデザイン部
  • 宮入 麻紀子 : 富士通株式会社 デザインセンター フロントデザイン部


読書嫌いを変えた、ショートショートとの出会い


宮入: 田丸さんは、学校や企業向けにショートショートの書き方講座をずいぶん長くやられているんですよね。

田丸: はい。初回は、プロデビューから少し経った2013年、対象は小学生でした。その後もコンスタントに実施していて、中高や大学、専門学校と、各種学校を訪問しています。他にも、一般向けに図書館やカルチャーセンターで実施することもあれば、老人ホームに入居されているシニアの方向け、少し珍しいところでは少年院で過ごしている未成年の方を対象にレクチャーすることも。あとは、企業からの依頼で広報部門から研究開発部門まで、部署も役職もさまざまな方向けに行うケースも多々あります。

宮入: 自ら作品を生み出すだけなく、そういった活動をしようと思ったのは何かきっかけがあるんですか?

デザインセンタ― 宮入

田丸: ショートショートというジャンルを広く知ってもらいたい、という想いが動機になっています。もともと僕は、本を読むのも作文を書くのも苦手な子どもだったのですが、ショートショートのおかげで読書の面白さに目覚め、嫌いだった作文も好きになり、それが高じてショートショートの書き手になりました。でも、日本でこのジャンルが人気を集めていたのはずいぶん昔で、新しい書き手も読み手も育ちにくい状況に陥っていました。ショートショートというジャンルが好きだからこそ、もっと多くの人に手にとってほしいし、できることなら読者の中から次世代の書き手が育ってほしい。それが僕の願いです。そのため、書き方講座のノウハウはすべてオープンにして、誰でも実践できるようにしています。

前島: 精力的に活動されているのはそういった理由からだったんですね。今のお話でひとつ思い出しました。私には小学2年生の子どもがいるのですが、絵本の読み聞かせだとすぐ飽きてしまうのに、田丸さんのショートショート作品集『海色の壜』を読み聞かせてみたら、続きをせがまれました。それくらい、面白かったみたいで。ショートショートは、小さな子どもにも響く表現なんですね。

田丸: いや~、それはすごく嬉しいですね。

宮入: 学校で書き方講座をされていて、子どもたちの反応や反響はいかがですか?

田丸: かつての僕のように、普段は作文の筆が全然進まない子が、ショートショート講座では楽しく最後まで書けた、というお話を先生から伺うことが多いですね。あとは、講座の終了後には図書室のショートショート作品の貸し出しが伸びるとか(笑)。面白いのは、小学生の場合は例えば消しゴムや鉛筆、テレビなどの身近なものを題材にした作品がよく生まれるのですが、仮に題材は同じでも、アイデアやストーリーになるとそれぞれ違う作品になるんですよね。だから、数え切れないくらいの回数を重ねても、まったく飽きることがありませんし、これからもどんなお話と出会えるだろうかと想像するとワクワクします。

ショートショート作家の田丸雅智さん


自由に発想し、書くことの効能


前島: 社会人の場合も、講座を通して変化を感じることはありますか?

田丸: 先ほど、ビジネスパーソンは書く力が高いという話をしましたが、そうは言っても書くことを苦手にしている方はやはりいらっしゃいます。そういった方から、「書くことへの抵抗が無くなった」という声をいただくことは多いですね。小学生だろうと成人だろうと、年齢は関係ないのだと思います。あともう1つ、大人の場合は、ショートショートを書くことが「思い込みを外す」きっかけになっている方も多いようです。普段当たり前のように受け入れている常識やルールを疑って、空想してみる。その感覚にハッとしたという声をよくいただきます。

宮入: その感覚はとてもよくわかります。社内のメンバーからも、ショートショートのワークショップの手法を用いると、従来のワークショップよりもアイデアのスタートラインを遠くに飛ばすことができるという声がありました。きっと、固定概念を自然と取り払えるからなんでしょうね。

前島: 田丸さんがおっしゃった、「思い込みを外す」っていいですね。常識だと思って受け入れているものも、よくよく立ち止まってみると何か変だな? ということは結構ありますよね。そこに皆が自覚的になって、今まで持っていたバイアスを外した状態で未来を考えることができれば、もっといい社会になっていくんじゃないかなと。そんなことを思いました。

デザインセンタ― 前島


「ふヘンなみらい」のこれから


田丸: 前島さんのご発言を聞いていて改めて思いましたが、「ふヘンなみらい」というプロジェクト名自体が、常識を打ち破るものですよね。僕なら、「不変な未来」「普遍な未来」としてしまいそうです(笑)。デザインの力がなせる業なのかなと思いました。

前島: ありがとうございます(笑)。思い入れのあるタイトルなので、そう言っていただけると嬉しいです。田丸さんとのコラボレーション第2弾も控えているので、今からワクワクしています。今後ともよろしくお願いします!

宮入: 今日は、田丸さんが学校向けに実施されている活動のお話も伺うことができて良かったです。ショートショートのワークショップを経験する子どもたちがもっと増えれば、社会に柔らかい頭と創造力を持った大人が増えていって、より明るい未来を描けるようになりそうですよね。そんな期待を抱きました。今日はありがとうございました!

田丸: 常識やルールを学ぶ機会や場はもちろん大切だけれど、それを疑う機会を持つことも同じくらい大切ですよね。その両輪を自分自身が行ったり来たりしながら考え、時に揺れ動くからこそ、他者との対話が進んだり、新しいアイデアが生まれるのだろうと僕は考えています。ショートショートを読んだり、書いたりすることが、富士通の皆さんにとってそうしたきっかけになれば嬉しいです。



『 デジタル霊園 』

文・田丸 雅智 イラスト・オザキエミ

祖父の墓がある愛媛の山をイメージしながら書きました。今回のお話の設定はあくまでデジタルデータを弔うというものですが、どんな霊園ならば自分自身も利用したいと考えるかを何度も問いながら執筆しました。(田丸さん)

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